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名前はポチャタ。

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「おばぁちゃん、スイカ美味かったよ、ありがとう!何かやる事あるか?電球変えるとか、畑仕事とか。」
「そうさね。じゃあちょっとお願いしていいかい?」
「いいよ!スイカの分働くぜ。」
「じゃあ外に来てもらっていいかい?」
「おう!」

源太は、ここに来ると力仕事とか、大抵声を掛けてくれる。私がいない時もそうなのか、ばぁちゃんも普通にお願いしている。田舎だし、歳いった人が多くなってきてて、男手が必要な事を率先してやるのは尊敬出来るのは本人には内緒。
私も、暇だしついて行く。
家からすぐの畑で、どうやら鳥に啄まれないよう、防鳥ネットを張るらしい。それがちょっと背が高いもので、源太がやってくれて助かるみたい。私も手伝おうとしたんだけど、源太は毎年やってるみたいで…たまに手伝う私は全くやり方を忘れているから、ばぁちゃんに遠まわしにやらなくていいと言われた。その代わり、昼ご飯に使う野菜を取って来てって言われたわ。暑いから、キュウリとトマトとナスだって。トウモロコシは、あともう少しらしい。残念。

「源ちゃんも時間あるかえ?一緒に食べていきなされ。」

ばぁちゃんはそう誘ったから、源太の分も取って来なきゃね。

畑の野菜を流しで冷やす。山の湧き水は物凄く冷たいから、すぐ冷えてきたので、野菜を食べやすい大きさに切った。ナスは、どうするんだろ。いろりであぶるのか、夜に取っておくのか。まぁ、あとでいっか。それから、朝の残りの具だくさんスープを温めるためにいろりに火をくべた。
少しすると、汗だくになって源太とばぁちゃんが帰ってくる。ばぁちゃんは麦わら帽子を被っていたからよかったけど、源太はタオルを巻いただけだからか汗がすごい。

「源太、大丈夫!?シャワー浴びる?」
「いや。ばぁちゃん、外、借りるよ。」
「はいよ。香澄ちゃん、タオル持っていってあげな。」
「うん。」
「香澄ー、タオルいらんよ!俺持ってるから。」
いや、持ってるって頭のその汗まみれのタオルだよね!?もう汗が染みこんでるんじゃないの?

外にある、これまた湧き水を畑や外で使える様に引きこんだ場所にいた。源太は、上に着ていたシャツを脱いでいた。後ろ姿だけど、がっしりと引き締まった背中。山田商店や畑仕事などを沢山手伝ってきた証拠だろう。桶に水を溜めて、腰を90度に曲げて頭からそれを被るのを三回ほど繰り返した。

「源太、タオル。」
「あーごめん。サンキュー。」
頭を左右に振り、水気を飛ばしてからタオルで顔を拭く。思わず水もしたたるなんとやらで見とれてしまった。
顔を上げた源太が、
「なんだよ。香澄も浴びたいのか?」
と言ってくる。
「ち、違うよ!あとで来てね!」
私は慌てて後ろを向き、ばぁちゃんの家へと早足で戻る。なんでこんなドキドキしてるんだろ。暑いからかな。

「香澄ちゃん、ありがとね。ナスも食べるかい?今炙ってるからね。」
「ううん。食べる!手伝うよ!」



「じゃあ、おばぁちゃん、ごちそうさま!香澄、なんかあったら、連絡しろよ。」
「はーい。」
「源ちゃん、こちらこそありがとうねぇ。助かったよ。気をつけてねぇ。」
「おう!」
エンジンを掛けて行ってしまった。振り向くと、さっきまでずっと土間で寝ていたポチャタが外に出てきていた。まるで、一緒に源太のお見送りしていたみたいだ。それから、畑の方へ歩いて行った。

「ポチャタ。散歩でもするのー?」
別に返事を期待して言ったわけでもない。でもポチャタは私の声に一度振り返って、また歩いて行った。ま、首輪もついていないし、自由気ままな野生なのかな。

「ばぁちゃん、何かやる?」
「そうさね。今は暑いから、少し昼寝してから草むしりでもやろかね。」
「お!いいねぇ!」
ばぁちゃんの家は、縁側のガラス戸を開けっ放しにして、玄関の引き戸も開けっ放しにすると風か通ってとても気持ちがいい。だから、昼寝をするのにもってこいだ。網戸はないから、寝る場所に虫が入ってこないように蚊帳を吊って、その中でばぁちゃんと二人、敷布団を引いて寝転がる。なんとも心地が良い。目覚ましをかけないと永遠と寝れそうだ。30分あとにアラームを掛けて目を瞑る。



「ワンワン!ワンワン!」

んー?なんか犬の声が…。
「ポチャタかな?どしたー?」
アラームを見ると、あと5分ほどでアラームが鳴る時間だった。隣のばぁちゃんはまだ寝ているみたいだ。やっぱり、お別れの会とかで疲れてたのかな?
私はアラームを止めて、庭に出てみる。すると、少し離れた畑でポチャタがいて、山に向かって吠えていた。

「ポチャタ?どしたー?」
私が声を掛けると、ポチャタは私の方を見て、また吠えていた。
ポチャタの居る方まで行くと、防獣ネットが少し囓られていて、ネットの下は、爪で掘ったような跡があった。
ポチャタの向いている山を見ると、ガサガサと茂みが揺れ、それが少しずつ上の方へ動いていった。多分だけど、獣を追い払ってくれたんじゃないかと思った。

「ポチャタ。もしかして追い払ってくれたの?ありがとう!」

「わん!」
と吠え、尻尾を振りながらまた、歩いて行ってしまう。
ポチャタが、獣を追い返したのだとしたら、この上ないボディーガードなんじゃないかと思った。じぃちゃんが亡くなって、ばぁちゃんは一人になってしまったから。可愛いし、癒されるよ。でも、人に慣れていないのか私が嫌なのか、ある程度近づくと逃げてしまう。頭でも撫でさせてくれるともっと可愛いのになぁ。
ポチャタも行ってしまったし、起きてすぐ外に出てきたから、喉が渇いたのでばぁちゃんの家へと戻った。
さぁ、まだ暑いけど草むしりでもするか。
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