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逆ギレ

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 私が王宮に向かうと、すでに王宮はちょっとした騒ぎになっていた。タイミング的に恐らく私関連のことだろう。一体どうなったのだろうか、と少しどきどきしながら歩いていく。

 私が殿下の執務室に向かうと、そこには厳しい表情のクルス殿下と、物々しく武装した兵士がいて、それに囲まれたオリバーの姿があった。

 わずか半日ほどでここまで事態が進展していたとは。

 私も驚いたが、兵士に囲まれたオリバーはこちらを見るとかっと目を見開く。

「レイラ! よくもこんなことをしてくれたな!?」

 オリバーは大声で絶叫した。

 さすがの私もこれには空いた口が塞がらなかった。基本的に大きな貴族の一族が大した証拠もなしにこのようにしょっぴかれることはない。王族といえどもそんなことをすれば貴族全体から大きな反発を受けかねないからだ。
 クルス殿下も私が領地を寄付したとき、必ずしも捕まえることを期待するな、というようなことを言っていた。
 それなのにこうなっているということは抜き差しならない証拠が出たということだろう。

 そしてそんな状況なのに私を恨むのは逆ギレではないか。
 黙って他人の物を売り払ったことといい、これまで結婚した相手の精神性を疑ってしまう。

「それはこっちの台詞です。自分が何をしたのか分かっているんですか?」
「何だと? お前は自分の義妹がどうなってもいいって言うのか?」
「何の話です?」

 オリバーの話はいまいち意図が見えづらい。

「エミリーはな、エミリーは僕が守ってあげないといけないんだ! 僕以外にエミリーを守れる人はいないんだ!」
「ですから何の話ですか?」

 突然訳の分からないことを言われて私も困惑する。まあ彼がエミリーのために私の財産を勝手に売り払っていたというのは分かっていたが。
 クルス殿下は特に止めることなく手元の紙に何かを書いている。

 大方オリバーが勝手に話しているから事情聴取がはかどるとでも思っているのだろう。

「教えてやる、僕とエミリーはな……」

 そう言って彼は唾を飛ばしながら自分とエミリーの“絆”について語りだした。
 幼いころのエミリーがいじめられていたのを助けたこと。
 それ以来オリバーが彼女を守っていたこと。
 そしてエミリーがオリバーに依存するようになり、レイラとの結婚で心が不安定になりかけていたこと。

 彼はまるで自分が何かの物語の主人公にでもなったかのように陶酔しながら語っていたが、私は特に感情移入も出来なかった。

「……と言う訳で僕はエミリーを守るために仕方なくやったんだ! 君は自分の義妹がどうなってもいいって言うのか!?」

 オリバーはまるで私がとんだ薄情者、とでも言いたげにまくし立てているが、私は聞けば聞くほど閉口した。
 周りの兵士たちも皆オリバーの言葉に首をかしげている。
 ただクルス殿下だけは無表情でペンを走らせていた。
 そしてオリバーだけがそんな白けた空気にも気づいていない。

「結局それってあなたが妹の育て方を間違えたというだけですよね? そして百歩譲って私にそんなエミリーを助ける義理があったとして、勝手に私のものを売り払っていい理由にはなりませんよね?」
「う、うるさい! エミリーのために財産を売っていいかなんて聞いたら絶対反対するだろう! だから勝手に売ったんだ!」
「そう思うなら自分が責められている理由もお分かりですよね?」
「くそ、この冷血魔女め! お前には所詮この僕とエミリーの崇高な愛の形は分からないんだ!」

 そう言ってオリバーが暴れ出そうとしたため、周囲の兵士によって取り押さえられる。

「くそ、くそ、くそ!」

 オリバーそれでも暴れようとしたが所詮多勢に無勢、やがて兵士たちによって床に組み伏せられた。

「そこまでだ」

 そこでようやく、これまで黙っていたクルス殿下が口を開いたのだった。
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