8 / 29
8. 侍女と侍従の報告
しおりを挟む
コーラとディックは同じ年齢である。
二人共にシェスティンよりも十六歳年上で、シェスティンが幼い頃より側でお世話をしている為に同僚というより同志のような関係である。
コーラは子爵家の二女であり、商売も営んでいる子爵家であったからそれなりに裕福であった為に様々な習い事を習っていた。そのままどこぞの貴族と結婚する道もあったが、侍女として働くいう道を選んだ。
ディックは庶民の出で、言わばごろつきともいえる血の気の多い若者だった。それを、王都で喧嘩をしていた所をたまたま見たアロルドが、だったらうちで働けと半ば強引に連れて来たのだ。
ディックは、今ではそんなアロルドに感謝し、真面目に尽くしている。
「シェスティン様は本当に人が良いわ。あんなに学校を楽しみにしていたのに、フレドリカ様ったら何をお考えなのかしら!」
「フレドリカ様付きの奴らから聞いていないのか?」
「普段通りよ。何を考えているか良く分からない、ですって。」
「…まぁ、だろうな。
それよりも、どうお伝えするかだ。」
「あら。ディックが伝える?一緒にアロルド様の所へ行く?」
「まぁ、いつものように一緒に報告するか。フォローしろよ。」
「分かってるわ。と言っても、アロルド様はディックの事気に入ってるし、あなたが話せば大抵通るんじゃないの?」
「気に入ってくれてるかは分からないが…まぁ、ありがたいな。書籍店行った次の日まで王都に行かせてくれたんだからな。おかげで約束が守れたよ。」
「そうね、アロルド様が王都に二日続けては行ってはいけませんと言われていたら、オッレとアイナを待ちぼうけさせてしまうところだったもの。
じゃあ私は、何かあれば口出すけれど、ディックがアロルド様へ報告してちょうだい。」
王都へオッレとアイナに会いに行った日の夜、シェスティンが部屋のベッドに入り眠りについた後にいつものようにコーラとディックはアロルドへと報告をしに執務室へと向かう。
アロルドは、子供達が一日何をしていたか、報告をさせているのだ。
フレドリカの侍女ロリと、侍従でアロルドの甥であるエッベにも報告をさせている。エッベの父はアロルドの弟で数年前に亡くなり、それからは侍従というか話し相手にフレドリカへと付けているのだ。
フレドリカはシェスティンよりも寝るのが少し遅い為、コーラとディックは報告する時にかち合った事がない。
☆★
「どうだ?シェスティンは。」
「はい。学校に通えなかったのは残念がってはいますが、それでも学校に通っていては学べなかっただろう好きな事が出来ると言われています。」
「そうか…シェスティンは優秀だからな。もし望むのであれば、応用学校に飛び級で受験させてもいいかもしれんな。」
「はい。書籍店でも、異国の話の本に興味を持たれ、購入していましたし。
それから今日孤児とシェスティン様は話をしました。そこで、シェスティン様は慈悲深く、心優しい事が改めて分かりました。」
「うん?そうか。さすがだ。」
「孤児の境遇に酷い衝撃を打たれていました。元軍人の子だったのですが、亡くなると家も追い出され、路上生活者となっていました。」
「ん?昨日の話では、その孤児はシェスティンと同じような年頃だったよな。」
「はい。上の男が八歳、下の女が六歳だそうです。」
「可哀想に。その歳で路上生活者…ならシェスティンにはまだ早かったか?戦争の話なんぞは、きっと心痛めておったろう?」
「それはそうでしたが、それに加えて…」
「なんだ?」
「暗に、助けたいご様子がありありと見受けられました。
祖母もいるらしいのですが、子供の話によるとフレンスブルグ語が話せるそうで、今シェスティン様が覚えたい言葉の一つで目を輝かせておりました。」
「ふむ…。」
「若き頃のアロルド様を思い出しました。」
「…ディックよ。お前の目からはどう思う?」
「どう、とは?」
「その三人をうちで引き受ける事は簡単だ。だが、果たして役に立つか?」
「まず、本当にフレンスブルグ語が話せるかが問題です。しかしそれが嘘であったとしても、八歳と六歳でありますから使用人にする事も出来るでしょう。けれど心配事はそれだけではありません。」
「なんだ?」
「カイサ様はどう思われますか?」
「カイサが?なぜだ。」
「カイサ様は、シェスティン様が学校に通わなければその浮いたお金をドレスや装飾品代に充てると言われておりましたから。シェスティン様の知り合いをわざわざ使用人にするというのはあまり良く思われないかと。」
「なるほどな。その辺りは上手くやればいい。使用人の入れ替えなんて良くあるからな。
コーラはどうだ?どう思う?」
「はい。本当にその祖母がフレンスブルグ語を話せればシェスティン様は教わりたいと思っておりますから、三人をこちらで雇うのであれば、お喜びになると思います。
その三人を助けるだけでは、他にも路上生活者がいそうですので根本的な解決にはならないでしょうけれど、シェスティン様はその問題までもどうにかしていきたいと言われていました。
あの年齢でそう考えられるのは素晴らしいと思います。
それから、使用人棟で生活するのですし、見習いとして始めるのであれば下働きからですから、カイサ様とはあまり顔を合わせないと思います。それに、見習いはそろそろ補充の時期でもありましたから、不自然ではないと思います。」
「そうだな。カイサは確かに思わぬ所が気になるみたいだが、大丈夫だろう。ではそのようにするとしよう。
しかし、シェスティンはそう感じたのか…。いい学びであったのだな。」
「もし、フレンスブルグ語を習得したとして、もっと深く学びたいとしたら、応用学校も通いたいと言われるかもしれませんね。」
「今の時代では役に立つかは分からんが、それでも学びたいとはシェスティンは優秀だな。シェスティンは…」
「え?」
「いや、なんでもない。だからこそ、基礎学校よりも自主学習で学んだ方がシェスティンの為かもしれんな。これからも、学びたい事に繋がる事であれば優先させてやらせてやるといい。王都も、学びがあるのなら好きに行かせてやれ。その内、教会にもボランティアに行かせてみるか。」
「承知しました。」
「ディック、コーラ。これからもシェスティンをよろしく頼む。」
「勿体ないお言葉。」
「もちろんでございます。」
ディックとコーラは、アロルドに話すのが上手く言って良かったと思った。そして、シェスティンが喜ぶだろうなと二人共に満足げで部屋を辞した。
二人共にシェスティンよりも十六歳年上で、シェスティンが幼い頃より側でお世話をしている為に同僚というより同志のような関係である。
コーラは子爵家の二女であり、商売も営んでいる子爵家であったからそれなりに裕福であった為に様々な習い事を習っていた。そのままどこぞの貴族と結婚する道もあったが、侍女として働くいう道を選んだ。
ディックは庶民の出で、言わばごろつきともいえる血の気の多い若者だった。それを、王都で喧嘩をしていた所をたまたま見たアロルドが、だったらうちで働けと半ば強引に連れて来たのだ。
ディックは、今ではそんなアロルドに感謝し、真面目に尽くしている。
「シェスティン様は本当に人が良いわ。あんなに学校を楽しみにしていたのに、フレドリカ様ったら何をお考えなのかしら!」
「フレドリカ様付きの奴らから聞いていないのか?」
「普段通りよ。何を考えているか良く分からない、ですって。」
「…まぁ、だろうな。
それよりも、どうお伝えするかだ。」
「あら。ディックが伝える?一緒にアロルド様の所へ行く?」
「まぁ、いつものように一緒に報告するか。フォローしろよ。」
「分かってるわ。と言っても、アロルド様はディックの事気に入ってるし、あなたが話せば大抵通るんじゃないの?」
「気に入ってくれてるかは分からないが…まぁ、ありがたいな。書籍店行った次の日まで王都に行かせてくれたんだからな。おかげで約束が守れたよ。」
「そうね、アロルド様が王都に二日続けては行ってはいけませんと言われていたら、オッレとアイナを待ちぼうけさせてしまうところだったもの。
じゃあ私は、何かあれば口出すけれど、ディックがアロルド様へ報告してちょうだい。」
王都へオッレとアイナに会いに行った日の夜、シェスティンが部屋のベッドに入り眠りについた後にいつものようにコーラとディックはアロルドへと報告をしに執務室へと向かう。
アロルドは、子供達が一日何をしていたか、報告をさせているのだ。
フレドリカの侍女ロリと、侍従でアロルドの甥であるエッベにも報告をさせている。エッベの父はアロルドの弟で数年前に亡くなり、それからは侍従というか話し相手にフレドリカへと付けているのだ。
フレドリカはシェスティンよりも寝るのが少し遅い為、コーラとディックは報告する時にかち合った事がない。
☆★
「どうだ?シェスティンは。」
「はい。学校に通えなかったのは残念がってはいますが、それでも学校に通っていては学べなかっただろう好きな事が出来ると言われています。」
「そうか…シェスティンは優秀だからな。もし望むのであれば、応用学校に飛び級で受験させてもいいかもしれんな。」
「はい。書籍店でも、異国の話の本に興味を持たれ、購入していましたし。
それから今日孤児とシェスティン様は話をしました。そこで、シェスティン様は慈悲深く、心優しい事が改めて分かりました。」
「うん?そうか。さすがだ。」
「孤児の境遇に酷い衝撃を打たれていました。元軍人の子だったのですが、亡くなると家も追い出され、路上生活者となっていました。」
「ん?昨日の話では、その孤児はシェスティンと同じような年頃だったよな。」
「はい。上の男が八歳、下の女が六歳だそうです。」
「可哀想に。その歳で路上生活者…ならシェスティンにはまだ早かったか?戦争の話なんぞは、きっと心痛めておったろう?」
「それはそうでしたが、それに加えて…」
「なんだ?」
「暗に、助けたいご様子がありありと見受けられました。
祖母もいるらしいのですが、子供の話によるとフレンスブルグ語が話せるそうで、今シェスティン様が覚えたい言葉の一つで目を輝かせておりました。」
「ふむ…。」
「若き頃のアロルド様を思い出しました。」
「…ディックよ。お前の目からはどう思う?」
「どう、とは?」
「その三人をうちで引き受ける事は簡単だ。だが、果たして役に立つか?」
「まず、本当にフレンスブルグ語が話せるかが問題です。しかしそれが嘘であったとしても、八歳と六歳でありますから使用人にする事も出来るでしょう。けれど心配事はそれだけではありません。」
「なんだ?」
「カイサ様はどう思われますか?」
「カイサが?なぜだ。」
「カイサ様は、シェスティン様が学校に通わなければその浮いたお金をドレスや装飾品代に充てると言われておりましたから。シェスティン様の知り合いをわざわざ使用人にするというのはあまり良く思われないかと。」
「なるほどな。その辺りは上手くやればいい。使用人の入れ替えなんて良くあるからな。
コーラはどうだ?どう思う?」
「はい。本当にその祖母がフレンスブルグ語を話せればシェスティン様は教わりたいと思っておりますから、三人をこちらで雇うのであれば、お喜びになると思います。
その三人を助けるだけでは、他にも路上生活者がいそうですので根本的な解決にはならないでしょうけれど、シェスティン様はその問題までもどうにかしていきたいと言われていました。
あの年齢でそう考えられるのは素晴らしいと思います。
それから、使用人棟で生活するのですし、見習いとして始めるのであれば下働きからですから、カイサ様とはあまり顔を合わせないと思います。それに、見習いはそろそろ補充の時期でもありましたから、不自然ではないと思います。」
「そうだな。カイサは確かに思わぬ所が気になるみたいだが、大丈夫だろう。ではそのようにするとしよう。
しかし、シェスティンはそう感じたのか…。いい学びであったのだな。」
「もし、フレンスブルグ語を習得したとして、もっと深く学びたいとしたら、応用学校も通いたいと言われるかもしれませんね。」
「今の時代では役に立つかは分からんが、それでも学びたいとはシェスティンは優秀だな。シェスティンは…」
「え?」
「いや、なんでもない。だからこそ、基礎学校よりも自主学習で学んだ方がシェスティンの為かもしれんな。これからも、学びたい事に繋がる事であれば優先させてやらせてやるといい。王都も、学びがあるのなら好きに行かせてやれ。その内、教会にもボランティアに行かせてみるか。」
「承知しました。」
「ディック、コーラ。これからもシェスティンをよろしく頼む。」
「勿体ないお言葉。」
「もちろんでございます。」
ディックとコーラは、アロルドに話すのが上手く言って良かったと思った。そして、シェスティンが喜ぶだろうなと二人共に満足げで部屋を辞した。
2
お気に入りに追加
1,037
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

前世の推しが婚約者になりました
編端みどり
恋愛
※番外編も完結しました※
誤字のご指摘ありがとうございます。気が付くのが遅くて、申し訳ありません。
〈あらすじ〉
アマンダは前世の記憶がある。アイドルが大好きで、推しが生きがい。辛い仕事も推しの為のお金を稼ぐと思えば頑張れる。仕事や親との関係に悩みながらも、推しに癒される日々を送っていた女性は、公爵令嬢に転生した。
推しが居ない世界なら誰と結婚しても良い。前世と違って大事にしてくれる家族の為なら、王子と婚約して構いません。そう思っていたのに婚約者は前世の推しにそっくりでした。
推しの魅力を発信するように婚約者自慢をするアマンダに惹かれる王子には秘密があって…
別サイトにも掲載中です。

【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく
21時完結
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)


どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる