【完結】異国へ嫁いだ王女は政略結婚の為、嫌がらせされていると思い込んだが、いつの間にか幸せを掴みました。

まりぃべる

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26. 部屋でのひととき

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 結婚式まで、あと一週間ほどとなった。


 フォルラートは珍しくまた時間が取れたからと、午後にオティーリエの部屋を訪れ、共にお茶をする事にした。


「フォル、来てくれて嬉しいわ。でも、お仕事は良かったの?」

 フォルラートとオティーリエは共に同じ時間を過ごすようになり、また昔も過ごしていた事もあり幾分砕けた話し方が出来るようになっていた。


「あぁ。少し前まで山脈の方で出没していた獣の案件が今は落ち着いているし、やる事はちゃんと早めにやっているからね。」

「…獣は、まだ出る?」

「いや、それが、良く分からないんだがここの所そんなに出て来ないよ。」

 そう言ったフォルラートの言葉に、オティーリエは、

(ここの所って、やっぱり私が来てからって事かしら。お父様には一応、私が嫁ぐまで一ヶ月は多量に採らないでとは伝えといたけれど…。)

 と考え、声に出した。

「それ、もしかしたら、テューロビンゲン国が多量に鉱石を採取していた事と関係がないかしら。」

「ん?うーん…でも、最近は…。」

「ごめんなさい。私、多量に採取していたのを知ったのが、この国に向かう日だったの。だからお父様に『多量に採取するのは結婚式までは止めて下さい』とお願いしていたのよ。」

「そうだったのか。…まぁ、それなら無いとも言い切れないな。その獣は、毛が薄いものが多いし、見つけてしまった時も、暴れるんだが寒そうにガタガタと震えて動きも鈍っているんだ。だから凶暴な獣ではあるんだが思ったよりも早く退治が出来る。そうは言っても、獣も必死だと見えて怪我人も出るし、大変には変わりないけど。」

「つまり、穏やかな気候のテューロビンゲン国側から逃げて来た可能性があるという事ね?」

「ああ。」

「では、私がきつく父と兄に伝えるわ!結婚式には招待しているのだから、そこで言ってみるわ。」

「オティ、いいのかい?せっかくの機会だからと取り分を書面に残そうと思うんだが。」

「それは私も必要だと思ってたの!むしろ、それをされなかったのは…きっとマティーアス国王陛下のお心遣いなのかと。」

「まぁ、それで母上に怒られるんだけどね。」

「では、私がそのように促すわ!だって、言ってやらないと気が済まないの!」

「オティ、やり過ぎないようにね。気が済まないと言えば…ベンヤミンとあの女の話をしてもいいか?」

「聞きたくもないけれど、そうも言っていられないわね。知っておかないといけない事だと思うから、お願いします。」

「あぁ。オティならそう言うと思ったよ。今は、ベンヤミンは伯爵の地位から退き、山脈の一番過酷な鉱山で働いているそうだよ。あとは、あの女。あいつも家名を捨ててその鉱山に行ったから。もうこれで、俺らの前に現れる事はない。やっと平穏が訪れたよ。」

「…そうなのね。鉱山は、体力もいるしとても大変なお仕事で、亡くなる方も多いと聞くわ。きっと…世の中の為に鉱石をたくさん採って下さるといいわ。そして、ザーラも。働いた事なんて無い人が行くには地獄でしょうけれど、頑張ってもらいたいわね。」

 聞かされたオティーリエは、ベンヤミンもザーラも、生きて帰っては来れないだろうと思った。
ザーラは、炭鉱夫の為の食事の準備や雑用の仕事であるから体力はそれ程使わないかもしれないが、それでも大変で、考え方を変えない限りそこで生きていくのは辛いだろうと感じた。

 だからといってオティーリエは同情はしない。

(だって、私、注意はしたわ。それを正さなかったのは、二人だもの。その道をのよ。)


「オティ。さぁ、この話はここまで。ねぇ、もう少しこっちにおいでよ。」

「え?」

 そう言って、フォルラートはオティーリエを自分の膝の上に引き寄せる。

「もう少しだけ一緒にいられるからさ、ほら、触れ合おう。」

「な、なにを…」

「あぁオティ…。君が小さな頃、俺の後をいつもついてきたのがとても可愛かったよ。」

「まぁ…!」

「俺が魚を釣る度に喜んでくれて。」

「だって、あんなに素早く釣れるなんて驚いたもの。お兄様は釣るのに時間がものすごいかかっていたから。」

「ハハ!ディートリッヒはそうだったね。あいつは焦るからすぐ竿を動かすからいけないんだよ。」

「それでも、お兄様とフォルは同じ年齢なのにそうは見えなくて…」

「そうか?オルガンもオティは上手く弾いていたよな。前も言ったけれどまた聴かせてくれよ。」

「まぁ!フフ。では練習しないと!」

 二人は仲睦まじく、ひとときを過ごしていた。
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