【完結】双子の入れ替わりなんて本当に出来るのかしら、と思ったら予想外の出来事となりました。

まりぃべる

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18. 王宮での催し

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 次の週末。


 昼過ぎに家族で王宮へ向かう為、朝からそれぞれの部屋でしっかりと準備をしていた。

 コーラは今、シェスティンの横の髪を少しだけ、緩くクルクルと上の方に纏めて髪留めで止め終えた。
 全ての支度が終わり、鏡越しに化粧台の前のスツールに座っているシェスティンへと声を掛ける。


「シェスティン様、どうでしょうか。」

「えぇ、ありがとう。
……ねぇコーラ、緊張するわ。」

「シェスティン様……とてもお綺麗ですよ。今日は楽しんで来て下さいませ。王宮は、シェスティン様のお好きな建築様式なのですよね?学ぶべき所があると前回も言われておりました。ですから、楽しんでこればよろしいのですよ。
それに、何か分からないですが歴史的な物が見られるのですよね?」

「そう…そうね。楽しまないとね!」


 シェスティンは緊張しているというより、ランナルやビルギッタの姿が見られるのにその二人と話が出来ないのが淋しいのだ。
憂いの表情を隠し、席を移動して、出発の時間まで軽食を摘まんでいた。





☆★

「あら。シェスティン、そのドレスにしたの?地味じゃない?」

「フレドリカ!シェスティンは最近新調してなかったから仕方ないのよ!
シェスティン大丈夫よ?そのドレス、あなたにとてもよく似合っているわ!
…でも、さすがに場所は王宮なのよ?もう少し明るめな色が無かったの?」


 馬車に乗った家族四人であったが、早速フレドリカとカイサに言葉を掛けられる。
 今日のシェスティンのドレスは、淡い水色のドレスであった。対して、カイサは真紅の、フレドリカも真っ赤なドレスであった。カイサもフレドリカも、ビビッドカラーで特に赤が大好きなのだ。
しかしシェスティンはそのようにはっきりした色合いはドレスで着ようとは思わない。だからいつも淡い色を好んで着ている。


「フレドリカもカイサも!シェスティンが好きなものを着たのだからいいだろう?好みを相手に押し付けるものではないよ。」

「まぁ!押し付けてはいないですわよ、あなた!」

「そうよお父様!これでも一応、あと一年も立たずに結婚できる年齢になるでしょう?こういう機会を逃してはいけないと思うのよ。目立つに越したことはないわ!」


 フレドリカもカイサも共に首元と耳元には大きな宝石が幾つもついたネックレスとイヤリングが重そうに付いていた。そこが引きちぎれそうだと心配するほど、そこに目がいってしまうからシェスティンは宝石もあまり付けなかった。
首元が空いている為、細いチェーンに小さな宝石が一つついた物を付けただけである。


「…フレドリカ。目立たなくても、相手の目に留まる事はあるのだよ。いいかい?くれぐれも悪目立ちだけはしないでおくれ。」

「まぁ!お父様ってば、私が悪目立ちするわけないですわよ!シェスティンこそ気をつけなさいよ?あなたは、学校に通っていないのだから人との接し方が分からないかもしれないもの。」

「!」

「フレドリカ!いい加減にしなさい!
シェスティンはね、学校には通っていなくとも、人と接してはいるのだよ。だから心配はしなくていいから!」


(お父様…!)


 シェスティンは、フレドリカ人との接し方について言われて確かにその通りだと思い悲しくなった。けれども、アロルドがそう庇うよう言葉を言ってくれた為に、少しだけ落ち込んでいた気分が上昇した。
シェスティンは、基礎学校には通っていなくとも、王都へ行き、庶民と触れ合っているのだ。
 そこから学んだ、親を亡くした子供達の居場所を作ったり、その逆で子供を亡くした人達の居場所をオールストレーム領の空き家などを使って提供したりしていたのだ。
それはもちろん、シェスティンの考えを元にコーラとディックがアロルドへと報告し、実行に移してきたのだ。
王都で困っている人を直接どうこうするのは管轄が違うから出来ないが、アロルドの監視下でならと許可を出したのだった。


「あなた!フレドリカを叱らないで下さいな!あぁ、そろそろ着くころかしらね!二人とも、私のお友達を見つけたら呼ぶから、分かるところにいなさいね!」


 カイサが言ったように、馬車の少しだけ開いた小窓から、兵士の声が聞こえてきて、馬車が止まった。






☆★

 馬車から降りたオールストレーム家の四人は、会場となる大広間へ向かった。あと一年弱で参加出来る、ダンスパーティーの会場でもある場所だ。
シェスティンはわくわくする心を抑えながら、家族について行った。


(あぁ、王宮はとても広く、素晴らしい造りよね…!天井は無駄に広いし、作るのさぞかし大変だったでしょうね。
廊下には絵画が額縁に入って飾られているわ!どこの領地かしら?風景画が等間隔に置かれているのね。)


 以前も置いてあったかもしれないが、校外授業で芸術を学んだシェスティンだから余計に目が惹かれていた。




「まぁ…!」

「わー凄い人!あ、私、あっちに行ってくるわ!」

「あ、フレドリカ!?…もう!あとで連れ戻さなくっちゃ!」

「じゃああとでな。シェスティンも疲れたなら、壁際に椅子が並んでいるから適当に座っているといい。」

「そうね、そうすれば私のお友達に紹介する時にすぐ呼び戻せるわね!じゃあね、シェスティン!」


 シェスティンは会場のすでにいる人達の熱気に圧倒されたのだが、フレドリカは友人を見つけたようでさっさとそちらへと向かう。
アロルドも仕事関係なのか私的な友人なのか、人だかりの方へと向かう。
カイサも自分の友人を見つけに会場の中心部へと向かって行った。


 シェスティンは三人を見届けると、入り口に立っていては邪魔だと思い、キョロキョロとしてから奥のテラスに近い壁際の椅子に座った。まだ、始まったばかりであるから座っている人はいなかった。


(私にも、お友達がいればこういう時に話し掛けに行くのでしょうけれど…)


 シェスティンはこのような場に出てくる貴族の友人がいない。そうすると、社交界に参加しても自分はこのように壁際にいるだけなのではないかと思い、それも仕方ない事なのよねと下を向いた。皆、友人同士なのかところどころ集まって塊になり楽しそうに話している。それを見て、気持ちが暗くなってしまったのだ。



 しかし、そんな時。


「あぁ、こんな所にいたのね!」


 と、いつもの快活な、ビルギッタの声が聞こえ、隣の椅子に座った。


(え!?)


 シェスティンは慌てて顔を上げ、隣の椅子を見るとビルギッタがニッコリ笑って言った。


「どうしたの?とても悲しそうに見えるけれど。何かあった?
…あぁ、歴史的な何かをいつになったら見れるのかって不安になってたの?大丈夫よ?あともう幾らかしたら見せてくれるわよ!」


 いつもの、校外授業の時と変わらないその口調にシェスティンは涙が出るほど嬉しく思い、言葉を繋ぐ事が出来ないでいた。


「ちょっと…本当に大丈夫?どこか痛いの?それとも体調悪い?あなた、部屋を借りる?」


 シェスティンの顔を覗き込んだビルギッタは慌ててハンカチを出し、シェスティンの手元に差し出した。


「ほら。とりあえず拭いたら?」


 そうビルギッタに言われ、涙をこぼしている事にシェスティンは初めて気づいた。
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