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エピローグ
Ⅰ
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それからしばらくの時間が経ちました。
とはいっても、元々流されていた噂が嘘だということが分かっただけで、しかもシエラが悪いということは変わらないので、特に私たちの生活の何かが変わるという訳でもないのですが。
そんな中、ランカスター子爵はその後のエルーノ公爵の捜査によって賊に指示を出していたことが分かり、しかもあの賊の中には子爵家の家臣も混ざっていたとのことで、取り潰しが決まったようです。やったことを考えれば当然とはいえ、まあまあの規模の家が潰れるということでそこそこの衝撃が広がりました。
ただシエラを部屋に連れ込んで襲おうとしたけど失敗した、という程度のことであれば例え明らかになっても家が潰れるほどのことにはならず、ウィルも反省次第では一時的な謹慎で許されたかもしれないというのに、変に隠蔽しようとした挙句賊まで雇ってしまったことがこの事態を招いたと言えるでしょう。
そしてランカスター子爵の領地ですが、一部は王家に返納され、他はこの事件の真相を突き止めたエルーノ公爵や、賊を撃退したロイド家に与えられることが決まったようです。今回の事件の解決に協力してくれた人々に領地が与えられたのは喜ばしいことです。
そんなある日のことです。私は父上に呼ばれて部屋に入ります。ウィルと婚約していた時は父上に弱音を吐くまいと距離を置いていましたが、最近はそれもなくなって普通の関係に戻っています。父上の方も私に対する負い目がなくなってきたのか、普通に接してくれるようになりました。
「そう言えば、当たり前のことだと思って言ってはいなかったが、お前とウィルの婚約は破棄されていた」
「でしょうね」
そもそもランカスター子爵家はなくなり、ウィルは確か親交ある貴族の元で謹慎のような生活を送ると聞いています。婚約を維持することは不可能でしょう。
「それで、新しい婚約相手なのだが、実はロイド家から話が来ている」
「え?」
私は少し困惑します。確かにロイド家は同じ男爵家ですが、今回の件では賊を撃退したことで恩賞をもらい、大いに名を挙げました。
一方うちは裁判に勝ったとはいえ、シエラが不始末を起こしたこと自体は変わっていません。そのため、評判は下がっています。
確かに元々フランクとシエラは婚約するかもしれないという話でしたが、シエラがあんなことになった以上、話はそのまま消滅するのかと思っていました。
それがまさか私に回ってくるとは。
驚きのあまり思わず訊き返してしまいます。
「うちはいいのですが、向こうは構わないのでしょうか?」
「何だかんだ今までの両家の付き合いもあるし、今回の件では共闘したこともあって信頼があるのだろう」
そう答えつつも、父上としても多少驚いてはいるようです。
「共闘というよりは一方的に助けられたような気がしますが」
「まあそうだな。そんな訳で今度フランクとの顔合わせを設定した。細かいことはその時聞いてくれ」
「分かりました」
向こうが構わないのであれば私としては異存はありません。どこか顔も知らない男と婚約させられるのかと思っていた私は、それを聞いて急に嬉しくなったのでした。
とはいっても、元々流されていた噂が嘘だということが分かっただけで、しかもシエラが悪いということは変わらないので、特に私たちの生活の何かが変わるという訳でもないのですが。
そんな中、ランカスター子爵はその後のエルーノ公爵の捜査によって賊に指示を出していたことが分かり、しかもあの賊の中には子爵家の家臣も混ざっていたとのことで、取り潰しが決まったようです。やったことを考えれば当然とはいえ、まあまあの規模の家が潰れるということでそこそこの衝撃が広がりました。
ただシエラを部屋に連れ込んで襲おうとしたけど失敗した、という程度のことであれば例え明らかになっても家が潰れるほどのことにはならず、ウィルも反省次第では一時的な謹慎で許されたかもしれないというのに、変に隠蔽しようとした挙句賊まで雇ってしまったことがこの事態を招いたと言えるでしょう。
そしてランカスター子爵の領地ですが、一部は王家に返納され、他はこの事件の真相を突き止めたエルーノ公爵や、賊を撃退したロイド家に与えられることが決まったようです。今回の事件の解決に協力してくれた人々に領地が与えられたのは喜ばしいことです。
そんなある日のことです。私は父上に呼ばれて部屋に入ります。ウィルと婚約していた時は父上に弱音を吐くまいと距離を置いていましたが、最近はそれもなくなって普通の関係に戻っています。父上の方も私に対する負い目がなくなってきたのか、普通に接してくれるようになりました。
「そう言えば、当たり前のことだと思って言ってはいなかったが、お前とウィルの婚約は破棄されていた」
「でしょうね」
そもそもランカスター子爵家はなくなり、ウィルは確か親交ある貴族の元で謹慎のような生活を送ると聞いています。婚約を維持することは不可能でしょう。
「それで、新しい婚約相手なのだが、実はロイド家から話が来ている」
「え?」
私は少し困惑します。確かにロイド家は同じ男爵家ですが、今回の件では賊を撃退したことで恩賞をもらい、大いに名を挙げました。
一方うちは裁判に勝ったとはいえ、シエラが不始末を起こしたこと自体は変わっていません。そのため、評判は下がっています。
確かに元々フランクとシエラは婚約するかもしれないという話でしたが、シエラがあんなことになった以上、話はそのまま消滅するのかと思っていました。
それがまさか私に回ってくるとは。
驚きのあまり思わず訊き返してしまいます。
「うちはいいのですが、向こうは構わないのでしょうか?」
「何だかんだ今までの両家の付き合いもあるし、今回の件では共闘したこともあって信頼があるのだろう」
そう答えつつも、父上としても多少驚いてはいるようです。
「共闘というよりは一方的に助けられたような気がしますが」
「まあそうだな。そんな訳で今度フランクとの顔合わせを設定した。細かいことはその時聞いてくれ」
「分かりました」
向こうが構わないのであれば私としては異存はありません。どこか顔も知らない男と婚約させられるのかと思っていた私は、それを聞いて急に嬉しくなったのでした。
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