【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
5 / 23

5. 懐かしい夢

しおりを挟む
 あぁ、懐かしい場所。あれは………。



 目が覚めて、見慣れない部屋を沈み込むほどふかふかの大きなベッドの上から眺めると、『あぁ、そういえば今日からここで生活するのね。』と現実に戻されたの。

 一般的な貴族令嬢よりは早く目覚めた私は、まだへレーナが起こしに来ない為、もう一度懐かしい、先ほど見た夢を思い出してみる。



☆★
 私の母は、私が一歳の頃に亡くなったのであまり温もりを覚えてはいない。

 それを不憫に思ったのか、はたまたソランデル伯爵領は冬は大人でさえも厳しい寒さである為幼い子供達を避難させる目的であったのか、母方の祖父が私と弟フランシスを冬の間は自身の領地に滞在させてくれました。
私が六歳の時にお祖父様とお祖母様は亡くなってしまったので、五歳の冬までそれは続いた。


 お祖父様の領地は、国の南側に位置しており、冬でも温暖であまり雪は降らない場所。


 大きくなり勉強をしてから知ったのですが、お祖父様は、この国のもう一つの公爵家、イェンス=セーデルホルム公爵家だったの。


 幼かったのでたくさんの記憶はないけれど、優しいお祖父様とお祖母様に囲まれていつも楽しく過ごさせてもらっていたと思うわ。


 ーーーー五歳の時。

 あの日は、冬にしては暖かい日で、お祖父様の屋敷から馬車でしばらく進んだ森の中に出掛けていたの。
 その日は、お祖父様達は居なかったわ。冬の三ヶ月ほど滞在していたから、毎日一緒には居られなかったものね。だから、クリスタ様と、あとは侍女数人で出掛けたのね。

 クリスタ様は、私の母の姉リースベット様の子だから、従姉妹ね。


 クリスタ様は私より三歳年上だったからかとても活発で、その日も着いて早々、私とは別行動で湖の方へとクリスタ様付きの侍女と一緒に行ってしまったのよ。
私は、馬車から降りてすぐ見えた、たくさんの種類の花が咲いている場所に敷物を敷き、その上に座り、侍女に教わりながら首飾りを作っていたわ。

 しばらくそうしていると、花畑とは逆側にある細く高く空まで伸びた木々の間の茂みから私よりも少し年上の少年が出てきたのよね。
もうどんな顔をしていたかはっきりとは忘れてしまったわ。でも、金髪が煌めいていて、顔立ちがかなり整っていたように思う。


 私は集中してやっていたからいきなりしかも茂みから人が出てきたものだからすごく驚いてしまって、作っていた首飾りを手から落とし、途中まで作れていたのが壊れてしまったのと相まって目に涙が自然と溢れてきたの。

「わ!…人がいたなんて!驚かせてしまってごめんね。あ…それ崩れちゃった?」

 そう指摘されたのもあって、余計に涙がぼろぼろと止めどなく流れてしまったのよ。
そうしたら、その男の子は『参ったな…』と呟くと、口元に右手を充ててうーんと呟いて、頭を捻っているのか目を瞑った。
そして少しして、

「よし、じゃあ驚かせたお詫びに、イイモノ見せてあげる。」

 と言って、彼が右手を少し左右に動かすと、私の座っている足元に落ちた白い花がゆっくりと宙に浮いて私の周りを足が生えたかのようにふわりふわりと回り出したから、綺麗なんだけどびっくりして涙が一気に止まったわ。

「え!?なにこれ!凄い!!」

 そこでやっと私は、その男の子に視線を合わせたの。鮮やかで煌めくような金髪で、とても嬉しそうに笑っていた事だけは覚えているわ。

「だろう?どうだ?凄いだろ!驚かせたお詫びな。」

「あ、ありがとう…。それ、魔力で?」

「まぁな。そのうち討伐軍にも入れる程強くなって悪獣をやっつけてやるんだ!増幅のパワーストーンさえあれば、もっと華やかで格好いい魔力も見せてやれたんだけどな-!」

「そうなのね、これでも充分凄いわ!素敵よ?でも…パワーストーンは、無限ではないもの。こんな事で使うのは勿体ないわ。」

「なんでだ?パワーストーンは、金さえ払えばいつでも売っているだろ?勿体ないなくなんかないよ。」

「パワーストーンだっていつか無くなるかもしれないってお父様が言っていたの。」

「そんなわけないさ、それが無ければ、悪獣と戦う際に人間がやられちまう!」

「だから、その時にしか使わない方がいいかなって…。あら?」

 私は、お父様が少し前に『パワーストーンが以前より減ってきた。すぐに無くなるわけではないだろうが、いつか手に入らなくなるかもな。』と言っていたのを思い出して、無駄遣いして欲しくなくてそう言ったのよね。見ず知らずのその男の子ではあるけれど。

 けれど、よく見ると顔が泥だらけで、引っ掻いたような傷があり少し血が出ていた。
 痛く無いのかしら?と思い、魔力を使おうとワンピースのポケットからハンカチを取り出す。そして素早く水を、《汚れも、痛みも綺麗に取れますように。》と願いながら、手をすぼめて水が溜まるようにした左手の中に魔力で出すと、持っていたハンカチを浸して手渡したわ。

「ねぇ、泥だらけよ?それに血も…それで拭いて?」

「え?あ…ありがとう!その辺の茂みをずっと走ってたからな。君も魔力を?」

「えぇ。でもこの位しか出せないから、あまり意味が無いわね。」

 と笑って見せたわ。先ほどの魔力を見せられた後に見せびらかすものでは無いと思ったけれど、どうにも気になったのよね。


 彼が、手渡したハンカチで顔を拭いていると、遠くから何か声が聞こえてきた。
 耳を澄ますとどうやらクリスタ様、と聞こえる。またきっとクリスタ様がをしているのかもしれない。いつもクリスタ様はどこかへ姿を眩ましてしまい、侍女だけでは見つからないらしく、いつも私も一緒になって探すのだ。でも、そうすると大抵私が見つけてしまうので、侍女達にはありがたがられている。

「クリスタ様-!」

 だんだんと声が大きくなっている。きっと切羽詰まっているのだと思った私は、

「あぁ、ごめんなさい。行かなきゃ。」

 と彼に声を掛けた。

 私も捜すのを手伝わないと、と思い立ち上がると、

「あぁ…俺も行かないと。ごめんな、驚かせて。ここは限られた者しか入れない森だから、そんなに人に出会わないかと思ったんだ。今度はちゃんとした道を歩くよ。あ、ハンカチ…」

「そうね、そうした方がいいわ。素敵な魔力を見せてくれてありがとう!頑張ってね!それ、あげるわ。また汚れたら拭いてね。」


 そう言って、その男の子と別れたのよね。




 それを、夢で見るなんて。

 お祖父様とお祖母様が亡くなってからは、私達も成長してきた事もありその屋敷にも行かなくなって、クリスタ様ともそう簡単には会えなくなったけれど。

 だってクリスタ様は公爵家のご令嬢で、勉強に忙しくなったそうなの。

 どうしても出席しないといけない社交界でも、クリスタ様の姿は見掛けるけれど、傍にいる人達は高位貴族や王族ばかりだったから遠い人のようで私は気後れして近寄れもしなかった。


 あの森も、どこにあるか分からないし、行けてもいない。


 あの少年は、討伐軍に入れたのかしら?昨日、悪獣討伐軍の話を少しだけ、アンセルム様としたからその事を思い出して、きっとこの夢を見たのかしらね。



 ーーーーそろそろ侍女のへレーナが起こしに来るかしら。起きる準備をしないといけないわね。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

【完結保証】離縁を言い渡したら、追いかけられる羽目になりました

ネコ
恋愛
 公爵家に嫁いだミレイユは、激務の夫が“仕事”という口実で愛人のもとへ通う姿に気づかないふりをしてきた。けれどある日、開き直った夫は「家名のために耐えろ」と言い放つ。もはや我慢の限界に達したミレイユは離縁を宣言。すると何故か、あれだけ放置していた夫が必死にミレイユを引き止めようと動き出す。もう遅いのに――。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
 共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。  その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。  ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...