28 / 34
王子の絶望Ⅲ
しおりを挟む
「殿下、暴れるのはご自由ですが、もしカミラの無事を願うのであれば私との取引を飲む方がよろしいかと思います」
「……」
伯爵の言葉に寒気が走る。
もしも僕が伯爵の言うことを聞かなければ、実の娘であろうとも容赦はしない。そんな冷たい目だった。
「心配ありません。私としては殿下が王位につき、カミラが王妃になるのが最善の結果です。そのため私との取引を受け入れるのは殿下にとってもいいことのはずです。まず殿下は王宮に戻り次第、至急大臣を解任し、私を大臣に任命してください。それから、将軍にはどこか遠くの警備なり遠征なりを命じてください。最近は異民族との小競り合いが激しいらしいので、そちらを直に見聞させるというのがいいかもしれません。そうなれば後は私がやっておきます」
「そ、そんなことをすれば……」
基本的に大臣の職に就くのは有力貴族だけだから、もし伯爵が大臣になれば大きな反発が起こるだろう。しかし王家がそれを認めて軍を将軍と一緒に遠くにやってしまえば反発を抑えることも出来るかもしれない。
「そうです。そうなれば、殿下はカミラとともに王宮で好きに過ごしていただいて構いません。殿下に文句を言う者が私がつまみだしましょう」
「そ、それを受け入れればカミラは無事なのか」
「もちろんです」
元々こんなことになってしまったのは、全て僕の甘さが原因だ。
僕が誰の言うことを信じて誰の言うことを疑うべきかきちんと理解していればこうはならなかった。
しかしあの時、伯爵の企みにいち早く気づいたカミラさえ信じていれば、せめて彼女だけは助けられた。今更何をしても起きたことが戻らないのならば……僕はカミラを助ける。
すでに絶望でほとんど頭も回らなくなっていたが、僕は遠のく意識の中でそう決意する。
「分かった。その通りにするからカミラを解放してくれ」
「いえ、それは大臣の交代と将軍が王都を離れてからです」
「そんな!」
抗議をするものの、カミラの身は彼に握られてしまっている。
それに、今の僕には彼に歯向かう気力すらなかった。
「実は私が殿下のために命令書を作成しておきました。後はこれを出すだけです」
そう言ってヒューム伯は数十枚の書類を渡してくる。
どうせその中にはまたヒューム伯ばかりが得をするようなことがたくさん書かれているのだろう。しかし僕にはもはやそれを明らかにする気力もなかった。
「分かった」
「では王宮まで護衛いたしましょう」
護衛というよりは僕が心変わりしないか見張るためだろう、と分かりはしたが断ることも出来ない。
こうして僕は伯爵やその家臣に囲まれてとぼとぼと王宮へ戻るのだった。
「……」
伯爵の言葉に寒気が走る。
もしも僕が伯爵の言うことを聞かなければ、実の娘であろうとも容赦はしない。そんな冷たい目だった。
「心配ありません。私としては殿下が王位につき、カミラが王妃になるのが最善の結果です。そのため私との取引を受け入れるのは殿下にとってもいいことのはずです。まず殿下は王宮に戻り次第、至急大臣を解任し、私を大臣に任命してください。それから、将軍にはどこか遠くの警備なり遠征なりを命じてください。最近は異民族との小競り合いが激しいらしいので、そちらを直に見聞させるというのがいいかもしれません。そうなれば後は私がやっておきます」
「そ、そんなことをすれば……」
基本的に大臣の職に就くのは有力貴族だけだから、もし伯爵が大臣になれば大きな反発が起こるだろう。しかし王家がそれを認めて軍を将軍と一緒に遠くにやってしまえば反発を抑えることも出来るかもしれない。
「そうです。そうなれば、殿下はカミラとともに王宮で好きに過ごしていただいて構いません。殿下に文句を言う者が私がつまみだしましょう」
「そ、それを受け入れればカミラは無事なのか」
「もちろんです」
元々こんなことになってしまったのは、全て僕の甘さが原因だ。
僕が誰の言うことを信じて誰の言うことを疑うべきかきちんと理解していればこうはならなかった。
しかしあの時、伯爵の企みにいち早く気づいたカミラさえ信じていれば、せめて彼女だけは助けられた。今更何をしても起きたことが戻らないのならば……僕はカミラを助ける。
すでに絶望でほとんど頭も回らなくなっていたが、僕は遠のく意識の中でそう決意する。
「分かった。その通りにするからカミラを解放してくれ」
「いえ、それは大臣の交代と将軍が王都を離れてからです」
「そんな!」
抗議をするものの、カミラの身は彼に握られてしまっている。
それに、今の僕には彼に歯向かう気力すらなかった。
「実は私が殿下のために命令書を作成しておきました。後はこれを出すだけです」
そう言ってヒューム伯は数十枚の書類を渡してくる。
どうせその中にはまたヒューム伯ばかりが得をするようなことがたくさん書かれているのだろう。しかし僕にはもはやそれを明らかにする気力もなかった。
「分かった」
「では王宮まで護衛いたしましょう」
護衛というよりは僕が心変わりしないか見張るためだろう、と分かりはしたが断ることも出来ない。
こうして僕は伯爵やその家臣に囲まれてとぼとぼと王宮へ戻るのだった。
23
お気に入りに追加
2,135
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら人嫌いで有名な不老公爵に溺愛されました~元婚約者達は家から追放されたようです~
琴葉悠
恋愛
かつて、国を救った英雄の娘エミリアは、婚約者から無表情が不気味だからと婚約破棄されてしまう。
エミリアはそれを父に伝えると英雄だった父バージルは大激怒、婚約者の父でありエミリアの親友の父クリストファーは謝るがバージルの気が収まらない。
結果、バージルは国王にエミリアの婚約者と婚約者を寝取った女の処遇を決定するために国王陛下の元に行き――
その結果、エミリアは王族であり、人嫌いで有名でもう一人の英雄である不老公爵アベルと新しく婚約することになった――
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~
狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。
もう、こんな婚約者知らない。
私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる