【完結】トリマーだった私が異世界という別の場所で生きていく事になりました。

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
30 / 32

30. 二人の時間

しおりを挟む
 少し紅茶を飲んだ後、ウィンフォードがレナへ屋敷の者達を紹介し、部屋へと案内した。
タウンハウスとは言っても公爵家所有であるから部屋数が多く、この屋敷は庭が特に広かった。


 レナの宛がわれた部屋は客間で、落ち着いた雰囲気で王宮の部屋とは違ってこじんまりとしていたからレナはそれがとても気に入った。


 今は、レナの部屋のソファに座り、ウィンフォードと話している。

「俺の部屋の隣にしたかったんだけど、一応まだ夫婦ではないからダメだと言われたよ。でも、これで一緒の時間が取り易くなる。食事も、時間が取れる時は一緒にしよう。」

「まぁ!でも、一緒の時間が過ごせるのは嬉しいです。ウィンフォード様の事を知れますし。」

「あぁ、早く結婚したい!あ、伝え忘れる所だったよ、午後から両親がレナに会いたくてカントリーハウスに引き籠もってたくせに来るから。」

「え!」

(ご両親なんて!緊張する…大丈夫かな、反対されたりしないかな。あ、それに私が顔を見せに行かなくて良かったのかなぁ?)

「大丈夫だよ、俺が愛する人が出来たと言ったら、やっと結婚してくれる!って喜んでいて、いつになったら会わせてくれるとやきもきしてたし、レナがオーリスやリプリーを綺麗にしたと知っているから、お礼も言いたいといっていてね。」

「私は、自分のしたい事動物の手入れをしただけで…。」

「レナ…!あぁ、本当に君は…!!可愛過ぎる!自分のした事をおごり高ぶらない所が、本当に素晴らしい。私の自慢の愛する人だよ。」

「もう!ウィンフォード様ったら!」


 レナはすぐにウィンフォードの言葉攻めに顔を赤らめてしまい、未だに慣れない。
 けれど周りの使用人達は、ウィンフォードは普段の仕事では決して見せない優しい表情をしていて、グリフィス公爵家の嫡男が、やっと身を固めてくれるのだと微笑ましく見ていた。


「ウィンフォード様、レナ様、そろそろ昼食にされた方が…。」

 いつまでも終わらない二人の時間に、サーザが見かねて声を掛ける。公爵夫妻が来る為、それまでにお仕度もあるから早めにして欲しいからだ。

「そうだったね。レナ、今日はどうする?庭で食べるかい?」





☆★

 屋敷の談話室と応接室からも外に出られるようになっていて、そこから庭へと歩いて行く。手前には花が咲き乱れ、レンガ造りの小道を進むと四阿があった。


 小道では、ネコが日なたぼっこしているのか、寝ころんでいて、人に慣れているようで二人が通っても耳をピクピクと動かすだけだった。


 そこで、軽く食事をしながらウィンフォードは話し出した。

「ここによく、イヌやネコが訪れるんだ。どこからかリスなんかも走って来たりするね。ここは塀もしっかりとした造りで外からは中の様子が見えないように幾重にも生け垣や木を植えていてね。だから、間近に動物がいるからか屋敷の者達も動物好きが多い。料理人達はよく、残飯を与えているみたいだ。それで、朝や夜、餌をやらない俺にまで足に纏わり付いてくるんだよ。可愛いのはいいんだが、食事をしている時なんか靴の上に寝そべったり、枕にされたりしているよ。」

「あ、それで靴磨きをよくされていたのですか?」

「そうだね。あの時は地方へ馬車に乗って出掛けるのが続いた時だったな。でもそれでレナに会えた。レナの透き通るような声に導かれるようにそちらを向いたら目を惹くレナがいたんだ。もうあれは運命の出会いだな。」

「もう!何度も言わないで!」

 レナは、恥ずかしくてウィンフォードとは反対の方を向く。

「ダメか?レナの事が好きだから、想いは言わないと伝わらないと思ったからね。いや、姉上を見て反面教師ってわけだよ。ここだけの話だけどね、姉上は気になる言葉は止められないのに、肝心の言葉は言わないんだ。愛しているとか、淋しいとかね。だから元夫にも愛想を尽かされたんだと思う。」

「そうなんですか?アルバータ様は、ツンデレなのね。そこも可愛らしいですのに。」

「ん?つんでれ?いや、姉上は本当に面倒…いやいや、まぁなんというか…でも、レナがオーリスの手入れをして救ってくれたおかげで、姉上もあれでかなり丸くなったんだ。使用人達も手をこまねいていたから、君はオーリスだけではなく姉上や使用人まで救ってくれたんだよ。もちろん、ブライズも、それに俺もね!」

「ウィンフォード様ったら…買いかぶり過ぎよ!」


 だんだんとレナも、ウィンフォードに心を開き、二人で話す時の緊張も解れていく。

 二人の仲は、日に日に深まっていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】地味令嬢を捨てた婚約者、なぜか国王陛下に執着されて困ります

21時完結
恋愛
「お前とは釣り合わない。婚約は破棄させてもらう」 長年の婚約者であった伯爵令息に、社交界の華と称される美しい令嬢の前でそう告げられたリディア。 控えめで地味な自分と比べれば、そちらのほうがふさわしいのかもしれない。 ――いいわ、だったら私は自由になるだけよ。 そうして婚約破棄を受け入れ、ひっそりと過ごそうと決めたのに……なぜか冷酷と名高い国王陛下が執着してきて!? 「やっと自由になったんだろう? ならば、俺の隣を選べ」 「えっ、陛下!? いえ、あの、私はそんな大それた立場には——」 「俺のものになればいい。お前以外に興味はない」 国の頂点に立つ冷酷な王が、なぜか地味なはずの私にだけ甘すぎる……!? 逃げようとしても、強引に腕を引かれ、離してくれない。 「お前を手に入れるためなら、何だってしよう」 これは、婚約破棄をきっかけに、なぜか国王陛下に異常なほど執着されてしまった令嬢の、予想外の溺愛ラブストーリー。

処理中です...