16 / 34
アシュリー視点 久しぶりの休日
しおりを挟む
カールの唐突な婚約破棄の翌日、私は王宮が大騒ぎになっているとも知らずに屋敷で一人で目を覚ました。
朝起きて真っ先に殿下の予定を確認しようとしてはっとする。
そう言えば昨日婚約を破棄されたのだった。帰った後も父上を始めとする家の人に根ほり葉ほり事情を聞かれて色々大変だったが、やがて疲れ果てて寝てしまったらしい。
今は皆私よりも国王や王子本人に問いただそうとして出かけてしまったのか、かえって屋敷の中はがらんとしていた。
いつもはその日の殿下の予定を見て、用事があればその準備を、なければ学問を教えるなど手助け出来ることがないかを確認するのが日課になっていたが、今日からはもうそんなことはしなくていいのだった。
そのことを思い出すとほっとすると同時に少しだけ心にぽっかりと穴が空くような気持ちになる。
幼いころ毎日のように習っていた習い事を卒業した時のように、やらなければならないことが減ったのは嬉しいけど、今まで日課にしていたことがなくなって寂しいという言葉にしづらい気持ちだ。
「今日からは何しよう」
いつもは殿下のサポートの他に、王子の婚約者として人に会ったり、王家のしきたりを習ったりと予定だらけだったのだが、今はそれらも全てなくなってしまった。これまでは全部やらなければならないことだと思っていたが、こうして全てから解き放たれてしまうとやらなくてもいいことだったのか、と思えてしまう。
これまで自分のために何か予定を入れようと思ったこともなかったので私は逆に困ってしまう。せめて前もって分かっていれば何か予定を考えておけたのに。
そんなことを考えつつ、ぼんやりと着替えて朝食を食べ終わったころだった。
私の元に一人のメイドがやってくる。
「お嬢様、エイワーズ家のお嬢様からお茶会のお誘いが届いております」
「こんな朝早くから?」
私は少し驚いたが、昨日の事件を知って朝一で招待状を出したら今つくのかもしれない。エイワーズ家のルーミアとは年が近く、殿下との婚約が決まる前は一緒にダンスを習ったり、時々パーティーやお茶会で会ったりした。
向こうも婚約者が決まってお互い忙しくなり最近はあまり会えていなかったので彼女の名前を聞いて私は少し懐かしくなる。
私はメイドが差し出した手紙を受け取ると、中を開いた。
『親愛なるアシュリーへ
昨日の婚約破棄の件、聞いたわ。色んな噂が錯綜していて何があったのかはよく分からないけど、私やシルヴィア、エイミーたちも皆アシュリーのことが心配だからお茶会をやろうという話になったわ。だから急だけど今日の午後うちに来られない? もしそんな気分でないということであれば後日また開くけど。
ルーミア』
その手紙を読んで少し嬉しくなった。
確かに婚約破棄されたら本来もっと落ち込むものかもしれない。しかし私は落ち込むというよりはどちらかというよりも胸にぽっかりと穴が空いたという気分だった。
私は別にカール殿下を愛していた訳ではない。
しかし王子の婚約者であるという事実は私の生活の全てになっていた。
私は王族の一員であり殿下を助けて生きていかなければならない、と思い続けてきてそのためだけに生活してきた。そのため婚約を破棄されてその地位がなくなった瞬間、これまでやってきた何もかもが無意味になってしまったのだ。
そういう意味ではこうしてまた誘ってもらえるのはありがたい。
幸い、悲しみに暮れて誰とも会いたくないという訳でもないので私はありがたくその申し出を受けることにした。
「ありがとう、行く、という返事を頼んだわ」
「分かりました」
こうして朝食を食べ終えると私はお茶会に向かう準備を始める。
これまではどちらかというと公務に近い会合ばかりだったから服装もそれに合わせたものにしなければならなかった。
しかし今回は久し振りの完全に親しい者同士でのお茶会だ。そんな訳で私は自分の好きな服を選ぼうと身支度を始めるのだった。
朝起きて真っ先に殿下の予定を確認しようとしてはっとする。
そう言えば昨日婚約を破棄されたのだった。帰った後も父上を始めとする家の人に根ほり葉ほり事情を聞かれて色々大変だったが、やがて疲れ果てて寝てしまったらしい。
今は皆私よりも国王や王子本人に問いただそうとして出かけてしまったのか、かえって屋敷の中はがらんとしていた。
いつもはその日の殿下の予定を見て、用事があればその準備を、なければ学問を教えるなど手助け出来ることがないかを確認するのが日課になっていたが、今日からはもうそんなことはしなくていいのだった。
そのことを思い出すとほっとすると同時に少しだけ心にぽっかりと穴が空くような気持ちになる。
幼いころ毎日のように習っていた習い事を卒業した時のように、やらなければならないことが減ったのは嬉しいけど、今まで日課にしていたことがなくなって寂しいという言葉にしづらい気持ちだ。
「今日からは何しよう」
いつもは殿下のサポートの他に、王子の婚約者として人に会ったり、王家のしきたりを習ったりと予定だらけだったのだが、今はそれらも全てなくなってしまった。これまでは全部やらなければならないことだと思っていたが、こうして全てから解き放たれてしまうとやらなくてもいいことだったのか、と思えてしまう。
これまで自分のために何か予定を入れようと思ったこともなかったので私は逆に困ってしまう。せめて前もって分かっていれば何か予定を考えておけたのに。
そんなことを考えつつ、ぼんやりと着替えて朝食を食べ終わったころだった。
私の元に一人のメイドがやってくる。
「お嬢様、エイワーズ家のお嬢様からお茶会のお誘いが届いております」
「こんな朝早くから?」
私は少し驚いたが、昨日の事件を知って朝一で招待状を出したら今つくのかもしれない。エイワーズ家のルーミアとは年が近く、殿下との婚約が決まる前は一緒にダンスを習ったり、時々パーティーやお茶会で会ったりした。
向こうも婚約者が決まってお互い忙しくなり最近はあまり会えていなかったので彼女の名前を聞いて私は少し懐かしくなる。
私はメイドが差し出した手紙を受け取ると、中を開いた。
『親愛なるアシュリーへ
昨日の婚約破棄の件、聞いたわ。色んな噂が錯綜していて何があったのかはよく分からないけど、私やシルヴィア、エイミーたちも皆アシュリーのことが心配だからお茶会をやろうという話になったわ。だから急だけど今日の午後うちに来られない? もしそんな気分でないということであれば後日また開くけど。
ルーミア』
その手紙を読んで少し嬉しくなった。
確かに婚約破棄されたら本来もっと落ち込むものかもしれない。しかし私は落ち込むというよりはどちらかというよりも胸にぽっかりと穴が空いたという気分だった。
私は別にカール殿下を愛していた訳ではない。
しかし王子の婚約者であるという事実は私の生活の全てになっていた。
私は王族の一員であり殿下を助けて生きていかなければならない、と思い続けてきてそのためだけに生活してきた。そのため婚約を破棄されてその地位がなくなった瞬間、これまでやってきた何もかもが無意味になってしまったのだ。
そういう意味ではこうしてまた誘ってもらえるのはありがたい。
幸い、悲しみに暮れて誰とも会いたくないという訳でもないので私はありがたくその申し出を受けることにした。
「ありがとう、行く、という返事を頼んだわ」
「分かりました」
こうして朝食を食べ終えると私はお茶会に向かう準備を始める。
これまではどちらかというと公務に近い会合ばかりだったから服装もそれに合わせたものにしなければならなかった。
しかし今回は久し振りの完全に親しい者同士でのお茶会だ。そんな訳で私は自分の好きな服を選ぼうと身支度を始めるのだった。
32
お気に入りに追加
2,135
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら人嫌いで有名な不老公爵に溺愛されました~元婚約者達は家から追放されたようです~
琴葉悠
恋愛
かつて、国を救った英雄の娘エミリアは、婚約者から無表情が不気味だからと婚約破棄されてしまう。
エミリアはそれを父に伝えると英雄だった父バージルは大激怒、婚約者の父でありエミリアの親友の父クリストファーは謝るがバージルの気が収まらない。
結果、バージルは国王にエミリアの婚約者と婚約者を寝取った女の処遇を決定するために国王陛下の元に行き――
その結果、エミリアは王族であり、人嫌いで有名でもう一人の英雄である不老公爵アベルと新しく婚約することになった――
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~
狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。
もう、こんな婚約者知らない。
私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる