【完結】双子の入れ替わりなんて本当に出来るのかしら、と思ったら予想外の出来事となりました。

まりぃべる

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3. 王都の道端で

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 基礎学校に入学するとすぐは、学校生活に慣れるようにと登校して一時間もすれば帰る。
 それが二週間ほど続き、徐々に授業の時間を増やしていくのだ。


 フレドリカはとても楽しそうにその日の昼食で、その日あった事を事細かに話してくる。その返答は、同席している母カイサが楽しそうにしていた。
 シェスティンといえば、口を挟まずにそれを聞いていた。


(基礎学校って、すぐに学習が始まるわけではないのね。準備学校でもそうだったけれど。これなら確かに、家に居た方が学びはあるわ。けれど、友人達と話せなくなるのは淋しいわね…。)


 シェスティンは、特に親しい友人がいたわけではないが、話し掛けられたら会話もするし共に遊ぶ事もしていたのだ。
ただ、話し掛けられた友人の名前を特にしっかりと覚えてはいなかった為、もう少し会話をしたり遊んだりすれば良かったと今さらながら悔やんだ。
 準備学校では、家名までは教えられていなかった。だから、自分が良く話していた子達はどの家柄だったのだろうと、いつか大きくなって再会する時の為に覚えておかなければと思った。





☆★

 フレドリカが入学して四日目。

 シェスティンは、父アロルドから許可をもらい王都の書籍店へ行く事となった。侍女のコーラと、侍従兼護衛兼御者のディックを連れて馬車に乗った。
 オールストレーム家の領地から王都までは、馬車で一時間も揺られていれば着く距離で、朝フレドリカが登校してからすぐに向かう事とした。

 オールストレーム家の紋章の入った馬車はフレドリカが学校へ乗って行った為、紋章の入っていない外見は簡素な馬車へとシェスティンは乗り込んだ。

 学校は王都にあるから一緒に来ても良かったのだが、帰りの時間が分からない為に、別々にしたのだ。フレドリカの自慢にも聞こえるような話を聞くのが耐えられないと思ったのも理由の一つであった。
学校で、可愛いと言われただの、隣の席に座りたいと言われただのと言ってくるのだ。


(初めは良かったわね、って言えたけれど、だんだん聞いているのが面倒になるのよね。)


 そのような自慢話は、フレドリカは準備学校の時にもシェスティンにしていたのだ。シェスティンはそんな事、言われた事がない。顔の造りはほとんど同じ。シェスティンの方が若干柔らかい表情に見えるのは、髪色がフレドリカよりも少し薄いからか。フレドリカは濃い金髪、シェスティンは銀色に近い金髪であった。
 フレドリカは自分のが可愛いとシェスティンに言ってくるのが鬱陶しく感じるほど、何度も言ってきていた。


(可愛いとか可愛くないとかなんて、学びに行くのには関係ないのに。言われたら確かに嬉しいかもしれないけれど。)


 シェスティンは、フレドリカに比べて書物から知識を得ていた分、考え方も大人びていたのだ。




「着いたぜ。」

「ありがとう。」


 ディックが踏み台を準備して、コーラと共に馬車から降ろしてもらったシェスティンは初めて、一人で来る王都の空気を存分に感じていた。
 ディックは、他の者がいない時にはシェスティンに対して口調はあまり畏まってはいなかった。
シェスティンが物心ついた頃はまだ真面目に丁寧な言葉遣いをしていたのだが、酷く哀しそうな顔をした為である。小さな少女にとって、厳つい男が近くにいると窮屈なのだろうと、敢えて口調を気安いものへと変えたのだ。


「すごいわ!人がたくさんいるのね!」


 ディックが降ろした場所は、書籍店の直ぐ目の前である。王都のメイン通りは、馬車が通る車道はかなり広く取ってあり、店の前に止めてもいいようになっている。行き交う馬車は、中央を走っているのだ。

 歩道もまた、それなりに幅は取られているが人も多く歩いている為に、幅広くは見えなかった。


「どのくらい時間が掛かるんだ?あまり長い間停車するのであれば、他の利用したい人達の邪魔になってしまうからよ。」

「あ、そうね…なるべく早く見てみるわ。」


 ディックにそう言われ、体を動かしたシェスティンは、向かいの辻の店先で自分と同じくらいの年頃の子供が二人居るのが見えた。
 そこは、扉が開かれて商品が外にも出ていた店。果物や野菜が置いてあり、男の子が林檎をじっと見ている。その隣の女の子が店員に話しかけているうちに男の子がその林檎を手に取り、ひょいひょいと持っている袋の中に入れたのをシェスティンは見た。


(私と同じくらいの子だわ。買い物に来ているのね。偉いわ。…え?)


 シェスティンは自分で商品を購入した事が無く、買い物をどのようにするのかを知らなかった。だから、袋へと入れるのもごく普通の事かと思ったのだ。しかし、次の瞬間、女の子と話していた店員が男の子へと視線を移して怒鳴り散らしていた。


「おい、金も払ってないのにその袋に入れたろ!金払いな!金が無いなら置いていきなよ!」

「逃げろ!」

「あ!おい、待ちな!ちょっと!こらー!」


 それを聞いたシェスティンは咄嗟にその店員の元へと駆け寄って、声を掛けた。


「すみません!さっきの子達、お金払っていないのですか?」

「そうだよ!あーまたやられちまった!子供は逃げ足が早いから、私らの足じゃあ追いつけないよ!」

「またって、良くあるのですか?」

「そうさ。あの子達は孤児だろうよ。可哀想だとは思うけれど、こっちだって商売だからね。金が無けりゃ生活出来ないのさ。」

「…」


 そう言って大きなため息を付いた後、店員はまた店番についた。
 シェスティンは少し考えた後、後ろにいたコーラに声を掛ける。


「ねぇ、こじって?」

「孤児とは、親がいない子供の事です。」

「親が…。
ねぇ、林檎を買うお金、あるかしら?」

「シェスティン様?林檎が欲しいのですか?」

「いいえ。先ほどの子達の分よ。」

「え?まぁそうですねぇ。銅貨は持ってきておりませんから。」

「払えないの…」

「あ、いいえ!払えなくはないですが、お釣りを準備するのが、一般の店では大変だと思ったのです。今日持って来たのは、金貨と銀貨ですので。
林檎は、銅貨五枚前後です。」


 シェスティンは、そういえばざっくりとではあるが、お金の単位を準備学校で聞いたなと思った。


「では銀貨ならあるのね?確か…銀貨一枚で銅貨百枚と同じ価値だったわよね?
では銀貨を一枚支払ってちょうだい。お釣りは、要らないわ。もしまた今度あの子達が来たら、仕事を与えるのはどうかしら。」

「そうです、よく勉強されておりますね。
…よろしいのですね?」

「ええ。いいかしら?」


 そう言うと、コーラが出した銀貨一枚を、シェスティンは店員へと渡した。


「お嬢ちゃん、これで何を買うのかい?ちょっとお釣りがあるか…」

「いいえ、先ほど取られた林檎のお代です。多い分は以前までの分で、もしまたあの子達が来たら、今度は仕事を与えてみてはどうでしょうか?」

「…いいのかい?お嬢ちゃんには関係ないだろうに。」

「いえ、世間を学ばせてもらったお礼です。」

「?そうかい?じゃあ遠慮なくいただくよ。」


(学校に通っていたら知らなかった事だわ、きっと。)


 シェスティンの家では、使用人がいて、食事もきちんと用意してくれる。
それが王都の子供の中には、親がおらず食事も自ら盗まないと手に入らないのかと。
 王都というところは、自分が今まで過ごしてきた世界とは全く違うのだとシェスティンは思った。
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