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対決後

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「まさかレイラがあんな隠し玉を用意してくれていたなんて。それならそうと言ってくれれば良かったのに、人が悪いな」

 対決終了後、殿下は私に向かってそんな軽口を飛ばす。
 普段あまりこういうことは言わないので、殿下も今回の勝利にほっとしているというのが伝わってくる。
 とはいえ私もまさか兄フィリップが自分たちのために動いてくれているとは思ってもみなかった。

「いえ、あれは私も知らなかったのです」
「そうなのか?」
「そうです殿下、私も直前まで証人が見つかるか分かりませんでしたので」

 そう言って、フィリップが私たちの元へ歩いてくる。
 そしてクルス殿下にぺこりと頭を下げた。

「殿下、最近妹がお世話になっております」
「いや、こちらこそ彼女がいて色々助かっている。特に今回は助けられた」
「そう言っていただけると兄として光栄です」
「しかしまさかあんな策を用意しているとは」

 殿下が感心すると、フィリップは私たちを交互に見る。

「正直なところあんな事件があったからこのままレイラは腐ってしまうのではないかと密かに心配していたのです。そこを殿下が召し抱えてくださったおかげでレイラは再び生き生きと日々を送るようになりました」
「お兄様……」

 まさかあの時にそんなことを考えていてくれたなんて。
 思いもよらぬ兄の心遣いをきって嬉しさとともに、それを殿下にも聞かれてしまったことに少しだけ恥ずかしくなる。

「そのため、私としても密かに感謝していたのです。そんな時にこの対決があると知り、レイラのためにも何か出来ないかを考えていたのです」
「なるほど、そうであったのか」

 正直なところ、議論は終始こちらが優勢ではあったが、あのまま対決が終わっていれば、「何となく殿下の方が正しそう」という程度で終わっていただろう。

 しかしフィリップの助太刀のおかげで観客のほとんどは殿下が圧勝と認識しただろう。もちろんそれまで殿下に不満を抱いていた貴族たちがそれで殿下への評価を改めるとは限らないが、少なくとも表立ってこのような噂が流れることはなくなるだろう。

「私からも、ありがとうございました、兄上」
「いや、僕の方こそレイラが頑張っているのにあまり力になれなくて済まなかった」
「後はこれを機に王宮が変わっていけばいいのだが……」

 殿下はそうつぶやく。
 結局のところアンジェリカを倒したのは振りかかる火の粉を払ったに過ぎない。殿下が目指すのは好き嫌いとか自分に都合がいい悪いで動く政治ではなく、正しいものが正しいとされる政治だ。

 これがその一歩になればいいのだが。
 私は殿下やフィリップと喜び合いながらそんなことを思うのだった。
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