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12. そして午後は

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「今から、どうなさいますか。天気もよろしいですから、庭園でも歩かれますか?」

「そうねぇ…。」



 午前中は、サロメ夫人の服をたくさん着させてもらったエレーネ。
 今は昼ご飯を食べ、部屋で一息ついた時にタマルからそう言われた。

(確かに天気はいいわ。でも…。)

 エレーネは、図書室に行きたいと思った。昨日、彼と過ごした時間はとてもゆったりと感じ、苦ではなかった。むしろもっと一緒にいたいと思ってしまった。
 別にたくさん話をしたわけではない。けれど話をする時も、エレーネが記憶が無いのを分かったように、安心させるように言ってくれた心遣いがとても嬉しく感じたのだ。

「庭園も行ってみたいけれど、図書室に行きたいわ。」

「そうですか。ではそのように。今から行かれますか?」

「ええ。」


 昨日借りた本を持って、図書室へと向かうと、アレイスターはすでに昨日と同じ位置で座り、課題をこなしていた。


「では、また外におりますので。」

 そう言って、タマルは図書室から出た。今日はインガは居らずタマルだけがついてきてくれたのだ。

 図書室へ入ると、借りていた本を本棚に戻し、少し違う棚を見た。本当にたくさんの種類がある。今日は何を読もうかとゆっくりと見ていると、国内の特産品について領地毎に詳しく書かれた本棚が目に入った。

(特産品…。)

 ふと、エレーネは目が止まった。だがなぜエレーネは気になったのかが分からない。アレイスターや、サロメは無理に思い出す事はないと言って下さった。だけれど、何かここにヒントがあるのだろうかと上の方から順に目で追った。

「今日も来てくれたんだね。」

 すると、すぐ後ろで声がした。エレーネは気づかなかったが、振り返ると頭一つ分大きなアレイスターがいつの間にか居て、並べられた本を見てから、エレーネの顔を見た。

「エレーネは何か、気になったものがあったかい?さぁ、こちらへおいで。」


 アレイスターは、今日は図書室に入って来た時から気づいた。エレーネが本を選ぶのを待とうとは思ったが、特産品が書かれた本棚の辺りで足を止めている事に気づき、国内の特産品というものから自身の事を思い出すのではないかと思って自分が座っていた椅子へと連れてきたのだ。

(別に、彼女が記憶を取り戻したいならそれでもいい。けれど、そうする事で、彼女は悲しまないだろうか。まだ確かに、現状は分からないが酷い有様だと父上も兄上も言っていたから…もあり得るし。)

 そうアレイスターは思った為、引き離したのだ。

「もしよかったら、外でお茶でもしない?今、庭に咲いた花が見頃なんだって。黄色いミモザって花。春告げ花とも言うね。」

「そうなのですか?あ、でも…課題の方はよろしいのですか?」


 エレーネは、申し出を嬉しく思った。彼とこの同じ空間にいるのもとても心地よかったが、アレイスター様とお話が出来るならしてみたいと思ったし、庭でお茶なんて一人ではないから楽しいかもしれない、そう思った。けれど同時に、机に広げてあった分厚い本やノートが目に入り、そう言えば彼は課題をやると言っていなかったかと思ったのだ。

「うーん、せっかくだからエレーネと過ごしてみたいと思ったんだ。それに、午前中も課題をやっていたからね。粗方終わったんだよ。だから、ご褒美がてら、ね。エレーネは…いやかな?」

 そう聞かれれば、嫌だとは言えなかった。むしろエレーネとしても願ったり叶ったりではあったので、嬉しそうに微笑んで言葉を返した。

「いやではございません。是非に。」

「そう?よかった!じゃあ、どうする?本、選ぶかい?夜にでも読むなら、昨日のシリーズで違う島へと出掛ける冒険の本もあるよ。」


 エレーネは薦められた本を手にし、アレイスターも参考にした書物を戻し、課題を手にして図書室を出た。
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