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16. ヤマトテイ
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「ここだよ。ここは、たまにダグラスとも食べに来る。もしかしたらリンも気にいるかもしれないと思って。…少し悲しむかもしれないが。」
悲しむ?良く分からないけれど、クスファーさんが利用する場所に連れて来てもらえてなんだか嬉しく思った。
外観はレンガ造りで、窓も大きくはないが黒い木の枠で囲ってあり、それが幾つもあって明るい雰囲気。中に入ると、なぜだか懐かしい気分になった。
まだお昼時よりは早い為か客は少なかった。
クスファーさんは声を掛け、奥の個室へと案内された。
なんだか、店内は日本の割烹料理屋みたいだった。
なぜって、壁に絵が書いてあり、その絵は松の木や池が描かれた日本庭園だったのだ。
床は石貼りで、個室も靴のまま入る部屋ではあったが、襖のように横にスライドするドアだったから、中が畳だったらと思わずにはいられなかった。
「すご…!」
私は知らず呟いていた。
天井の照明も、和室に合うようなデザインでじっと内装を見つめていると誰かが入って来た。
「どうもこんにちは。まぁ可愛いねぇ。あなたが日本から来た人?」
なんと!和服を来た白い髪のおばあさんが、お盆にお茶を入れて入って来た。
私が目を見張り、驚きで何も話さなかったからだろう。お茶を運んで来たおばあさんが私の隣に来てニッコリと微笑んで言った。
「突然この世界へ来て驚いたでしょう?私も、あなたくらいの年頃にこの世界へ来たのよ。公表はしていないけれど、この店は日本をモチーフにしているよ。だからここに来た人は純粋に異国風と思う人もいれば、あなたのように分かる人には分かるみたいね。あなたも、涙を拭きなさいな。」
いつの間にか私は涙を流していたらしい。懐かしいという気持ちが、心を揺れ動かしたんだわ。
「ここはずいぶん前に出来た、異国情緒溢れる食事処となっているよ。店名は《ヤマトテイ》だと。だが、異世界人の交流の場にもなっているみたいだな。それ以外にも、このおきよさんの人柄に惹かれ、来店する客もいるだろうがな。俺もそうだ。」
「嬉しい事言ってくれるねぇ。私もこの世界へ来た時は良く泣いたもんだ。帰り方も分からないんだからね。だけれど、このシラグリン国の昔の国王様が保護してくれてねぇ。私の生活の面倒まで見て下さった。それで、ここを造ってもらったんだよ。ここは私の生き甲斐さね。この国は日本よりも不便だけれど、心の繋がりは素晴らしいよ。皆で助け合って生きておるわ。この国へ来れて、今では良かったと思っておるよ。」
おきよさんは、そう話してくれている間ずっと、私の手を取り握ってくれていた。
「何かあったらいつでも来なさいな。話し相手になってあげるからね。だけれどこの国での出会いも、捨てたもんじゃないよ。さぁ。邪魔者の私は仕事に戻るとするよ。名前は、りんちゃんだったかな?楽しく生きなさい。」
そう言って、おきよさんは個室から出て行ってしまった。
私はこの世界へ来て、意味が分からなかったけれど、仕方ないと思っていた。戻り方も分からないし。
だけれど、おきよさんを見て帰れないのを痛感し、この世界で地に足をつけて生きていかないといけないんだと改めて身に染みて理解した。
なぜだか分からないけれど、涙が出てきた。これはなんだろう。未練はないと思った日本に帰れないからなのか、おきよさんの温かい人柄に触れて感動したからか…。
自分でも、良く分からない感情に顔を覆うと、対面に座っていたクスファーさんが席を立ち、私の隣に来て座った。
そして、クスファーさんの胸に、私を引き寄せて背中をトントンと優しく撫でてくれた。
悲しむ?良く分からないけれど、クスファーさんが利用する場所に連れて来てもらえてなんだか嬉しく思った。
外観はレンガ造りで、窓も大きくはないが黒い木の枠で囲ってあり、それが幾つもあって明るい雰囲気。中に入ると、なぜだか懐かしい気分になった。
まだお昼時よりは早い為か客は少なかった。
クスファーさんは声を掛け、奥の個室へと案内された。
なんだか、店内は日本の割烹料理屋みたいだった。
なぜって、壁に絵が書いてあり、その絵は松の木や池が描かれた日本庭園だったのだ。
床は石貼りで、個室も靴のまま入る部屋ではあったが、襖のように横にスライドするドアだったから、中が畳だったらと思わずにはいられなかった。
「すご…!」
私は知らず呟いていた。
天井の照明も、和室に合うようなデザインでじっと内装を見つめていると誰かが入って来た。
「どうもこんにちは。まぁ可愛いねぇ。あなたが日本から来た人?」
なんと!和服を来た白い髪のおばあさんが、お盆にお茶を入れて入って来た。
私が目を見張り、驚きで何も話さなかったからだろう。お茶を運んで来たおばあさんが私の隣に来てニッコリと微笑んで言った。
「突然この世界へ来て驚いたでしょう?私も、あなたくらいの年頃にこの世界へ来たのよ。公表はしていないけれど、この店は日本をモチーフにしているよ。だからここに来た人は純粋に異国風と思う人もいれば、あなたのように分かる人には分かるみたいね。あなたも、涙を拭きなさいな。」
いつの間にか私は涙を流していたらしい。懐かしいという気持ちが、心を揺れ動かしたんだわ。
「ここはずいぶん前に出来た、異国情緒溢れる食事処となっているよ。店名は《ヤマトテイ》だと。だが、異世界人の交流の場にもなっているみたいだな。それ以外にも、このおきよさんの人柄に惹かれ、来店する客もいるだろうがな。俺もそうだ。」
「嬉しい事言ってくれるねぇ。私もこの世界へ来た時は良く泣いたもんだ。帰り方も分からないんだからね。だけれど、このシラグリン国の昔の国王様が保護してくれてねぇ。私の生活の面倒まで見て下さった。それで、ここを造ってもらったんだよ。ここは私の生き甲斐さね。この国は日本よりも不便だけれど、心の繋がりは素晴らしいよ。皆で助け合って生きておるわ。この国へ来れて、今では良かったと思っておるよ。」
おきよさんは、そう話してくれている間ずっと、私の手を取り握ってくれていた。
「何かあったらいつでも来なさいな。話し相手になってあげるからね。だけれどこの国での出会いも、捨てたもんじゃないよ。さぁ。邪魔者の私は仕事に戻るとするよ。名前は、りんちゃんだったかな?楽しく生きなさい。」
そう言って、おきよさんは個室から出て行ってしまった。
私はこの世界へ来て、意味が分からなかったけれど、仕方ないと思っていた。戻り方も分からないし。
だけれど、おきよさんを見て帰れないのを痛感し、この世界で地に足をつけて生きていかないといけないんだと改めて身に染みて理解した。
なぜだか分からないけれど、涙が出てきた。これはなんだろう。未練はないと思った日本に帰れないからなのか、おきよさんの温かい人柄に触れて感動したからか…。
自分でも、良く分からない感情に顔を覆うと、対面に座っていたクスファーさんが席を立ち、私の隣に来て座った。
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