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大臣の直訴

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 カールが婚約破棄に満足し、ヒューム伯がほく笑んでいるころ、大臣のアダムは部下や将軍グレッグの署名を集め、カールの婚約破棄についての真意を尋ねるため国王の元に向かった。

「何だ、そのように慌てて」

 アダムがやってくると、国王は面倒くさそうに言う。

「陛下もご存知でしょう、このたびの婚約破棄のこと!」
「もちろん知ってはいるが……そなたらに言うと反対するから言わなかったのだ」

 それを聞いてアダムは閉口する。反対されるから言わなかった、などまるで子供の言い分ではないか。子供が親に黙って遊びに行くのと婚約破棄とでは訳が違う。

「反対するのも当然でございます! アシュリー様ほど王妃にふさわしい方は他にはおらぬでしょう! それなのになぜ婚約破棄を黙認されたのでしょうか!?」
「それは……」

 国王は言葉を濁す。さすがにアシュリーが息子より優秀なのが気に食わなかったとは言えない。
 が、アダムは追及を緩めなかった。

「それは何故でございましょうか」
「何でもいい、とにかくわしが判断したことだ! お前たちは口を出さなくて良い!」

 国王は乱暴に言い放つが、アダムはなおも食い下がる。

「そうはいきません。せめて理由だけでも教えてください。こんなにたくさんの者たちがこのたびの婚約破棄に疑問を表明しているのです」

 そう言ってアダムは目の前に集めてきた署名を叩きつけるようにして差し出す。
 昨日の婚約破棄からわずか半日であったが、かなりの数の署名が集まった。

 それを見た国王は一瞬蒼くなったが、すぐに逆ギレする。

「うるさい! お前たちもカールよりもアシュリーの方がいいと言うのか!?」
「な……」

 それを聞いたアダムは何となく国王の真意を察してしまった。
 結局、アダムを始めとする多くの者がカールよりもアシュリーばかりをちやほやしているのが国王にとってもカールにとってもおもしろくなかったのだろう。

 もしそうであるのならば「アシュリーは素晴らしい人だから婚約破棄を取り消せ」と言い続けるのはかえって逆効果だろう。

 では一体どうすればいいのかと考えてみてもすぐには答えは出ない。
 アダムが呆然としていると、国王は追い打ちをかけるように言う。

「そなたも疲れているようだ。一週間ほど仕事を忘れて休みをとってはどうかな?」
「そんな、そのようにしてこの件をうやむやにするつもりでしょうか!?」
「そうではない。もういい、わしはこれから用があるからもう行く!」

 そう言って国王はアダムの話を聞かずに一方的に部屋を出ていってしまった。
 残されたアダムは呆然としたが、かといってこのようなことを見過ごす訳にはいかない。百歩譲ってただ婚約破棄が行われただけならまだしも、話を聞く限り明らかにカールは周囲の者にそそのかされている。

 アシュリーを失っただけでなく、明らかに悪だくみしている者たちがカールに取り入れば、明らかにいい結果にはならないだろう。

「そうだ、殿下は元々このような大それた決断を一人で行えるような方ではなかった。おそらくヒューム伯あたりにそそのかされたのであろう。軍を動かすのは良くないとしても大勢で直訴すれば殿下も考えを変えてくださるかもしれぬ」

 本来は王族に対して数に物を言わせて直訴するというのは無礼であるが、そんなことに構っている余裕はなかった。

 執務室に戻ったアダムはすぐに周りの者たちに呼びかける。

「今晩、殿下にこのたびの婚約破棄について考え直していただくよう頼みに行こうと思う。考えを同じくする者は集まるように」
「分かりました!」「そのお言葉をお待ちしていました!」「このようなことを見過ごす訳にはいきません!」

 アダムの言葉に周囲の文官たちも次々に賛同する。
 そしてそれぞれがそれぞれの部下を集め始めるのだった。
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