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21. 結果
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アレイスターが寮へと戻り、エレーネもそれから一日後に自分の屋敷へと戻った。
それからさらに一週間もすると、国王陛下が国民へと事の顛末をお知らせになった。
《某日、我がチェベルタルス国に、隣国マルゴベクスクの国民が暴徒化し、隣接する国有地を越えてハルヴァシ子爵領に攻め入ってきた。残念ながらハルヴァシ子爵領の民からは犠牲者が出たが国王軍が駆けつけ、最小限に抑えられた。
マルゴベクスクにも当然ながら抗議を唱え、数度の話し合いの結果、国境付近の国有地を貸し与える事とした。彼等は我が国のように豊潤な土地が無い為に暴徒と化したからだ。
その周辺には国王軍も在駐させる故、我がチェベルタルス国民には今後一切の被害も発生しない。
それどころか余らせていた国有地を有効活用でき、収穫した作物を相場の半値で購入する為我が国には利点しかない。
これからもチェベルタルス国が更なる繁栄するよう国の為に奔走する所存だ。皆に幸あれ!!》
…いささか巧妙な言葉で、事実とは多少異なるような気がするが、事実を知る被害を受けた子爵領の人達はおおむね皆、納得した。その後の処理がおざなりであったなら不満を抱いたかもしれないが、復興の為の資材は全て国が用意してくれ、要望も応じてくれたのだ。
国側も、国境から二年前に軍を撤退し、その後何も対策をしていなかった事を少なからず後ろめたいと思っていたのかもしれない。
そしてーーー
アレイスターはといえば、寮に再び戻った為に会えなくなった分、一日とあけずエレーネに向けて手紙を書いていた。母親が兄の嫁に構うのはどうしたらよいかとジョンから、毎日のように手紙が来ていた時には返事を書いてもいなかったのに、その時とは人が変わったようにエレーネには蕩けるほどの愛を綴っていた。
『あぁ、エレーネはどんな事をして過ごしているのかと毎時間考えているよ。エレーネと過ごしたあの日々は、かけがえのない時間だった。エレーネもそう思っているといいなぁ。』
『早くエレーネと一緒に過ごしたい。これからの長い人生に比べたらあと少しだと思うようにはしているけれど、やっぱり淋しいなぁ。』
というような、他の人には見せられない愛の詰まった内容の手紙だ。
ハルヴァシ子爵領の復興活動も重なった為、アレイスターの卒業が二カ月を切った頃やっとイェフダとサロメと共に結婚の許可を得る為に挨拶に行き、何の問題も無く許可を得る事が出来た。
「他国から襲撃という、痛ましい事があったがそのおかげで、良縁を結ぶ事が出来た。」
と父であるアイザックは涙を流して喜んだ。
「エレーネから、とても心地よい時間を過ごさせてもらったと聞いているわ。息子となる日を楽しみにしているわね。」
とカティアもエレーネによく似たふわりとした優しい表情を浮かべて微笑んだ。
☆★
アレイスターが卒業すると同時にエレーネとの婚約発表をし、ハルヴァシの屋敷へと婚約者としてやっと世話になる事となった。アイザックから直々に領地経営を学ぶのだ。
チェベルタルス国は、貴族の家の子供が女性だけの場合、婿を取り、その婿が領主を名乗るのが一般的だ。女性の地位は男性に比べて圧倒的に低いからだ。
女性が領主になる場合もあるが、その女領主は周りから酷く貶されるのがほとんど。あからさまに差別されているわけではないが、多くの男性の思想の根本に、女性は男性に付き従っていればよいという古い考えがある為である。
まだ、本格的に現領主であるアイザックから指名されてはいないが、名前だけの領主でもいいからとアレイスターは思っていた。
もちろん、仕事は覚えていくつもりだ。
スクールでも成績は優秀であったのだ、きっと内容は頭に入るのだとは思っている。しかし、小さな頃から領地で当たり前のように生活してきたエレーネとはきっと埋める事が出来ない差があるのだろうと感じている。けれどだからこそ愛するエレーネが、女領主となってしまったとしたら、心無い言葉に涙する事が無いように、という思いからだ。
アレイスターは理解力も早く、ハルヴァシ子爵領は領地も広くない為アイザックから教わって一ヶ月もすると、ほとんど経営の流れを覚えてしまった。なので、今では任せる仕事も増え、それを難なくこなしている為アイザックはアレイスターに信頼を寄せている。アイザックの方もこれならアレイスターが領主となっても上手くやってくれると期待していた。次期領主はアレイスターだと言う日も遠くはないだろう。
結婚式は卒業してから一年後と決まったのでまだ先だが、アレイスターは寮にいた時に比べたら一つ屋根の下にいられるのだから何の事はないと思っていた。
一緒に過ごす時間があるだけで幸せなのだから。
まぁ、あまりスキンシップを取りすぎるのは自制心との闘いとなってしまうから、ほどほどにしないといけないのは苦行だ。父親にも義父にも、結婚式までに妊娠はさせてくれるなよ、とそれこそ耳が痛いくらいに聞かされた。
「エレーネ、一段落ついたんだ。お茶を一緒にしたいのだけど、どうかな?」
「まぁ素敵!けれど、今からブドウの様子を見に行こうと思っていたの。だから一緒に行きましょう?お父様に聞いてみるわ!」
次期子爵夫婦はいつも仲睦まじく、領地経営に精を出す二人を子爵領の至る所で見かけられると専らの噂となった。
それからさらに一週間もすると、国王陛下が国民へと事の顛末をお知らせになった。
《某日、我がチェベルタルス国に、隣国マルゴベクスクの国民が暴徒化し、隣接する国有地を越えてハルヴァシ子爵領に攻め入ってきた。残念ながらハルヴァシ子爵領の民からは犠牲者が出たが国王軍が駆けつけ、最小限に抑えられた。
マルゴベクスクにも当然ながら抗議を唱え、数度の話し合いの結果、国境付近の国有地を貸し与える事とした。彼等は我が国のように豊潤な土地が無い為に暴徒と化したからだ。
その周辺には国王軍も在駐させる故、我がチェベルタルス国民には今後一切の被害も発生しない。
それどころか余らせていた国有地を有効活用でき、収穫した作物を相場の半値で購入する為我が国には利点しかない。
これからもチェベルタルス国が更なる繁栄するよう国の為に奔走する所存だ。皆に幸あれ!!》
…いささか巧妙な言葉で、事実とは多少異なるような気がするが、事実を知る被害を受けた子爵領の人達はおおむね皆、納得した。その後の処理がおざなりであったなら不満を抱いたかもしれないが、復興の為の資材は全て国が用意してくれ、要望も応じてくれたのだ。
国側も、国境から二年前に軍を撤退し、その後何も対策をしていなかった事を少なからず後ろめたいと思っていたのかもしれない。
そしてーーー
アレイスターはといえば、寮に再び戻った為に会えなくなった分、一日とあけずエレーネに向けて手紙を書いていた。母親が兄の嫁に構うのはどうしたらよいかとジョンから、毎日のように手紙が来ていた時には返事を書いてもいなかったのに、その時とは人が変わったようにエレーネには蕩けるほどの愛を綴っていた。
『あぁ、エレーネはどんな事をして過ごしているのかと毎時間考えているよ。エレーネと過ごしたあの日々は、かけがえのない時間だった。エレーネもそう思っているといいなぁ。』
『早くエレーネと一緒に過ごしたい。これからの長い人生に比べたらあと少しだと思うようにはしているけれど、やっぱり淋しいなぁ。』
というような、他の人には見せられない愛の詰まった内容の手紙だ。
ハルヴァシ子爵領の復興活動も重なった為、アレイスターの卒業が二カ月を切った頃やっとイェフダとサロメと共に結婚の許可を得る為に挨拶に行き、何の問題も無く許可を得る事が出来た。
「他国から襲撃という、痛ましい事があったがそのおかげで、良縁を結ぶ事が出来た。」
と父であるアイザックは涙を流して喜んだ。
「エレーネから、とても心地よい時間を過ごさせてもらったと聞いているわ。息子となる日を楽しみにしているわね。」
とカティアもエレーネによく似たふわりとした優しい表情を浮かべて微笑んだ。
☆★
アレイスターが卒業すると同時にエレーネとの婚約発表をし、ハルヴァシの屋敷へと婚約者としてやっと世話になる事となった。アイザックから直々に領地経営を学ぶのだ。
チェベルタルス国は、貴族の家の子供が女性だけの場合、婿を取り、その婿が領主を名乗るのが一般的だ。女性の地位は男性に比べて圧倒的に低いからだ。
女性が領主になる場合もあるが、その女領主は周りから酷く貶されるのがほとんど。あからさまに差別されているわけではないが、多くの男性の思想の根本に、女性は男性に付き従っていればよいという古い考えがある為である。
まだ、本格的に現領主であるアイザックから指名されてはいないが、名前だけの領主でもいいからとアレイスターは思っていた。
もちろん、仕事は覚えていくつもりだ。
スクールでも成績は優秀であったのだ、きっと内容は頭に入るのだとは思っている。しかし、小さな頃から領地で当たり前のように生活してきたエレーネとはきっと埋める事が出来ない差があるのだろうと感じている。けれどだからこそ愛するエレーネが、女領主となってしまったとしたら、心無い言葉に涙する事が無いように、という思いからだ。
アレイスターは理解力も早く、ハルヴァシ子爵領は領地も広くない為アイザックから教わって一ヶ月もすると、ほとんど経営の流れを覚えてしまった。なので、今では任せる仕事も増え、それを難なくこなしている為アイザックはアレイスターに信頼を寄せている。アイザックの方もこれならアレイスターが領主となっても上手くやってくれると期待していた。次期領主はアレイスターだと言う日も遠くはないだろう。
結婚式は卒業してから一年後と決まったのでまだ先だが、アレイスターは寮にいた時に比べたら一つ屋根の下にいられるのだから何の事はないと思っていた。
一緒に過ごす時間があるだけで幸せなのだから。
まぁ、あまりスキンシップを取りすぎるのは自制心との闘いとなってしまうから、ほどほどにしないといけないのは苦行だ。父親にも義父にも、結婚式までに妊娠はさせてくれるなよ、とそれこそ耳が痛いくらいに聞かされた。
「エレーネ、一段落ついたんだ。お茶を一緒にしたいのだけど、どうかな?」
「まぁ素敵!けれど、今からブドウの様子を見に行こうと思っていたの。だから一緒に行きましょう?お父様に聞いてみるわ!」
次期子爵夫婦はいつも仲睦まじく、領地経営に精を出す二人を子爵領の至る所で見かけられると専らの噂となった。
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