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番外編

ヤルドレン王弟殿下の愛

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私はヤルドレン=ヴァン=ケルンベルト。ケルンベルト国の国王の弟だ。

私は、取り返しの付かない事をしてしまった。今なら分かる。やってはいけない事だった。しかし、あの頃はこれが最善だと思っていたんだ…。



☆★☆★☆★☆★☆★
カトリーヌ=ドレイクとの出会いは、王宮内の庭園だった。
俺が、18歳の頃だったか。あの時はまだ王宮本宮の王族が住む区域に住んでいて、第二の庭の近くを歩いていたんだよな。俺の部屋からも程近いし。
そこで生垣の向こうで、何だかブツブツと声が聞こえたのだ。しかし話し声にしては、一人の声しか聞こえないような…と、近寄ってみると、池の畔に帽子が浮いていて、少女が枝で一生懸命取ろうとしていた。
「気を付けて。」
そう声を掛けると、驚いたのか、枝を池の中に落としてしまう。
「あ!」
その拍子に波紋が広がり、帽子が少し遠くへ進んでしまう。
「あー!もうちょっとだったのに!私の帽子…」
最後の方の声が、震えたような気がして、
「ごめん。待ってて。」
と、俺は慌てて帽子の奥に向かって石を投げる。すると、波紋が広がり、今度は帽子が少しこちらに進んできた。
「すごいわ!」
そう言われ、俺は何だか嬉しくなったんだ。
近くまで来たので、落ちていた枝でたぐり寄せ、濡れた帽子の雫を上下に振って少なくし、彼女に渡した。
「どうぞ。お姫様。」
柄にもなく、格好を付けて。
「ありがとう!私は、カトリーヌ=ドレイクよ。この帽子、この前の誕生日にお父様から頂いたのよ。良かった!」
と言って、とても可愛らしく笑うから、
「今日は風が少しあるから、気を付けてね。」
と、優しく言って、その場を去った。
あの太陽のように温かい笑顔が忘れられなかった。


☆★☆★☆★☆★☆★

次に見掛けたのは、ナリアーヌ王妃が亡くなって2ヶ月程してからのガーデンパーティーだった。
パーティーと言っても、派手なものではなく、伯爵以上の貴族の子ども達の顔合わせみたいなものだった。つまり…王妃が亡くなっても王族の力は衰えてないぞ、という意味を込めて王子たちとゆくゆくは婚約者候補となる令嬢の出会いの場だと。

ばかばかしい!まだ少年少女の年齢じゃないか。13歳と10歳の王子と、その年齢に近い令嬢たち。
しかも、第一王子は体が弱いから、初めだけ挨拶してその場を去る。実質10歳の王子の相手を探すようなものだ。

と、俺が窓からその様子を見ていると、あの日帽子を池に落として嘆いていた少女がいた。気になって、下の広場の方まで降りて行き、柱の陰から覗いてみる。
少女は、あの日見た輝いた笑顔ではなかった。扇子で顔を隠し、表情を見えないようにしながらも辺りを伺っていた。
そうか…甥の婚約者候補になったわけか…。


☆★☆★☆★☆★☆★

次に会った時は、彼女は落ち込んでいた。あの日会った王宮内の池の畔の、ベンチに座っていた。
石を、池に投げ込んでいた。
「そんなに石を投げたら、池が埋め立てられるな。」
そう声を掛け、隣のベンチに腰掛ける。
「…。」
返事は無かった。だが、横を見ると、歯を食いしばってるようだった。
「何かあったか?大して知らない奴に話す方が、気が楽になるぞ。」
そう言って、俺も池に石を投げる。しかし、格好良いところを見せたくて、水切りをした。石が、4回跳ねそうな所で、淵に当たり沈んだ。
「え!すごい!」
と、弾んだ声がする。
「どうやるの?」
「こうやるのさ。」
と、手を横に動かして、もう一度見せる。今度も、同じようになった。
「ま、でも密かに何度も練習したな。ここへ来てこっそりとさ。」
「練習かぁ…。」
「やりたくなきゃ、やらなきゃいい。愉しくなかったら意味が無い。」
俺は、自分に言い聞かせるように言った。
「…でも、それでもやらなきゃいけないこともあるわ。」
「意味を見出せるなら、何にでも取り組むのは必要だ。そうではないなら、止めた方が良い。」
もしかしたら、婚約者候補の事で悩んでいるのではないかと思ってしまった。この前のガーデンパーティーも、楽しそうでは無かった。俺は、陰から密かに見ていただけだから、実際は分からないが。
「そうね。意味は見出せるわ。うん。やるしかないのよね。」
「…では、辛くなったらまた、ここに来ればいい。石切りの練習でもしよう。心が空っぽになって、元気が出るぞ。」
「はい!ありがとうございます。」
そう言って、少しはにかんだ笑顔は、幼い頃の笑顔と一緒の、はち切れんばかりの良い顔だった。
自分より年下の令嬢であるのに、何故だかこの笑顔がまた見たいと思ってしまった。





☆★☆★☆★☆★☆★

ルークが大きくなってくると、私の存在が邪魔になってくる輩が居るらしい。だから、仕方なく離宮に住まいを移動する事に決めた。俺は、政権からは遠のくぞというアピールを込めて。
しかしそうすると、あの池にカトリーヌ嬢が来ているのか分からないんだよな。最近は来ていないし、もう来る事はないか。

だが、未練たらしく最後に出掛けてしまった。そして、石切りをする。この池は庭にあるだけだから、小さい。石も4回跳ねれば良い方だ。

「この池が大きければ、もっと跳ねますの?」
振り返ると、カトリーヌ嬢がいた。会えて良かった、という気持ちと、また辛い事でもあったのか?という気持ちが混ざり合って渋い顔をしてしまう。
「返事をして下さらないの?」
「あ、ああ…いや。この倍は跳ねるぞ。どうした?」
「石切りが見たくなりましたの。」
「そうか…。俺は、これからはここにあまり来れなくなる。カトリーヌ、大丈夫か?」
「そうですか…。仕方ありませんね。私は大丈夫ですわよ。侯爵令嬢ですもの。弱音は吐きませんわ。」
「無理はするな。カトリーヌ…その…好いた奴はいるか?」
カトリーヌは、侯爵令嬢。その地位であれば、第一王子でも第二王子でも婚約者となれるだろう。普通であれば、第一王子の婚約者となれば、正妃になる為の教育をする事になる。だが、第一王子は体が弱い。小さい頃は大人になれるかとさえ言われていた。良く持った方とも言える。
カトリーヌは、第一王子か第二王子、どちらかの婚約者となるのだろう。だが、本音を聞いてみたい衝動に駆られた。

「…私は正妃と成るために学んでおります。ですので、それ以外考えてはいけないのです。」

☆★☆★☆★☆★☆★








兄上にも謝った。謝っても謝り切れないが。そうしたら、逆に兄上は泣いてくれていた。【嫌われてなくて良かった-!】と。うむむ、嫌いとかではないのだがな。カトリーヌとを優先しただけで…。

寛大にも、処刑でなく辺境の地へ行けと言われた。生きろ、と。

カトリーヌに、気持ちを伝えろと言われた。異世界から来たとか言う娘…。
小娘の言うことなんか聞くか、と思う反面、伝えてみるか、という気持ちにもさせられた。不思議な娘だ。

…結果的に、カトリーヌとの夢に描いていた生活が送れる事になったからまぁ、感謝してもしきれんがな。
普通だったら、無くしていた命。最愛のカトリーヌと共に…。







やー簡単にめでたしめでたし、とは行かぬな! 辺境の地は、北にあると知ってはいたがいざ来てみると本当に寒い!王宮内でしか生活して来なかった俺、寒さで凍死するんじゃないか?

けれど、ここにはカトリーヌが居る。もう、目の前にだ!こんなに嬉しい事はない!愛も囁き放題。寒いからとくっつき放題。今日も早く仕事を終わらせて、カトリーヌの所へ、行くか!
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