【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
24 / 27

24. 臨時議会

しおりを挟む
「疲れてるのにごめんね。」

 ルドの私室なのか休憩室なのか、ソファと机が置かれただけの部屋に案内してくれて、ルドは謝りながら、私に自ら紅茶を入れてくれた。

「ルド、ありがとう。でも疲れてるのはルドもでしょう?」

 皇帝陛下に紅茶を入れてもらうっていいのかしら、と思いながらもルドは楽しそうに入れてくれるのでお願いした。
私も、ただ紅茶を入れるだけなら出来ると思うけど何だか作法があるみたい。こういうマナーも、教えてもらえるのかしら。また後で聞いてみよう。

「あぁ、僕は大丈夫ですよ。帝国軍の演習の方がよっぽど大変ですから。まぁ、今は大きな戦争もないから、軍が出撃するのは最近じゃ野生動物の駆除が多いですがね。」

「そうなのね。平和なのね、良かった。」

 戦いがたくさんあったなら、銀獅子も軍に同行してと言われたらどうしようかと思ったもの。

「そうとも言ってられません。近隣諸国では、領地の取り合いをしている国もありますからね。いつ飛び火が降りかかるか…まぁ、なので平和とはいっても演習は欠かせないのですけれど。」

「え!?そうなの…。」

「あ、でも大丈夫ですから。その辺りの話も含めて、議会に出そうと思ったのです。」

「?」

「エルヴィーラ、話せないなら良いのです。いつか、あなたの口から全ての思いを聞きたいと願っていますが、僕の予想を聞いて下さい。あ、でも最初に言いますが僕は何があってもエルヴィーラの味方です。その為に、レウとニバルトを遠くに送り込みましたから。」

「…!」

 そうなんだ…送り込むって、レウとニバルトを北東部の地へと斡旋したのは、ただの親切心だけでは無かったのね。

「あ、それで」

 コンコンコン

 ルドが続きを話そうとすると、部屋の扉が叩かれた。するとルドは少し機嫌が悪くなったようで、

「はい」

 と、私に話してくれているよりも低い声で返事をした。

「フスタフです。入りますよ?」

「あぁ。」

 ルドは廊下に聞こえるように少し大きめの声で答えた後、私へと視線を向き直し、

「はぁ…済みません。思ったより早く来ました。続きはまた後からで。」

 とガックリと肩を落として言った。

「失礼します。」

 ルドと同じ位の、茶色の髪の男の人が入って来た。

「フスタフ。思ったより早かったね。」

「そりゃぁ、ルドが徴集するなんて皇帝陛下になって初めてだからね。皆ウキウキとしているよ。」

 皆ウキウキ?誰がそんなに喜んでいるのかしら?

「そう…まぁいいや。エルヴィーラ、こいつはフスタフ。僕と一緒に実務などをやってくれています。困った事があったら、まずは僕に言ってほしいですが、僕がいない時はフスタフに言って下さい。」

「フスタフと言います。エルヴィーラ様、これからよろしくお願いします。…なんだか、無事に親睦を深める事が出来たって感じ?思惑通りで本当に良かった!どうするの?結婚式は予定通り一ヶ月後に挙げていいの?」

 フスタフは、私にしっかりとお辞儀をしてくれた後にそうルドへと問いかける。
一ヶ月後なんだ…まぁ、結婚の為にこの国に来る事になっていたんだから、そうなのか。実感が沸かないけれど。あ!でも…気になる事があるわ!

「エルヴィーラのドレスが出来上がるのがいつくらい?もっと早く出来上がる?」

「お?どうした?行く前はあんなに嫌がっていたのに。会って、仲良くなれたならそれに超したことないからいいんだけど。」

「あの…!」

「ん?どうしました?」

「もう少し後には出来ませんか?」

「え!?」
「なになに?エルヴィーラ様は結婚するの嫌?」

 そう言って、フスタフはルドを見ながらニヤリと笑う。揶揄っているみたいだわ。仲がいいのね。

「いいえ。ルド、私、出来たら作法とかを勉強させてもらいたいのだけど…。」

「あぁ、なんだ良かった…。その事でしたら大丈夫ですから。結婚式もそんなに難しくは無いですから、今のエルヴィーラなら、とりあえず一週間程やれば結婚式が挙げられますよ。皇后陛下になる為の勉強は、これからゆっくりやっていけばいいですので大丈夫です。」

「おいおい…さすがにドレスを一週間で仕上げろってのは無理じゃないか?いくら形は出来ているとはいえ。じゃぁ仕立て屋次第でいいか?」

「そうですね。エルヴィーラ、よろしいですか?済みません…ドレス、勝手に決めてしまいました。こんな事になるなら、一から一緒に決めれば良かったですね。でもそうすると結婚式が遅くなるし……。」

「分かった分かった!ドレスはこれからいくらでも贈る機会があるから!さすがに重鎮達を待たせると良くないよ。さぁ、議会室へ行くよ!エルヴィーラ様もお願いします。」

「はい。」

「エルヴィーラ、手を。」

 ルドがそう言って私の手を取り、手を繋ぎ、議会室へと向かった。



☆★

 議会室に入ると、そこはそんなに大きい部屋では無く、人の数も十数人と思ったより多くは無かった。
どうやら、内々だけの議会みたい。

 私達が着席すると、他の人達は揃っていたみたいですぐに会が始まった。

「皆、臨時議会であるのに、素早く集まってくれて本当にありがとう。今日来てもらったのは他でもない。以前、皆が決めてくれた私の婚姻についてだ。」

 そう言うと、ルドは私の方を見てにっこりと微笑んでから、また皆の方を向いて話し出した。

「私の隣にいる人は、ドルトムンボン国のエルヴィーラ=デューレンケルン。だが、彼女は、以前噂されていた銀獅子。私の妻となる為にこの国へ嫁いで来てくれたんだ。だから、を求めないで欲しい。これは私から皆へのお願いだ。」

 そう言っていきなり頭を下げるから、少しざわめきがあった。そして、一人の人が手を挙げ、

「皇帝陛下、それはどのような意味か詳しく聞いても?」

 と言った。ルドはすぐに頷いて、

「ヨヘム、ありがとう。しかし、言葉の通りだ。不名誉な事なのであまり言いたくないがここの皆には敢えて言う。エルヴィーラは、落馬したんだ。それで、以前のようには戦う事が出来ない。故に、銀獅子の活躍を見込んでいる者は考えを改めていただきたい。」

 そ、その話、まだ引っ張るのね…信じてくれるのかしら…。

「…なるほど。軍に所属させたくないというわけですな。」

「今までどんな噂を聞いたにせよ、エルヴィーラはエルヴィーラだ。噂を鵜呑みにしないで欲しい。それでも、私は今、エルヴィーラと夫婦となりたい。皆、協力して欲しい。」

 そう言ってルドは立ち上がり、皆へ頭を下げるから、重鎮達は慌てだし、先ほど質問を述べたヨヘムが椅子から立ち上がり、片膝をついて話し出した。

「皇帝陛下…いえ、ルドフィカス様。私達は、今、真にこのアーネムヘルム帝国を統べる皇帝に見えましたぞ。あなたはやはり、偉大なるお方だ。我々は反対する理由がない。皇帝陛下の仰せのままに。」

 そう言うと、他の人達もそれに倣ったように椅子から立ち上がって片膝をついた。
 それは忠誠の証なのかもしれない。

「…ありがとう。」

 ルドが顔を上げてそう呟く。私も、立ち上がり、

「皆様、お許し頂きましてありがとうございます。」

 と言って皆へ頭を下げた。

「いい?エルヴィーラ様が、ルドを変えてくれたのですからね?重役の方々覚えておいて下さいよ。ルドは、彼女の為に強くなるそうですから。」

 そう、壁際に立っていたアルヤン副隊長も言葉を添えてくれる。

 皆が顔を見合わせてから立ち上がり、

「ルドフィカス様、良かった!幸せになりなよ!」

「全く…心配したのですぞ。迎えに行って良かったなぁ!」

「どうなる事かと思ったけど、良かったな!」

 と言い出した。
 きっとここでも、ルドを幼い頃から知っている人誰だから親戚のおじさんのようにルドを心配されてたのかなと思うと、ルドは、可哀想な皇帝陛下なんかじゃないんだと思えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...