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5. お見合い、ではなく
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コンコンコン
「ミロシュです。お呼びですか?」
「あぁ、来たわね。入りなさい。」
ナターシャが、言葉を繋げないでいると応接室の扉が叩かれ、男性が入って来た。黒い髪を短く切り揃えた、背の高いガッチリとした人だ。
「母上、どうしました…か?あ!お客様でしたか。すみません、出直します。」
そう言ったミロシュは、入って来た扉へ引き返そうとする。
「ミロシュ、いいのよ。私が呼んだのですからね。早くこちらへ座りなさい。」
イェレナはそう言い、自分の隣へと促した。
ミロシュは、ナターシャという見慣れない人物がいるのになぜ自分が呼ばれたのか?と一瞬だけ怪訝そうな顔をし、けれども表情を戻し、イェレナの隣へと座った。
イェレナは、ミロシュが座ると二人を見てニッコリと笑いかけて口を開いた。
「ナターシャ、こちらが私の息子のミロシュ。どお?整った顔立ちでしょう?そしてミロシュ、こちらはナターシャ=テイラーさん。ナターシャは今日、私を助けて下さったの。優しい心の持ち主なのよ。だからね、あなたナターシャと結婚なさい。」
「は!?」
ミロシュは表情を崩し、眉間にしわを寄せ、イェレナの方を向き、疑問を口にした。
「母上!何を言っておられるのです?僕はまだ結婚しないとあれほど…!」
「あら。そう言って何年経ったかしら?あなたももう二十五歳よ?そろそろ結婚しないと変な噂も立ち始めてしまうわ。王太子と揃って婚約者すらいないなんて、って。」
「いえ、それは…!言いたい奴には言わせておけばいいのです!それに僕はまだ騎士団という仕事に誇りを持っていますから!」
「騎士団は大切な勤めよね。別にそれを咎めてはいないわ。将来きちんと公爵家を継いでくれるなら私は文句はいわないと伝えたはずよ。でも、騎士団に所属していても結婚している人はいるわよね?」
「それは…まぁ。」
「じゃあいいじゃないの!私、ナターシャにお礼をと思ったのだけれどね、よく考えたらとてもいいお礼だと思わない?」
「あのですね…、普通は金品をとか、食事に招待するとかそういうのがお礼なのではないですか?」
「あら!それじゃ詰まらないわ。ナターシャは最初お礼は必要ないと言ったのよ。そんな謙虚な子、あなたの妻にぴったりじゃない?」
「母上…詰まらないとかではなく!お礼は要らないと言われたのに、僕を押し付ける気ですか!?」
「フフフ、そうとも言うわね。けれどもそれだけじゃないのよ、謙虚で心優しいナターシャが嫁に来てくれたら、私の娘になるじゃないの。それって素敵じゃないの!」
「また気まぐれでそんな…。ナターシャ嬢もいきなりの事でしたよね、僕の母が申し訳ありません。」
「い、いえ…あの…」
二人の成り行きを見ていたナターシャは、いきなりミロシュに話を振られ、公爵家に対してどう答えようか悩みながら口を開いたが、イェレナの言葉に遮られた。
「そうだわ!ミロシュ、庭でも案内してきなさいよ。二人で話す時間も必要でしょう?」
「全く…母上!父上は承諾しているのですか!?」
ミロシュは、こめかみに手をあてて、引きつったような顔をしながらそう聞いた。
「あら、これからよ。だってナターシャと会ったのは今朝よ。さっき思い付いたのだもの。」
「………。では、この話は僕から話しますから。この話は一旦保留で。良いですね?では、ナターシャ嬢、少し案内しますから、こちらへ来ていただけますか。」
「え?え、ええ…。あの、連れも一緒に外へ出てもよろしいですか?」
「連れ?あぁ…君の使用人かな?もちろんだよ。僕達は未婚同士だからその方が都合がいいからね。」
ナターシャは、公爵家の親子が言い合いをしているのを見て、どうやらイェレナが一人で思い付いたものだと知った。
見目麗しい男性と二人でなんて緊張するが、イェレナ抜きで話が出来るという事で、きちんと話が出来るのではないかと期待して付いていった。
☆★
中庭を歩き、花のアーチをくぐった先に小高くなった四阿にミロシュとナターシャが腰掛けると早々に、ミロシュは話し出した。
エドとキャリーは付いてきたが、少し離れた見える場所で待ってくれている。
「ナターシャ嬢、改めて挨拶をするね。僕はミロシュ=アレクサンダー。早速だけれどね。この話は僕、今聞いてちょっと動転しているんだが…。ナターシャ嬢はあの母からどう聞いたか分からないのだが、どうにも母は勝手に思い付きで大事な話まで進めてしまう気質で…迷惑を掛けたようで申し訳ない。」
そのように公爵家の嫡男だろう男性から頭を下げられ、慌ててナターシャは言葉を発した。
「頭をお上げ下さい!あ、あの私は隣国から参りました、ナターシャ=テイラーでございます。イェレナ様には、今朝馬車がぬかるみに嵌まって抜け出せなくなっている所をお手伝いしただけです。ですから…お礼なんてとんでもないです!でも、どうしてもと言われてましたから、うちの絹で作ったハンカチを渡してそれを使っていただいて、もし良ければ購入してほしいと軽い気持ちで伝えたのですけれど…。」
「ナターシャ嬢…済まない。君は、隣国から来られたんだね。〝うちの絹で作った〟って、君は商家かい?テイラー…テイラー…あ!テイラー侯爵家のご令嬢かな?」
「は、はい。ご存じでいらっしゃるとはありがたい限りです。」
「購入…そうか。それもいいけど…そうだな。…あのね、済まないが僕は心に決めた人がいるんだ。だから申し訳ないけれど君とは結婚出来ない。その代わり…お願いがあるんだが。」
そう言ったミロシュは、口にするのを躊躇っているようにナターシャには見えたが、その言葉を待った。
「ミロシュです。お呼びですか?」
「あぁ、来たわね。入りなさい。」
ナターシャが、言葉を繋げないでいると応接室の扉が叩かれ、男性が入って来た。黒い髪を短く切り揃えた、背の高いガッチリとした人だ。
「母上、どうしました…か?あ!お客様でしたか。すみません、出直します。」
そう言ったミロシュは、入って来た扉へ引き返そうとする。
「ミロシュ、いいのよ。私が呼んだのですからね。早くこちらへ座りなさい。」
イェレナはそう言い、自分の隣へと促した。
ミロシュは、ナターシャという見慣れない人物がいるのになぜ自分が呼ばれたのか?と一瞬だけ怪訝そうな顔をし、けれども表情を戻し、イェレナの隣へと座った。
イェレナは、ミロシュが座ると二人を見てニッコリと笑いかけて口を開いた。
「ナターシャ、こちらが私の息子のミロシュ。どお?整った顔立ちでしょう?そしてミロシュ、こちらはナターシャ=テイラーさん。ナターシャは今日、私を助けて下さったの。優しい心の持ち主なのよ。だからね、あなたナターシャと結婚なさい。」
「は!?」
ミロシュは表情を崩し、眉間にしわを寄せ、イェレナの方を向き、疑問を口にした。
「母上!何を言っておられるのです?僕はまだ結婚しないとあれほど…!」
「あら。そう言って何年経ったかしら?あなたももう二十五歳よ?そろそろ結婚しないと変な噂も立ち始めてしまうわ。王太子と揃って婚約者すらいないなんて、って。」
「いえ、それは…!言いたい奴には言わせておけばいいのです!それに僕はまだ騎士団という仕事に誇りを持っていますから!」
「騎士団は大切な勤めよね。別にそれを咎めてはいないわ。将来きちんと公爵家を継いでくれるなら私は文句はいわないと伝えたはずよ。でも、騎士団に所属していても結婚している人はいるわよね?」
「それは…まぁ。」
「じゃあいいじゃないの!私、ナターシャにお礼をと思ったのだけれどね、よく考えたらとてもいいお礼だと思わない?」
「あのですね…、普通は金品をとか、食事に招待するとかそういうのがお礼なのではないですか?」
「あら!それじゃ詰まらないわ。ナターシャは最初お礼は必要ないと言ったのよ。そんな謙虚な子、あなたの妻にぴったりじゃない?」
「母上…詰まらないとかではなく!お礼は要らないと言われたのに、僕を押し付ける気ですか!?」
「フフフ、そうとも言うわね。けれどもそれだけじゃないのよ、謙虚で心優しいナターシャが嫁に来てくれたら、私の娘になるじゃないの。それって素敵じゃないの!」
「また気まぐれでそんな…。ナターシャ嬢もいきなりの事でしたよね、僕の母が申し訳ありません。」
「い、いえ…あの…」
二人の成り行きを見ていたナターシャは、いきなりミロシュに話を振られ、公爵家に対してどう答えようか悩みながら口を開いたが、イェレナの言葉に遮られた。
「そうだわ!ミロシュ、庭でも案内してきなさいよ。二人で話す時間も必要でしょう?」
「全く…母上!父上は承諾しているのですか!?」
ミロシュは、こめかみに手をあてて、引きつったような顔をしながらそう聞いた。
「あら、これからよ。だってナターシャと会ったのは今朝よ。さっき思い付いたのだもの。」
「………。では、この話は僕から話しますから。この話は一旦保留で。良いですね?では、ナターシャ嬢、少し案内しますから、こちらへ来ていただけますか。」
「え?え、ええ…。あの、連れも一緒に外へ出てもよろしいですか?」
「連れ?あぁ…君の使用人かな?もちろんだよ。僕達は未婚同士だからその方が都合がいいからね。」
ナターシャは、公爵家の親子が言い合いをしているのを見て、どうやらイェレナが一人で思い付いたものだと知った。
見目麗しい男性と二人でなんて緊張するが、イェレナ抜きで話が出来るという事で、きちんと話が出来るのではないかと期待して付いていった。
☆★
中庭を歩き、花のアーチをくぐった先に小高くなった四阿にミロシュとナターシャが腰掛けると早々に、ミロシュは話し出した。
エドとキャリーは付いてきたが、少し離れた見える場所で待ってくれている。
「ナターシャ嬢、改めて挨拶をするね。僕はミロシュ=アレクサンダー。早速だけれどね。この話は僕、今聞いてちょっと動転しているんだが…。ナターシャ嬢はあの母からどう聞いたか分からないのだが、どうにも母は勝手に思い付きで大事な話まで進めてしまう気質で…迷惑を掛けたようで申し訳ない。」
そのように公爵家の嫡男だろう男性から頭を下げられ、慌ててナターシャは言葉を発した。
「頭をお上げ下さい!あ、あの私は隣国から参りました、ナターシャ=テイラーでございます。イェレナ様には、今朝馬車がぬかるみに嵌まって抜け出せなくなっている所をお手伝いしただけです。ですから…お礼なんてとんでもないです!でも、どうしてもと言われてましたから、うちの絹で作ったハンカチを渡してそれを使っていただいて、もし良ければ購入してほしいと軽い気持ちで伝えたのですけれど…。」
「ナターシャ嬢…済まない。君は、隣国から来られたんだね。〝うちの絹で作った〟って、君は商家かい?テイラー…テイラー…あ!テイラー侯爵家のご令嬢かな?」
「は、はい。ご存じでいらっしゃるとはありがたい限りです。」
「購入…そうか。それもいいけど…そうだな。…あのね、済まないが僕は心に決めた人がいるんだ。だから申し訳ないけれど君とは結婚出来ない。その代わり…お願いがあるんだが。」
そう言ったミロシュは、口にするのを躊躇っているようにナターシャには見えたが、その言葉を待った。
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