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13 ルーラントとのひととき
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「体調は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。せーの!」
♪~♪~♪♪~
ルーラントとルジェナは、屋敷の庭でゆったりとした音楽を奏で始めた。
もう、いつ生まれてもおかしくないと言われたルジェナのお腹は、一ヶ月前よりもさらに突き出ている。歩く時に前が見えずらく、いつもに増して傍にいられる時にはルーラントはルジェナの近くを離れないでいた。
そして、今日。
赤ちゃんが生まれたらしばらく時間が無くなるかもとルジェナがルーラントに頼み、二人で演奏する事になったのだ。
それを言われた時、ルーラントは心配だからと一度断ったのだが、一気に悲しい表情に変わってしまったルジェナの頼みを断り切れるはずもなく、無理をしないという条件で了承したのだ。
ルジェナは、自分が興味を持ったものがこんなに続くとは正直、自分自身思っていなかった。しかし愛する人と共に音を奏でるという事も楽しいと覚えた今、飽きる事もなく気が向いた時に演奏していた。
ルーラントがバイオリン、ルジェナが横笛を奏でる。
ルジェナは、ルーラントと初めて会った時に聴いた音よりも更に柔らかで、それでいてしっかりとしたバイオリンの音色に、改めて聞き惚れながらも横笛を吹いた。
屋敷で働く使用人達もこの時ばかりは手を止め、演奏に耳を傾けていた。
「ふう…!」
「大丈夫か?休憩しよう。」
演奏が終わると、ルーラントはルジェナを労るように手を貸して木陰にあるベンチへと促す。
「はぁ、疲れた!
でもやっぱりルーラントのバイオリン、素敵ね!一緒に演奏できて楽しかった!」
「そうか?それは良かった。
俺、最近はあまりバイオリンひいてないから、腕が鈍ってやしないかヒヤヒヤしたよ。」
「ルーラントは別格よ!
あーあ、ルーラントみたいな音を出したいのに、なかなかうまく出来ないのよね。」
「何を言ってる?あの日よりも格段と上達したじゃないか。」
「やだ!もう、昔の事は忘れて欲しいわ!あんな身の毛もよだつ音…」
「仕方ない。バイオリンは弾き方さえ分かれば心地良い音色になるが、そういうものだ。
それから比べたら、ルジェナの音色はずいぶんと優しくなったよ。」
「ルーラントがコツを教えてくれたもの。それからはどうにか聞ける音になったわ。」
「そうだな。」
「ねぇ、やっぱり似合ってる。」
「ん?」
「ルーラントが作ったのでしょう?そのバイオリン。ルーラントが持つと、似合うなって。」
「そうか?俺には小さいと思うけどな。
やっぱり、これはルジェナに似合うよ。」
ルーラントがバイオリンを手掛けたのは十年以上も前で、初めてのものであったから一般的な大人用を作ったわけではなく、それよりも少し小振りの、当時の自分に合うように作ったのだ。
それから月日は経ち、背丈も大きく肩幅もあるルーラントにはやや小さい。それでも器用に、それを悟らせないように弾けるのはルーラントが昔から楽器を嗜んでいたから。
「私、それ気に入ってるの。」
「そうか。」
そう言われ、ルーラントははにかむように微笑む。
「でも、もし興味が湧いたら、あげようかと思ってるの。」
そう言って、ルジェナは慈しむように大きくなったお腹を優しく撫でる。
「あげるって、その子にか?」
「ええ。大事にしてくれるならね。」
「…そうか。じゃあその時は今のルジェナにぴったりのバイオリンを贈ろう。」
「本当!?ルーラントが作ってくれるの?」
「え、俺!?うーん…最近は作ってないからなぁ。けど、ルジェナがそれでいいなら、俺が作るよ。」
「それでじゃなくて、ルーラントの作るバイオリンがいいわ!」
「そう?ありがとう。
…その横笛も、大事にしてくれてるもんな。」
「これ?当たり前よ!ルーラントがくれたのだもの。…もしかしてこれも作ったの?」
「あぁ、俺がね。
ま、練習用だったんだけど、それでもルジェナに何か繋がりが欲しくて、印象付けたくて渡したんだ。
…そんなに大切にしてくれるのなら、もっと丹精込めて作ったんだけどな。」
そう言って、ルーラントはルジェナの手を握り、優しく包み込む。
「ふふ…これも一緒懸命作ったんでしょ?とてもいい音が出るもの。」
「ま、職人の真似事とはいえ、ちゃんとした音が出ないと楽器として成り立たないからな。」
「ねぇ、赤ちゃんが産まれて、大きくなって、みんなで演奏出来るといいわね!」
「そうだな。そいつは楽しみだ!
…皆で演奏といえば、ダリミルもよく領民たちと一緒に演奏してるらしいな。楽器の注文が新たに入ったぞ。」
「そうなの?聴きたいわね!」
「あぁ、この子が生まれて落ち着いたら聴きに行くか。」
ルーラントは、ルジェナのお腹を見ながらそう言った。
ルジェナも、ルーラントの顔に視線を向け、微笑みながら頷く。
もうすぐ家族が増える二人は、そんな長閑な二人だけの一時を過ごしていた。
ルジェナは、お気楽な四女であったが家の為にいい結婚相手を見つけなければと動き出すが、無事に想いあう相手と夫婦となる事が出来、幸せな生活を手にする事が出来たのだった。
☆★
これで終わりです。読んで下さいまして本当にありがとうございました!
しおりを挟んでくれた方、お気に入りしてくれた方、感想をくれた方(非承認でと希望されていた方この場を借りてお礼を。いろいろとありがとうございます!)、ハートを付けてくれた方、動画視聴して下さった方も本当にありがとうございました!!
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♪~♪~♪♪~
ルーラントとルジェナは、屋敷の庭でゆったりとした音楽を奏で始めた。
もう、いつ生まれてもおかしくないと言われたルジェナのお腹は、一ヶ月前よりもさらに突き出ている。歩く時に前が見えずらく、いつもに増して傍にいられる時にはルーラントはルジェナの近くを離れないでいた。
そして、今日。
赤ちゃんが生まれたらしばらく時間が無くなるかもとルジェナがルーラントに頼み、二人で演奏する事になったのだ。
それを言われた時、ルーラントは心配だからと一度断ったのだが、一気に悲しい表情に変わってしまったルジェナの頼みを断り切れるはずもなく、無理をしないという条件で了承したのだ。
ルジェナは、自分が興味を持ったものがこんなに続くとは正直、自分自身思っていなかった。しかし愛する人と共に音を奏でるという事も楽しいと覚えた今、飽きる事もなく気が向いた時に演奏していた。
ルーラントがバイオリン、ルジェナが横笛を奏でる。
ルジェナは、ルーラントと初めて会った時に聴いた音よりも更に柔らかで、それでいてしっかりとしたバイオリンの音色に、改めて聞き惚れながらも横笛を吹いた。
屋敷で働く使用人達もこの時ばかりは手を止め、演奏に耳を傾けていた。
「ふう…!」
「大丈夫か?休憩しよう。」
演奏が終わると、ルーラントはルジェナを労るように手を貸して木陰にあるベンチへと促す。
「はぁ、疲れた!
でもやっぱりルーラントのバイオリン、素敵ね!一緒に演奏できて楽しかった!」
「そうか?それは良かった。
俺、最近はあまりバイオリンひいてないから、腕が鈍ってやしないかヒヤヒヤしたよ。」
「ルーラントは別格よ!
あーあ、ルーラントみたいな音を出したいのに、なかなかうまく出来ないのよね。」
「何を言ってる?あの日よりも格段と上達したじゃないか。」
「やだ!もう、昔の事は忘れて欲しいわ!あんな身の毛もよだつ音…」
「仕方ない。バイオリンは弾き方さえ分かれば心地良い音色になるが、そういうものだ。
それから比べたら、ルジェナの音色はずいぶんと優しくなったよ。」
「ルーラントがコツを教えてくれたもの。それからはどうにか聞ける音になったわ。」
「そうだな。」
「ねぇ、やっぱり似合ってる。」
「ん?」
「ルーラントが作ったのでしょう?そのバイオリン。ルーラントが持つと、似合うなって。」
「そうか?俺には小さいと思うけどな。
やっぱり、これはルジェナに似合うよ。」
ルーラントがバイオリンを手掛けたのは十年以上も前で、初めてのものであったから一般的な大人用を作ったわけではなく、それよりも少し小振りの、当時の自分に合うように作ったのだ。
それから月日は経ち、背丈も大きく肩幅もあるルーラントにはやや小さい。それでも器用に、それを悟らせないように弾けるのはルーラントが昔から楽器を嗜んでいたから。
「私、それ気に入ってるの。」
「そうか。」
そう言われ、ルーラントははにかむように微笑む。
「でも、もし興味が湧いたら、あげようかと思ってるの。」
そう言って、ルジェナは慈しむように大きくなったお腹を優しく撫でる。
「あげるって、その子にか?」
「ええ。大事にしてくれるならね。」
「…そうか。じゃあその時は今のルジェナにぴったりのバイオリンを贈ろう。」
「本当!?ルーラントが作ってくれるの?」
「え、俺!?うーん…最近は作ってないからなぁ。けど、ルジェナがそれでいいなら、俺が作るよ。」
「それでじゃなくて、ルーラントの作るバイオリンがいいわ!」
「そう?ありがとう。
…その横笛も、大事にしてくれてるもんな。」
「これ?当たり前よ!ルーラントがくれたのだもの。…もしかしてこれも作ったの?」
「あぁ、俺がね。
ま、練習用だったんだけど、それでもルジェナに何か繋がりが欲しくて、印象付けたくて渡したんだ。
…そんなに大切にしてくれるのなら、もっと丹精込めて作ったんだけどな。」
そう言って、ルーラントはルジェナの手を握り、優しく包み込む。
「ふふ…これも一緒懸命作ったんでしょ?とてもいい音が出るもの。」
「ま、職人の真似事とはいえ、ちゃんとした音が出ないと楽器として成り立たないからな。」
「ねぇ、赤ちゃんが産まれて、大きくなって、みんなで演奏出来るといいわね!」
「そうだな。そいつは楽しみだ!
…皆で演奏といえば、ダリミルもよく領民たちと一緒に演奏してるらしいな。楽器の注文が新たに入ったぞ。」
「そうなの?聴きたいわね!」
「あぁ、この子が生まれて落ち着いたら聴きに行くか。」
ルーラントは、ルジェナのお腹を見ながらそう言った。
ルジェナも、ルーラントの顔に視線を向け、微笑みながら頷く。
もうすぐ家族が増える二人は、そんな長閑な二人だけの一時を過ごしていた。
ルジェナは、お気楽な四女であったが家の為にいい結婚相手を見つけなければと動き出すが、無事に想いあう相手と夫婦となる事が出来、幸せな生活を手にする事が出来たのだった。
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それでも、たまに登場させたくなる場合もありますけれど(^^;)
いろいろ読み解って下さり、ありがたいです♪本当に嬉しいですo(*´︶`*)o
こちらこそお読み下さりありがとうございました(*´︶`*)
にゃあん様、感想などありがとうございます(≧ヮ≦)
はい、妄想膨らませてくださいませ♪将来は親族でオーケストラを結成するかもしれません!?
そう言ってくださいましてとても嬉しいです(●^ー^●)今はその後は考えていないのですが、もし出来ましたらまた読んで下さると幸いです(^^)