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幼いころは
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「ばあちゃん、これは?」
「それはトウモロコシだよ。」
「へー。おっきいね。」
「そうだねぇ。あとで食べてみるかね。」
「わー!食べたい!!」
「じゃあ持って行こうねぇ。」
また小さい頃の夢か…。ばぁちゃんの畑でもぎ取って食べた。なんでも美味しかったなぁ。あの頃は何も考えずに山を駆け回って。楽しかったな。
私、日野香澄。都会に住んでた24歳。大学を卒業して、就職したんだけど…ちょっと挫折して退職し、家でゴロゴロとしていた。でも、住んでた家から電車とバスを乗り継ぎ、その後30分程歩いてトータル約3時間掛かる山に住んでるじいちゃんが亡くなって。お別れをするために父さんと母さんと訪れた。
葬儀は、昨日の昼に終わった。そして、父さんと母さんは仕事があるからとそのまま帰って行った。
目が覚めて、考え事をしていると、
「香澄ちゃん。朝ご飯出来たよ。」
ばあちゃんが襖を開けて、声を掛けてくれた。
「ばぁちゃんおはよう。うん、今行く。」
私は、仕事も辞めちゃったし、ばぁちゃんもきっと一人になって淋しいかなともう少し居させてもらう事にした。このままこっちに居着いちゃおうかな-。
よし、とりあえず起きるか。
この家は、昔ながらの日本家屋。いつくらいに建てたんだろ。父さんの実家なんだけど、父さんが生まれた頃から内装は変わってないみたい。
私が寝ていた部屋は客間。襖を開けて、縁側に面した板張りの廊下を歩いて行くと、突き当たりに玄関とは別の、外へ出るドアがある。そこから外へ出て、トイレへ行く。
外にあるトイレはちょっと嫌だけど、屋根があるからまだ我慢出来る。私が小さい時に、じぃちゃんが屋根を作ってくれたらしい。
その後、また来た道を戻って、居間へ行く。途中、縁側のガラス窓から、外を見たらとても良い天気。その時ガサガサと茂みの方から音がして、何か生き物が通ったような気がした。ここではよくある事だからその時は気にも止めず、居間へ入った。
ばぁちゃんがまだご飯を食べずに座って待っていてくれた。
「おはよう。ごめんね、遅くなって。」
「香澄ちゃんが居てくれて賑やかいからいいよ。でもそうだね明日からは、手伝える時は手伝ってちょうだい。」
「うん、分かった!」
「じゃぁ食べようかね。いただきます。」
「いただきます!」
ばぁちゃんのご飯は基本的に和食だ。畑で取れた自家製の野菜、お米がほとんど。たまに、山を下りた所にある山田商店で購入したものを出してくれたりする。私も、お金は少し持って来たのであとで、買い物にでも行くかな。
「ばぁちゃん、食べたら畑に行くの?」
「そうだね。あとで見に行くよ。香澄ちゃんも来るかい?」
「うん。草取りやるんでしょ?少し手伝うよ。その後、山田商店に行って来ていい?必要なものあるなら買って来るよ。」
「あら。ありがとうね。じゃああとで調味料を見てみるね。」
ばぁちゃんの畑は広い。山の斜面にあったり、家からすぐ目の前の広場にあったり。少し下に下った所には田んぼもあった。
「ばぁちゃん、斜面の方見てこよっか?」
「ありがとうね。香澄ちゃんが前来た時と変わってるかもしれないから、ばぁちゃんも行くよ。この前猪が出てね。網を張り替えた所なんだ。」
「そ、そうなんだ…」
猪かぁ。突進して来られたらヤバいよね。
「もし出て来たら、入り口に枝が置いてあるから、それ振り回したら逃げて行くさね。」
「ばぁちゃん危ないよ。気をつけないと。」
「そうねぇ。まだやられた事はないよ。」
逞しいな…でもそうじゃなきゃ、山では暮らしていけないか。
斜面の畑は、お茶の葉と、もう少し上には果樹園がある。ネットで囲って、猪や鹿などが入って来ないようにしているみたい。入り口は、木の扉を付けて入りやすくしてあった。
「これ、じぃちゃんとばぁちゃんで作ったの?」
「いいや、役場の人と、若い有志の人達も手伝ってくれてね。とっても助かったよ。」
そうなんだ。じぃちゃんとばぁちゃんだけじゃぁ、広いし大変だよね。
ネットは、壊れた箇所は特に無かったので、中に入って雑草を抜いて、ついでに食べる分をもぎ取って一旦家に帰った。
休憩に自家製のお茶を飲む。さっぱりしてとても美味しい日本茶だ。摘んできた葉は、一度乾かさないといけないので、隣の建物の倉庫に持って行く。
「香澄ちゃん、そろそろ山田商店開く時間だよ。どうする?」
「んー、せっかくだし行ってこようかな。買って来るものある?」
「そうだねぇ。醤油をお願いしようかな。」
「分かった!じゃあ行ってきまーす!」
「気をつけてね。」
ここから山田商店までは、舗装されていない土の道。両脇は草が足首程の背丈に生えている道をまっすぐ下って行く。車があれば乗って行ける広い道ではあるけど、父さんが乗って帰ってしまったので私は歩いて行く。
今の季節はちょうど梅雨明けしたあとなので、長く歩くと汗ばんでくる。だから帽子はつばのあるものをしっかり被って、日傘も差して行く。
あぁやっと見えてきた。帰りは道が上りなので億劫になりそうだが、昔からそうなので頑張って帰るしかない。あまり買いすぎないようにしないと。
と、山田商店の店先でおじさんが何か作業をしていた。
「おじさーん!」
「お?」
「それはトウモロコシだよ。」
「へー。おっきいね。」
「そうだねぇ。あとで食べてみるかね。」
「わー!食べたい!!」
「じゃあ持って行こうねぇ。」
また小さい頃の夢か…。ばぁちゃんの畑でもぎ取って食べた。なんでも美味しかったなぁ。あの頃は何も考えずに山を駆け回って。楽しかったな。
私、日野香澄。都会に住んでた24歳。大学を卒業して、就職したんだけど…ちょっと挫折して退職し、家でゴロゴロとしていた。でも、住んでた家から電車とバスを乗り継ぎ、その後30分程歩いてトータル約3時間掛かる山に住んでるじいちゃんが亡くなって。お別れをするために父さんと母さんと訪れた。
葬儀は、昨日の昼に終わった。そして、父さんと母さんは仕事があるからとそのまま帰って行った。
目が覚めて、考え事をしていると、
「香澄ちゃん。朝ご飯出来たよ。」
ばあちゃんが襖を開けて、声を掛けてくれた。
「ばぁちゃんおはよう。うん、今行く。」
私は、仕事も辞めちゃったし、ばぁちゃんもきっと一人になって淋しいかなともう少し居させてもらう事にした。このままこっちに居着いちゃおうかな-。
よし、とりあえず起きるか。
この家は、昔ながらの日本家屋。いつくらいに建てたんだろ。父さんの実家なんだけど、父さんが生まれた頃から内装は変わってないみたい。
私が寝ていた部屋は客間。襖を開けて、縁側に面した板張りの廊下を歩いて行くと、突き当たりに玄関とは別の、外へ出るドアがある。そこから外へ出て、トイレへ行く。
外にあるトイレはちょっと嫌だけど、屋根があるからまだ我慢出来る。私が小さい時に、じぃちゃんが屋根を作ってくれたらしい。
その後、また来た道を戻って、居間へ行く。途中、縁側のガラス窓から、外を見たらとても良い天気。その時ガサガサと茂みの方から音がして、何か生き物が通ったような気がした。ここではよくある事だからその時は気にも止めず、居間へ入った。
ばぁちゃんがまだご飯を食べずに座って待っていてくれた。
「おはよう。ごめんね、遅くなって。」
「香澄ちゃんが居てくれて賑やかいからいいよ。でもそうだね明日からは、手伝える時は手伝ってちょうだい。」
「うん、分かった!」
「じゃぁ食べようかね。いただきます。」
「いただきます!」
ばぁちゃんのご飯は基本的に和食だ。畑で取れた自家製の野菜、お米がほとんど。たまに、山を下りた所にある山田商店で購入したものを出してくれたりする。私も、お金は少し持って来たのであとで、買い物にでも行くかな。
「ばぁちゃん、食べたら畑に行くの?」
「そうだね。あとで見に行くよ。香澄ちゃんも来るかい?」
「うん。草取りやるんでしょ?少し手伝うよ。その後、山田商店に行って来ていい?必要なものあるなら買って来るよ。」
「あら。ありがとうね。じゃああとで調味料を見てみるね。」
ばぁちゃんの畑は広い。山の斜面にあったり、家からすぐ目の前の広場にあったり。少し下に下った所には田んぼもあった。
「ばぁちゃん、斜面の方見てこよっか?」
「ありがとうね。香澄ちゃんが前来た時と変わってるかもしれないから、ばぁちゃんも行くよ。この前猪が出てね。網を張り替えた所なんだ。」
「そ、そうなんだ…」
猪かぁ。突進して来られたらヤバいよね。
「もし出て来たら、入り口に枝が置いてあるから、それ振り回したら逃げて行くさね。」
「ばぁちゃん危ないよ。気をつけないと。」
「そうねぇ。まだやられた事はないよ。」
逞しいな…でもそうじゃなきゃ、山では暮らしていけないか。
斜面の畑は、お茶の葉と、もう少し上には果樹園がある。ネットで囲って、猪や鹿などが入って来ないようにしているみたい。入り口は、木の扉を付けて入りやすくしてあった。
「これ、じぃちゃんとばぁちゃんで作ったの?」
「いいや、役場の人と、若い有志の人達も手伝ってくれてね。とっても助かったよ。」
そうなんだ。じぃちゃんとばぁちゃんだけじゃぁ、広いし大変だよね。
ネットは、壊れた箇所は特に無かったので、中に入って雑草を抜いて、ついでに食べる分をもぎ取って一旦家に帰った。
休憩に自家製のお茶を飲む。さっぱりしてとても美味しい日本茶だ。摘んできた葉は、一度乾かさないといけないので、隣の建物の倉庫に持って行く。
「香澄ちゃん、そろそろ山田商店開く時間だよ。どうする?」
「んー、せっかくだし行ってこようかな。買って来るものある?」
「そうだねぇ。醤油をお願いしようかな。」
「分かった!じゃあ行ってきまーす!」
「気をつけてね。」
ここから山田商店までは、舗装されていない土の道。両脇は草が足首程の背丈に生えている道をまっすぐ下って行く。車があれば乗って行ける広い道ではあるけど、父さんが乗って帰ってしまったので私は歩いて行く。
今の季節はちょうど梅雨明けしたあとなので、長く歩くと汗ばんでくる。だから帽子はつばのあるものをしっかり被って、日傘も差して行く。
あぁやっと見えてきた。帰りは道が上りなので億劫になりそうだが、昔からそうなので頑張って帰るしかない。あまり買いすぎないようにしないと。
と、山田商店の店先でおじさんが何か作業をしていた。
「おじさーん!」
「お?」
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