【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

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14. 渓谷での出来事

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「…とりあえず、では先へと進みましょう。立ち止まったままではヘルムベアが来ても困りますから。」

 そう言ったルドは、後ろの人達へ一声掛け、手綱を握り、馬へと歩き出す合図を出した。





 少し速歩で進むと、前方に座り込んでいる男性と、剣を構えて立ち辺りを警戒している女性がいた。

 女性がこちらを見てハッとし、座り込んでいる男性を見たあとに、頭をブルブルと左右に振っていた。

(頭を振ったのはなんの意味かしら。私がいたから?あれは確かに、〝エルヴィーラ様〟のようだけど…髪色が違う?)

 逃げる際に染めたのだろうか。女性は、赤茶色の髪色だった。この今いる帝国ではありきたりな色だからかもしれない。アルヤン副隊長も他の隊員も、少しずつ色合いは違うがだいたい赤茶色の髪をしているもの。
 男性は、銀色の髪だけれど、地面から空を仰いでいるように寝そべっている。確か、怪我が軽症とか言っていたからだと思う。その男性は、話からするとニバルトという人なのだろう。


 ルドが手綱を引き、その人達の前で止まってアルヤン副隊長を見た。アルヤン副隊長は一つ頷くと、インサに何かボソボソと話し、インサは首を振るとアルヤン副隊長だけ馬から降り、その女性に話し掛けた。
 きっとインサも馬から下りるか聞いたのかもしれないわね。

「大丈夫でしたか?とりあえず、ここに留まっているとヘルムベアがまた来てしまうかもしれないので、渓谷を抜けましょう。」

「いえ。助けていただいた事には感謝致します。しかし、私達は大丈夫です。どうぞお気になさらず、お進み下さい。」

 女性は、剣は下ろして話しているけれどなんだか殺気立っているようで、私達に早く行け、と威嚇しているようにも見えた。
インサは、痛ましいものでも見るようにあの女性を見ている。

 やっぱり、あの女性が〝エルヴィーラ様〟なのだわ。私は、どうなるのだろう…。

「…見た所、そのようですが、どうぞお願いします。」

 再度アルヤン副隊長がそう言うと、後ろからエリアンが、

「副隊長!男性は怪我をされております。歩けないのでしょう。私が彼を背負って行きますから、その女性に私の馬をお貸ししてもよろしいでしょうか?」

 と言った。

「そうだな。ではそうしてくれ。」
「いけません!」

 アルヤン副隊長が言うと、女性は言葉が被さるように言った。けれど、それを見ていたルドが、

。申し訳ないがこのような場合、我々は怪我人を放っておいたら職務放棄として罰せられてしまう。どうか、我々を助けると思って言葉に従ってはくれないだろうか。」

 と、丁寧に言うので、女性は逡巡したあげく、

「分かりました。お願いします。」

 と言って頭を下げた。寝そべっている男性は、

「すみません…」

 と謝っていた。
 エリアンはさすが軍人らしく、男性を背負ってスタスタと歩き出した。重いだろうに、そんな事も微塵も感じさせないように歩いているので私は思わず、

「すごい…重くないのかしら。」

 と呟いてしまう。すると、すぐ耳元でルドが、

「軍人は、一般人が怪我をしていたら助けるのが義務なのです。その為、それが出来るように鍛えているのですよ。」

 と優しく教えてくれた。
 小さな声であっただろうに、ルドはいつも答えてくれるなと変な所で感心してしまった。

「そうなのですね。素晴らしいです。」

「エルヴィーラ?どうしました?」

「?」

「いえ、なんだか元気がないように見えましたから。怖かったですか?もう大丈夫ですよ。よく頑張りました。さぁ、出発しますよ。」

 そう言って、ルドは私の頭を一撫でしてから、馬に歩く合図を送った。

(なんでそんな事言うの…優しくされると……)

 目頭が熱くなってくる。

 ルドは、気づいたのだろうか。他の隊員も、気づいたのだろうか。

 私が偽物だと…。

 だって、先ほどの彼女は本当に格好よかった。剣を構え、地面に仰向けで寝そべっている男性を守ろうとしていた。きっと、デューレンケルン領でもそうやって戦っていたのだと思うと、私が本当にここにいていいのかとさえ思う。

 いつの間にか下を向いてしまう。涙が溢れてきた。唇を噛み、堪えなきゃと思うけれど次から次へと溢れてきてなかなか止まらない。

 と。

「大丈夫です。」

 後ろから、囁くように耳元で言われる。

「大丈夫。悪いようにはしません。だからもう泣かないで下さい。」

「!」

 ルドは私が泣いているのに気づいていた。どうしよう。
 …いや、それよりも『悪いようにはしません』ってもしかして、すらも気づいているという事?

 あぁ…どうなるのかしら。どうすればいいの?このまま、〝エルヴィーラ様〟を演じていていいのかしら。
私は答えの出ない自問を繰り返しながら、近づいてくる渓谷の出口見つめていた。
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