「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃

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エピローグ

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「ただいま、遅くなって悪かった」
「お帰り。帰ってきて良かったの? 今日は大事な会合だったって聞くけど」
「会合自体は終わったから大丈夫だ」
「でも、その後にも宴会とか色々あるんじゃ?」
「確かにそうだけど、それは別にいいよ」

 あれから数年後、私とフランクは無事に正式に結婚し、フランクはロイド家の当主を継ぎました。先代のロイド男爵も隠居したもののまだ元気で、フランクの手に負えないことがあると何だかんだ面倒を見てくれます。
 私たちは穏やかな生活を送っていましたが、やはり貴族の当主となると忙しくなるもので、かえって結婚前よりも忙しくなってしまってはいました。

 それでもフランクはよほどのことがなければこうして夕飯までには帰ってきて一緒に食卓を囲んでくれます。

「それに、せっかく夕食を作ってくれてるからね」
「それは気にしなくてもいいのに」

 ロイド家は国から恩賞をもらったとはいえ、まだまだ裕福というにはほど遠い家。元々私は料理が好きだったということもあって、今でも私は時々夕食を作っています。
 フランクの父上はそれくらいのメイドは雇ったらどうかと言ってくれますが、そのたびに私は適当に言葉を濁して先送りにしていました。

「僕もエレンの作る夕食が食べたくて早く帰ってるだけだから気にしなくていいよ」
「そ、そう」

 結婚するにあたってお互い好意は何度か伝えあってきたのですが、今でもこういう風に直接的に言われると恥ずかしくなってしまいます。

 というか最初はフランクの方が私に好意を伝える時に恥ずかしがっているときに照れていたはずなのに、最近は慣れてきたのか私の目を見ながら言ってくるので私はかえって前よりも恥ずかしくなってきました。

「じ、じゃあもうご飯出来てるから」

 そう言って私はキッチンに用意していた食事を食卓へと運びます。その間にフランクは着替え、他の家族の方々も集まってきました。

「おお、今日もおいしそうだ」

 フランクはテーブルの上に並んだ夕食を見て相好を崩しました。

「そうだといいけど」

 そして私たちは食前の祈りを捧げて食べ始めます。
 少し食べたところでウィルはおもむろに口を開きました。

「しかし、ウィルはこんな料理を食べて文句を言っていたのか? 全く信じられないな」
「フランク、男は気に入らない女が作ったものは何でも気に入らないものなんだ」

 父上が諭すように言います。

「まあ確かにああいういい加減な性格だと、エレンのことは気に入らないのかもしれないな。もっとも、ウィルがもう少しまともだった僕らが出会うこともなかったと思うと何とも言えないけど」
「うーん、まともなウィルというのは想像できないわ」
「ははは、それはそうだ」

 私の言葉に周囲から笑いが起きます。

 これからもフランクは当主として大変な日々が続くでしょうし、ロイド家もまだまだ小さな家なのでどんな災難が降りかかるかは分かりません。ランカスター家のような裕福な家に嫁げば色々楽だったこともあるかもしれませんが、それでも私はこうして毎日一緒に楽しく食卓を囲むことが出来るというだけで嬉しいのでした。
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