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9. 午後の図書室

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「俺は、課題をやらないといけないからね。変な事はしないから、来てくれると嬉しいな。」


 アレイスターはエレーネへ、そう図書室へと誘った。
 エレーネは、少し考えたがサロメ夫人の前で誘ってもいたし、確かに図書室へ行きたいと思っていたから昼食を摂ってから行く事にした。

 昨日の夜読んだ本を持って、図書室へと向かう。エレーネの後ろにはインガとタマルが付き従った。


コンコンコン

 図書室の扉を叩いても、返事が無かったのでまだ来ていないのだと思い、ドアノブを回して入った。通路から奥を見ると机に座っている人物が一人いた。アレイスターだ。ノックの音も気づかず、黙々と目の前の紙に何か書いている。

 三人はなるべく音を立てずに図書室へと入った。

 図書室は、エレーネの部屋よりも倍ほども広く、壁際にびっしりと背丈以上もある本棚が並び、本が整然と並んでいる。壁際以外にも縦に本棚が等間隔に並んでいて、本もすき間無く並んでいる。
 一番奥には長いテーブルが置かれていて、そこで本を読んだり、今のアレイスターのように書き物をしたり出来るようになっていた。
 窓はあるがカーテンが引かれて本が傷まないようになっている。

 エレーネは、本を選んでアレイスターの席一つ開けた隣に座った。
 インガとタマルは図書室は狭い為、扉を少し開けて廊下の壁際にある椅子に座って待つと言い、出て行った。


「ん?あ、ごめん!来てくれたんだね、ありがとう!気づかなかったよ。」

 椅子を引いて座る時に、アレイスターはエレーネに気づいて声を掛けた。

「ええ、ノックはしたのですが、どうやら集中されていたようで入ってきてしまいました。お邪魔ではありませんか?」

「うん、大丈夫だよ。ん?その本は、歴史?」

「はい。私、その…お聞きになったか分かりませんが記憶が無くて。ですから、まずこの国チェベルタルス国の事から学び直そうと思ったのです。」

「そっか…勤勉だね。でも、いいんだよ。忘れたという事は、思い出したくないのかもしれないんだし。だから、無理せず、楽しい物語とかを読めばいいんだよ。」

「…はい。でも…。」

「あー!もしかして、俺らに申し訳ないって思ってる?お世話になってしまって、って。でもさ実は、俺の方が申し訳ないって思ってるんだよ?だってさ母上、多分絶対に明日からエレーネを着せ替え人形にしようとしてるんだから。」

「え?着せ替え人形?」

「アハハハ。義姉上にも、嫁いできた時は構い倒してね、兄上が止めてくれって泣きついたみたいだ。その頃俺は寮生活で、毎日のように『母上をどう止めさせたらいいか』の悩みの手紙を送って来たよ。悪気はないんだけど、もし娘がいたらって事をしたいんだと思うんだ。だから少しだけ、母上の相手をしてくれる?どうしても嫌だったら言ってくれればいいから。ね、それでおあいこだから、気にしないでよ。」

 そう言ったアレイスターは、エレーネが持ってきた歴史の本と貴族名鑑を自分の方へ引き寄せた。そして、立ち上がりエレーネの手を引き、本棚へと導いた。

「俺のお薦めは、この辺りなんだけど…エレーネはどういう本が好き?思い出せないならこれから好きな本を見つければいいから。」

 アレイスターは、貴族名鑑を読むエレーネが自分の事を思い出し悲しみに暮れるのを想像し、わざと強引に違う本へと興味を促した。

 エレーネも、この図書室は歴代の領主が集めたのか昔からの本がたくさんあり、また他国の物もあってどれも読んでみたいと興味をそそったのだ。けれどもアレイスターの言うとおり、お世話になっているのに自分の事を思い出そうともせずに本を読んでいいものかと思って、まずは学び直そうと思っていたのだった。

 だが、アレイスターはそれをしなくて良いという。母親の相手をしてくれればいいと。

 それに甘えてもいいものか迷ったが、考える間もなくアレイスターが手を繋ぎ連れて行かれたので少し胸がドキリと高鳴った。

 連れていかれた先は、冒険家のシリーズが数種類並んでいる本棚だった。その前に立ちアレイスターは、『これからお気に入りを見つければいい』と言ってくれた。確かにこの類の本を読んだのかさえ覚えていない。

 お薦めされたのだからと、試しに一つ手に取ってみる。

「お、いいね-!それはさ、船に乗って異国へ行く話なんだ。読んでみるといいよ。」

 なるほど表紙は船が描かれていた。どんな内容なのか想像してみようと食い入って見ていると。

「じゃ、とりあえずそれと、こっちのも読む?これはね、ニンジャっていう異国の話なんだ。」

 いろいろと解説してくれるアレイスターを見てエレーネは、

(アレイスター様は、ここにある本全部読まれているのかしら?)

 と思って聞いてみる事にした。

「こちらは本当にたくさんの本がありますね。アレイスター様は、全部読まれているのですか?」

「いやー、俺は好きな種類しか読んでないかな。体を動かす方が好きだったからね。だけど読んでいたおかげで、スクールに行っても学友と会話が弾んだ気がするね。」

「そうなのですね。素晴らしいです。スクール…。」

 スクールは自分も通ったのかと考えてみたが頭はやはり靄が掛かったように何も思い浮かばなかった。

「さ、席に着こう!読みたくなったんじゃない?俺が座ってた所の隣にある扉の向こうは、ソファーがあるしロッキングチェアもあるよ。どこで読む?読む場所でも、雰囲気が変わっていいんだよ。」

 そう言って、アレイスターはまたエレーネの手を引っ張り自身が座っていた机へと戻って来た。スクールと言ったことでエレーネが考え込んでしまったので、アレイスターは少し心配になり気分を変えようと思ってそう言ったのだ。

 アレイスターが座っていた椅子の壁際には、扉があった。
 エレーネは、それは廊下へと続く出入り口だと思っていたが、その奥が寛いで本を読める場所になっているようだ。
 エレーネはその扉を開けてもらい、アレイスターから見えるすぐ傍でソファーに座って読む事にした。

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