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王子の絶望Ⅲ

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「殿下、暴れるのはご自由ですが、もしカミラの無事を願うのであれば私との取引を飲む方がよろしいかと思います」
「……」

 伯爵の言葉に寒気が走る。
 もしも僕が伯爵の言うことを聞かなければ、実の娘であろうとも容赦はしない。そんな冷たい目だった。

「心配ありません。私としては殿下が王位につき、カミラが王妃になるのが最善の結果です。そのため私との取引を受け入れるのは殿下にとってもいいことのはずです。まず殿下は王宮に戻り次第、至急大臣を解任し、私を大臣に任命してください。それから、将軍にはどこか遠くの警備なり遠征なりを命じてください。最近は異民族との小競り合いが激しいらしいので、そちらを直に見聞させるというのがいいかもしれません。そうなれば後は私がやっておきます」
「そ、そんなことをすれば……」

 基本的に大臣の職に就くのは有力貴族だけだから、もし伯爵が大臣になれば大きな反発が起こるだろう。しかし王家がそれを認めて軍を将軍と一緒に遠くにやってしまえば反発を抑えることも出来るかもしれない。

「そうです。そうなれば、殿下はカミラとともに王宮で好きに過ごしていただいて構いません。殿下に文句を言う者が私がつまみだしましょう」
「そ、それを受け入れればカミラは無事なのか」
「もちろんです」

 元々こんなことになってしまったのは、全て僕の甘さが原因だ。
 僕が誰の言うことを信じて誰の言うことを疑うべきかきちんと理解していればこうはならなかった。

 しかしあの時、伯爵の企みにいち早く気づいたカミラさえ信じていれば、せめて彼女だけは助けられた。今更何をしても起きたことが戻らないのならば……僕はカミラを助ける。

 すでに絶望でほとんど頭も回らなくなっていたが、僕は遠のく意識の中でそう決意する。

「分かった。その通りにするからカミラを解放してくれ」
「いえ、それは大臣の交代と将軍が王都を離れてからです」
「そんな!」

 抗議をするものの、カミラの身は彼に握られてしまっている。
 それに、今の僕には彼に歯向かう気力すらなかった。

「実は私が殿下のために命令書を作成しておきました。後はこれを出すだけです」

 そう言ってヒューム伯は数十枚の書類を渡してくる。
 どうせその中にはまたヒューム伯ばかりが得をするようなことがたくさん書かれているのだろう。しかし僕にはもはやそれを明らかにする気力もなかった。

「分かった」
「では王宮まで護衛いたしましょう」

 護衛というよりは僕が心変わりしないか見張るためだろう、と分かりはしたが断ることも出来ない。
 こうして僕は伯爵やその家臣に囲まれてとぼとぼと王宮へ戻るのだった。
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