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アシュリー視点 久しぶりの休日

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 カールの唐突な婚約破棄の翌日、私は王宮が大騒ぎになっているとも知らずに屋敷で一人で目を覚ました。
 朝起きて真っ先に殿下の予定を確認しようとしてはっとする。

 そう言えば昨日婚約を破棄されたのだった。帰った後も父上を始めとする家の人に根ほり葉ほり事情を聞かれて色々大変だったが、やがて疲れ果てて寝てしまったらしい。

 今は皆私よりも国王や王子本人に問いただそうとして出かけてしまったのか、かえって屋敷の中はがらんとしていた。

 いつもはその日の殿下の予定を見て、用事があればその準備を、なければ学問を教えるなど手助け出来ることがないかを確認するのが日課になっていたが、今日からはもうそんなことはしなくていいのだった。

 そのことを思い出すとほっとすると同時に少しだけ心にぽっかりと穴が空くような気持ちになる。
 幼いころ毎日のように習っていた習い事を卒業した時のように、やらなければならないことが減ったのは嬉しいけど、今まで日課にしていたことがなくなって寂しいという言葉にしづらい気持ちだ。

「今日からは何しよう」

 いつもは殿下のサポートの他に、王子の婚約者として人に会ったり、王家のしきたりを習ったりと予定だらけだったのだが、今はそれらも全てなくなってしまった。これまでは全部やらなければならないことだと思っていたが、こうして全てから解き放たれてしまうとやらなくてもいいことだったのか、と思えてしまう。

 これまで自分のために何か予定を入れようと思ったこともなかったので私は逆に困ってしまう。せめて前もって分かっていれば何か予定を考えておけたのに。
 そんなことを考えつつ、ぼんやりと着替えて朝食を食べ終わったころだった。
 私の元に一人のメイドがやってくる。

「お嬢様、エイワーズ家のお嬢様からお茶会のお誘いが届いております」
「こんな朝早くから?」

 私は少し驚いたが、昨日の事件を知って朝一で招待状を出したら今つくのかもしれない。エイワーズ家のルーミアとは年が近く、殿下との婚約が決まる前は一緒にダンスを習ったり、時々パーティーやお茶会で会ったりした。

 向こうも婚約者が決まってお互い忙しくなり最近はあまり会えていなかったので彼女の名前を聞いて私は少し懐かしくなる。
 私はメイドが差し出した手紙を受け取ると、中を開いた。

『親愛なるアシュリーへ
 昨日の婚約破棄の件、聞いたわ。色んな噂が錯綜していて何があったのかはよく分からないけど、私やシルヴィア、エイミーたちも皆アシュリーのことが心配だからお茶会をやろうという話になったわ。だから急だけど今日の午後うちに来られない? もしそんな気分でないということであれば後日また開くけど。
                                          ルーミア』

 その手紙を読んで少し嬉しくなった。
 確かに婚約破棄されたら本来もっと落ち込むものかもしれない。しかし私は落ち込むというよりはどちらかというよりも胸にぽっかりと穴が空いたという気分だった。

 私は別にカール殿下を愛していた訳ではない。
 しかし王子の婚約者であるという事実は私の生活の全てになっていた。
 私は王族の一員であり殿下を助けて生きていかなければならない、と思い続けてきてそのためだけに生活してきた。そのため婚約を破棄されてその地位がなくなった瞬間、これまでやってきた何もかもが無意味になってしまったのだ。

 そういう意味ではこうしてまた誘ってもらえるのはありがたい。
 幸い、悲しみに暮れて誰とも会いたくないという訳でもないので私はありがたくその申し出を受けることにした。

「ありがとう、行く、という返事を頼んだわ」
「分かりました」

 こうして朝食を食べ終えると私はお茶会に向かう準備を始める。
 これまではどちらかというと公務に近い会合ばかりだったから服装もそれに合わせたものにしなければならなかった。

 しかし今回は久し振りの完全に親しい者同士でのお茶会だ。そんな訳で私は自分の好きな服を選ぼうと身支度を始めるのだった。
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