41 / 41
41. 番外編 花に願いを込めて
しおりを挟む
「お母さま、見てみて-!」
「みて-!」
四歳になるアンスガルと二歳のエルランドが、クッションで座り易くなった四阿のイスにゆったりと座っているスティーナに声を上げながら庭園を走って来る。
二人共活発な男の子で、この王族専用の庭園をいつも走り回っている。アンスガルは毎日変わる庭園の景色を見て回るのが好きなようで、そのアンスガルの後を常に付いて行っては置いてかれ泣いているエルランドであった。
そんな二人は、母となるスティーナにいつも戦利品を見せるのが日課となっていた。
「あら、今日は何を見つけたの?」
「これです!花です!白くてきれいでしょ?」
「でしょー?」
「ウフフ。そうね。これはスイレンの花ね。」
(清らかな心という力を持つスイレンの花…アンスガルとエルランドの心みたいだわ。)
「大好きなお母さまにさしあげます!」
「あげまふ!」
「えーいいの?嬉しいわ!」
「良かったぁ。
前、お母さまお腹むかむかするって言ってたから。」
「いたいのとんでけー!」
「まぁ…!」
「ぼく、花祈りは出来ないけど、元気になってほしくて。」
「ボクもー!」
「ありがとう、二人とも。
花祈りは、そうね。でも、アンスガルにもエルランドにもできるのよ、相手に想いを伝える事だったらね。」
「おもい?」
「おーい?」
「相手の事を思って、相手が喜んでくれるかなって考える事は誰にだって出来るものね。それはとても素晴らしい事よ!相手を想い、敬う事は必要だわ。
私も今、とても温かい気持ちになったの。二人とも、偉いわね!」
「えへへー!」
「へへー!」
大好きな母にそのように褒められ、頭を撫でられたアンスガルは頬をポリポリと掻きながら笑い、エルランドはくしゃりと顔の皺を寄せて笑った。
「楽しそうだね。俺も仲間に入れてもらおうかな。」
「あ、お父さま!」
「おとうたまー!」
ヴァルナルもやって来て、スティーナの横に立つと、アンスガルとエルランドはヴァルナルの足元にしがみついた。
「お父さま!お母さま大丈夫ですか?」
「しゅかー?」
「ん?…あぁ、この前食事が食べられなくて気持ちが悪いって言っていたやつかな?」
そう言ったヴァルナルは、子供達に目線を合わせるようにその場に膝を曲げ、しゃがみ込み、スティーナをチラリと見遣る。すると、スティーナは微笑みながらうんと頷いたので、ヴァルナルもまた微笑みを返して子供達の目を見ながら話し出した。
「スティーナのお腹の中には、赤ちゃんがいるんだよ。」
そう言ってヴァルナルは、スティーナのお腹を優しくゆっくりと撫でる。
「え!?赤ちゃん?」
「あかかん?」
「はは!そうだ。アンスガルもエルランドもいた、スティーナのお腹の中だよ。覚えていないだろうが、そこで育ち、外に出てきたんだよ。」
「お母さまの…お腹の……」
「?」
「だからね、もう少し先にあるマルメの祭りにはスティーナは行けないんだ。移動すると、体に負担がかかるかもしれないからね。」
「えー!行けないの!?」
「えー!」
「アンスガルとエルランドは行けるよ。俺も、今年は行けないけれど、その代わりマルメの屋敷は賑やかだぞ?
ドグラスじいさんと、レーニばあさんが来てくれる。それから、イロナばあさんもね。」
「本当!?やったー!」
「やったー!」
「都合が合えば、イリニヤおばさんも来るぞ!」
「え、本当!?やったー!」
「やったー!」
そう言って、アンスガルもエルランドも、歓びながらまた、庭を駆け回り出した。
「ヴァルナルったら…!っえ?イリニヤ様も?」
「あぁ。マルメには多分忍んでくるだろうが、家族で来るからな、仰々しくなりそうだ。祭りが終わってから宮殿にも少し顔を出すと言っていたよ。スティーナに会いたいと駄々をこねたらしいぞ。バート王子が嘆いていた。」
「まぁ…!」
「イリニヤを一人にはさせないからと、何だかんだ言ってバート王子も共に来るからまぁ、あいつも愛されているんだな。
でも、スティーナには負担にならないようにするから。…今、辛い時期なんだろう?」
「ええ…ごめんなさい。」
「謝る事はないよ、スティーナにとったら大変だろうけどね。俺にとったら、愛するスティーナとの子供だから、スティーナもお腹の子もどちらも大切にしたい。スティーナが辛い事はさせないから安心してくれ。イリニヤがうるさければ、近寄らせないから。」
「まぁ!フフフ、いい気分転換になると思うわ。イリニヤ様、久し振りだわ!」
「そうだね。一年振りか?あそこも、子供達を連れてくるだろうから賑やかだぞきっと。」
ヴァルナルは立ち上がり、スティーナの隣へとイスをくっつけるようにして移動させ、腰を下ろした。
「スティーナ、無理していない?大丈夫?」
そう言ったヴァルナルは、お腹に手をあてていたスティーナの手を優しく握った。
「大丈夫よ、お医者様に診て貰ったもの。それに、イリニヤ様が教えて下さった果実水や、緑色の茶葉のものなら飲めるようになったし。」
「そうか。良かった…あの時は顔色が真っ青だったから、心配したよ。」
「もう!初めてじゃないでしょ?」
「そうだけど…やはり妊娠は経験ないから、勝手が分からないよ。」
「ありがとう、ヴァルナル。心配してくれて。」
スティーナはもう片方の手で、ヴァルナルの手に触れる。
「だってさ、スティーナが居なくなったら俺……」
「もう!そんな事言って!」
子供達の前では、強く優しい父親ではあったが、二人きりになるとそのように昔と変わらず、弱音を吐き甘えてくるヴァルナルは、愛おしいと思うスティーナ。そして、そんなヴァルナルの手を撫でる。
「お母さま-!またおばあさまの家へ行ってもいいー?」
「いいー?」
そう言って、駆け戻ってきたアンスガルとエルランドに、スティーナは、ヴァルナルの手を未だ撫でながら返事を返す。
「リンネアおばあさまのところ!モンスおじいさまも言ってた!また遊びに来ていいって。」
「いいって!」
「あぁ…そういえば寒くなってからは行ってなかったな。」
ヴァルナルが、二人へそう答えた。
「はい!また釣りを教えてもらうんです!」
「です!」
「だめだよ、エルランドはまた留守番だよ。」
「えーやだ!」
「リンネアおばあさまが淋しがるだろ?」
「でも行きたい!」
「分かった分かった!喧嘩をしないという約束が守れるのなら、聞いてみよう。俺もスティーナも行けないけれど、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、ぼくもう四歳だもん!」
「二しゃいだもん!」
「だ、そうだ。スティーナ、いいかい?」
「そうね。もう全然普通だったものね。楽しんでくるのよ?ちゃんということは聞く事。いい?」
「分かってるよ!な、エルランド!
それで、赤ちゃんができたって伝えるんだ!」
「うん!やったー!つたえるー!」
「あ、待てよ、エルランド-!」
エルランドとアンスガルはまた、庭を駆け回り出す。
スティーナは、それを見て手をあてていたお腹に、心の中で優しく語り掛ける。
(まだ見ぬ私とヴァルナルの赤ちゃん!元気なお兄ちゃん達が駆け回ってるのよ、見える?あなたの事を、きっと待ちわびているわ。
お父さんも、お腹を触ってくれているわよ。あなたを待っているの。もちろん、私もよ!)
スティーナは、ヴァルナルの手を片方の手で触れながら、もう片方の手でお腹を撫でて、穏やかな日々が続く今がとても幸せだと微笑みを浮かべた。
☆★
これで終わりです。
書いているとずいぶんと長い話となってしまいましたが、ここまで読んで下さいましてありがとうございました!
しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録してくれた方本当にありがとうございました。とっても励みになりました!!
「みて-!」
四歳になるアンスガルと二歳のエルランドが、クッションで座り易くなった四阿のイスにゆったりと座っているスティーナに声を上げながら庭園を走って来る。
二人共活発な男の子で、この王族専用の庭園をいつも走り回っている。アンスガルは毎日変わる庭園の景色を見て回るのが好きなようで、そのアンスガルの後を常に付いて行っては置いてかれ泣いているエルランドであった。
そんな二人は、母となるスティーナにいつも戦利品を見せるのが日課となっていた。
「あら、今日は何を見つけたの?」
「これです!花です!白くてきれいでしょ?」
「でしょー?」
「ウフフ。そうね。これはスイレンの花ね。」
(清らかな心という力を持つスイレンの花…アンスガルとエルランドの心みたいだわ。)
「大好きなお母さまにさしあげます!」
「あげまふ!」
「えーいいの?嬉しいわ!」
「良かったぁ。
前、お母さまお腹むかむかするって言ってたから。」
「いたいのとんでけー!」
「まぁ…!」
「ぼく、花祈りは出来ないけど、元気になってほしくて。」
「ボクもー!」
「ありがとう、二人とも。
花祈りは、そうね。でも、アンスガルにもエルランドにもできるのよ、相手に想いを伝える事だったらね。」
「おもい?」
「おーい?」
「相手の事を思って、相手が喜んでくれるかなって考える事は誰にだって出来るものね。それはとても素晴らしい事よ!相手を想い、敬う事は必要だわ。
私も今、とても温かい気持ちになったの。二人とも、偉いわね!」
「えへへー!」
「へへー!」
大好きな母にそのように褒められ、頭を撫でられたアンスガルは頬をポリポリと掻きながら笑い、エルランドはくしゃりと顔の皺を寄せて笑った。
「楽しそうだね。俺も仲間に入れてもらおうかな。」
「あ、お父さま!」
「おとうたまー!」
ヴァルナルもやって来て、スティーナの横に立つと、アンスガルとエルランドはヴァルナルの足元にしがみついた。
「お父さま!お母さま大丈夫ですか?」
「しゅかー?」
「ん?…あぁ、この前食事が食べられなくて気持ちが悪いって言っていたやつかな?」
そう言ったヴァルナルは、子供達に目線を合わせるようにその場に膝を曲げ、しゃがみ込み、スティーナをチラリと見遣る。すると、スティーナは微笑みながらうんと頷いたので、ヴァルナルもまた微笑みを返して子供達の目を見ながら話し出した。
「スティーナのお腹の中には、赤ちゃんがいるんだよ。」
そう言ってヴァルナルは、スティーナのお腹を優しくゆっくりと撫でる。
「え!?赤ちゃん?」
「あかかん?」
「はは!そうだ。アンスガルもエルランドもいた、スティーナのお腹の中だよ。覚えていないだろうが、そこで育ち、外に出てきたんだよ。」
「お母さまの…お腹の……」
「?」
「だからね、もう少し先にあるマルメの祭りにはスティーナは行けないんだ。移動すると、体に負担がかかるかもしれないからね。」
「えー!行けないの!?」
「えー!」
「アンスガルとエルランドは行けるよ。俺も、今年は行けないけれど、その代わりマルメの屋敷は賑やかだぞ?
ドグラスじいさんと、レーニばあさんが来てくれる。それから、イロナばあさんもね。」
「本当!?やったー!」
「やったー!」
「都合が合えば、イリニヤおばさんも来るぞ!」
「え、本当!?やったー!」
「やったー!」
そう言って、アンスガルもエルランドも、歓びながらまた、庭を駆け回り出した。
「ヴァルナルったら…!っえ?イリニヤ様も?」
「あぁ。マルメには多分忍んでくるだろうが、家族で来るからな、仰々しくなりそうだ。祭りが終わってから宮殿にも少し顔を出すと言っていたよ。スティーナに会いたいと駄々をこねたらしいぞ。バート王子が嘆いていた。」
「まぁ…!」
「イリニヤを一人にはさせないからと、何だかんだ言ってバート王子も共に来るからまぁ、あいつも愛されているんだな。
でも、スティーナには負担にならないようにするから。…今、辛い時期なんだろう?」
「ええ…ごめんなさい。」
「謝る事はないよ、スティーナにとったら大変だろうけどね。俺にとったら、愛するスティーナとの子供だから、スティーナもお腹の子もどちらも大切にしたい。スティーナが辛い事はさせないから安心してくれ。イリニヤがうるさければ、近寄らせないから。」
「まぁ!フフフ、いい気分転換になると思うわ。イリニヤ様、久し振りだわ!」
「そうだね。一年振りか?あそこも、子供達を連れてくるだろうから賑やかだぞきっと。」
ヴァルナルは立ち上がり、スティーナの隣へとイスをくっつけるようにして移動させ、腰を下ろした。
「スティーナ、無理していない?大丈夫?」
そう言ったヴァルナルは、お腹に手をあてていたスティーナの手を優しく握った。
「大丈夫よ、お医者様に診て貰ったもの。それに、イリニヤ様が教えて下さった果実水や、緑色の茶葉のものなら飲めるようになったし。」
「そうか。良かった…あの時は顔色が真っ青だったから、心配したよ。」
「もう!初めてじゃないでしょ?」
「そうだけど…やはり妊娠は経験ないから、勝手が分からないよ。」
「ありがとう、ヴァルナル。心配してくれて。」
スティーナはもう片方の手で、ヴァルナルの手に触れる。
「だってさ、スティーナが居なくなったら俺……」
「もう!そんな事言って!」
子供達の前では、強く優しい父親ではあったが、二人きりになるとそのように昔と変わらず、弱音を吐き甘えてくるヴァルナルは、愛おしいと思うスティーナ。そして、そんなヴァルナルの手を撫でる。
「お母さま-!またおばあさまの家へ行ってもいいー?」
「いいー?」
そう言って、駆け戻ってきたアンスガルとエルランドに、スティーナは、ヴァルナルの手を未だ撫でながら返事を返す。
「リンネアおばあさまのところ!モンスおじいさまも言ってた!また遊びに来ていいって。」
「いいって!」
「あぁ…そういえば寒くなってからは行ってなかったな。」
ヴァルナルが、二人へそう答えた。
「はい!また釣りを教えてもらうんです!」
「です!」
「だめだよ、エルランドはまた留守番だよ。」
「えーやだ!」
「リンネアおばあさまが淋しがるだろ?」
「でも行きたい!」
「分かった分かった!喧嘩をしないという約束が守れるのなら、聞いてみよう。俺もスティーナも行けないけれど、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、ぼくもう四歳だもん!」
「二しゃいだもん!」
「だ、そうだ。スティーナ、いいかい?」
「そうね。もう全然普通だったものね。楽しんでくるのよ?ちゃんということは聞く事。いい?」
「分かってるよ!な、エルランド!
それで、赤ちゃんができたって伝えるんだ!」
「うん!やったー!つたえるー!」
「あ、待てよ、エルランド-!」
エルランドとアンスガルはまた、庭を駆け回り出す。
スティーナは、それを見て手をあてていたお腹に、心の中で優しく語り掛ける。
(まだ見ぬ私とヴァルナルの赤ちゃん!元気なお兄ちゃん達が駆け回ってるのよ、見える?あなたの事を、きっと待ちわびているわ。
お父さんも、お腹を触ってくれているわよ。あなたを待っているの。もちろん、私もよ!)
スティーナは、ヴァルナルの手を片方の手で触れながら、もう片方の手でお腹を撫でて、穏やかな日々が続く今がとても幸せだと微笑みを浮かべた。
☆★
これで終わりです。
書いているとずいぶんと長い話となってしまいましたが、ここまで読んで下さいましてありがとうございました!
しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録してくれた方本当にありがとうございました。とっても励みになりました!!
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
240
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる