【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
7 / 27

7. 出発

しおりを挟む
「怖い?さぁ、ゆっくり手を伸ばして下さい。頸筋か横から触れるんです。そうそう、ゆっくりとね。」

 こんな大きな馬、触れるかしらと思ったけれど、ルドと呼ばれた人が私に触れ方を教えてくれる。
馬は、気持ち良さそうにブルブルと言っているので一気に可愛いと思った。

「フフフ。気持ち良いの?私を乗せてくれる?毛並みも綺麗ね。」

 そう声を掛けると、私の方へと首を曲げてつぶらな瞳で見つめてくる。

「いいと言っていますよ。」

 少し笑いながら、ルドも頸筋を撫でながらそう言ってくれたので嬉しくなった。

「そう?良かった!」

 私はそう答えて、ルドの方を見て笑いかけた。


「もう、まだですか?こちらは準備終わりましたよ!」

 と、アルヤン副隊長に言われて振り向くと、すでに馬の背に乗った、インサとアルヤン副隊長が見下ろしている。
インサが前でアルヤン副隊長が後ろだった。



 先ほど、全員で十人の軍服を着た隊員達にこれからよろしくお願いします、と挨拶した私は、再び馬の前へと恐る恐る行ったの。そしたら、ルドが話し掛けてくれ、馬を触れることになったのよね。

 でも、その間にインサもアルヤン副隊長も、他の人達も馬に乗っていたのね。


「あ!ごめんなさい!」

 私がそう言うと、

「仕方ないだろう?落馬すると馬が暫く怖くなるっていうじゃないか。慣らしていたんだ。」

 と、ルドが庇ったように言ってくれた。

「ああそうですか。でも、そろそろ出ないと本当にやばいですよ。」

「分かったよ。ああ、アルヤンは口うるさい母親のようだな。」

「は!?」

 ルドはそういうと笑いながら、私に『失礼します』と声を掛け、少し持ち上げてくれて、馬の背に乗せてくれた。

「わっ…!」

 景色が変わる。ここの馬は足が長いからか眺めがとても良かった。

「いよっと。大丈夫ですか?」

 ルドも素早く私の後ろに乗って私にそう言うと、

「よし、じゃあ行くぞ。ついてこい。」

 と、後ろを向いて他の人達にも言い、出発した。





☆★


 見渡す限りの平原。
 右側には、円柱の高い塔が見える。あれが見張りの塔なのだろうか。ところどころ、黒く動いているのが見える。警備隊が見張りをしているのだろうか。



 先ほど部屋で身支度を整えている時インサに、〝エルヴィーラ様〟の話を聞いていた。
それによると〝エルヴィーラ様〟は鎧を着た警備隊に紛れて幼い頃からこの地を走り回り、大きくなってからは高い塔に入り浸り、見張りをしていたのだとか。一度敵襲や、野生の獣が現れると立ち所に出て行って事態を治めてきてしまうのだとか。

 高い塔は、見張り台でもあるし小さな要塞みたいになっているらしく、そこで生活出来るそう。


「男…確かに男性であればどんなにか幸せであったのかもしれませんね。嫡男であるオスヴィン様を支え、ここで一緒に住まわれていたのかもしれません。ですが、いつの間にか庭師のニバルトと…確かに訓練が休みの日は屋敷に帰ってくると、よく、庭にいらしたけれど。」

 インサはそう言っていた。
 私はそれを聞き、きっと彼女も日々の大変さから癒しを求めていたのかもしれないと漠然と思った。




☆★

「ルド様は、お上手なのですね。」

 馬を進み始めて、操るのが上手いと思った。
私を包み込むように腕を回して馬の顔に付けられた手綱を持ち、私の体が揺れて傾くと素早く支えてくれる。
 二人の距離が近く、体が触れる度に恥ずかしい気もして、その度に顔に熱が集まるのだけれど、きっと馬に二人で乗る時は仕方ないのだと考えないようにした。

「ん?何が…です?と言うか、ルドとお呼び下さい。」

「え?でも…」

 後ろを振り向くと、思ったよりも距離が近く、背の高さが違うから顔の距離までは遠いと思ったのに、ルド様が腰を屈めていて私の顔のすぐ横に顔があった。
 なので驚いて、すぐに前を向き直し、

「ご、ごめんなさい!」

 と慌てて言った。すると、ルド様は、クスリと耳元で笑う声が聞こえ、

「私がいいと言うのですから、いいのですよ。」

 と言った。

「あなたに褒められるなんてね。」

「え?」

「あ、いいえ。なんだか、噂で聞いていた雰囲気などとは随分違うようで。もっと荒々しいと聞いておりました。」

「荒々しい…?」

「失礼でしたか?でも今は褒めているのですよ。なんせ、小国の辺境には、銀獅子がいると言われていたのですから。」

 銀獅子!?

「まぁ、だからこそあなたに白羽の矢を立てられたわけですね。」

「えと…?」

「あぁ。もしや聞いていないのです?もしくは、記憶が抜け落ちているのかな。我が国の皇帝と、…失礼。なんとお呼びすれば?」

「ふふ。私の事はどうぞ、エルヴィーラと。」 

「では、この道中ではエルヴィーラと呼ばせてもらっても?」

「はい。」

「では。エルヴィーラと皇帝の婚姻を結んだ理由、説明して差し上げます。」

 そう言うとルドは、話し出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...