王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~

今川幸乃

文字の大きさ
7 / 34

提案

しおりを挟む
「何だ、提案というのは」
「婚約破棄を宣言することです」
「何だと!?」

 ヒューム伯の言葉に僕は驚く。確かにアシュリーのことは好きではないが、だからといって婚約破棄というのは簡単に出来るものではない。簡単に出来るのであれば政略結婚なんて発生しなくなるだろう。

「だがそんなことをすれば父上が一体何と言うか……」
「もちろん陛下の説得は容易ではないでしょう。しかし殿下、このままでは殿下の周りは殿下よりもアシュリー様の顔色をうかがう者ばかりになってしまいます。そうなればアシュリー様の実家であるヘイウッド家が王国の中枢を握ってしまうことになります。それだけは避けなければなりません」

 ヒューム伯の言葉を聞いて僕は納得した。
 確かに、これはただの夫婦仲や僕の気持ちの問題ではないのだ。僕と結婚するということは将来王妃になるということでもあり、それは王国の動向にも関係する重大事である。

「しかし父上には何と説明すればいいだろうか? 自分で言うのも何だが、アルベルトらが僕を軽んじてアシュリーばかりを持ち上げるのは父上も黙認しているようなのだ」

 アルベルトらが言うように、父上は若いころから有能な人物だったらしい。
 そもそもアシュリーとの婚約自体が父上によって決められたものであるため、父上をどうにかしなければ婚約破棄を行うのは難しいだろう。

「分かりました。でしたらこの私がアシュリー様かアルベルトたちが悪だくみをしているという証拠を見つけてきましょう」

 そう言ってヒューム伯爵は胸を叩く。

「本当か!?」
「はい、もし謀叛の証拠がなければそれはそれで良し、見つかればそれを陛下に見せて婚約破棄を行うことが出来ます」
「さすがヒューム伯だ。頼んだぞ」
「かしこまりました。殿下のために微力ながら力を尽くします」

 そう言って伯爵は頭を下げ、部屋を出ていくのだった。おそらく早速その使命を果たしに行ったのだろう。
 そして部屋には僕とカミラが残される。

「殿下、大変だったかもしれませんが、よくご決断なされました。婚約が相手がそのようなことを企んでいるかもしれないと思うとさぞお辛いことでしょう」

 カミラは優しい言葉をかけてくれる。

「ああ、アシュリーもアルベルトたちも僕のためにしてくれていることが空回りしているだけなのかもしれないと思ったこともあったが……やはりそうではないのだな」
「大丈夫です殿下。私と父上は何があっても殿下を裏切ることはありませんから」

 カミラの言葉からは周りの者たちと違って誠実さを感じられた。
 彼らは結局どうやって僕を言いくるめて言うことを聞かせるかばかり考えて、その魂胆がバレそうになった時だけ「殿下のため」と言ってごまかしているに違いない。
 その証拠に、本当に僕のことを考えてくれているカミラの言葉は彼らの言葉とは違い、こんなにも心にしみる。やはり彼らは「殿下のため」と言いながらも心が籠っていなかったので僕の心に届かなかったのだろう。

「しかし一つ不安なのは、もし奴らが結託して証拠を隠蔽すれば見つからないのではないか?」
「大丈夫です。父上は有能な人物ですし、殿下に仇なす者たちの証拠を突き止めるためならどのようなこともいとわないですから」
「そうか、なら僕に出来ることは信じて待つことだけだな」
「はい、殿下は王宮ではお辛い思いばかりしているでしょうから、この屋敷にいる時ぐらいは心を楽にしてください」

 相変わらずカミラは僕に優しかった。
 彼女が奴らと同じ人間とはとても信じられないほどだ。

「分かった、ありがとうカミラ」
「いえいえ、当然のことです」

 こうして僕はヒューム伯の屋敷でしばしの休息を楽しんだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがないから、婚約破棄する」―― 王太子アルヴィスから突然告げられた、理不尽な言葉。 令嬢リオネッタは涙を流す……フリをして、内心ではこう叫んでいた。 (やった……! これで自由だわーーーッ!!) 実家では役立たずと罵られ、社交界では張り付いた笑顔を求められる毎日。 だけど婚約破棄された今、もう誰にも縛られない! そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国の若き伯爵家―― 「干渉なし・自由尊重・離縁もOK」の白い結婚を提案してくれた、令息クリスだった。 温かな屋敷、美味しいご飯、優しい人々。 自由な生活を満喫していたリオネッタだったが、 王都では元婚約者の評判がガタ落ち、ざまぁの嵐が吹き荒れる!? さらに、“形式だけ”だったはずの婚約が、 次第に甘く優しいものへと変わっていって――? 「私はもう、王家とは関わりません」 凛と立つ令嬢が手に入れたのは、自由と愛と、真の幸福。 婚約破棄が人生の転機!? ざまぁ×溺愛×白い結婚から始まる、爽快ラブファンタジー! ---

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!

ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」 侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。 しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。 全ては仕組まれた冤罪だった。 聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。 幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが… 「やっと自由になれたぞ!」 実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。 貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。 一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。 すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。

馬鹿王子は落ちぶれました。 〜婚約破棄した公爵令嬢は有能すぎた〜

mimiaizu
恋愛
マグーマ・ティレックス――かつて第一王子にして王太子マグーマ・ツインローズと呼ばれた男は、己の人生に絶望した。王族に生まれ、いずれは国王になるはずだったのに、男爵にまで成り下がったのだ。彼は思う。 「俺はどこで間違えた?」 これは悪役令嬢やヒロインがメインの物語ではない。ざまぁされる男がメインの物語である。 ※『【短編】婚約破棄してきた王太子が行方不明!? ~いいえ。王太子が婚約破棄されました~』『王太子殿下は豹変しました!? 〜第二王子殿下の心は過労で病んでいます〜』の敵側の王子の物語です。これらを見てくだされば分かりやすいです。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全
恋愛
「余はカチュアとの婚約を破棄する」  王太子殿下に一方的に婚約を破棄されたのは、公爵家令嬢のカチュア・サライダだった。  彼女は前世の記憶を持って転生した、水乙女という、オアシス王国にはなくてはならない存在だった。  精霊に祈りを捧げ、水を湧かせてもらわないと、国が亡ぶのだ。  だが事情があって、カチュアは自分は水乙女であることを黙っていた。  ただ、愛する人や民の為に祈り続けていた。  カチュアとの婚約解消を言い放った王太子殿下は、自分に相応しい相手は水乙女しかいないと、一人の女性を側に侍らせるのだった。

【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました

楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。 王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。 アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。 薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。 魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。 ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。 婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。

冷徹王子に捨てられた令嬢、今ではその兄王に溺愛されています

ゆっこ
恋愛
 ――「お前のような女に、俺の隣は似合わない」  その言葉を最後に、婚約者であった第二王子レオンハルト殿下は私を冷たく突き放した。  私、クラリス・エルデンは侯爵家の令嬢として、幼い頃から王子の婚約者として育てられた。  しかし、ある日突然彼は平民出の侍女に恋をしたと言い出し、私を「冷酷で打算的な女」だと罵ったのだ。  涙も出なかった。  あまりに理不尽で、あまりに一方的で、怒りも悲しみも通り越して、ただ虚しさだけが残った。

処理中です...