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9. 新しい学び
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二日前に購入した本はフレンズブルグ国の冒険物の小説と、フレンスブルグ語の辞書と参考書であった。
その内の、冒険小説を読んでいた。一般的な七歳にしては難しくはあったが、それよりもシェスティンは物語の続きが知りたいという好奇心の方が勝る為、難しい言葉があれば辞書を引きつつ読み進めていた。
と、ディックが部屋に入ってきた。ディックは、シェスティンが屋敷にいる間は大抵違う場所で他の仕事をしている。護衛とは言っても、屋敷の中にまで危険はないからだ。
シェスティンに今から書庫へ行こうと促した。
コーラと三人でシェスティンは屋敷の書庫へと向かった。
(書庫に何かあるのかしら。ディックが言うなんて珍しいわ。)
シェスティンはそう思いながら進むと、書庫の扉の前にいる三人が見えた。しかし、腰を屈めて頭を下げている為に顔が見えなかった。
(え?誰かしら。)
「さぁ、中へどうぞ。」
ディックがそう言って、シェスティンを促す。コーラが中へ入り、正面のテーブルに座るようにイスを引いたコーラが後ろへ下がった時に、ディックが話し出した。
「シェスティン様。今日からフレンスブルグ語を覚えるか?」
そう言ったディックは、廊下に控えていた三人を中へ引き入れた。
(え!?オッレとアイナ!?)
以前は薄汚れて、ところどころ穴が空いていた服を着ていたのに、今は使用人の制服を着ているが顔は正に二日前に会った二人であった。
「アロルド様のお許しが出たから、三人を連れてきたんだ。彼女が、オッレとアイナの祖母のバルプロだ。」
シェスティンの向かいのテーブルの前で並んだ三人は、シェスティンへ向かって深々と一礼をした。
「まぁ!来てくれてありがとう!使用人の服を着ているって事は、ここで雇うの?ディックもコーラもありがとう!」
シェスティンは、手を叩いて喜んだ。それを見たコーラも微笑みながらも諫める。
「シェスティン様。しかしこの者達を特別扱いするのはいけませんよ。他の使用人が妬んでしまいかねませんからね。」
「分かったわ!オッレとアイナもここで働くの?」
「そうです。オッレはどうやら父親から少し剣術を習っていたみたいですから、護衛も出来るようになるといいですね。でも二人はまずは下働きから。なので、あまりシェスティン様と顔を合わせる事はないでしょう。」
「あら…残念ね。でも、その方がきっとオッレとアイナにはいいのよね?いきなりコーラの下につくのは良くないのでしょう?」
「そうです。物には順序というものがありますからね。知り合いだからと贔屓していてはお互いの為にはなりません。まずはしっかりと基礎を覚えてからですね。」
「そうなのね。オッレ、アイナ、あまり会えないのですって。でも、同じ屋敷にいるのだもの。会った時はよろしくね!」
「ああ。…じゃなかった!はい。シェスティン様、ありがとうございます。」
「畏まらないで!…といっても、無理なのよね、きっと。
お役に立てたかしら?」
「はい。家族三人バラバラにならずに、しかも衣食住まで…!話が来た時は驚いたよ!…あ!お、驚きました。本当にありがとうございます。」
「言葉遣いは、意識しないと話せるようにならないから普段から努力するように。少しずつ覚えていくんだ。
さぁ、二人は仕事があるからこれで終わりだ。少しずつ慣れさせていかないとな。
コーラ、あとはよろしく。」
「はい。では、オッレ、アイナ、来なさい。大変かもしれませんが、頑張るのですよ。」
コーラが、二人を連れて部屋から出ようとした時に、シェスティンは最後にまた声を掛けた。
「オッレ、アイナ!何かあればコーラやディックに言うのよ?頑張ってちょうだいね。」
オッレとアイナは会釈をして、コーラについて行った。
「さぁ。バルプロ。本当にフレンスブルグ語を教えられるな?」
ディックがそう、バルプロへと聞いた。
「えぇ。私は嘘なんてつきませんよ。
シェスティン様、よろしくお願いします。この老いぼれの知識がお嬢様の役に立てるなら、ここまで生きてきた甲斐があるというものですな。」
そう言ったバルプロは、膝と背筋を曲げてカーテシーをした。
「私はね、昔は商船に乗ってフレンスブルグに行った事もあったのだよ。裕福ではなかったが、私がシェスティン様くらいの年頃の時はまだ父が男爵だったのです。しかし父が手を出した事業が失敗して没落し、平民となってしまったがね。」
「そうだったのですか…。」
「まぁ私の話は必要ないか。…私も、言葉遣いは気をつけないといけないね。
私達家族を、こちらで雇って下さりありがとうございました。本当に助かりました。出来る限り、お力になれるよう努力しますので、よろしくお願い致します。」
「バルプロさん!じゃなくて、先生!顔を上げて下さい!」
「止めておくれ!先生なんて器じゃあないよ。」
「でも教わるのなら、やっぱり先生よね!?」
「まぁそうだがねぇ…使用人でもあるから、やはりバルプロと呼んでくれればいいですよ。
…申し訳ありませんね、庶民の生活が長かったので、なかなか言葉遣いが慣れませんで。」
「では、シェスティン様。そう呼ぶ事にしよう。確かに、使用人ではあるし。
バルプロ、言葉遣いはゆっくりでいいが努力するように。他の使用人に示しがつかん。」
「分かりましたよ。あ!…承知致しました。」
「ふふふ。バルプロ、よろしくお願いします。」
シェスティンは学びたいと思ったフレンスブルグ語が学べるとこれからの事を思ってウキウキとしていた。
その内の、冒険小説を読んでいた。一般的な七歳にしては難しくはあったが、それよりもシェスティンは物語の続きが知りたいという好奇心の方が勝る為、難しい言葉があれば辞書を引きつつ読み進めていた。
と、ディックが部屋に入ってきた。ディックは、シェスティンが屋敷にいる間は大抵違う場所で他の仕事をしている。護衛とは言っても、屋敷の中にまで危険はないからだ。
シェスティンに今から書庫へ行こうと促した。
コーラと三人でシェスティンは屋敷の書庫へと向かった。
(書庫に何かあるのかしら。ディックが言うなんて珍しいわ。)
シェスティンはそう思いながら進むと、書庫の扉の前にいる三人が見えた。しかし、腰を屈めて頭を下げている為に顔が見えなかった。
(え?誰かしら。)
「さぁ、中へどうぞ。」
ディックがそう言って、シェスティンを促す。コーラが中へ入り、正面のテーブルに座るようにイスを引いたコーラが後ろへ下がった時に、ディックが話し出した。
「シェスティン様。今日からフレンスブルグ語を覚えるか?」
そう言ったディックは、廊下に控えていた三人を中へ引き入れた。
(え!?オッレとアイナ!?)
以前は薄汚れて、ところどころ穴が空いていた服を着ていたのに、今は使用人の制服を着ているが顔は正に二日前に会った二人であった。
「アロルド様のお許しが出たから、三人を連れてきたんだ。彼女が、オッレとアイナの祖母のバルプロだ。」
シェスティンの向かいのテーブルの前で並んだ三人は、シェスティンへ向かって深々と一礼をした。
「まぁ!来てくれてありがとう!使用人の服を着ているって事は、ここで雇うの?ディックもコーラもありがとう!」
シェスティンは、手を叩いて喜んだ。それを見たコーラも微笑みながらも諫める。
「シェスティン様。しかしこの者達を特別扱いするのはいけませんよ。他の使用人が妬んでしまいかねませんからね。」
「分かったわ!オッレとアイナもここで働くの?」
「そうです。オッレはどうやら父親から少し剣術を習っていたみたいですから、護衛も出来るようになるといいですね。でも二人はまずは下働きから。なので、あまりシェスティン様と顔を合わせる事はないでしょう。」
「あら…残念ね。でも、その方がきっとオッレとアイナにはいいのよね?いきなりコーラの下につくのは良くないのでしょう?」
「そうです。物には順序というものがありますからね。知り合いだからと贔屓していてはお互いの為にはなりません。まずはしっかりと基礎を覚えてからですね。」
「そうなのね。オッレ、アイナ、あまり会えないのですって。でも、同じ屋敷にいるのだもの。会った時はよろしくね!」
「ああ。…じゃなかった!はい。シェスティン様、ありがとうございます。」
「畏まらないで!…といっても、無理なのよね、きっと。
お役に立てたかしら?」
「はい。家族三人バラバラにならずに、しかも衣食住まで…!話が来た時は驚いたよ!…あ!お、驚きました。本当にありがとうございます。」
「言葉遣いは、意識しないと話せるようにならないから普段から努力するように。少しずつ覚えていくんだ。
さぁ、二人は仕事があるからこれで終わりだ。少しずつ慣れさせていかないとな。
コーラ、あとはよろしく。」
「はい。では、オッレ、アイナ、来なさい。大変かもしれませんが、頑張るのですよ。」
コーラが、二人を連れて部屋から出ようとした時に、シェスティンは最後にまた声を掛けた。
「オッレ、アイナ!何かあればコーラやディックに言うのよ?頑張ってちょうだいね。」
オッレとアイナは会釈をして、コーラについて行った。
「さぁ。バルプロ。本当にフレンスブルグ語を教えられるな?」
ディックがそう、バルプロへと聞いた。
「えぇ。私は嘘なんてつきませんよ。
シェスティン様、よろしくお願いします。この老いぼれの知識がお嬢様の役に立てるなら、ここまで生きてきた甲斐があるというものですな。」
そう言ったバルプロは、膝と背筋を曲げてカーテシーをした。
「私はね、昔は商船に乗ってフレンスブルグに行った事もあったのだよ。裕福ではなかったが、私がシェスティン様くらいの年頃の時はまだ父が男爵だったのです。しかし父が手を出した事業が失敗して没落し、平民となってしまったがね。」
「そうだったのですか…。」
「まぁ私の話は必要ないか。…私も、言葉遣いは気をつけないといけないね。
私達家族を、こちらで雇って下さりありがとうございました。本当に助かりました。出来る限り、お力になれるよう努力しますので、よろしくお願い致します。」
「バルプロさん!じゃなくて、先生!顔を上げて下さい!」
「止めておくれ!先生なんて器じゃあないよ。」
「でも教わるのなら、やっぱり先生よね!?」
「まぁそうだがねぇ…使用人でもあるから、やはりバルプロと呼んでくれればいいですよ。
…申し訳ありませんね、庶民の生活が長かったので、なかなか言葉遣いが慣れませんで。」
「では、シェスティン様。そう呼ぶ事にしよう。確かに、使用人ではあるし。
バルプロ、言葉遣いはゆっくりでいいが努力するように。他の使用人に示しがつかん。」
「分かりましたよ。あ!…承知致しました。」
「ふふふ。バルプロ、よろしくお願いします。」
シェスティンは学びたいと思ったフレンスブルグ語が学べるとこれからの事を思ってウキウキとしていた。
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