【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる

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「バーラ、二人を呼んできてちょうだい。」



 ここはチェラトナ国にある、カフリーク伯爵家。

 応接室から外に突き出ている、天井はガラスでつくられた、壁は膝ほどの高さの木で囲われたウッドデッキのようなテラス。
そこにある椅子に座っている、腰までの赤い髪を手で少し整えていた長女のアルビーナは、ちょうど部屋に入って来た二歳下の次女のバーラにそう声を掛けた。


「分かったわ、アルビーナお姉様!
 …全く、いつも人遣いが荒いわよねぇ。
 ビェラ、ルジェナ!
テラスに早く来なさいよー!」


 廊下へと再び体を向き直り、廊下に向かって声を張り上げたのは、濃い深緑の髪色をしたバーラ。年齢は九歳だ。


「ごめんなさい、バーラお姉様。いつの間にか時間が過ぎていましたのよぉ。」


 階段から、ゆっくりと下りながらそう口を開いたのは桃色の髪をしたビェラ。年齢は八歳。

 そしてその後ろから急ぎ足で下りて来て、ビェラを抜かしてバーラの前まで来たのは黄色の髪をしたルジェナだった。
 ルジェナは一番末の妹で淑女とはまだほど遠い六歳だ。


「ごめんなさい!楽器の手入れしていたら遅くなっちゃったわ!」

「はいはい。
 ルジェナ、そんなに走らないの!転んだら危ないわよ!顔に傷でもできたらどうするの?気をつけなさい!」


 バーラはルジェナに声を掛けると、ゆっくりと下りて来たビェラを待ってから共にテラスへと向かう。


 カフリーク伯爵家の四姉妹は皆とても仲が良く、年齢は離れているが普段から顔を見ればよく話をする。仲が良い故に言いたい事もお互いに言い合い、それでもやはり最後は笑顔でお互いの事を想いあうそれはもう理想の姉妹だ。
 長女のアルビーナがあと一年もすれば王立学院に通い始める為、最近は週に一度は四人で集まりお菓子やジュースをお共に時間を過ごしていた。


 ここチェラドナ国に住むほとんどの貴族や裕福な商人の家では、十二歳になる年齢から十六歳まで王立学院に通う。
 アルビーナの年齢は十一歳で、もうあと三カ月もすれば王都にある王立学院へ通う為に、このカフリーク領から出て、王立学院の寮に入るのだ。
王都にタウンハウスを持つ者はそこから通うが、カフリーク家はタウンハウスを持っていないし、このカフリーク領から王立学院までは距離がある為、そういう者の為に寮が備え付けられている。



「さ、揃ったわね?」


 アルビーナが、他の三人が椅子に座った所で、ぐるりと皆の顔を見渡してそう言うと、お茶会を始めましょうと言った。


「アルビーナお姉様、もうすぐ学院に通われるのね。
どう?準備は進んでいるの?」


 わくわくとした表情で、いつも始めに話し掛けるのはバーラ。


「ええ。制服の寸法取りも済んで、注文も終えているわ。」

「まぁ!アルビーナお姉様、制服なんてあるのですねぇ。素敵ですわぁ!」


 そう言って、両手を胸の前で組みどんな制服なのだろうと妄想をし始めるのはビェラだ。


「あら、ビェラ。もしかしたらあなたも通うかもしれなくてよ?」

「本当ですか!?そうなったら嬉しいですぅ!」

「そうは言ってもアルビーナお姉様、私達姉妹全員が学院に通うというのは出来るのかしら?
ダミリルも昨年生まれましたし。」


 六歳であるのに、しっかりと現実を見て話すのはルジェナだ。この中で誰よりも早く読み書きを覚え、すでに様々な書物から知識を得ているからなのだろう。
 ダミリルと言うのは一歳の弟で、今はまだ母アレンカや使用人達が世話をしている。まだ小さい為に、お茶会も呼ばれてはいなかった。


「まぁ、そうですわね。
けれども、私達の結婚が上手くいって相手の方とご縁が繋がれば領地も更にお金を得る事が出来るでしょうからそんなに悲観しなくても良いのよ?」

「結婚!!?」


 ビェラは、今度は結婚という言葉を聞き目を一層キラキラと輝かせて何やら次の妄想をし始めた。


「アルビーナお姉様、もう結婚の事を考えているのね!
 …確かに、私達がカフリーク家にとってと結婚すれば、カフリーク家の資産も増えて今よりも更に豊かになるでしょうからね。」


 バーラはアルビーナの言葉に、自分もそれに倣うのだと言い聞かせるように頷きながら言う。


「…結婚とは、そういうものなのですか?そんなに夢のないものなのでしょうか。」


 しかしその言葉に、ルジェナは訝しげに呟く。


「そういうものよ、私達貴族の結婚は特にね。家と家が親族となるのだもの、助け合う形になるわけでしょう?
 だから私は、学院でを見つけるわ。」


 アルビーナは、右手で持っていた扇子を左手にパチパチと当てながら話す。


「そんないいお相手が簡単に見つかればいいですけれどね、アルビーナお姉様!」


 バーラはそうはっぱをかける。と、今まで遠くを見て考え事をしていたビェラが、今の話を聞いていたのかいないのか、口を開いた。


「結婚って、夢のあるものよルジェナ!
 運命の赤い糸が引っ張り合うのだものね!」

「何言ってるのよ、ビェラ!
 あー、分かったわ!また妄想が始まってるのね?」


 ため息を吐いた後いつもの事かとバーラが言うと、アルビーナもクスリと笑いながら扇子を開くと口元へ持っていき、ビェラに微笑みかける。
夢見がちなビェラは最近、王子様とお姫様の物語や、歌劇を易しくわかりやすくした絵本に夢中なのだ。


「ビェラ、運命の赤い糸があると良いわね。
 …それが分かれば、楽なのだけれどねぇ。」


 会話が一段落すると、アルビーナは飲み物が入れられた透明なグラスを見つめる。そうすると、喉を潤す時間となるのだ。

 ここカフリーク家では、数種類のブドウを栽培している。
そしてこの茶会では大抵領地で採れたブドウジュースが出される。今日は透明なグラスに濃い紫色のブドウジュースが準備されていた。

 それぞれがグラスに口を付けた。


「ちょっと、今日のこれブドウジュースとっても酸っぱいんだけど!
これ、いつの!?ずいぶんと昔のなの!?」


 バーラが口に含むと素早く飲み込んですぐに顔に皺を思い切り寄せて声を張り上げる。


「どうかなされましたか!?」


 壁に控えていた侍女が一歩前に出て、反射的に声を上げる。


「だから!味が変よ?なんかこう…口が曲がるほど酸味があるわ!ずいぶんと昔のものなんじゃないの?」


 そう言われ、その侍女は周りの侍女と顔を見合わせると、いつもの事かと毅然とした態度で発する。


「いいえ。先日摘まれて加工されたばかりのものです。」

「これが!?」


 渋い顔をしたバーラは、グラスの中の覗いたり鼻を近づけて香りを嗅いだりしている。


「バーラ、言い方には気をつけて。
 そうね、確かに今までのとはちょっと深みがあって…大人の味かしら?
 これはこれで美味しいけれど。
…お父様とお母様にお伝えしておかないと。」

「ちょっとルジェナ!あんたなんかしたんじゃないの!?最近いっつも畑に行ってたんでしょ?」


 それに、いきなり言われたルジェナは驚き、グラスを置いて反論をする。


「ええ!?
 私、確かに行ってましたが、バイオリンの練習をしていただけです!」

「バイオリン?なんでまたそんな…」

「だって、バーラお姉様私が屋敷で練習すると爪研ぎのような音で体中がモゾモゾとして耳がちぎれそうだと言ったからですよ!
 外で練習すれば、迷惑がかからないでしょう?」

「ま、まぁ…そうだったわね。」


 バーラは思い出したのかばつが悪そうに言葉を濁す。


「バーラ、決めつけで口を開くのは良くないわ。
 ルジェナ、バーラの言う事をきちんと聞いて偉いわね。あれからまだバイオリンを続けてるのよね?どう?少しは何か弾けるようになった?」

「まだまだです…綺麗な音色がなかなか出なくて。」


 謙遜するわけでなく、なかなか思う音が出なくて心底悲しそうに言った。
 ルジェナは、好奇心旺盛で少し前まではまだ六歳であるのに屋敷の書庫にある本をそれこそ齧り付くように読んでいた。
 ただ少し飽きっぽいのか今は楽器に興味があり、先日楽師団の音楽を聞いた時にバイオリンの音色が酷く気に入り、父にバイオリンを買ってもらい今はバイオリンの練習をしている。


「そう。ルジェナの好奇心というか探求心には本当に感服するわ。でも、難しいのは確かだものね。それにルジェナはまだ六歳なのだもの。ゆっくり、頑張るのよ。
えっと…畑でなら大きな音を立ててもそんなに気にならないでしょうからそちらでね?」


 アルビーナも、ルジェナの音色を始めて聞いた時、何がどうしたのかと驚き皆が音がする部屋へと集まったのだ。
初心者のバイオリンの音色は、まだまだ耳を塞ぎたくなるような音。ルジェナが興奮した様子で一緒懸命に音を奏でようとする姿を見て皆ハッキリとは言えなかったが、バーラだけがうちには広大な土地があるのだから、畑で弾けばいいじゃないと言い放ったのだ。その言葉に、家族と使用人一同が助かったと思ったのは言うまでもない。

 ルジェナも、その方が解放的で気分も良く、また皆に迷惑を掛けてもいけないとバーラの声に従ったのだ。


「はい、頑張ります。」


 しかしルジェナも、なかなか想像していた音色を奏でる事が出来ずに苦戦していた。
講師を呼んで教えてもらう、という選択肢は父であるヘルベルトにバイオリンを買ってもらった時に一度断っているし、ルジェナも決められた時間に講師から指導を受けたい訳ではなかったのだ。自分の力で音を奏でてみたかった。だが、思ったより難しく、それでもいつか聴いたような音を奏でたいと二ヶ月ほど毎日畑に向かっている。


「それにしても、これ本当に苦いわ!
 今まであまり代わりばえもなくさっぱりとした飲み口で大好きだったのに!」

「そう?バーラお姉様、そんなに気になりますかぁ?」


 ビェラはいつの間にか妄想は終わったようで、ゴクゴクと美味しそうにグラスに入ったブドウジュースを飲んでいる。


「え、ビェラ普通に飲んでる…さすが鈍感なだけあるわ!
 ルジェナ、あなたはどう?飲める?苦いんじゃない?変えてもらいなさいよ。」


 バーラは思った事をすぐ口にする性格であるが、家族想いでもある。この中で一番年齢の低い妹にはまだ渋過ぎるのではないかと聞いた。


「まぁ、これはこれで…」


 ルジェナも、毎年飲んでいたブドウジュースとは違ってかなり味が濃いような気がしたが、さっぱりとしていた昨年までのジュースとは違う飲み物だと思えば飲める為、口に含み喉を潤した。


「ウフフ。
 じゃあバーラのは違う飲み物に変えてもらいましょう。」

「え?アルビーナお姉様、私だけ!?」

「口に合わないのは仕方ないわ。好みは人それぞれだもの。
 さ、気分を換えて違う話をしましょうか。」


 まだしばらく、姉妹の話は続くのだった。

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