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4. 王都での出来事
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「ねぇ、ディック。さっきの二人と話がしたいわ。」
「え!シェスティン様!?」
「…なぜだか聞いていいか?」
シェスティンは、書籍店の前まで再び戻ってくると、馬車を引っ張ってきた馬の頬を撫でていたディックに声を掛ける。
するとコーラは驚き、ディックも怪訝な顔でそう言った。
「ちょっと気になったの。どうしてお金を払わないの?親がいないから、支払う人がいないのかしら。」
「…シェスティン様。それをそのまま、あの二人に伝えるつもりだったのか?それは相手を怒らすだけだぞ。」
「どうして?」
「おれも、彼らの気持ちは分かるからな。昔、アロルド様に拾ってもらう前はあのような生活をしていたから。」
「?」
「シェスティン様のような貴族の方の生活と、市井で過ごす者、路上で生活する者の生活はそれぞれ違うんだよ。常識も違うし、住む世界が違う。
それは、時として、その生活をしたくてしている訳ではない者もいるんだ。」
「そうなの?したくないのにしているの?」
「そうだ。それは一人一人、違うだろうがね。」
「そう…益々知りたいわ。」
「なぜそんなに気になる?」
「分からないけれど…これが、準備学校で習った、慈悲の心というものなのかしら。」
「そうか…。本はどうするんだ?」
「本も見たいけれど…」
「それでしたら、ディック、あの子達を探して来て。私が馬車を見ています。シェスティン様は書籍店で本を探されては如何ですか?」
「まぁ!いいわね!」
「でも、あまり長く馬車を止めて置くのはよくない。」
「それもそうね。では、明日また来れるかしら?彼らには、明日会う事にするわ。」
「その前に、見つけられるか…」
「無理だったらいいわ。お願い!」
「…分かったよ。いいか?ここは王都だから治安は悪くはないが、これ以上動き過ぎたりするなよ?おれ、一応護衛も兼ねているんだ。傍に居ないのがバレたら
やばいからな。」
「そうですね、私からもお願いします。」
「まぁ!分かっているわ。二人とも、ごめんなさいね。」
シェスティンはコーラとディックに言われ、素直にそう言った。
☆★
シェスティンは、その書籍店に初めて入った。
コーラに言われた事を思い出しながら。
「まず、店主がいるはずです。店主に、本を見させてもらう旨を伝えて下さい。そしてもし、気に入った物があれば、連れが外にいるのでと言って一度外に出て来て下さい。でも私が店に入るのは、ディックが帰って来てからですからね。」
シェスティンは様々な本を見て興奮気味ではあったが、まずは店主を探した。
キョロキョロと店の中を見ながら進んで行くと、本棚を一つ曲がった正面にカウンターがあり、その中に店主らしき人がいた。
その人物がシェスティンへと言葉を掛けてきた。
「いらっしゃい、小さなお客さん。何かお探しで?」
「はい。外に連れがいるのだけれど、私一人で本を見てもいいですか?」
「ここは難しい本ばかりだけれどいいのかな?それで良ければ、ゆっくりと見ていきなさい。」
歳いったおじいさんとも言える見た目のその男性は、優しい口調でシェスティンへと伝える。
店はそんなに広くはなく、通路は二つしかない。だがその通路の向かい合わせに本棚があり、床から天井まで古めかしい本や、外国語の本など様々並べてあった。
カウンターの中にも、本が重ねて積み上げられており、それがかえってシェスティンにはわくわくとした気持ちを沸き立たせた。
(まるで、宝探しみたいだわ!このたくさんある中から欲しい本が見つかるかしら!)
シェスティンは、準備学校で教わる簡単な単語どころか、難しい専門用語まで少しずつ覚えてきている。専門書や昔の小説やなんかも辞書を片手に、読むのが面白いとどんどん知識を増やしていっているのだ。
入り口側から見える範囲で少しずつシェスティンは横にずれながら本棚の中を見ていく。分野毎に分かれていない本棚の書籍は、なかなか何について書いてあるのか見ただけでは良く分からない物が多い。
シェスティンはゆっくりと、本と見つめ合っていた。
目に届く高さの本を順に見ていって一列目が終わろうとした時、入り口の扉が開き、新しい客が入って来た。
シェスティンはそれには目もくれず、そろそろこの中から選ぼうかと思った時に声が聞こえた。
「あれ?君は…」
声の発する方をシェスティンは横目で見たが、すぐにまた入り口から人が入ってきた。今度はコーラで、シェスティンへと言葉を掛けた。
「どうですか?見つかりました?ディックが来ましたからそろそろ帰りましょうか。」
「え、もう?じゃあ、これとこれと…買える?一冊じゃないとダメかしら?」
「ええ、分かりました。大丈夫ですよ。では、会計して来ますから、ディックの所へ行ってもらえますか?」
「コーラ、会計する所、見てもいい?どうやってやるの?」
「よろしいですよ。では一緒に参りましょう。」
「ありがとう、コーラ!」
シェスティンは嬉しそうに笑って、店主の所へ会計をしにコーラの後をついて行った。
「え!シェスティン様!?」
「…なぜだか聞いていいか?」
シェスティンは、書籍店の前まで再び戻ってくると、馬車を引っ張ってきた馬の頬を撫でていたディックに声を掛ける。
するとコーラは驚き、ディックも怪訝な顔でそう言った。
「ちょっと気になったの。どうしてお金を払わないの?親がいないから、支払う人がいないのかしら。」
「…シェスティン様。それをそのまま、あの二人に伝えるつもりだったのか?それは相手を怒らすだけだぞ。」
「どうして?」
「おれも、彼らの気持ちは分かるからな。昔、アロルド様に拾ってもらう前はあのような生活をしていたから。」
「?」
「シェスティン様のような貴族の方の生活と、市井で過ごす者、路上で生活する者の生活はそれぞれ違うんだよ。常識も違うし、住む世界が違う。
それは、時として、その生活をしたくてしている訳ではない者もいるんだ。」
「そうなの?したくないのにしているの?」
「そうだ。それは一人一人、違うだろうがね。」
「そう…益々知りたいわ。」
「なぜそんなに気になる?」
「分からないけれど…これが、準備学校で習った、慈悲の心というものなのかしら。」
「そうか…。本はどうするんだ?」
「本も見たいけれど…」
「それでしたら、ディック、あの子達を探して来て。私が馬車を見ています。シェスティン様は書籍店で本を探されては如何ですか?」
「まぁ!いいわね!」
「でも、あまり長く馬車を止めて置くのはよくない。」
「それもそうね。では、明日また来れるかしら?彼らには、明日会う事にするわ。」
「その前に、見つけられるか…」
「無理だったらいいわ。お願い!」
「…分かったよ。いいか?ここは王都だから治安は悪くはないが、これ以上動き過ぎたりするなよ?おれ、一応護衛も兼ねているんだ。傍に居ないのがバレたら
やばいからな。」
「そうですね、私からもお願いします。」
「まぁ!分かっているわ。二人とも、ごめんなさいね。」
シェスティンはコーラとディックに言われ、素直にそう言った。
☆★
シェスティンは、その書籍店に初めて入った。
コーラに言われた事を思い出しながら。
「まず、店主がいるはずです。店主に、本を見させてもらう旨を伝えて下さい。そしてもし、気に入った物があれば、連れが外にいるのでと言って一度外に出て来て下さい。でも私が店に入るのは、ディックが帰って来てからですからね。」
シェスティンは様々な本を見て興奮気味ではあったが、まずは店主を探した。
キョロキョロと店の中を見ながら進んで行くと、本棚を一つ曲がった正面にカウンターがあり、その中に店主らしき人がいた。
その人物がシェスティンへと言葉を掛けてきた。
「いらっしゃい、小さなお客さん。何かお探しで?」
「はい。外に連れがいるのだけれど、私一人で本を見てもいいですか?」
「ここは難しい本ばかりだけれどいいのかな?それで良ければ、ゆっくりと見ていきなさい。」
歳いったおじいさんとも言える見た目のその男性は、優しい口調でシェスティンへと伝える。
店はそんなに広くはなく、通路は二つしかない。だがその通路の向かい合わせに本棚があり、床から天井まで古めかしい本や、外国語の本など様々並べてあった。
カウンターの中にも、本が重ねて積み上げられており、それがかえってシェスティンにはわくわくとした気持ちを沸き立たせた。
(まるで、宝探しみたいだわ!このたくさんある中から欲しい本が見つかるかしら!)
シェスティンは、準備学校で教わる簡単な単語どころか、難しい専門用語まで少しずつ覚えてきている。専門書や昔の小説やなんかも辞書を片手に、読むのが面白いとどんどん知識を増やしていっているのだ。
入り口側から見える範囲で少しずつシェスティンは横にずれながら本棚の中を見ていく。分野毎に分かれていない本棚の書籍は、なかなか何について書いてあるのか見ただけでは良く分からない物が多い。
シェスティンはゆっくりと、本と見つめ合っていた。
目に届く高さの本を順に見ていって一列目が終わろうとした時、入り口の扉が開き、新しい客が入って来た。
シェスティンはそれには目もくれず、そろそろこの中から選ぼうかと思った時に声が聞こえた。
「あれ?君は…」
声の発する方をシェスティンは横目で見たが、すぐにまた入り口から人が入ってきた。今度はコーラで、シェスティンへと言葉を掛けた。
「どうですか?見つかりました?ディックが来ましたからそろそろ帰りましょうか。」
「え、もう?じゃあ、これとこれと…買える?一冊じゃないとダメかしら?」
「ええ、分かりました。大丈夫ですよ。では、会計して来ますから、ディックの所へ行ってもらえますか?」
「コーラ、会計する所、見てもいい?どうやってやるの?」
「よろしいですよ。では一緒に参りましょう。」
「ありがとう、コーラ!」
シェスティンは嬉しそうに笑って、店主の所へ会計をしにコーラの後をついて行った。
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