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26. スティーナとヴァルナルの成人の儀
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スティーナは十八歳となった。
今日は、午前中に第二王子ヴァルナルの成人の儀と、合わせてスティーナの成人の儀が兼ねて宮廷で行われる。
そして午後からは王太子任命式があるのだ。スティーナも、花祈りとして参加をする。
第二王子であるヴァルナルが成人をした事で、どちらが王太子となるかを正式に発表するのだ。そして、すぐに王太子としての仕事が出来るよう、就任式も合わせて行うのだ。その為、午後は異国の要人も参加をする。
スティーナは、昨日宮廷入りをしている。初めて宮廷に泊まり、終始ソワソワとしていたスティーナは、なかなか眠る事が出来なくて眠い目を擦りながら成人の儀の支度をしていた。
「スティーナ様。昨夜は眠れなかったのですね。でも儀式の最中にあくびをしたり眠ったりしてはいけませんからね。」
「分かっているわ、ヤーナ。
だって、緊張もするわよ、こんな広い豪華な部屋を使っていいと言われて、フッカフカなベッドだったし、今日からの事を考えたら目が冴えてしまったのよ。」
スティーナは、昨日まではイロナの屋敷に滞在していた。その屋敷の部屋も、さすが御三家が所有している事もありスティーナの実家と劣る事もなくフカフカなベッドであり、部屋も調度品は豪勢であったがやはり宮廷は一味も二味も違っていた。
成人の儀式を終えるとスティーナは、国民の皆へとお披露目され、今日からここ宮廷で生活を送る事となる。
「フフフ。そうでございますね、スティーナ様。あまり力を入れ過ぎず、生活していきましょうね。」
イロナとは、昨日屋敷でお別れをしている。スティーナにとって第二の母のような、祖母のような温かい温もりをいつも注いでくれていた。しかし、今日この日をもって独り立ちするという事で、イロナはこれからは本当の意味で余生をゆっくり過ごす事となる。
「何かあったらすぐにおいで。私はここにいるからね。でも、周りをよく見て、頼れる人には頼っていいのよ。
可愛い私の孫よ、スティーナに幸あれ!」
そういってくれ、イロナはミセバヤの祈りをたっぷりと込めた花をくれた。スティーナへと花を贈ってくれたのはこれが初めてであった。大切なあなた、という祈りが込められた花は、イロナのこれまでの優しく温かい気持ちがそのまま形となったようで、スティーナは涙を零した。
「いやだわ、湿っぽくしないの!これで会えなくなるわけではないんだからね、元気でいるのよ。」
「はい…はい!イロナ様もお元気で。」
ーーー
ーー
ー
今までとは違う環境にかなり緊張をしていたが、これも成人したからなのだとスティーナは、自身の成人の儀式をする会場へと向かった。
☆★
会場は、二年前にラーシュが成人の儀を行ったのと同じ大広間である。
前回スティーナは参列席に座っていたが、今回は、廊下で待機する。
すでに、会場には人々が集まっているようで扉は閉まっている。
スティーナがそちらへ向かうと、ヴァルナルが黒色の服に金の縁取りをされた服を着て同じく廊下で傍にいる人と話をしていた。
手紙では、何度も味気ない日々のやりとりを送り合っていた。
けれどもヴァルナルが軍学校へ入学した日から会ってはおらず、とても久し振りに近くで見たヴァルナルは以前とは全く違い、背もスティーナより頭二つ分以上も高くなっていて大人の男だと感じた。
(二年前、ラーシュ様の成人の儀で王族の席で座っているのを見た時は、遠目だったしあまりそんなこと思わなかったのに。なんだか遠い人になってしまったみたいだわ。)
近寄り難いような、全く知らない人のようなそんな雰囲気さえ醸し出していたヴァルナルであったが、スティーナが来た事に気づくと、スティーナへと体を向けて話し掛けた。
「やぁスティーナ。すっかり綺麗になったよね。二年前も見掛けて、思ってはいたけれどさらに見違えたよ。」
「ヴァルナル…様も、素敵です。」
ここは公の場であると思い直し、スティーナはそう無難に返答をした。話した雰囲気は、六年前のあの日から少しも変わっていなかった。だからスティーナは少しホッとしたと同時に、ヴァルナルってこんなに滑らかにお世辞が言えたかしらと、顔を赤くした。
「やだな、スティーナの立場であれば、様なんて付けなくてもいいのに。
今日は合同の成人の儀でごめん。スティーナ、後日俺からお祝いをさせてくれる?」
「え?え、ええ…。」
「よかった!
スティーナ、緊張してる?なんだか余所余所しく感じてしまったからさ。大丈夫だよ、無事に終わるよ。
あ、そろそろか。」
そう言ったヴァルナルは、前を向くと別人のように背筋を伸ばし、扉が開くのを待った。
すぐに扉は開き、まずはヴァルナルが広間へと入って行く。
以前のラーシュと同じように花冠をドグラスから授かり、呆気なく成人の儀が終わる。
続いて花祈りのスティーナの入場、と声が響きわたり、スティーナは前を向いて真っ直ぐドグラスがいる場所へと歩いていく。横には、貴族達の席が左右に広がっていて、スティーナはどう見られているのか押しつぶされるような感覚を覚えたが、前を向く事で視界にはドグラスが映り、そしてその階段の下にはヴァルナルもいた為に少しだけ周りの空気が軽くなったように感じた。
「スティーナ、これからもこのウプサラの為に頑張ってくれたまえ。」
「はい。勿体ないお言葉、傷み入ります。」
ドグラスの前に辿り着くと早速そう言われて花冠を被せてもらったスティーナは、隣に立っていたヴァルナルと共に、後ろにずらりと集まっている貴族席の方へと振り返り視線を向けた。
「今日はお集まり下さり、感謝いたします。これから私達は、成人として皆様と共にウプサラを盛り上げていきたいと思います。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」
ヴァルナルが言い、スティーナもゆっくりと頭を下げると盛大な拍手が湧き起こった。
(終わったわ…。でも、ここから私は花祈りとして正式に始まっていくのね。)
スティーナは成人となった為、花祈りはここから世代交代となるのだ。
充分な時間が過ぎ、拍手も疎らになり始めたのでスティーナとヴァルナルが頭を上げたその時。
「これで、王太子が決められるな!」
そう言った声が階段の上にある王族席から聞こえた。ラーシュが声を上げたのだ。そんなに張り上げる程の大きな声ではなかったが、なぜだかよく通って聞こえる。
「オホン!
では、ヴァルナル様、スティーナ様。ご退場願います。今一度、盛大な拍手でお見送り下さい。」
そう進行役であるヨーランが言った為にヴァルナルとスティーナは進み出した。
「あれ?王太子発表は今じゃないのか?」
と、後ろから再び声がして、スティーナは気になったが構わず入り口の扉の方へと向かったのでその後の出来事は知らない。
だが王族席では、隣のイリニヤが慌ててラーシュの足を蹴っていた。
「痛!なんだよ、イリニヤ。お前は本当にお転婆だな。」
「ラーシュ兄さま、まだお口は開かないのですわ!」
ラーシュの声に対し、小さな声で咎めたイリニヤだったが、ラーシュはどこ吹く風で、バカにするような顔さえしてイリニヤに言った。
「はぁ?だってもう終わっただろう?終わったら口を開いていいって言ったじゃないか。」
「もう、お母さまも何とか言って!」
「…ラーシュ、皆が居なくなるまでは口を開かないのですよ。」
「えー?そんな事言われてないんだけど…分かった分かった!」
そう言った声は、前の方にいる人達には丸聞こえであった為に俯き笑いを耐えている人もいた。だが、ドグラスに気づかれると反逆罪にも問われ兼ねない為にすぐに真顔に戻ると、顔を上げ何食わぬ顔で拍手をしている貴族もいた。
こうして、どうにか成人の儀は終わったのだった。
今日は、午前中に第二王子ヴァルナルの成人の儀と、合わせてスティーナの成人の儀が兼ねて宮廷で行われる。
そして午後からは王太子任命式があるのだ。スティーナも、花祈りとして参加をする。
第二王子であるヴァルナルが成人をした事で、どちらが王太子となるかを正式に発表するのだ。そして、すぐに王太子としての仕事が出来るよう、就任式も合わせて行うのだ。その為、午後は異国の要人も参加をする。
スティーナは、昨日宮廷入りをしている。初めて宮廷に泊まり、終始ソワソワとしていたスティーナは、なかなか眠る事が出来なくて眠い目を擦りながら成人の儀の支度をしていた。
「スティーナ様。昨夜は眠れなかったのですね。でも儀式の最中にあくびをしたり眠ったりしてはいけませんからね。」
「分かっているわ、ヤーナ。
だって、緊張もするわよ、こんな広い豪華な部屋を使っていいと言われて、フッカフカなベッドだったし、今日からの事を考えたら目が冴えてしまったのよ。」
スティーナは、昨日まではイロナの屋敷に滞在していた。その屋敷の部屋も、さすが御三家が所有している事もありスティーナの実家と劣る事もなくフカフカなベッドであり、部屋も調度品は豪勢であったがやはり宮廷は一味も二味も違っていた。
成人の儀式を終えるとスティーナは、国民の皆へとお披露目され、今日からここ宮廷で生活を送る事となる。
「フフフ。そうでございますね、スティーナ様。あまり力を入れ過ぎず、生活していきましょうね。」
イロナとは、昨日屋敷でお別れをしている。スティーナにとって第二の母のような、祖母のような温かい温もりをいつも注いでくれていた。しかし、今日この日をもって独り立ちするという事で、イロナはこれからは本当の意味で余生をゆっくり過ごす事となる。
「何かあったらすぐにおいで。私はここにいるからね。でも、周りをよく見て、頼れる人には頼っていいのよ。
可愛い私の孫よ、スティーナに幸あれ!」
そういってくれ、イロナはミセバヤの祈りをたっぷりと込めた花をくれた。スティーナへと花を贈ってくれたのはこれが初めてであった。大切なあなた、という祈りが込められた花は、イロナのこれまでの優しく温かい気持ちがそのまま形となったようで、スティーナは涙を零した。
「いやだわ、湿っぽくしないの!これで会えなくなるわけではないんだからね、元気でいるのよ。」
「はい…はい!イロナ様もお元気で。」
ーーー
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今までとは違う環境にかなり緊張をしていたが、これも成人したからなのだとスティーナは、自身の成人の儀式をする会場へと向かった。
☆★
会場は、二年前にラーシュが成人の儀を行ったのと同じ大広間である。
前回スティーナは参列席に座っていたが、今回は、廊下で待機する。
すでに、会場には人々が集まっているようで扉は閉まっている。
スティーナがそちらへ向かうと、ヴァルナルが黒色の服に金の縁取りをされた服を着て同じく廊下で傍にいる人と話をしていた。
手紙では、何度も味気ない日々のやりとりを送り合っていた。
けれどもヴァルナルが軍学校へ入学した日から会ってはおらず、とても久し振りに近くで見たヴァルナルは以前とは全く違い、背もスティーナより頭二つ分以上も高くなっていて大人の男だと感じた。
(二年前、ラーシュ様の成人の儀で王族の席で座っているのを見た時は、遠目だったしあまりそんなこと思わなかったのに。なんだか遠い人になってしまったみたいだわ。)
近寄り難いような、全く知らない人のようなそんな雰囲気さえ醸し出していたヴァルナルであったが、スティーナが来た事に気づくと、スティーナへと体を向けて話し掛けた。
「やぁスティーナ。すっかり綺麗になったよね。二年前も見掛けて、思ってはいたけれどさらに見違えたよ。」
「ヴァルナル…様も、素敵です。」
ここは公の場であると思い直し、スティーナはそう無難に返答をした。話した雰囲気は、六年前のあの日から少しも変わっていなかった。だからスティーナは少しホッとしたと同時に、ヴァルナルってこんなに滑らかにお世辞が言えたかしらと、顔を赤くした。
「やだな、スティーナの立場であれば、様なんて付けなくてもいいのに。
今日は合同の成人の儀でごめん。スティーナ、後日俺からお祝いをさせてくれる?」
「え?え、ええ…。」
「よかった!
スティーナ、緊張してる?なんだか余所余所しく感じてしまったからさ。大丈夫だよ、無事に終わるよ。
あ、そろそろか。」
そう言ったヴァルナルは、前を向くと別人のように背筋を伸ばし、扉が開くのを待った。
すぐに扉は開き、まずはヴァルナルが広間へと入って行く。
以前のラーシュと同じように花冠をドグラスから授かり、呆気なく成人の儀が終わる。
続いて花祈りのスティーナの入場、と声が響きわたり、スティーナは前を向いて真っ直ぐドグラスがいる場所へと歩いていく。横には、貴族達の席が左右に広がっていて、スティーナはどう見られているのか押しつぶされるような感覚を覚えたが、前を向く事で視界にはドグラスが映り、そしてその階段の下にはヴァルナルもいた為に少しだけ周りの空気が軽くなったように感じた。
「スティーナ、これからもこのウプサラの為に頑張ってくれたまえ。」
「はい。勿体ないお言葉、傷み入ります。」
ドグラスの前に辿り着くと早速そう言われて花冠を被せてもらったスティーナは、隣に立っていたヴァルナルと共に、後ろにずらりと集まっている貴族席の方へと振り返り視線を向けた。
「今日はお集まり下さり、感謝いたします。これから私達は、成人として皆様と共にウプサラを盛り上げていきたいと思います。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」
ヴァルナルが言い、スティーナもゆっくりと頭を下げると盛大な拍手が湧き起こった。
(終わったわ…。でも、ここから私は花祈りとして正式に始まっていくのね。)
スティーナは成人となった為、花祈りはここから世代交代となるのだ。
充分な時間が過ぎ、拍手も疎らになり始めたのでスティーナとヴァルナルが頭を上げたその時。
「これで、王太子が決められるな!」
そう言った声が階段の上にある王族席から聞こえた。ラーシュが声を上げたのだ。そんなに張り上げる程の大きな声ではなかったが、なぜだかよく通って聞こえる。
「オホン!
では、ヴァルナル様、スティーナ様。ご退場願います。今一度、盛大な拍手でお見送り下さい。」
そう進行役であるヨーランが言った為にヴァルナルとスティーナは進み出した。
「あれ?王太子発表は今じゃないのか?」
と、後ろから再び声がして、スティーナは気になったが構わず入り口の扉の方へと向かったのでその後の出来事は知らない。
だが王族席では、隣のイリニヤが慌ててラーシュの足を蹴っていた。
「痛!なんだよ、イリニヤ。お前は本当にお転婆だな。」
「ラーシュ兄さま、まだお口は開かないのですわ!」
ラーシュの声に対し、小さな声で咎めたイリニヤだったが、ラーシュはどこ吹く風で、バカにするような顔さえしてイリニヤに言った。
「はぁ?だってもう終わっただろう?終わったら口を開いていいって言ったじゃないか。」
「もう、お母さまも何とか言って!」
「…ラーシュ、皆が居なくなるまでは口を開かないのですよ。」
「えー?そんな事言われてないんだけど…分かった分かった!」
そう言った声は、前の方にいる人達には丸聞こえであった為に俯き笑いを耐えている人もいた。だが、ドグラスに気づかれると反逆罪にも問われ兼ねない為にすぐに真顔に戻ると、顔を上げ何食わぬ顔で拍手をしている貴族もいた。
こうして、どうにか成人の儀は終わったのだった。
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