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13. 料理人見習いの嘆き
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オティーリエは朝食を終え、オティーリエに与えられた棟を散策してみる事にした。
イボンヌには、
「誰か護衛を付けますからお待ち下さい。」
と言われたが、
「大丈夫よ、この棟からは出ないわ。それならいいでしょう?イボンヌもやる事があるでしょうし。」
とオティーリエは言ったのだった。
「いえ…ですが…!」
「じゃあニダを付けて。ザーラはきっと、私の傍で長い時間働く事は無理でしょう。違う仕事をさせなさい。」
とオティーリエが言うと、イボンヌは悩んだ挙げ句、
「絶対にこの棟から出てはなりませんから!」
と念を押した。
オティーリエは、大人しく棟内をゆっくり歩いたり、座って外を眺めたりして午前中を過ごした。
昼食を終え、また少しだけ廊下を歩きながら外を眺めていた。廊下は、外側の壁が無く、窓も嵌まっていない為、良く見えたのだ。
今オティーリエが歩いている廊下の外に広がる、庭というか垣根越しに見える向かい側は、本棟の調理場のようだった。
少年と青年の間位の年齢の男の子が一人、その調理場を行ったり来たりウロウロしているのが見え、どうしたのだろうとオティーリエは気になった。
(この棟から出ないって言ったけど…危ない場所ではないし、少し位良いわよね。)
オティーリエは垣根の方へと近づいて行く。
「お、オティーリエ様?」
ニダが、廊下から外に出たオティーリエにどうしたのかと言葉を掛ける。
「ねぇ、あそこは調理場?あの子、さっきからウロウロしているでしょ?どうしたのかしら。」
と、ニダへと自分の動きの説明をする。
「さ、さぁ…。」
ニダも、確かに視界に捉えたが何故そうしているのかが分からない為、しっかりとした返事が出来なかった。
近づいていくとその男の子がブツブツと言っているのが聞こえた。
「出来るわけない!あぁ、でもやるしかないし…てか、見習いの僕が作れる訳ないのに!あぁこれでクビになったらどうしよう!!」
(どうしたのかしら。)
オティーリエは、分からないけれどその男は困っている様子だったので元来放っておけない性格の為に、窓越しに声を掛けてみる事にした。
「どうしたの?」
「わぁ!…な、なんだよぅ…そんな所から声掛けてきて。僕は今、忙しいんだよ!」
「それにしては、ウロウロしていただけのようだけれど?」
「う…先輩達が皆、腹を壊しちまったんだ!夕食の時間が迫ってきてるのにどうすれば良いんだと思ってたんだよ!僕、まだ皮むき担当なのにいきなり料理しろって…。」
「皆?あなたは大丈夫だったの?」
「うん。でも僕だけ大丈夫っておかしいとは思ったんだけど。」
「そう…ねぇちなみに、そこの貝ってオイスターかしら?」
窓から中をのぞき込むと、調理台の上にオイスターがたくさん殻付きのまま、無造作に山のように置かれている。
「そうだよ、良く知ってるね!国の東にある海で獲ったのを商人が今朝持って来たらしいんだ。一昨日の朝獲ったみたいで、新鮮だと言ってた。あ!そういや、先輩達は皆それをそのまま味見してたなー。美味しそうだったから俺も味見したかったけど、見習いはダメだと言われたっけ。…え?もしかして、これのせい!?だとしたら毒?これ食べられないの?…そっちの方からきたお姫様だったか、そんな人にも出す話があったけど、僕は良く分からないし、どうするんだろ。でも、これのせいだったら、出したら大変だったよ!」
(それって…生で食べたからではないかしら?確か書物では、生で食べるなら現地での獲れたてしかだめだと書いてあったわ。オイスターは栄養満点だけど、お腹に当たりやすいってあったわね。)
「お医者様に見てもらっているの?ねぇニダ、だとしたらきっとお医者様に念のため、オイスターにあたったのではないかと伝えてきてちょうだい。それで、この残りの大量のオイスターが食べられるのか、確認してほしいの。」
「え!?でも…オティーリエ様がお一人になってしまいますよぉ…。」
「大丈夫よ、私はここでこの子と一緒に、夕食の準備をしているから。」
「オティーリエ様!?」
男の子は、オティーリエという名前の人物は王太子妃になる方だと先輩料理人達が話していて知っていたので、驚いてしまった。
「えー…。」
「ニダ、さぁいきなさい。今も苦しんでいる人達がいるのですよ。回復するヒントになるかもしれないのよ。」
「は、はい!」
悩んでいたニダは、オティーリエのその言葉に背中を押され、駆けていった。
「聞いてなかったわね。あなた、名前は?さぁ、時間がないのでしょ?とりあえずこれは、きっとじっくり火に通せば食べられるとおもうのだけど、今はやめておいて、出来るもので夕食を作るわよ。」
「お、オティーリエ様……僕は、ベンノです。」
未だにオロオロとしているが、一人ではなくなったからか少しだけ落ち付いてきたベンノ。しかし今度は、雲の上の人だと思った人と一緒にいる為別の意味で緊張し始める。
「ベンノね、まずじゃあ皮むきからやりましょう。皮むきはベテランなのよね?それが終わったら材料を切るわよ。手を切らないように。いい?」
そう言ってオティーリエは、食料庫にあるものでスープを作ろうとタマネギやジャガイモなどの野菜と、保冷庫にあった牛肉を使って料理を作り出した。
オティーリエはまたしても、講師の先生に料理を教わっていた知識を引っ張り出し、作ろうとしたのだった。
「今日は手の込んだものじゃなくても許されると思うわ。乗り切るのよ!あなたも、先輩料理人達を毎日見ているのでしょ?本当だったら出来るはずなのよ。毎日しっかりと技術を盗んで、上達していくのよ?分かったわね?」
オティーリエはそういうと、ベンノに切り方を教えながら工程を進めた。
イボンヌには、
「誰か護衛を付けますからお待ち下さい。」
と言われたが、
「大丈夫よ、この棟からは出ないわ。それならいいでしょう?イボンヌもやる事があるでしょうし。」
とオティーリエは言ったのだった。
「いえ…ですが…!」
「じゃあニダを付けて。ザーラはきっと、私の傍で長い時間働く事は無理でしょう。違う仕事をさせなさい。」
とオティーリエが言うと、イボンヌは悩んだ挙げ句、
「絶対にこの棟から出てはなりませんから!」
と念を押した。
オティーリエは、大人しく棟内をゆっくり歩いたり、座って外を眺めたりして午前中を過ごした。
昼食を終え、また少しだけ廊下を歩きながら外を眺めていた。廊下は、外側の壁が無く、窓も嵌まっていない為、良く見えたのだ。
今オティーリエが歩いている廊下の外に広がる、庭というか垣根越しに見える向かい側は、本棟の調理場のようだった。
少年と青年の間位の年齢の男の子が一人、その調理場を行ったり来たりウロウロしているのが見え、どうしたのだろうとオティーリエは気になった。
(この棟から出ないって言ったけど…危ない場所ではないし、少し位良いわよね。)
オティーリエは垣根の方へと近づいて行く。
「お、オティーリエ様?」
ニダが、廊下から外に出たオティーリエにどうしたのかと言葉を掛ける。
「ねぇ、あそこは調理場?あの子、さっきからウロウロしているでしょ?どうしたのかしら。」
と、ニダへと自分の動きの説明をする。
「さ、さぁ…。」
ニダも、確かに視界に捉えたが何故そうしているのかが分からない為、しっかりとした返事が出来なかった。
近づいていくとその男の子がブツブツと言っているのが聞こえた。
「出来るわけない!あぁ、でもやるしかないし…てか、見習いの僕が作れる訳ないのに!あぁこれでクビになったらどうしよう!!」
(どうしたのかしら。)
オティーリエは、分からないけれどその男は困っている様子だったので元来放っておけない性格の為に、窓越しに声を掛けてみる事にした。
「どうしたの?」
「わぁ!…な、なんだよぅ…そんな所から声掛けてきて。僕は今、忙しいんだよ!」
「それにしては、ウロウロしていただけのようだけれど?」
「う…先輩達が皆、腹を壊しちまったんだ!夕食の時間が迫ってきてるのにどうすれば良いんだと思ってたんだよ!僕、まだ皮むき担当なのにいきなり料理しろって…。」
「皆?あなたは大丈夫だったの?」
「うん。でも僕だけ大丈夫っておかしいとは思ったんだけど。」
「そう…ねぇちなみに、そこの貝ってオイスターかしら?」
窓から中をのぞき込むと、調理台の上にオイスターがたくさん殻付きのまま、無造作に山のように置かれている。
「そうだよ、良く知ってるね!国の東にある海で獲ったのを商人が今朝持って来たらしいんだ。一昨日の朝獲ったみたいで、新鮮だと言ってた。あ!そういや、先輩達は皆それをそのまま味見してたなー。美味しそうだったから俺も味見したかったけど、見習いはダメだと言われたっけ。…え?もしかして、これのせい!?だとしたら毒?これ食べられないの?…そっちの方からきたお姫様だったか、そんな人にも出す話があったけど、僕は良く分からないし、どうするんだろ。でも、これのせいだったら、出したら大変だったよ!」
(それって…生で食べたからではないかしら?確か書物では、生で食べるなら現地での獲れたてしかだめだと書いてあったわ。オイスターは栄養満点だけど、お腹に当たりやすいってあったわね。)
「お医者様に見てもらっているの?ねぇニダ、だとしたらきっとお医者様に念のため、オイスターにあたったのではないかと伝えてきてちょうだい。それで、この残りの大量のオイスターが食べられるのか、確認してほしいの。」
「え!?でも…オティーリエ様がお一人になってしまいますよぉ…。」
「大丈夫よ、私はここでこの子と一緒に、夕食の準備をしているから。」
「オティーリエ様!?」
男の子は、オティーリエという名前の人物は王太子妃になる方だと先輩料理人達が話していて知っていたので、驚いてしまった。
「えー…。」
「ニダ、さぁいきなさい。今も苦しんでいる人達がいるのですよ。回復するヒントになるかもしれないのよ。」
「は、はい!」
悩んでいたニダは、オティーリエのその言葉に背中を押され、駆けていった。
「聞いてなかったわね。あなた、名前は?さぁ、時間がないのでしょ?とりあえずこれは、きっとじっくり火に通せば食べられるとおもうのだけど、今はやめておいて、出来るもので夕食を作るわよ。」
「お、オティーリエ様……僕は、ベンノです。」
未だにオロオロとしているが、一人ではなくなったからか少しだけ落ち付いてきたベンノ。しかし今度は、雲の上の人だと思った人と一緒にいる為別の意味で緊張し始める。
「ベンノね、まずじゃあ皮むきからやりましょう。皮むきはベテランなのよね?それが終わったら材料を切るわよ。手を切らないように。いい?」
そう言ってオティーリエは、食料庫にあるものでスープを作ろうとタマネギやジャガイモなどの野菜と、保冷庫にあった牛肉を使って料理を作り出した。
オティーリエはまたしても、講師の先生に料理を教わっていた知識を引っ張り出し、作ろうとしたのだった。
「今日は手の込んだものじゃなくても許されると思うわ。乗り切るのよ!あなたも、先輩料理人達を毎日見ているのでしょ?本当だったら出来るはずなのよ。毎日しっかりと技術を盗んで、上達していくのよ?分かったわね?」
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