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エミリーとネックレス

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 それからまた数日後のことだ。
 私とオリバーが居間でくつろいでいると、どこかのお出かけから帰って来たエミリーが部屋に入ってくる。見慣れないきれいなネックレスを着けているのが見える。

「ただいま帰りました」
「お帰りなさい」
「お帰り。おやエミリー、そのネックレス、きれいだね」
「ありがとうございます! さすが兄上、お目が高いですのね」

 そう言ってエミリーは嬉しそうにオリバーにネックレスを見せる。

「確かにネックレスはきれいだが、それもエミリーの魅力を引き立たせているだけだ。本当にきれいなのはエミリーだ」
「もう、お上手ですわ」

 オリバーが兄馬鹿を発揮してエミリーが喜ぶ。これに限ってはいつもの構図だ。
 だが、相変わらずエミリーの贅沢の頻度は高い。

 いや、よく考えてみると「相変わらず」ではない。私が嫁いできたばかりの時は彼女は我がままではあったものの、こんな短い期間に高額の買い物を繰り返してはいなかった気がする。我がままを言うだけ言って怒られるか、もっと安い贅沢を繰り返すかのどちらかだったはずだ。
 普通成長するほど分別を身に着けていきそうなのになぜ酷くなっていくのだろう。単にオリバーが甘やかしているから最近は余計に調子に乗って来たというだけなのだろうか、と思いながら見守る。

「しかしエミリー、よくそんな似合うものを見つけてきたな」
「はい、最近は兄上からお金をいただいているからそれに合う物がないかを常に探していますの」
「お金?」

 それを聞いて私は反応してしまう。お金というのは一体何の話だろうか。
 が、私は訊き返すと不意に二人ともしまった、という表情になる。そしてオリバーは声を潜めて言った。

「おいエミリー、それは口に出すなって言ったろ」
「すみません」
「ああ、今のは聞かなかったことにしてくれ。僕がエミリーに内緒であげているお小遣いだよ。ほら、こんなことしているとシスコンだと思われるから隠しているんだ」

 そう言ってオリバーは私の方を向いてへらへらと笑う。
 そしてそれに同調するようにエミリーはうんうんと頷いてみせる。

「そ、そうなんですか」

 確かにこの年になってもオリバーがエミリーに内緒でお小遣いをあげているのは恥ずかしいことだから隠している、と言われれば筋は通っているがそれにしては金額がでかい。これは絶対に何かある。

 本来は領地の運営に使うべきお金を中抜きしているのではないか。
 それとも領民から重税を絞りとっていないか。

 この時の私はどちらかというと自分の心配ではなく領地の心配からオリバーの行動に疑問を抱いた。

「ほどほどにしてくださいね」
「あ、ああ。そうだね」
「確かにエミリーもそろそろ兄離れしないといけませんね」

 そう言って私たちは三人が三人とも何かを取り繕うような微妙な表情を浮かべ、その場は終わった。
 しかし私は納得がいかなかった。

 もしもオリバーが領地よりも妹への情を優先しているのであれば妻である私がそれを正さなければ。
 しかし公爵に告げ口するなどの行為をしてしまって、万一オリバーがただ自分の貯金から出しているとかだったら私が彼を陥れようとしたことになってしまう。

 そのため、私は自力でオリバーのことを探ろうと決意したのである。
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