15 / 23
15. 庭師の腰
しおりを挟む
私は、今日も庭にいる。
服は、最近へレーナが新しく用意してくれた、動き易い服を着ている。
庭の奥。
ここ一週間で無造作に生えていた雑草を抜き取ってさっぱりとした所に、薬草を植え替えたり、新たに色とりどりの草花を植えた。
すると、大変だったがやって良かったと満足できる位、お客様に見ていただいても恥ずかしくない位に見違えるほど綺麗になった。
今は、湯井戸の隣にある汲み溜めた樽に入っている冷えた水を、小さな桶に汲み変え、柄杓でその草花に撒いていた。
オーヴェが先ほど、これをやっていて腰を痛めたといって、座り込んでしまったために、慌てて私が代わりにポールと一緒に手伝っている。
オーヴェは、湯井戸の前で未だ座り込んでいる。動くと痛いから、このままがいいそうだ。
オーヴェに、医者を呼ぶと言ったのだが、これは良くある事で、医者に見せても『安静にしていればそのうち治る』としか言われないと言っていた。本当に大丈夫なのかしら。
私はその時へレーナに、コップを持ってきてと伝えていて、邸から持ってきてくれるのが見えた。
「お持ちしました。」
なかなか慌ただしくて、オーヴェに飲んでもらってなかったのよね。早く渡していれば違ったのかしら…ごめんなさい。そう思いながら、へレーナが持ってきてくれたコップをもらい、願いを込める。
《どうか、オーヴェの腰の痛みが引いて、動いても痛みが感じなくなりますように。》
コップの上に右手を翳し、えいっと動かすと、水がコップ並々に注がれた。
「まぁ!スティナ様!それは、魔力ですか?」
へレーナの目の前でやったから驚かれてしまったわ。
「ええ、そうなの。気休めではあるけれど…。これを、オーヴェに飲ませてあげて。」
未だコップに注がれた水をまじまじと見ているへレーナははっとして、オーヴェの所へ持っていき、飲むように伝えてくれている。
私はそれを気にしながら、水を撒いていた。
「なんと!奥様!!」
「凄いです、スティナ様!」
オーヴェとへレーナが揃って大きな声を出したので振り向くと、オーヴェが立ち上がり腰を曲げたり伸ばしたりしていた。
「奥様!これは凄い効き目ですな!!若い頃に戻ったようでございます!」
そうオーヴェが腰を叩いて何ともないのを確認するような仕草をしながら、私へと言葉を掛けてくれる。
「そう?よかったわ。ごめんなさいね、初日に飲んでもらえば良かったのだけれどすっかり忘れていて…」
「滅相もございません!ありがたや、ありがたや!!」
ふふふ、気休めではあるけれど喜んでもらえて良かったわ。
そう思っていると、邸からロニーが慌ててこちらへやってきた。
「アンセルム様が帰って来られました。」
と、ロニーが慌てて言って、私を早く談話室に行って挨拶をと促してきた。へレーナもそれを聞いて驚き、慌てて邸へと行きましょうと小走りで掛けてきた。
ポールとオーヴェは、
「そこに置いておいて!あとはやっておくから。」
「そうですな、お急ぎ下さい。本当にありがとうごさいます!」
と言ってくれたので、お願いして急いだ。
それにしても、帰って来たとはどういう事?こちらにはあまり来ないのでは無かったのかしら?別に嫌とかではないのだけれど、戸惑いの気持ちのが買っている。
私は、挨拶をする為に扉が開いている談話室に『失礼します』と声を掛けて入った。
アンセルム様はソファに座って目を瞑っていた。
扉の所で声を掛けようか迷っていると、アンセルム様は目を開け、私にソファに座るよう促した。
「ただ今帰った。」
「はい、長旅お疲れさまです。お帰りなさいませ。このような服装ですみません。」
本当は着がえようか迷ったけれど、挨拶だけなら早い方がいいかと思ったのよね。だって、以前とは違って新しい服ではあるし、ワンピースであるし、今日はそんなに汚れる土いじりはしていないからいいかと思ったのよね。
以前、アンセルム様が好きにしていいって言って下さったのだもの。いいわよね。
「いや、いい。今日も庭に出ていたのか。」
「ええ。だいぶ変わりましたのよ?」
「そうか。ありがとう。また見せてもらおう。今日は、討伐が終わってそのまま来たのだ。またすぐ報告をしに王宮に行かないといけないのだが…き、君のあの魔力入りの水をくれないか?」
「え!あ…す、すみません…先ほど、オーヴェに使ってしまって…。私、あまり魔力をそれほど使えなくて…。半日もすれば使えるようになるのですけれど…。」
「そうだったのか………。オーヴェ?オーヴェは大丈夫なのか!?」
アンセルム様は、肩をガックリと落としてなんだかしょんぼりとしているように見えた。
でもオーヴェは年だからか、とても心配そうに身を乗り出して聞いてきたから少し驚いてしまったわ。
「は、はい。腰を痛めて動けなかったのですがどうにか動けるようになったみたいです。」
「そうか…まぁそれなら仕方ない。オーヴェの顔を見て、王宮に戻る。」
「本当にすみません…あ、あの!お疲れならお風呂に入っていかれますか?ウイキョウと言われる薬草を湯の中に入れると、疲労回復になるのです。」
気休めでも、私の魔力入りの水を飲みたくてこちらに来ただなんて、よっぽど討伐がお辛かったのかしら?だったら、この前採った薬草の出番かもしれないわね。
「ウイキョウ?…そうだな、せっかくだから入っていこう。………また明日、ここに来るから、領地改革の事を聞かせてくれ。」
「分かりました。では、ゆっくり疲れを癒やしてきて下さい。」
そう言って、私はニッコリと微笑んだの。
アンセルム様はそんな私を見て、目をパチパチと数回瞬いて、いきなり立ち上がって『じゃあ、また。』とこちらを見ないで言って扉の方へと歩いて行く。
アンセルム様が邸を出られる時にお見送りしようと思ったが、今から私もお風呂に入るなら見送れないかもと思い、『はい。また明日、お待ちしております。』と声を掛けた。
服は、最近へレーナが新しく用意してくれた、動き易い服を着ている。
庭の奥。
ここ一週間で無造作に生えていた雑草を抜き取ってさっぱりとした所に、薬草を植え替えたり、新たに色とりどりの草花を植えた。
すると、大変だったがやって良かったと満足できる位、お客様に見ていただいても恥ずかしくない位に見違えるほど綺麗になった。
今は、湯井戸の隣にある汲み溜めた樽に入っている冷えた水を、小さな桶に汲み変え、柄杓でその草花に撒いていた。
オーヴェが先ほど、これをやっていて腰を痛めたといって、座り込んでしまったために、慌てて私が代わりにポールと一緒に手伝っている。
オーヴェは、湯井戸の前で未だ座り込んでいる。動くと痛いから、このままがいいそうだ。
オーヴェに、医者を呼ぶと言ったのだが、これは良くある事で、医者に見せても『安静にしていればそのうち治る』としか言われないと言っていた。本当に大丈夫なのかしら。
私はその時へレーナに、コップを持ってきてと伝えていて、邸から持ってきてくれるのが見えた。
「お持ちしました。」
なかなか慌ただしくて、オーヴェに飲んでもらってなかったのよね。早く渡していれば違ったのかしら…ごめんなさい。そう思いながら、へレーナが持ってきてくれたコップをもらい、願いを込める。
《どうか、オーヴェの腰の痛みが引いて、動いても痛みが感じなくなりますように。》
コップの上に右手を翳し、えいっと動かすと、水がコップ並々に注がれた。
「まぁ!スティナ様!それは、魔力ですか?」
へレーナの目の前でやったから驚かれてしまったわ。
「ええ、そうなの。気休めではあるけれど…。これを、オーヴェに飲ませてあげて。」
未だコップに注がれた水をまじまじと見ているへレーナははっとして、オーヴェの所へ持っていき、飲むように伝えてくれている。
私はそれを気にしながら、水を撒いていた。
「なんと!奥様!!」
「凄いです、スティナ様!」
オーヴェとへレーナが揃って大きな声を出したので振り向くと、オーヴェが立ち上がり腰を曲げたり伸ばしたりしていた。
「奥様!これは凄い効き目ですな!!若い頃に戻ったようでございます!」
そうオーヴェが腰を叩いて何ともないのを確認するような仕草をしながら、私へと言葉を掛けてくれる。
「そう?よかったわ。ごめんなさいね、初日に飲んでもらえば良かったのだけれどすっかり忘れていて…」
「滅相もございません!ありがたや、ありがたや!!」
ふふふ、気休めではあるけれど喜んでもらえて良かったわ。
そう思っていると、邸からロニーが慌ててこちらへやってきた。
「アンセルム様が帰って来られました。」
と、ロニーが慌てて言って、私を早く談話室に行って挨拶をと促してきた。へレーナもそれを聞いて驚き、慌てて邸へと行きましょうと小走りで掛けてきた。
ポールとオーヴェは、
「そこに置いておいて!あとはやっておくから。」
「そうですな、お急ぎ下さい。本当にありがとうごさいます!」
と言ってくれたので、お願いして急いだ。
それにしても、帰って来たとはどういう事?こちらにはあまり来ないのでは無かったのかしら?別に嫌とかではないのだけれど、戸惑いの気持ちのが買っている。
私は、挨拶をする為に扉が開いている談話室に『失礼します』と声を掛けて入った。
アンセルム様はソファに座って目を瞑っていた。
扉の所で声を掛けようか迷っていると、アンセルム様は目を開け、私にソファに座るよう促した。
「ただ今帰った。」
「はい、長旅お疲れさまです。お帰りなさいませ。このような服装ですみません。」
本当は着がえようか迷ったけれど、挨拶だけなら早い方がいいかと思ったのよね。だって、以前とは違って新しい服ではあるし、ワンピースであるし、今日はそんなに汚れる土いじりはしていないからいいかと思ったのよね。
以前、アンセルム様が好きにしていいって言って下さったのだもの。いいわよね。
「いや、いい。今日も庭に出ていたのか。」
「ええ。だいぶ変わりましたのよ?」
「そうか。ありがとう。また見せてもらおう。今日は、討伐が終わってそのまま来たのだ。またすぐ報告をしに王宮に行かないといけないのだが…き、君のあの魔力入りの水をくれないか?」
「え!あ…す、すみません…先ほど、オーヴェに使ってしまって…。私、あまり魔力をそれほど使えなくて…。半日もすれば使えるようになるのですけれど…。」
「そうだったのか………。オーヴェ?オーヴェは大丈夫なのか!?」
アンセルム様は、肩をガックリと落としてなんだかしょんぼりとしているように見えた。
でもオーヴェは年だからか、とても心配そうに身を乗り出して聞いてきたから少し驚いてしまったわ。
「は、はい。腰を痛めて動けなかったのですがどうにか動けるようになったみたいです。」
「そうか…まぁそれなら仕方ない。オーヴェの顔を見て、王宮に戻る。」
「本当にすみません…あ、あの!お疲れならお風呂に入っていかれますか?ウイキョウと言われる薬草を湯の中に入れると、疲労回復になるのです。」
気休めでも、私の魔力入りの水を飲みたくてこちらに来ただなんて、よっぽど討伐がお辛かったのかしら?だったら、この前採った薬草の出番かもしれないわね。
「ウイキョウ?…そうだな、せっかくだから入っていこう。………また明日、ここに来るから、領地改革の事を聞かせてくれ。」
「分かりました。では、ゆっくり疲れを癒やしてきて下さい。」
そう言って、私はニッコリと微笑んだの。
アンセルム様はそんな私を見て、目をパチパチと数回瞬いて、いきなり立ち上がって『じゃあ、また。』とこちらを見ないで言って扉の方へと歩いて行く。
アンセルム様が邸を出られる時にお見送りしようと思ったが、今から私もお風呂に入るなら見送れないかもと思い、『はい。また明日、お待ちしております。』と声を掛けた。
49
お気に入りに追加
2,645
あなたにおすすめの小説
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。
ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。
魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。
そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。
ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。
妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。
侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。
しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる