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王子の誤算Ⅱ

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 それから僕はカミラと一緒に庭園の散策を楽しんだ。王宮の庭園は普通の貴族では入れないところであり、一介の伯爵令嬢に過ぎないカミラはもちろん入ったことがない。

 そのためこの中にしかない珍しい花やきれいな彫像を鑑賞して僕らは幸せなひと時を過ごした。
 そして満足して王宮へ戻ろうという時である。

「殿下!」

 そう叫ぶ声とともにばたばたという足音が聞こえてきた。
 全く、今日は僕の元にやってくる失礼な輩が多い。

 が、誰だ、と尋ねる前に人影は姿を現した。近衛には足止めをしておくよう命じたのに仕事も満足に出来ないのか、と思ったところで僕はその人影の姿を見て驚いた。

 何と彼は将軍のグレッグだったのだ。
 確かに将軍が相手では近衛兵も止めることは出来ないだろう。
 元々がたいが良く、髭面で強面のグレッグであったが、今は僕のことがよほど気に食わないのか、僕とカミラを見て顔をいからせている。

 それを見てカミラがびくりとしたので、僕は彼女をかばうように前に出る。

「な、何の用だ」
「殿下、公務でもないのに年頃の女性と一緒にいるとは……もしや婚約破棄も彼女の色香に惑わされてのものだったのでしょうか」

 グレッグの言葉に僕は怒りを覚える。
 いきなり僕の前に出てきた時点で苛ついていたが、まさかカミラのことをそんな言い方をするなんて。僕は決して彼女が女として魅力だから側にいる訳ではなく、もっと内面に惹かれているのだ。

「おいグレッグ、将軍だからといって言っていいことと悪いことがある。僕とカミラはそんな俗な関係ではない!」
「そうですか、でしたら二人きりになるのは慎まれるべきです」
「分かった」

 まあ俗人には僕とカミラの高度な関係は理解出来ないだろうし、ここは適当に頷いておこう。

「で、彼女との関係が理由ではないのであれば婚約破棄はどのような理由があるのでしょうか」
「分かり切ったことだ、僕の周りの者は皆アシュリーばかりをほめそやし、王子である僕よりも彼女ばかりを敬っている。このままでは僕の威厳が損なわれるからだ」
「なぜならそれは殿下よりもアシュリー様の方が優秀で、周囲への気遣いも出来るからです」
「お前までそれを言うか!」

 グレッグの言葉に僕は怒りを覚えた。
 だがグレッグは一歩も引かない。将軍である彼にとって僕のような若者は屁でもないのだろう。やはり彼らには僕に対する敬意が足りない。

「殿下、まずはそのことをお認めください。周囲の者がなぜアシュリー様ばかりを敬うのか、その理由を考えてください。そしてもしご自身に足りないところがあればそれを埋める努力をすべきではないでしょうか」
「うるさい、次から次へと御託を並べおって! 少しはヒューム伯を見習って僕への忠節を尽くしてはどうだ」
「殿下、そのことですがヒューム伯が殿下に忠節を尽くしていると言うのには疑問があります。彼が殿下に決裁させた書類の中身を一度でも確認したことはありますか?」
「そんなことする訳ないだろう。僕は彼を信じているんだ。誰が僕への忠誠心を持っているかは少し話せば分かるからな」

 自分の意見が通らないからといってカミラだけでなくヒューム伯にまで矛を向けるとは。将軍とはいえ好戦的な人物だ。

 が、僕の言葉に彼は深く溜め息をつく。

「では今度ご自身で決裁した書類をご覧ください。そうすれば彼がただの忠臣ではないことが明らかになるでしょう」
「うるさい、とにかく去れ!」

 そう言うと彼は不服そうではあったが言うべきことは言った、とばかりにその場を去るのだった。
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