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決着
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いよいよ対決は最終盤に差し掛かり、観客による質疑応答に突入した。と言っても、客席の人々にとって詳細な事実関係などは一度討論を聞いた程度ではよく分からない。彼らにとっては重要なのはどちらが正しいかというよりはどちらが勝つか、であった。
元々貴族たちの評判が良くないクルス殿下ではあったが、貴族からすると勤務態度にありそうなメイドを何回か殴った程度で糾弾されるのは困ることだった。この辺の匙加減は家にもよってピンキリであるが、中には仕事を多少失敗しただけで殴られるような家もある。
また、当主直々に暴力をふるっていなくても、執事長やメイド長の立場の者が下の者に体罰のようなことをしているという家もあるだろう。我が家ではさすがに兄が直接そんなことをしていることはないが、使用人同士でないとは言えない。
「メリアにも多少の落ち度はあっただろうに、それで殴られた程度で騒ぎ過ぎではないか?」
そんな訳で、客席からはこのような質問が相次いだ。
「そんな、私はあんなに怖かったのに」
その質問を受けたメリアはそう言って泣き真似をする。嘘を並べ立てるよりも可哀想な演技をする方が効果的だと思ったのだろう、彼女は具体的なことを言うのをやめてひたすら泣いた。
中には同情をする者もいたが、微妙な空気が流れた。
そんな中、客席から一人の人物が立ち上がった。
誰かと思えば兄のフィリップだ。
私はその姿を見て少し驚く。フィリップは言っては悪いがこういう見世物のような場に来るようなタイプではないと思ったからだ。
私のことを心配してくれて来てくれたのだろうが、だとしたら忙しい中手間をとらせて申し訳ない。
対決開始前に見回した時にはいなかったような気がするから、もしかしたら終わる前にと急いでやってきてくれたのかもしれない。
「メリアが実際にどの程度仕事を真面目にしていたのかは問い詰めても平行線をたどるだけだろう。それよりもアンジェリカ、あなたはこんなことをしているが前にあなたがメイドに手を上げていたと聞いたことがあるが」
「え」
突然のフィリップの言葉にアンジェリカの表情は凍り付く。
まさか観客席から新たな証言が出てくるとは思わなかったのだろう。
私もそれを聞いて驚いた。まさかフィリップが密かにこんな援護射撃を用意してくれていたなんて。
私に何も言わなかったところを見ると、恐らくぎりぎりまで準備出来るか分からなかったのだろう。
フィリップの後から年若い少女が一人歩いて来て、私たちの前まで歩いてくる。どこにでもいる普通の屋敷仕えの少女という感じだ。
彼女はフィリップに促されるようにして口を開く。
「私は少し前にレイランド家に仕えていましたが、そこでは仕事を間違えると叩いたり殴ったりされるのが日常的でした。もちろんこちらにも落ち度があるのでその時は間違っているとは思いませんでしたが……でもアンジェリカ様がこんなことをおっしゃっているのはおかしいです」
彼女のつたないながらもしっかりした言葉を聞き、観客席はどよめく。
それとこれとは全く別の話といえばそうなのだが、殿下を非難しているアンジェリカ自身の屋敷でも使用人に手を上げていたとなると、アンジェリカの言っていることからはごっそりと説得力が抜け落ちる。
「……では時間ですのでこれで討論は終わりにします」
司会の男はそう言って頭を下げた。
元々これは正式な裁判と違って判決が出るようなものでもない。
そのため、やってきた観客がどのような印象を抱くか、ということだけが結果として残るのだが、最後にフィリップがこの質問を差し込んだため結果は歴然だった。
「そ、そんな……」
呆然としているアンジェリカを置いて観客たちは「殿下に難癖をつけて自分もやっていたのか」「散々噂を流しておいて結局大したことない話だったな」などと話しながら帰っていく。
こうして王宮をにぎわせた対決は私たちの完全勝利で決着を見たのだった。
元々貴族たちの評判が良くないクルス殿下ではあったが、貴族からすると勤務態度にありそうなメイドを何回か殴った程度で糾弾されるのは困ることだった。この辺の匙加減は家にもよってピンキリであるが、中には仕事を多少失敗しただけで殴られるような家もある。
また、当主直々に暴力をふるっていなくても、執事長やメイド長の立場の者が下の者に体罰のようなことをしているという家もあるだろう。我が家ではさすがに兄が直接そんなことをしていることはないが、使用人同士でないとは言えない。
「メリアにも多少の落ち度はあっただろうに、それで殴られた程度で騒ぎ過ぎではないか?」
そんな訳で、客席からはこのような質問が相次いだ。
「そんな、私はあんなに怖かったのに」
その質問を受けたメリアはそう言って泣き真似をする。嘘を並べ立てるよりも可哀想な演技をする方が効果的だと思ったのだろう、彼女は具体的なことを言うのをやめてひたすら泣いた。
中には同情をする者もいたが、微妙な空気が流れた。
そんな中、客席から一人の人物が立ち上がった。
誰かと思えば兄のフィリップだ。
私はその姿を見て少し驚く。フィリップは言っては悪いがこういう見世物のような場に来るようなタイプではないと思ったからだ。
私のことを心配してくれて来てくれたのだろうが、だとしたら忙しい中手間をとらせて申し訳ない。
対決開始前に見回した時にはいなかったような気がするから、もしかしたら終わる前にと急いでやってきてくれたのかもしれない。
「メリアが実際にどの程度仕事を真面目にしていたのかは問い詰めても平行線をたどるだけだろう。それよりもアンジェリカ、あなたはこんなことをしているが前にあなたがメイドに手を上げていたと聞いたことがあるが」
「え」
突然のフィリップの言葉にアンジェリカの表情は凍り付く。
まさか観客席から新たな証言が出てくるとは思わなかったのだろう。
私もそれを聞いて驚いた。まさかフィリップが密かにこんな援護射撃を用意してくれていたなんて。
私に何も言わなかったところを見ると、恐らくぎりぎりまで準備出来るか分からなかったのだろう。
フィリップの後から年若い少女が一人歩いて来て、私たちの前まで歩いてくる。どこにでもいる普通の屋敷仕えの少女という感じだ。
彼女はフィリップに促されるようにして口を開く。
「私は少し前にレイランド家に仕えていましたが、そこでは仕事を間違えると叩いたり殴ったりされるのが日常的でした。もちろんこちらにも落ち度があるのでその時は間違っているとは思いませんでしたが……でもアンジェリカ様がこんなことをおっしゃっているのはおかしいです」
彼女のつたないながらもしっかりした言葉を聞き、観客席はどよめく。
それとこれとは全く別の話といえばそうなのだが、殿下を非難しているアンジェリカ自身の屋敷でも使用人に手を上げていたとなると、アンジェリカの言っていることからはごっそりと説得力が抜け落ちる。
「……では時間ですのでこれで討論は終わりにします」
司会の男はそう言って頭を下げた。
元々これは正式な裁判と違って判決が出るようなものでもない。
そのため、やってきた観客がどのような印象を抱くか、ということだけが結果として残るのだが、最後にフィリップがこの質問を差し込んだため結果は歴然だった。
「そ、そんな……」
呆然としているアンジェリカを置いて観客たちは「殿下に難癖をつけて自分もやっていたのか」「散々噂を流しておいて結局大したことない話だったな」などと話しながら帰っていく。
こうして王宮をにぎわせた対決は私たちの完全勝利で決着を見たのだった。
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