【完結】双子の入れ替わりなんて本当に出来るのかしら、と思ったら予想外の出来事となりました。

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
9 / 29

9.  新しい学び

しおりを挟む
 二日前に購入した本はフレンズブルグ国の冒険物の小説と、フレンスブルグ語の辞書と参考書であった。
その内の、冒険小説を読んでいた。一般的な七歳にしては難しくはあったが、それよりもシェスティンは物語の続きが知りたいという好奇心の方が勝る為、難しい言葉があれば辞書を引きつつ読み進めていた。


 と、ディックが部屋に入ってきた。ディックは、シェスティンが屋敷にいる間は大抵違う場所で他の仕事をしている。護衛とは言っても、屋敷の中にまで危険はないからだ。

 シェスティンに今から書庫へ行こうと促した。


 コーラと三人でシェスティンは屋敷の書庫へと向かった。


(書庫に何かあるのかしら。ディックが言うなんて珍しいわ。)


 シェスティンはそう思いながら進むと、書庫の扉の前にいる三人が見えた。しかし、腰を屈めて頭を下げている為に顔が見えなかった。


(え?誰かしら。)


「さぁ、中へどうぞ。」


 ディックがそう言って、シェスティンを促す。コーラが中へ入り、正面のテーブルに座るようにイスを引いたコーラが後ろへ下がった時に、ディックが話し出した。


「シェスティン様。今日からフレンスブルグ語を覚えるか?」


 そう言ったディックは、廊下に控えていた三人を中へ引き入れた。


(え!?オッレとアイナ!?)


 以前は薄汚れて、ところどころ穴が空いていた服を着ていたのに、今は使用人の制服を着ているが顔は正に二日前に会った二人であった。


「アロルド様のお許しが出たから、三人を連れてきたんだ。彼女が、オッレとアイナの祖母のバルプロだ。」


 シェスティンの向かいのテーブルの前で並んだ三人は、シェスティンへ向かって深々と一礼をした。


「まぁ!来てくれてありがとう!使用人の服を着ているって事は、ここで雇うの?ディックもコーラもありがとう!」


 シェスティンは、手を叩いて喜んだ。それを見たコーラも微笑みながらも諫める。


「シェスティン様。しかしこの者達を特別扱いするのはいけませんよ。他の使用人が妬んでしまいかねませんからね。」

「分かったわ!オッレとアイナもここで働くの?」

「そうです。オッレはどうやら父親から少し剣術を習っていたみたいですから、護衛も出来るようになるといいですね。でも二人はまずは下働きから。なので、あまりシェスティン様と顔を合わせる事はないでしょう。」

「あら…残念ね。でも、その方がきっとオッレとアイナにはいいのよね?いきなりコーラの下につくのは良くないのでしょう?」

「そうです。物には順序というものがありますからね。知り合いだからと贔屓していてはお互いの為にはなりません。まずはしっかりと基礎を覚えてからですね。」

「そうなのね。オッレ、アイナ、あまり会えないのですって。でも、同じ屋敷にいるのだもの。会った時はよろしくね!」

「ああ。…じゃなかった!はい。シェスティン様、ありがとうございます。」

「畏まらないで!…といっても、無理なのよね、きっと。
お役に立てたかしら?」

「はい。家族三人バラバラにならずに、しかも衣食住まで…!話が来た時は驚いたよ!…あ!お、驚きました。本当にありがとうございます。」

「言葉遣いは、意識しないと話せるようにならないから普段から努力するように。少しずつ覚えていくんだ。
さぁ、二人は仕事があるからこれで終わりだ。少しずつ慣れさせていかないとな。
コーラ、あとはよろしく。」

「はい。では、オッレ、アイナ、来なさい。大変かもしれませんが、頑張るのですよ。」


 コーラが、二人を連れて部屋から出ようとした時に、シェスティンは最後にまた声を掛けた。


「オッレ、アイナ!何かあればコーラやディックに言うのよ?頑張ってちょうだいね。」


 オッレとアイナは会釈をして、コーラについて行った。



「さぁ。バルプロ。本当にフレンスブルグ語を教えられるな?」


 ディックがそう、バルプロへと聞いた。


「えぇ。私は嘘なんてつきませんよ。
シェスティン様、よろしくお願いします。この老いぼれの知識がお嬢様の役に立てるなら、ここまで生きてきた甲斐があるというものですな。」


 そう言ったバルプロは、膝と背筋を曲げてカーテシーをした。


「私はね、昔は商船に乗ってフレンスブルグに行った事もあったのだよ。裕福ではなかったが、私がシェスティン様くらいの年頃の時はまだ父が男爵だったのです。しかし父が手を出した事業が失敗して没落し、平民となってしまったがね。」

「そうだったのですか…。」

「まぁ私の話は必要ないか。…私も、言葉遣いは気をつけないといけないね。
私達家族を、こちらで雇って下さりありがとうございました。本当に助かりました。出来る限り、お力になれるよう努力しますので、よろしくお願い致します。」

「バルプロさん!じゃなくて、先生!顔を上げて下さい!」

「止めておくれ!先生なんて器じゃあないよ。」

「でも教わるのなら、やっぱり先生よね!?」

「まぁそうだがねぇ…使用人でもあるから、やはりバルプロと呼んでくれればいいですよ。
…申し訳ありませんね、庶民の生活が長かったので、なかなか言葉遣いが慣れませんで。」

「では、シェスティン様。そう呼ぶ事にしよう。確かに、使用人ではあるし。
バルプロ、言葉遣いはゆっくりでいいが努力するように。他の使用人に示しがつかん。」

「分かりましたよ。あ!…承知致しました。」

「ふふふ。バルプロ、よろしくお願いします。」


 シェスティンは学びたいと思ったフレンスブルグ語が学べるとこれからの事を思ってウキウキとしていた。



しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく

21時完結
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

幼なじみの王子には、既に婚約者がいまして

mkrn
恋愛
幼なじみの王子の婚約者の女性は美しく、私はーー。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

処理中です...