13 / 26
手合わせ、とは
しおりを挟む
「手合わせとかしたいなと思って!」
リューリがそう言うと、ヴァルトとローペは顔を合わせ、驚いたような顔をした。
そして、どちらともなく言葉を口にする。
「いや、リューリ…」
「奥様、それは…」
「え?ダメ?」
リューリの首を傾げた仕草に、思わず肯定したくなったヴァルトはしかし、首を横に振ってから改めて聞く。
「リューリ、手合わせって誰とだ?」
「そっちか!?ヴァルト!
あ、いや…奥様、そもそも手合わせとは何かご存じで?」
ローペは元々、ヴァルトが小さな頃から国境警備隊に所属している為、ヴァルトは自分の子供のように思い、接していた。だが、ヴァルトが大きくなってくるとヴァルト様、と敢えて呼ぶようにしてきたが思わず素になり突っ込んでしまった。
「もちろんです。
…え?こちらでは、故郷のオークランス領のそれとはもしかして違うのですか?」
二人とも、真剣な表情で聞いてくるものだから手合わせと言う意味がこちらでは違うのではないかと思い始めたリューリは、疑問で返してしまう。
「えーと、オークランス領は西の辺境伯とも言われておりますね?ですから、概ね同じ意味合いかと思いますが…まぁでは見学してみますか。」
ローペはそういうと、食堂を出ようと促すが、ヴァルトは渋っている。
「いや、だが…」
「ヴァルト様、この塔を案内されるために奥様をお連れしたのでしょう?でしたら、広場も通りますのは分かりますな?」
「あ、あぁ…。」
ローペに言われ、渋々動き出す。そんなヴァルトに、リューリも首を傾げながらついて行く。
ヴァルトは、確かにリューリにここに来たいと言われた時、塔の案内をしようと思っていた。そして、隊長には顔合わせをと思いヴァルトとリューリが準備をしている間に連絡をしておいたのだ。だがまさか他の隊員達にリューリを紹介するなどとは思っていなかった。先ほどの門番でさえリューリを見て顔を赤らめていた。男達がリューリに群がる獣と化してしまったらと危惧しているのだ。
それを密かに笑いを噛み殺しながらローペは先へと進む。ヴァルトにも春が来たとは、と嬉しく思ったのだ。結婚する、から結婚したと報告されたのは僅かな 期間で立て続けだった。その為愛を育む暇も無いのだろうと心配していたのだが、どうやら杞憂に終わったのかと安心し、だがそれとは別に、妻となる人物が見た目は儚く可憐でこんなむさ苦しい警備隊とは真逆の世界にいるだろう令嬢が、手合わせしたいとはどういった意図があるのかと頭を悩ませる羽目になったのだ。
体を動かす場所は、塔の中央の、中庭みたいな場所に造られている。広場と言っても、雨が当たらないように立派な屋根がついており、床もきちんと板が張られている。その点では、リューリにはオークランス領の訓練場を思い出させた。
「素敵…!」
(オークランス領の訓練場よりも広いわね!!)
足を止め目を輝かせるリューリに、ヴァルトは首を捻りながらもその姿がすでに可愛いと思っていた。他に隊員が居ないので同時に安心もした。この時間で隊員が誰もいないのなら近くの見回りにでも行ったのかと思った。ヴァルトは、領地経営もしないといけない為、基本的に警備隊の事は任せてあり、時間がある時にはこちらへ顔を出して、共に演習や見回りや駆除に参加しているのだ。
「さぁ、ではせっかくですから奥様はそこに居てください。いいですか、絶対に動いてはいけませんよ。」
「え?」
広場に入ってすぐのところでローペに言われたリューリは、疑問に思ったが、すぐにヴァルトへと声を掛けたローペ。
「ではせっかくなので、ヴァルト様。手合わせを致しましょう。」
「は?…まぁ、じゃあ少しだけな。」
広場には誰もおらず、自分達が見本見せた方が早いのだろうと、いきなりであったがヴァルトも頷いた。
「え!!」
(まさか!見られるなんて!!)
リューリは期待の声を上げ、素直にその場に腰を下ろした。
「奥様。我々の間では手合わせとは、このようにお互いの技量を知る為に行います。見るのが怖いと思われましたら止めますが如何致しますかな?」
「ローペ様、お願い!見たいわ!!」
「そ、そうですか…。
あ、奥様。私に様はいりません、どうぞローペと。」
「分かりました。ローペ、どうぞ!」
さあ早く、と言わんばかりにリューリがウキウキした様子で言うものだから、若干ローペも引き気味になりながらもヴァルトを見る。
ヴァルトもリューリの姿は新鮮だと見つめていたのだが、ローペの視線を感じると表情を改め、頷いて、ローペと共に動き出す。奥の隅の大きな長細い入れ物からお互いに何かを引き抜いて手にし、それをしまってまた違うものを選んでいた。どうやらそれは木でできた剣で、長い物や細い物、短い物といろいろとあるようだった。そして選び終わると一つを持って、ヴァルトとローペは話しながら広場の中央まで向かう。リューリには、会話の内容までは聞こえないがとても楽しそうであった。
(警備隊長とヴァルトの手合わせなんて…!きっとなかなか見られないわ。素晴らしいのでしょうね!!)
自分が訓練場にいた時も、アハティとテイヨの手合わせなんてほとんど見た事がなかったからリューリはそう思い、膝の上に手を置いて、目に焼き付けようと中央で向かい合っている二人を見つめる。
「では…ヴァルト様、準備はよろしいですかな?」
「あぁ。」
「では、始めますぞ。…始め!」
ローペがそのように掛け声を掛けると、途端に周りの温度が下がったように感じた。
(すごい…!気合いっていうのかしら…目力?)
睨み合い、木剣を構えてヴァルトとローペは共に左方向に、ジリジリと一定の距離を保ちながらゆっくりと動き合っている。
と、ローペが一歩進み、木剣を腰へと勢いよく振り下ろすが、ヴァルトもそれを軽くいなしてニヤリと笑った。
(気迫が違うわ…格好いい……!)
膝に置いていた手を胸のところで組み、祈るように見つめるリューリ。
また睨み合いながら頃合いを見計らっている二人。
とまた、ローペが逆側の腰へと木剣を振り下ろそうとしてヴァルトがまたいなした所、手首をくるりと返して反対側へと回転させ、ローペの首元へと木剣を向けピタリと止めた。
「!!」
リューリは息をするのも忘れ、目をギュッと瞑った。あの気迫では、一瞬本当に木剣が首元に突き刺さるのではないかと思ったのだ。
「止め!…ふう。さすがですな。」
「ローペ、手、抜いただろ。」
「なんのなんの。」
軽口を叩き合っている二人の声を聞き、リューリは目を開けると、ふう、と肩の力を抜いた。
「リューリ、大丈夫か?」
それに気づいたヴァルトはそういうと、木剣をローペに渡してリューリの元へ駆け寄り、未だ座っているリューリに目線を合わせた。
「どうした?やっぱり、意味合いが違ったか?」
「…ううん、違うの。あ、違うっていうのは、意味合いの事よ?手合わせは、一緒の意味だったわ。私もお兄様や第一隊長とかとやっていたの。でも、なんだか…お二人は別格っていうか、今までのオークランス領の警備隊のとは違って…本当にヴァルトがローペを刺しちゃうんじゃないかって思ったの。」
「え?…そうか。
きっと、それは目的が違うからだろうな。オークランス領の警備隊の目的と、ここノルドランデル領の国境警備隊の目的は若干違う。俺達は文字通り命掛けなんだ。
…怖かったか?」
「ううん、ちょっと戸惑ったけど。
ねぇ、今はちょっとまだ無理だけど、私強くなるから、いつか手合わせしてくれない?」
リューリは、本当はヴァルトを少しだけ怖いと思った。見ていたら見惚れる程格好良かったのだけれど、ローペの首元へ木剣がいった時には本当に刺すかと錯覚する程気迫が鋭かったから。
リューリは自分がそれなりに強いと思っていた。だが、全く足元にも及ばないのだと実感したのだ。だから、もっと鍛錬していつかヴァルトとやってみたいと思った。
リューリは昔から手合わせをして兄弟の成長を感じ取っていた。リューリにとって手合わせとは心の内をさらけ出して会話をするような意味合いであったのだ。手合わせをすれば更に相手と仲良くなれる、というような。それはオークランス領では小さな頃より当たり前の事であったし、娯楽の少ない場所では遊び感覚のようなものだったのだ。
「!?」
「ハハハハ!奥様はまさか、大奥様と同じ気質なのですかな?ヴァルト様、やはり大変ですなぁ!!」
「ローペ…。
リューリと手合わせなんて考えただけで、怖くてやりたくないな。だが、他の者に任せるのも許せない。
だが、リューリは、第一隊長や、兄弟と手合わせをやっていたのか?」
「ええそうよ。第一隊長のテイヨには勝てなかったけど、お兄様達ともやっていたわ。」
「うーん…それはエリヤスに聞くとして、リューリは体を動かしたいという事か?」
ここでの手合わせとは、相手をオオヒグマだと思ってやるのだ。つまり、本気でやる。相手の技量を見るというが、相手が自分より弱いか強いか、というように。だから、相手の出方を見る為にこちらから動かない事はあっても、手を抜いてやる事は無いのだ。だからヴァルトはリューリに手合わせをさせたくなかった。
「ええ!だから、ここを使わせてもらったら体をほぐす事とか、剣を振る事とか出来ると思ったの。」
「…じゃあそれならここではなく、屋敷でやれるようにしよう。ここは少し距離があるからな。」
「本当!?ありがとう!ヴァルト!!」
リューリも、ここでやりたいわけではなく訓練場のような広い場所でやれれば、うるさくもなく使用人達に迷惑も掛からないだろうと思ってのことはであった。それに確かに、ここまで来るには少し時間が掛かる。思い立ったすぐにというわけにはいかないので、屋敷で出来るならすぐに出来るのでそれに越した事はなかった。
(もう少し強くなったら、手合わせしたいって言えばいいって事ね!)
ヴァルトはそのリューリの笑顔に、癒されながらもとんでもないお転婆な天使だったんだなと笑った。そして、それは決して嫌では無く、意外な一面が知れるのを嬉しく思っていたのだった。
リューリがそう言うと、ヴァルトとローペは顔を合わせ、驚いたような顔をした。
そして、どちらともなく言葉を口にする。
「いや、リューリ…」
「奥様、それは…」
「え?ダメ?」
リューリの首を傾げた仕草に、思わず肯定したくなったヴァルトはしかし、首を横に振ってから改めて聞く。
「リューリ、手合わせって誰とだ?」
「そっちか!?ヴァルト!
あ、いや…奥様、そもそも手合わせとは何かご存じで?」
ローペは元々、ヴァルトが小さな頃から国境警備隊に所属している為、ヴァルトは自分の子供のように思い、接していた。だが、ヴァルトが大きくなってくるとヴァルト様、と敢えて呼ぶようにしてきたが思わず素になり突っ込んでしまった。
「もちろんです。
…え?こちらでは、故郷のオークランス領のそれとはもしかして違うのですか?」
二人とも、真剣な表情で聞いてくるものだから手合わせと言う意味がこちらでは違うのではないかと思い始めたリューリは、疑問で返してしまう。
「えーと、オークランス領は西の辺境伯とも言われておりますね?ですから、概ね同じ意味合いかと思いますが…まぁでは見学してみますか。」
ローペはそういうと、食堂を出ようと促すが、ヴァルトは渋っている。
「いや、だが…」
「ヴァルト様、この塔を案内されるために奥様をお連れしたのでしょう?でしたら、広場も通りますのは分かりますな?」
「あ、あぁ…。」
ローペに言われ、渋々動き出す。そんなヴァルトに、リューリも首を傾げながらついて行く。
ヴァルトは、確かにリューリにここに来たいと言われた時、塔の案内をしようと思っていた。そして、隊長には顔合わせをと思いヴァルトとリューリが準備をしている間に連絡をしておいたのだ。だがまさか他の隊員達にリューリを紹介するなどとは思っていなかった。先ほどの門番でさえリューリを見て顔を赤らめていた。男達がリューリに群がる獣と化してしまったらと危惧しているのだ。
それを密かに笑いを噛み殺しながらローペは先へと進む。ヴァルトにも春が来たとは、と嬉しく思ったのだ。結婚する、から結婚したと報告されたのは僅かな 期間で立て続けだった。その為愛を育む暇も無いのだろうと心配していたのだが、どうやら杞憂に終わったのかと安心し、だがそれとは別に、妻となる人物が見た目は儚く可憐でこんなむさ苦しい警備隊とは真逆の世界にいるだろう令嬢が、手合わせしたいとはどういった意図があるのかと頭を悩ませる羽目になったのだ。
体を動かす場所は、塔の中央の、中庭みたいな場所に造られている。広場と言っても、雨が当たらないように立派な屋根がついており、床もきちんと板が張られている。その点では、リューリにはオークランス領の訓練場を思い出させた。
「素敵…!」
(オークランス領の訓練場よりも広いわね!!)
足を止め目を輝かせるリューリに、ヴァルトは首を捻りながらもその姿がすでに可愛いと思っていた。他に隊員が居ないので同時に安心もした。この時間で隊員が誰もいないのなら近くの見回りにでも行ったのかと思った。ヴァルトは、領地経営もしないといけない為、基本的に警備隊の事は任せてあり、時間がある時にはこちらへ顔を出して、共に演習や見回りや駆除に参加しているのだ。
「さぁ、ではせっかくですから奥様はそこに居てください。いいですか、絶対に動いてはいけませんよ。」
「え?」
広場に入ってすぐのところでローペに言われたリューリは、疑問に思ったが、すぐにヴァルトへと声を掛けたローペ。
「ではせっかくなので、ヴァルト様。手合わせを致しましょう。」
「は?…まぁ、じゃあ少しだけな。」
広場には誰もおらず、自分達が見本見せた方が早いのだろうと、いきなりであったがヴァルトも頷いた。
「え!!」
(まさか!見られるなんて!!)
リューリは期待の声を上げ、素直にその場に腰を下ろした。
「奥様。我々の間では手合わせとは、このようにお互いの技量を知る為に行います。見るのが怖いと思われましたら止めますが如何致しますかな?」
「ローペ様、お願い!見たいわ!!」
「そ、そうですか…。
あ、奥様。私に様はいりません、どうぞローペと。」
「分かりました。ローペ、どうぞ!」
さあ早く、と言わんばかりにリューリがウキウキした様子で言うものだから、若干ローペも引き気味になりながらもヴァルトを見る。
ヴァルトもリューリの姿は新鮮だと見つめていたのだが、ローペの視線を感じると表情を改め、頷いて、ローペと共に動き出す。奥の隅の大きな長細い入れ物からお互いに何かを引き抜いて手にし、それをしまってまた違うものを選んでいた。どうやらそれは木でできた剣で、長い物や細い物、短い物といろいろとあるようだった。そして選び終わると一つを持って、ヴァルトとローペは話しながら広場の中央まで向かう。リューリには、会話の内容までは聞こえないがとても楽しそうであった。
(警備隊長とヴァルトの手合わせなんて…!きっとなかなか見られないわ。素晴らしいのでしょうね!!)
自分が訓練場にいた時も、アハティとテイヨの手合わせなんてほとんど見た事がなかったからリューリはそう思い、膝の上に手を置いて、目に焼き付けようと中央で向かい合っている二人を見つめる。
「では…ヴァルト様、準備はよろしいですかな?」
「あぁ。」
「では、始めますぞ。…始め!」
ローペがそのように掛け声を掛けると、途端に周りの温度が下がったように感じた。
(すごい…!気合いっていうのかしら…目力?)
睨み合い、木剣を構えてヴァルトとローペは共に左方向に、ジリジリと一定の距離を保ちながらゆっくりと動き合っている。
と、ローペが一歩進み、木剣を腰へと勢いよく振り下ろすが、ヴァルトもそれを軽くいなしてニヤリと笑った。
(気迫が違うわ…格好いい……!)
膝に置いていた手を胸のところで組み、祈るように見つめるリューリ。
また睨み合いながら頃合いを見計らっている二人。
とまた、ローペが逆側の腰へと木剣を振り下ろそうとしてヴァルトがまたいなした所、手首をくるりと返して反対側へと回転させ、ローペの首元へと木剣を向けピタリと止めた。
「!!」
リューリは息をするのも忘れ、目をギュッと瞑った。あの気迫では、一瞬本当に木剣が首元に突き刺さるのではないかと思ったのだ。
「止め!…ふう。さすがですな。」
「ローペ、手、抜いただろ。」
「なんのなんの。」
軽口を叩き合っている二人の声を聞き、リューリは目を開けると、ふう、と肩の力を抜いた。
「リューリ、大丈夫か?」
それに気づいたヴァルトはそういうと、木剣をローペに渡してリューリの元へ駆け寄り、未だ座っているリューリに目線を合わせた。
「どうした?やっぱり、意味合いが違ったか?」
「…ううん、違うの。あ、違うっていうのは、意味合いの事よ?手合わせは、一緒の意味だったわ。私もお兄様や第一隊長とかとやっていたの。でも、なんだか…お二人は別格っていうか、今までのオークランス領の警備隊のとは違って…本当にヴァルトがローペを刺しちゃうんじゃないかって思ったの。」
「え?…そうか。
きっと、それは目的が違うからだろうな。オークランス領の警備隊の目的と、ここノルドランデル領の国境警備隊の目的は若干違う。俺達は文字通り命掛けなんだ。
…怖かったか?」
「ううん、ちょっと戸惑ったけど。
ねぇ、今はちょっとまだ無理だけど、私強くなるから、いつか手合わせしてくれない?」
リューリは、本当はヴァルトを少しだけ怖いと思った。見ていたら見惚れる程格好良かったのだけれど、ローペの首元へ木剣がいった時には本当に刺すかと錯覚する程気迫が鋭かったから。
リューリは自分がそれなりに強いと思っていた。だが、全く足元にも及ばないのだと実感したのだ。だから、もっと鍛錬していつかヴァルトとやってみたいと思った。
リューリは昔から手合わせをして兄弟の成長を感じ取っていた。リューリにとって手合わせとは心の内をさらけ出して会話をするような意味合いであったのだ。手合わせをすれば更に相手と仲良くなれる、というような。それはオークランス領では小さな頃より当たり前の事であったし、娯楽の少ない場所では遊び感覚のようなものだったのだ。
「!?」
「ハハハハ!奥様はまさか、大奥様と同じ気質なのですかな?ヴァルト様、やはり大変ですなぁ!!」
「ローペ…。
リューリと手合わせなんて考えただけで、怖くてやりたくないな。だが、他の者に任せるのも許せない。
だが、リューリは、第一隊長や、兄弟と手合わせをやっていたのか?」
「ええそうよ。第一隊長のテイヨには勝てなかったけど、お兄様達ともやっていたわ。」
「うーん…それはエリヤスに聞くとして、リューリは体を動かしたいという事か?」
ここでの手合わせとは、相手をオオヒグマだと思ってやるのだ。つまり、本気でやる。相手の技量を見るというが、相手が自分より弱いか強いか、というように。だから、相手の出方を見る為にこちらから動かない事はあっても、手を抜いてやる事は無いのだ。だからヴァルトはリューリに手合わせをさせたくなかった。
「ええ!だから、ここを使わせてもらったら体をほぐす事とか、剣を振る事とか出来ると思ったの。」
「…じゃあそれならここではなく、屋敷でやれるようにしよう。ここは少し距離があるからな。」
「本当!?ありがとう!ヴァルト!!」
リューリも、ここでやりたいわけではなく訓練場のような広い場所でやれれば、うるさくもなく使用人達に迷惑も掛からないだろうと思ってのことはであった。それに確かに、ここまで来るには少し時間が掛かる。思い立ったすぐにというわけにはいかないので、屋敷で出来るならすぐに出来るのでそれに越した事はなかった。
(もう少し強くなったら、手合わせしたいって言えばいいって事ね!)
ヴァルトはそのリューリの笑顔に、癒されながらもとんでもないお転婆な天使だったんだなと笑った。そして、それは決して嫌では無く、意外な一面が知れるのを嬉しく思っていたのだった。
53
お気に入りに追加
1,570
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~
玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。
彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。
そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。
過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。
それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。
非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。
無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。
巻き戻りファンタジー。
ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。
ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。
楽しんでくれたらうれしいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法使いの契約結婚~すべては愛する家族のため~
Na20
ファンタジー
「これは契約結婚だ。私に愛されようだなんて愚かなことは考えるなよ。お前は大人しく家のことだけしていればいい」
目の前にいる若い男がそう言ってさっさと立ち去っていく。私は笑いそうになるのを必死に堪えていた。
そうだ。これは契約結婚だ。
私が計画した、ね。
※ご都合主義、設定ゆるふわです。
※小説家になろう様にも掲載しています
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。
米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。
孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜
月
恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。
婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。
そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。
不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。
お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!?
死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。
しかもわざわざ声に出して。
恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。
けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……?
※この小説は他サイトでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる