【完結】西の辺境伯令嬢は、東の辺境伯へと嫁ぐ

まりぃべる

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手合わせ、とは

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「手合わせとかしたいなと思って!」


 リューリがそう言うと、ヴァルトとローペは顔を合わせ、驚いたような顔をした。
 そして、どちらともなく言葉を口にする。


「いや、リューリ…」

「奥様、それは…」

「え?ダメ?」


 リューリの首を傾げた仕草に、思わず肯定したくなったヴァルトはしかし、首を横に振ってから改めて聞く。


「リューリ、手合わせって誰とだ?」

「そっちか!?ヴァルト!
あ、いや…奥様、そもそも手合わせとは何かご存じで?」


 ローペは元々、ヴァルトが小さな頃から国境警備隊に所属している為、ヴァルトは自分の子供のように思い、接していた。だが、ヴァルトが大きくなってくるとヴァルト様、と敢えて呼ぶようにしてきたが思わず素になり突っ込んでしまった。


「もちろんです。
…え?こちらでは、故郷のオークランス領のそれとはもしかして違うのですか?」


 二人とも、真剣な表情で聞いてくるものだから手合わせと言う意味がこちらでは違うのではないかと思い始めたリューリは、疑問で返してしまう。


「えーと、オークランス領は西の辺境伯とも言われておりますね?ですから、概ね同じ意味合いかと思いますが…まぁでは見学してみますか。」


 ローペはそういうと、食堂を出ようと促すが、ヴァルトは渋っている。


「いや、だが…」

「ヴァルト様、この塔を案内されるために奥様をお連れしたのでしょう?でしたら、広場も通りますのは分かりますな?」

「あ、あぁ…。」


 ローペに言われ、渋々動き出す。そんなヴァルトに、リューリも首を傾げながらついて行く。

 ヴァルトは、確かにリューリにここに来たいと言われた時、塔の案内をしようと思っていた。そして、隊長には顔合わせをと思いヴァルトとリューリが準備をしている間に連絡をしておいたのだ。だがまさか他の隊員達にリューリを紹介するなどとは思っていなかった。先ほどの門番でさえリューリを見て顔を赤らめていた。男達がリューリに群がる獣と化してしまったらと危惧しているのだ。

 それを密かに笑いを噛み殺しながらローペは先へと進む。ヴァルトにも春が来たとは、と嬉しく思ったのだ。結婚する、から結婚と報告されたのは僅かな 期間で立て続けだった。その為愛を育む暇も無いのだろうと心配していたのだが、どうやら杞憂に終わったのかと安心し、だがそれとは別に、妻となる人物が見た目は儚く可憐でこんなむさ苦しい警備隊とは真逆の世界にいるだろう令嬢が、手合わせしたいとはどういった意図があるのかと頭を悩ませる羽目になったのだ。




 体を動かす場所は、塔の中央の、中庭みたいな場所に造られている。広場と言っても、雨が当たらないように立派な屋根がついており、床もきちんと板が張られている。その点では、リューリにはオークランス領の訓練場を思い出させた。


「素敵…!」


(オークランス領の訓練場よりも広いわね!!)


 足を止め目を輝かせるリューリに、ヴァルトは首を捻りながらもその姿がすでに可愛いと思っていた。他に隊員が居ないので同時に安心もした。この時間で隊員が誰もいないのなら近くの見回りにでも行ったのかと思った。ヴァルトは、領地経営もしないといけない為、基本的に警備隊の事は任せてあり、時間がある時にはこちらへ顔を出して、共に演習や見回りや駆除に参加しているのだ。


「さぁ、ではせっかくですから奥様はそこに居てください。いいですか、絶対に動いてはいけませんよ。」

「え?」


 広場に入ってすぐのところでローペに言われたリューリは、疑問に思ったが、すぐにヴァルトへと声を掛けたローペ。


「ではせっかくなので、ヴァルト様。手合わせを致しましょう。」

「は?…まぁ、じゃあ少しだけな。」


 広場には誰もおらず、自分達が見本見せた方が早いのだろうと、いきなりであったがヴァルトも頷いた。


「え!!」


(まさか!見られるなんて!!)


 リューリは期待の声を上げ、素直にその場に腰を下ろした。


「奥様。我々の間では手合わせとは、このようにお互いの技量を知る為に行います。見るのが怖いと思われましたら止めますが如何致しますかな?」

「ローペ様、お願い!見たいわ!!」

「そ、そうですか…。
あ、奥様。私にはいりません、どうぞローペと。」

「分かりました。ローペ、どうぞ!」


 さあ早く、と言わんばかりにリューリがウキウキした様子で言うものだから、若干ローペも引き気味になりながらもヴァルトを見る。
 ヴァルトもリューリの姿は新鮮だと見つめていたのだが、ローペの視線を感じると表情を改め、頷いて、ローペと共に動き出す。奥の隅の大きな長細い入れ物からお互いに何かを引き抜いて手にし、それをしまってまた違うものを選んでいた。どうやらそれは木でできた剣で、長い物や細い物、短い物といろいろとあるようだった。そして選び終わると一つを持って、ヴァルトとローペは話しながら広場の中央まで向かう。リューリには、会話の内容までは聞こえないがとても楽しそうであった。


(警備隊長とヴァルトの手合わせなんて…!きっとなかなか見られないわ。素晴らしいのでしょうね!!)


 自分が訓練場にいた時も、アハティとテイヨの手合わせなんてほとんど見た事がなかったからリューリはそう思い、膝の上に手を置いて、目に焼き付けようと中央で向かい合っている二人を見つめる。


「では…ヴァルト様、準備はよろしいですかな?」

「あぁ。」

「では、始めますぞ。…始め!」


 ローペがそのように掛け声を掛けると、途端に周りの温度が下がったように感じた。


(すごい…!気合いっていうのかしら…目力?)


 睨み合い、木剣を構えてヴァルトとローペは共に左方向に、ジリジリと一定の距離を保ちながらゆっくりと動き合っている。

 と、ローペが一歩進み、木剣を腰へと勢いよく振り下ろすが、ヴァルトもそれを軽くいなしてニヤリと笑った。


(気迫が違うわ…格好いい……!)


 膝に置いていた手を胸のところで組み、祈るように見つめるリューリ。


 また睨み合いながら頃合いを見計らっている二人。

 とまた、ローペが逆側の腰へと木剣を振り下ろそうとしてヴァルトがまたいなした所、手首をくるりと返して反対側へと回転させ、ローペの首元へと木剣を向けピタリと止めた。


「!!」

 リューリは息をするのも忘れ、目をギュッと瞑った。あの気迫では、一瞬本当に木剣が首元に突き刺さるのではないかと思ったのだ。


「止め!…ふう。さすがですな。」

「ローペ、手、抜いただろ。」

「なんのなんの。」


 軽口を叩き合っている二人の声を聞き、リューリは目を開けると、ふう、と肩の力を抜いた。


「リューリ、大丈夫か?」


 それに気づいたヴァルトはそういうと、木剣をローペに渡してリューリの元へ駆け寄り、未だ座っているリューリに目線を合わせた。


「どうした?やっぱり、意味合いが違ったか?」

「…ううん、違うの。あ、違うっていうのは、意味合いの事よ?手合わせは、一緒の意味だったわ。私もお兄様や第一隊長とかとやっていたの。でも、なんだか…お二人は別格っていうか、今までのオークランス領の警備隊のとは違って…本当にヴァルトがローペを刺しちゃうんじゃないかって思ったの。」

「え?…そうか。
きっと、それは目的が違うからだろうな。オークランス領の警備隊の目的と、ここノルドランデル領の国境警備隊の目的は若干違う。俺達は文字通り命掛けなんだ。
…怖かったか?」

「ううん、ちょっと戸惑ったけど。
ねぇ、今はちょっとまだ無理だけど、私強くなるから、いつか手合わせしてくれない?」


 リューリは、本当はヴァルトを少しだけ怖いと思った。見ていたら見惚れる程格好良かったのだけれど、ローペの首元へ木剣がいった時には本当に刺すかと錯覚する程気迫が鋭かったから。
 リューリは自分がそれなりに強いと思っていた。だが、全く足元にも及ばないのだと実感したのだ。だから、もっと鍛錬していつかヴァルトとやってみたいと思った。
 リューリは昔から手合わせをして兄弟の成長を感じ取っていた。リューリにとって手合わせとは心の内をさらけ出して会話をするような意味合いであったのだ。手合わせをすれば更に相手と仲良くなれる、というような。それはオークランス領では小さな頃より当たり前の事であったし、娯楽の少ない場所では遊び感覚のようなものだったのだ。


「!?」

「ハハハハ!奥様はまさか、大奥様と同じ気質なのですかな?ヴァルト様、やはり大変ですなぁ!!」

「ローペ…。
リューリと手合わせなんて考えただけで、怖くてやりたくないな。だが、他の者に任せるのも許せない。
だが、リューリは、第一隊長や、兄弟と手合わせをやっていたのか?」

「ええそうよ。第一隊長のテイヨには勝てなかったけど、お兄様達ともやっていたわ。」

「うーん…それはエリヤスに聞くとして、リューリは体を動かしたいという事か?」


 ここでの手合わせとは、相手をオオヒグマだと思ってやるのだ。つまり、本気でやる。相手の技量を見るというが、相手が自分より弱いか強いか、というように。だから、相手の出方を見る為にこちらから動かない事はあっても、手を抜いてやる事は無いのだ。だからヴァルトはリューリに手合わせをさせたくなかった。


「ええ!だから、ここを使わせてもらったら体をほぐす事とか、剣を振る事とか出来ると思ったの。」

「…じゃあそれならここではなく、屋敷でやれるようにしよう。ここは少し距離があるからな。」

「本当!?ありがとう!ヴァルト!!」


 リューリも、ここでやりたいわけではなく訓練場のような広い場所でやれれば、うるさくもなく使用人達に迷惑も掛からないだろうと思ってのことはであった。それに確かに、ここまで来るには少し時間が掛かる。思い立ったすぐにというわけにはいかないので、屋敷で出来るならすぐに出来るのでそれに越した事はなかった。


(もう少し強くなったら、手合わせしたいって言えばいいって事ね!)


 ヴァルトはそのリューリの笑顔に、癒されながらもとんでもないお転婆な天使だったんだなと笑った。そして、それは決して嫌では無く、意外な一面が知れるのを嬉しく思っていたのだった。



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