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28. 結婚式

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「エレナ様、素敵です!」

「本当に!エレナ、良かったですね。」

「ふん!仕方ないわ!エレナ様にだけだものね、あんなだらしない顔をするの。
私はもっと素敵な人を見つけてやるんだから!」

「スーザン!言葉遣い、何度言ったら分かるのですか!?
すみません、エレナ様…。」

「いいのよ、リュセ。
スーザンにも、あなただけの特別な人が現れるわ、きっと。」

「あなた…領主様が好きだったのかい?まぁ、運命の人は自分に必ずいるものですからね、輝いている人には必ずですよ。」

「輝いている人!?じゃあ私もそうよね!?フフフフ、アハハハハ!」

「スーザン!」




☆★

 ジェオルジェがエレナに求婚して半年。

 今日は、ここ〝最高の休憩所〟でジェオルジェとエレナの結婚式をするのだ。


 アンドレイ侯爵が結婚式をするにあたって、何処で行うかジェオルジェはエレナに相談した。なんとなくではあるが、〝最高の休憩所〟でやりたいと言うのではないかと推測しながら。
すると、やはりエレナは出来る事であればアン達がいるその山でしたいと言った。領主様だから屋敷で行った方がいいならそうするけれど、と。


「エレナがからやって来たんだから、そこでやろうか。」


 ジェオルジェは笑顔で賛成し、両親にもそう話した。その時には両親にも、エレナは違う世界からやって来たようだと
話してあり、キャルリは特に賛成した。


「やっと結婚にまで辿りつけたのだもの!好きにさせてやりましょ。
そうしましょう!」

「いや、だが〝終の山〟だったところであるだろう?いくらジェオルジェが〝最高の休憩所〟に新しく造り替えたとはいえ…」

「あなた!そんなんだから流行に乗り遅れるのよ!?
年老いたら今まで出来なかった事が少しずつ出来なくなる、でも出来る事を少しでもやれば良いって良い見本になるじゃないの!宣伝にもなるし。」


 〝最高の休憩所〟には、普通の採用の他に特別採用枠ができた。それがアンやマダリーナ達のように行き場が無くなった年齢を重ねた人の採用枠だ。
その特別枠で採用された年齢を重ねた人は、住む場所がルウサドルイ街になければ、〝終の山〟の中で住む事が出来た。



 エレナの当初の考えの通り、この山はあくまで年齢を重ねた人達の老後の生活基盤を立てる場所というコンセプトに加え、街の人達の憩いの場にさえなっている。

 普通の枠で採用された人達は、ルウサドルイ街から通いで働きに来ており、年齢に関係無く働いている。
 休憩時間には沸き湯に入れたり、マダリーナの美味しい食事をいただけるとあって今でも人気で、なかなか辞める人がおらず募集が掛からないほどだ。
 しかし、施設を増設する際には職員も追加募集がかかるとあって、街の人達は皆目を光らせている。


 今では、沸き湯場が男性用と女性用の二箇所、マダリーナが作る場合もあるがレシピを伝授してもらった他の店員が作る食堂、終の山産の土産販売所、山頂付近の動物の乳しぼりや畑の手伝いをする農業体験所、が主な施設である。

 食堂は、早い時間であればマダリーナが自ら作っているが、それ以降の時間帯はレシピを伝授された雇われ店員が作っている。マダリーナは料理を作るのが楽しいとはいえ、疲れてしまうと体に良くないからだ。
 土産販売所では、この山に住んでいる人達が作ったものが売られている。ビアンカが作った麻のさまざまな物や、他にも手作りの石鹸、草木染めのハンカチ、木彫りの様々な作品、木製のベンチやテーブルなどの簡単な家具、などまである。
ここの沸き湯にあった香りのいい石鹸は、少し上に住んでいる人が手作りしているものであったと知り、エレナは驚いていた。

 皆、以前よりもやる事が増え忙しなくはあるが、無理の無い範囲で楽しそうに生活している。




 今は、少し手直しされたアンの家でエレナの着替えをリュセにやってもらったばかりだった。
 アンの家は、やはりジェオルジェの曾祖母の為に造られたものであったから丈夫でしっかりとした出来だったので他の建物に比べてまだまだ現役で使える出来だった。しかし、壁紙はさすがに日焼けしたり汚れてきていた為に明るい色合いに張り替えられている。

 マダリーナは、今日のこの結婚式の為に食べ物を用意してくれているのでこの部屋にはいない。ビアンカも、マダリーナの手伝いに行っている。今日の招待客は、領民であったから、食べやすい物を作ると言っていた。




「では、下でジェオルジェ様がお待ちです。行きましょう。」

「エレナ様、いってらっしゃーい!」


 リュセに連れられて下へ降りると、ジェオルジェはイスに座っていたが立ち上がり、エレナへと駆け寄った。


「エレナ…!とても素敵だ。光り輝く女神のようだよ。」


 エレナたっての希望で、ドレスも純白にした。腰から下はゆったりと足首のところまで広がったその絹のドレスを見てジェオルジェは見とれてしまう。


「あ、ありがとう…ジェオルジェもかっこいい…!」


 エレナは照れながらも、ジェオルジェにそう返した。
ジェオルジェもまた、白いタキシードに身を包んでいた。長身で金髪のジェオルジェには、真っ白な服がよく似合っていた。



「じゃあ、行こう。…失礼。」

「きゃ…!」


 アンの家を出て、沸き湯を通り過ぎて少し山を登って行く。
その為、打ち合わせの時には話していなかったがジェオルジェはエレナの腰と膝裏のところに腕を添えて持ち上げた。そしてそのまま、ゆるやかな坂を登って行く。
 道は、今では舗装されている。綺麗にならされて雨の日も歩きやすいように石畳を曳いてあり、屋根までついている。その為、エレナの靴でも歩けなくはないが、ジェオルジェはそのようにして進んだ。


「ジェ、ジェオルジェ…歩けるよ?」

「いい。掴まっていろ。さぁ、笑顔を向けて。」


 石畳を挟んだ両側の剥き出しの地面には領民がひしめくように並んでいて、拍手で出迎えてくれる。


「領主様-、おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」


 エレナを抱え上げたジェオルジェが歩く度に、領民達が次々に声を掛けてきた。
 領民もまた、領主とこんなに近い距離は初めてで、でも領民もまた招待された為にこんな機会は滅多に無いとこの山に押し寄せていた。
招待されたと言っても、この先の屋根付きの休憩室ーーー普段は沸き湯に入ったあとに休憩が出来るように作られた、板張りの何もない広い部屋ーーーに領民全てが入りきらないので、山道にまで溢れかえっているのだった。


「すごい人!」

「あぁ…ありがたいな。こんなに声を掛けてくれて。
俺だけの力では集まらなかったよ。俺は領主としてまだまだだからね。でもエレナがいるから、きっと領民達は見に来てくれた。この山を変えてくれた立役者だからね。
この領地に住んで良かったとそう思ってもらえるよう、それに応えなければならないな。」

「そんな事無いよ!
でも、そうね。私も一緒に手伝うわ。一緒に、やっていこう?」

「そうだな…エレナとなら、何だって出来る気がするよ。」



 進んだ先は、山の少し開けた場所で、そこに新たに建てた板張りの屋根付きの場所。
そこの1番奥に、ミルチャの父のブレンドンが見届け人を行ってくれる為に立っている。
 ブレンドンも、いつもはここで山羊や羊の世話をしているために動きやすい服を着ているのだが、今日は黒いスーツの下に白いシャツを着ている。執事をしていた現役時代に着ていて、もう使う時がないからとミルチャに手渡していたものだ。



「エレナ、夫婦になれるなんて嬉しいよ。俺が結婚するなんてエレナに出会う前までは考えられなかったんだ。」

「本当?私も、この世界に来るまでは結婚を考える余裕も無かったわ。」



 そう話していると、ブレンドンの前に着いたのでジェオルジェはエレナをゆっくりと下ろした。


「ジェオルジェ様。今日という日を迎えられ、またその見届け人を私めに選んで下さり光栄にございます。」

「ブレンドン。俺もお前にこんな事をやってもらえるとは、お前が執事をしてくれていたあの頃の俺は全く考えてもいなかったよ。
そして、今も変わらず元気でいてくれてありがとう。お前が育てた山羊のミルクは格別に旨い。」

「勿体ないお言葉です。愛情を注いでいるのですよ。
ジェオルジェ様も、愛しいと想われるエレナ様に格別なる愛情をいついつまでも注がれますよう切に願っております。」

「もちろん。重いと言われても、注ぎ続けていくつもりだ。」

「重いと言われないようにお気を付け下さい。心地よいと思われる愛情を注がれますよう。
エレナ様、このヘタレでか弱いジェオルジェ様をいついつまでもよろしくお頼み申します。」

「まぁ!
はい。私も、心地よいと思っていただける愛情を注ぐよう、気をつけて参りたいと思います。」


 ヘタレっていうなよ、とボソボソと言っていたジェオルジェだったが、エレナの言葉を聞いて嬉しそうに笑った。その後、ブレンドンがそれでは、と言った言葉を聞くと、一つ頷いてエレナの腰に両手を回して持ち上げた。


「きゃ!」


 エレナは慌てて、ジェオルジェへとしがみつく。そんな焦ったエレナを見てまた優しそうに笑ったジェオルジェは、今度は周りの領民達に向かって言葉を発した。


「皆、今日は俺たちの結婚式に来てくれて礼を言う!
俺は、まだまだ頼りない領主ではあると思うが、これから守るべき存在が出来、より一層しっかりと守り抜けるだけの力をつけていこうと思っている。
そして、皆が安心してこのアンドレイ領で暮らしていて良かったと思えるような領地を目指していきたいと考えている。これからも、よろしく頼む!」


 パチパチパチパチ


 ジェオルジェが言った言葉に、周りの領民達もいつまでも拍手をしていた。




「さぁさぁ!私の料理が冷めちまうよ!」


 そう言って、止まない拍手の中に声を張り上げたのはマダリーナだ。


「私は楽しく料理を作っていてね、味の保証は無いけど、それでもよければ食べていっておくれ!」

「おかわりもありますよぉ。」

 その後ろで、料理を並べながらビアンカも言葉を発する。


「エレナ、良かったね。幸せにおなり。」

「いつでもこちらへ遊びに来て下さいねぇ。」

「辛い事があったら、沸き湯に入れば吹っ飛びますから、いつでも来て下さいね。」


 マダリーナとビアンカの後に続いてダリアも、そう声を掛けた。


「はい!皆さん、ありがとうございます!」

「止めて下さい!俺は辛い思いはさせませんから。」


 ジェオルジェのその否定の言葉に、アハハハハと、マダリーナ達もエレナも、声を上げて笑っていた。


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