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4. 靴磨きは職人技
しおりを挟む「靴を磨いてくれるのか?」
レナよりも頭二つ分ほども背が高くて体つきもガッシリとしている、金髪が短く切り揃えられた男性は、レナに向かってそう聞いた。
その男性は服装もかなり高そうなものをしっかりと着こなしていて、目鼻立ちもくっきりしていて背も高く、好青年に見えた。
(近くで見ると眩しい位だわ!)
とレナは見とれてしまい、答えるのが一歩遅れる。
「いらっしゃい。はい!それはもうお客さんの顔が靴に映りこむ位ピカピカになりますよ!」
レナが答えるより先に、エイダはそう答えた。
「そうか、じゃぁ馬車がくるまでに出来るか。あと二十分ほどだ。」
「それ位あるなら出来ますよ。では、よろしいのでしたらその台に足を置いて下さいな。」
男性がエイダの前に置かれた小さな台に足を置くと、エイダは荷物から布地を出し、それに缶に入ったクリームを付けて男性の革靴を磨き始めた。
(へー、ああやってやるのね。初めて見たわ。)
ゴシゴシと足の指先部分から側面、踵部分へと磨き、あっという間に片方終わった。
「はい、次は逆の足をどうぞ。」
「お!もうか?すごいな!」
覗き込むと本当に顔を映し出せる程黒光りしていた。
逆の足も素早く終わって、エイダはすぐに声を出した。
先ほどまで、泥のような茶色い擦ったような跡が靴にたくさん付いていたが全て無くなっていた。
「はい出来ました。如何ですかな。」
「おお!素晴らしい。ありがとう!早いし、綺麗だ。お代は…」
「ではこちらへ。」
エイダが恭しく荷物の中にあった別の缶を男性へと向けると、男性はすぐに代金をその缶の中へと入れた。
「助かった、では。君も、教えてくれて助かったよ。」
男性はエイダとレナにそう言って、馬車がちょうど近づいてきた為、その男性は馬車乗り場へと移動した。
「エイダさん!すごいですね!すぐにあんなピッカピカにしちゃって!」
「あぁ、そりゃ長年仕事をしていればそうなるさ。それに他の人と差別化をしなくちゃ、周りにお客を取られちゃうからね!」
(確かに…。世界は違えど、仕事への考え方は同じなのだわ。企業努力なのねきっと。職人技だったもの。)
レナはそのように感心していたが、ふと視界の端に動く物があるなと視線を移動してみると、建物の隅で茶色い毛の塊みたいなものがモコモコと動いていた。
「あれって…」
「ん?あぁ…此処いらでは、あぁいう野良がチラホラといるよ。たまにね、明らかに高そうな首輪をしているやつもいるけどね。」
レナが視線を向けていた方を見たエイダは、なんでもない事のように言った。
(野良?という事はやっぱり…)
「動物?もしかしてイヌ?」
「あれは多分そうだね、いつもこの辺りにいるからね。野良はあぁやって毛が伸び放題だからねぇ…目や口さえもどこにあるのか見えなくて、近寄られると怖い気もするね。」
(えー!怖いっていうか、あれはかわいそう…!あの大きさからするとヨークシャーテリアじゃないかしら?でも、ヨロヨロと歩いているから、自分の毛で前が見えないのかも?)
エイダの先程の仕事振りを見て、レナも仕事がしたくなった。
あの犬の毛の長さを見ると、トリマーである自分の腕がウズウズとしてきたのだ。あのままでは可哀想だと思ったからだ。
だが、自分がしていた仕事はトリマーで、愛用していたハサミは持っていない。
それでも、エイダの言葉が気になったレナは、エイダに聞いてみる事にした。
「エイダさん。あんな感じのイヌがたくさんいるの?」
「あぁそうだよ。イヌだけじゃなくてネコもそうだ。でも、二代前の国王陛下がお決めになった事があってね。無闇に動物を触る人は反国精神を持っていると見なされて処罰されてしまうんだよ。相応の理由がある人はいいらしいんだけどね。まぁ、だから、此処いらでは、野良が多い。世話をしてあげる事もそうそう出来やしないからね。」
「え?反国精神…?何それ??」
「まぁ、私もよく分からないんだけどね。国を陥れようと企てる輩の事らしいよ。とにかく、野良を多少愛でる位はいいだろうけど、人目のつかないようにだね。疑われて処罰されてもかなわないだろう?あ、いらっしゃい!」
どうやらまた、エイダの前に人が立ち、お客が来たようでエイダが応対する。
(私にも何かが出来ると良いのだけど…。)
レナは、いつの間にか居なくなった毛の塊のようなイヌがいた方向をいつまでも見つめていた。
レナよりも頭二つ分ほども背が高くて体つきもガッシリとしている、金髪が短く切り揃えられた男性は、レナに向かってそう聞いた。
その男性は服装もかなり高そうなものをしっかりと着こなしていて、目鼻立ちもくっきりしていて背も高く、好青年に見えた。
(近くで見ると眩しい位だわ!)
とレナは見とれてしまい、答えるのが一歩遅れる。
「いらっしゃい。はい!それはもうお客さんの顔が靴に映りこむ位ピカピカになりますよ!」
レナが答えるより先に、エイダはそう答えた。
「そうか、じゃぁ馬車がくるまでに出来るか。あと二十分ほどだ。」
「それ位あるなら出来ますよ。では、よろしいのでしたらその台に足を置いて下さいな。」
男性がエイダの前に置かれた小さな台に足を置くと、エイダは荷物から布地を出し、それに缶に入ったクリームを付けて男性の革靴を磨き始めた。
(へー、ああやってやるのね。初めて見たわ。)
ゴシゴシと足の指先部分から側面、踵部分へと磨き、あっという間に片方終わった。
「はい、次は逆の足をどうぞ。」
「お!もうか?すごいな!」
覗き込むと本当に顔を映し出せる程黒光りしていた。
逆の足も素早く終わって、エイダはすぐに声を出した。
先ほどまで、泥のような茶色い擦ったような跡が靴にたくさん付いていたが全て無くなっていた。
「はい出来ました。如何ですかな。」
「おお!素晴らしい。ありがとう!早いし、綺麗だ。お代は…」
「ではこちらへ。」
エイダが恭しく荷物の中にあった別の缶を男性へと向けると、男性はすぐに代金をその缶の中へと入れた。
「助かった、では。君も、教えてくれて助かったよ。」
男性はエイダとレナにそう言って、馬車がちょうど近づいてきた為、その男性は馬車乗り場へと移動した。
「エイダさん!すごいですね!すぐにあんなピッカピカにしちゃって!」
「あぁ、そりゃ長年仕事をしていればそうなるさ。それに他の人と差別化をしなくちゃ、周りにお客を取られちゃうからね!」
(確かに…。世界は違えど、仕事への考え方は同じなのだわ。企業努力なのねきっと。職人技だったもの。)
レナはそのように感心していたが、ふと視界の端に動く物があるなと視線を移動してみると、建物の隅で茶色い毛の塊みたいなものがモコモコと動いていた。
「あれって…」
「ん?あぁ…此処いらでは、あぁいう野良がチラホラといるよ。たまにね、明らかに高そうな首輪をしているやつもいるけどね。」
レナが視線を向けていた方を見たエイダは、なんでもない事のように言った。
(野良?という事はやっぱり…)
「動物?もしかしてイヌ?」
「あれは多分そうだね、いつもこの辺りにいるからね。野良はあぁやって毛が伸び放題だからねぇ…目や口さえもどこにあるのか見えなくて、近寄られると怖い気もするね。」
(えー!怖いっていうか、あれはかわいそう…!あの大きさからするとヨークシャーテリアじゃないかしら?でも、ヨロヨロと歩いているから、自分の毛で前が見えないのかも?)
エイダの先程の仕事振りを見て、レナも仕事がしたくなった。
あの犬の毛の長さを見ると、トリマーである自分の腕がウズウズとしてきたのだ。あのままでは可哀想だと思ったからだ。
だが、自分がしていた仕事はトリマーで、愛用していたハサミは持っていない。
それでも、エイダの言葉が気になったレナは、エイダに聞いてみる事にした。
「エイダさん。あんな感じのイヌがたくさんいるの?」
「あぁそうだよ。イヌだけじゃなくてネコもそうだ。でも、二代前の国王陛下がお決めになった事があってね。無闇に動物を触る人は反国精神を持っていると見なされて処罰されてしまうんだよ。相応の理由がある人はいいらしいんだけどね。まぁ、だから、此処いらでは、野良が多い。世話をしてあげる事もそうそう出来やしないからね。」
「え?反国精神…?何それ??」
「まぁ、私もよく分からないんだけどね。国を陥れようと企てる輩の事らしいよ。とにかく、野良を多少愛でる位はいいだろうけど、人目のつかないようにだね。疑われて処罰されてもかなわないだろう?あ、いらっしゃい!」
どうやらまた、エイダの前に人が立ち、お客が来たようでエイダが応対する。
(私にも何かが出来ると良いのだけど…。)
レナは、いつの間にか居なくなった毛の塊のようなイヌがいた方向をいつまでも見つめていた。
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