【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

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22. 告白

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「ルド、ありがとう。大切にするわ!」

 店を出て改めて私は、ルドに髪飾りのお礼を言うと、ルドもはにかむように笑って、

「良かった!はい、そうしてくれると嬉しいです。私も、贈った甲斐があります。」

 と言った。そして続けて、

「さぁ、次へ行きましょうか。手を、失礼しますね。」

 と言い、私の手を取った。




☆★

 次はまた食べ物のお店へ行き、ポタタと呼ばれる、ジャガイモを油で揚げた物を白いソースに付けて食べる物を店で購入した。
これも、なんだか懐かしいような味がしたし、美味しくて顔が綻んでしまう。

「エルヴィーラは、食べ物を美味しそうに食べるから見ていて気持ちがいいですね。」

 ルドにそう言われたから、食べ物にがっつきすぎているように見えたらと少し恥ずかしく思った。けれど、褒められたと思っておこうと頭を切り替えた。



「名残惜しいですが、そろそろ宮廷へ向かいましょう。少し歩きますが良いですか。」

 正面には確かに宮廷と言われた、大きな建物が見えるけれど、まだ距離があった。
私達は、手を繋ぎなからゆっくりと歩いて向かう。

「はい。」

 いつの間にか日は傾いてきている。楽しかった時間はあっという間で、思ったよりも残念に思っている私がいた。

「あの…歩きながらですみません。私の話を聞いてもらえますか。」

「?…ええ。」

 何だろう。改まって何の話をするのかしら?と顔をルドに向ける。

「あぁ、恥ずかしいからこちらを見ないで下さい。」

 そう照れたように言われたから、慌てて正面を向いて歩く。

「ええと、このアーネムヘルム帝国の皇帝の名前って覚えてますか?」

 改まってそんな事をいわれるから、私は拍子抜けした。きっと、これから会う皇帝陛下の復習でもさせるつもりなのかと思って、少ない記憶を頼りに言葉を繋ぐ。

「はい。ルドフィカス皇帝陛下ですよね?」

 あぁ、そう言えば名前、ルドと似ているのね。これから皇帝陛下の名前を呼ぶ時に、ルドの事も思い出すのかしら。
もう気軽にはきっとルドに会えなくなると思うと、酷く悲しい気持ちが押し寄せてきた。

「あの…驚かないで聞いてくれますか。私の本当の名前は、ルドフィカスなのです。」

「え!?」

 私は、先ほどルドに『恥ずかしいからこちらを見ないで』と言われた事も忘れて横にいるルドの顔を見上げた。
ルドは、私が見つめているのを分かっているだろうに、目を逸らした。横顔は、日に照らされてなのか赤く見えた。

「……皇帝陛下と、同じ名前なの?」

 ルドが何も口を開かないから、私がそう繋いだ。

「いや…」

 ルドは、少し迷った様子だったけれど私の方を一度見てから、その後さらに言葉を繋ぐ。

「私が、先ほどエルヴィーラに髪飾りを買ったのは、あなたに贈り物がしたかったからです。私が贈った物を付けてくれるのを見たくて。…本当は、格好いい紳士であったなら、自分の瞳や髪色と同じ色を身につけて欲しいと願うのだと思う。けれど……僕にはそのまでの勇気は無くて。あなたに似合うものを付けて欲しいと思ったのです。」

「僕は、ルドフィカス=アーネムヘルム。この国の皇帝陛下と呼ばれる者です。でも、会った日に告げたように、本来なら僕がなるわけでは無かった。担ぎあげられただけで、皇帝の器では無いんです。」

 そう続けて言ったルドは、とても歪んだ表情で、辛そうだった。
でも、私は逆に、ルドの言われた言葉を反芻し、とても嬉しく思ってしまった。

(だって、ルドだったなら怖くないもの。)

 デューレンケルン辺境伯爵家で言われたような、野蛮とかそういう類は全く感じない。

「こんな皇帝らしくない皇帝に、はるばる嫁ぎに来て下さってありがとう。エルヴィーラ、いえ、エルヴィーラ様。どうか、僕と夫婦になって下さい。」

 そう言って、立ち止まって頭を下げたルド。
 私は、何か言葉を発しなきゃと思うのになかなか言葉が見つからなくて。

「ルド…」

 辛うじて聞こえるような呟くような声で囁くと、ルドは少し顔を上げる。と、私を見てハッと驚いた顔をし、私の頬を撫でた。

「どうして泣いているのですか?泣くほど、この結婚が嫌ですか?」

 私は、言われて初めて自分が泣いている事に気がついた。嬉しいのと驚いた気持ちが混ざり合って涙が出てきたのだ。
けれど、ルドにそう言われて、慌てて強い口調をしてしまった。

「そんなわけない!でも、私……私で良いのかな…。」

 そう。忘れていたけれど、ルドの、いえ、皇帝陛下の重鎮達は、皇帝陛下を支える為にデューレンケルン辺境伯令嬢である銀獅子を妻に、と望んだと言っていた。私には、ルドを支える事が出来るのだろうか。この世界の事も、マナーも、ほとんど知らない私。

「僕、エルヴィーラがいい!一緒にいたい。知らなかったけれど、きっとこれが好きだという気持ちだと思う。僕、銀獅子ってどんなに怖い人かと思っていたんだ。皇帝なのに、変だと思うだろう?僕は気弱なんだよ。だけど、銀獅子ではない、今のありのままのエルヴィーラがいいんだ!数日だけだけど、一緒に過ごして心からそう思ったんだ。だから、僕、エルヴィーラを改めて妻にしたいと思うって重鎮達に言うよ。反対されても説得する!分からない事は、一緒に頑張っていこう!」

 なんだか、何もかも分かっているような事を言われ、私は余計に涙が止まらなくなった。

「ルド…私も、この気持ちが好きと言う気持ちなのか分からないの。でも、もうルドとお別れだと思ったら、淋しく思ったし、髪飾りをもらった時も、とっても嬉しかったけれど、これを見ているのは辛いなと思ったの。だって、私は皇帝陛下の妻となるのだもの。でも、その夫となる人が、ルドあなただったのね。」

「うん。一緒に旅をして、仲良くなれって言われたんだ。僕も、それができるさならと思ったけれど、会うのもやっぱり怖かった。だいたい、銀獅子っていう名前が良くない。食べられそうだもん。」

 そんな風に言うから、私は吹き出してしまった。

「あ、笑ったな?ごめんね、夫となる僕は情けないと思うけど、もう離れられないからね?」

「ふふふ。全然情けなくなんてないわ!私にとったら、素晴らしい王子様よ!あ、皇帝陛下様、だったわね。」

「ありがとう。エルヴィーラだけだよ、そう言ってくれるのは。」

「ルドは情けないとか、気弱とかではないと思うわ、本当よ!優しいもの。」

「うーん。帝国を治める皇帝は、冷徹でないといけないんだよ。だから…」

「あら。冷徹な主君に心からついていこうと思う人、何人いるかしら。それよりも、支えたいと思う方のが、いいわ!…難しい事は私には分からないけれど、与えられた役職があるのなら、それを演じるしかないのよきっと。でも演じる事を楽しみましょうよ!」

 ルドが寂しそうだったから敢えてそう、明るく言うとルドはまたふわりと柔らかい笑顔を向けてくれ、私を優しく包み込んでくれた。

「エルヴィーラ。これがきっと、愛おしいと思う気持ちなのかもしれない。ありがとう。一緒に演じてくれる?」

「ええ!」

 だって私は、その為にこの国へ来たのだもの。相手がルドだったのよ。こんなに嬉しい事はないわ!
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