【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
13 / 27

13. 翌日 集落から渓谷へ

しおりを挟む
 翌朝。

 昨夜ルドから薬草茶をもらって飲んだからか、頭痛と吐き気は収まっていた。
体を起こすと、インサはすでに部屋で起きていて、片付けをしている。

「あ、目が覚めました?どうですか、体の具合は。」

「ええ。昨日はあった頭痛も吐き気もないわ。…本当にごめんなさい。迷惑掛けて。」

「迷惑だなんてそんな!やはり、へ来て、疲れていたのですね。大丈夫ですよ、頼って下さいね!のエルヴィーラ様はもういませんが、エルヴィーラ様はきちんとに存在されているのですから!」

 何だか、インサには私の心が弱っているのを気付かれたのかもしれないわ。
そんな私に、優しい言葉を掛けてくれて泣きそうになってくる。けれど、グッと堪えて微笑み返し、

「ええ、ありがとう。インサの事は頼りにしているわ!」

 と伝えた。
 そして、きっと私は昨日よりも遅く起きてしまったと思うから急いで準備をしようと寝床から起き上がった。





☆★

 天幕から出て行くと軍の皆が声を掛けてくれる。

「大丈夫ですか?」

「ちょっとキツ過ぎましたか?」

「可愛かったですよー!」

「あ、こら!」

 今まではどこかよそよそしくて、まだルドとアルヤン副隊長としか言葉を交わしていなかったけれど、何だか一気に話し掛けられている気がする。

「皆様昨日は本当にご迷惑お掛けしました。薬草茶は良く効きました。ありがとうございます。」

 それがとても気恥ずかしく、昨日のせっかくの宴も雰囲気を悪くしていないかと心配してそう言うと、

「良かったです。さぁ、今朝はパン粥にしました。どうぞ。」

 と、ルドが笑顔を向けてくれ手招きして座らせてくれた。
やはり皆はもう食事を終えていたらしく、片付けをしたり、鍛錬をしてくると言って山へ駆けて行く人もいた。




 片付けも終えて、出発をする前に集落の皆にも挨拶をした。

「昨日はせっかくの宴の最中に申し訳ありませんでした。ビアはとてものど越しはさっぱりとしていました。味は…苦かったです。」

 最後は遠慮がちに苦笑しながらいうと、

「こちらこそいきなり度数の高いのを進めて申し訳なかったと思っています。もうすぐ皇后陛下となられるお方に、何事も無くて本当に良かった!またいつでも来て下さい!」

 とそう言われる。
 皇后陛下…そうか。私は、この世界で皇后陛下に…なれるのかしら……。
 あ!そうよ!演じないと!私、強い〝エルヴィーラ様〟を演じていなかった気がするわ!
 …けれどなんだか、今さらのような気がするし、この国の人達は〝エルヴィーラ様〟にお会いしていないはずと言われていたから、きっと大丈夫よね?この軍の人達も、宮廷についたらお別れなのよねきっと。

 それなら、バレないわよね!?という気持ちと、良くしてくれているこの軍の隊員達ともお別れというのも少しだけ淋しい気がした。



☆★

 出発の時、

「二日酔いは本当に大丈夫ですか?馬に乗って気持ち悪くなったら言って下さい。」

 とルドに何度も言われて心配されてしまった。確かに、馬に乗ると揺れるから大丈夫かと心配に思ったけれど、それよりも頬を撫でる風が気持ち良くて、揺れが不快だとはあまり思わなかった。それをルドに伝えると、

「良かったです。さぁ、頑張って進みますよ。」


 しばらく進むと、周りは高い壁がそびえ立つような渓谷が目の前に広がった。

「ここが、昨日言っていた渓谷です。ここを抜けると、帝都が見えてきますが油断しないように行きましょう。」

 そうルドが教えてくれる。
私はそれに一つ頷いて、体を強張らせると、クスリとルドは笑って、

「大丈夫ですよ、私があなたを必ずお守りしますから。」

 と言われる。
そう言われると、とても恥ずかしく思ったけれど、よく考えたらお迎えで来てくれているけれど護衛という意味があるものね。彼らはエルヴィーラ様をきちんと宮廷の皇帝陛下の元まで連れて行くのが任務なのだもの。深い意味はないわ。

 そう考えたら、なぜだか少し淋しく思った。


 今のところ、常歩でゆっくり歩いている。風も穏やかで、鳥が囀っているけれど、他には何の音も聞こえない。

「良かった。ヘルムグマは寝ているかもしれませんね。」

 そう、ルドが私へと話し掛けてくれるから、

「そうね。そうであってほしいわ。」

 と声を返した。

 ………が。

 そのすぐ後。

「うわぁーーー!!」

 という、獣なのか何なのか、男の人のようなつんざくような叫び声が前方から聞こえ、遠くで微かに馬の嘶くような声も聞こえた。

「クソ…!」

 後ろから小さな声で、ルドがそう呟いた。
なので私は距離が近くなって少し恥ずかしいけれど振り返って言った。

「ルド、あれは…?」

「分かりません。獣かもしれませんが、人だったら大変です。仕方ない…エリアン、ハブリエル!」

「はっ!」
「はっ!」

 そう呼ばれた二人が、後ろから少し速歩で私達の横に並ぶ。

「見てきます!」
「ここでお待ち下さい!」

「あぁ、頼む。もしはぐれたら、渓谷の先で集合!行け!」

「は!」
「は!」

 そう言って、エリアンとハブリエルは速歩で駆けて行った。

「ルド…。」

「あぁ、心配いりません。彼らは強いです。あなたは…いえ。私に守られていて下さい。絶対に私から離れないで下さいね。」

「…はい。」

 そう言われ、やはり恥ずかしいけれど言葉に従う。これは、任務を遂行する為の言葉なのだもの。そう何度も思い込んで心を静める。

 私達は歩みを止めた。隊員達は渓谷の上の方を見たり、周囲を確認したりしている。耳を澄ませて何か聞こえないか確認もしている。
 私も、ドクドクと心臓の音が聞こえるんじゃないかという程、息を殺している。

 

 と、また、二度ほど叫び声が聞こえた後に、ゆっくりと馬の足音が聞こえてくる。前方から二人、こちらへ向かって来る。

「エリアンとハブリエルだ。」

 ルドがそう呟き、私は少し安堵した。皆も息をふうと吐き出している。

 傍まで来た二人は、ラドに向かって報告をしようと一人が口を開いた。

「ヘルムグマと対峙している男女が二名おりまして、男性は怪我を負っている模様。軽症ですが…その…。」

「どうした?」

「いえ…あの…」

 そう言って、『エリアンが言えよ』『ハブリエルが言えよ』と二人言い合って私をチラチラと見てくるのはなぜかしら。

「はっきりしろ!」

 ルドが苛立ったようにそう言うから驚いて私は体をビクッとさせてしまうと、

「エルヴィーラ、済みません…」

 と後ろから、小さく呟く声が聞こえた。
私は、頭を左右に振ったところで、ハブリエルと言われた人が、

「恐れながら!女性は顔がエルヴィーラ様にそっくりなのです!」

 と、気合いを入れたのか、先ほどより大きな声で言った。

 ………え!?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...