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Ⅴ
対決Ⅲ
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「ではまずはエレン」
「はい」
そう言って私は前に進み出ます。
「現在シエラは今回のことで謹慎しているため、私が代わりにシエラから聞いたことを話を述べます。それによると、確かにシエラはウィルに好意を抱いていましたが、それはあくまで恋愛的なものではなかったとのことです」
「嘘だ! それならわざわざ僕の屋敷まで一人で来るわけがない!」
「静粛に」
ウィルが話に割り込んできますが、すぐに公爵にたしなめられました。
「こほん、ですが本当にシエラがあなたにやましい気持ちを抱いているのであれば、彼女はもっと私に対してあなたへの好意を隠そうとしたはずです」
「そ、それは……」
「とはいえ仮にやましい気持ちがなかったとしても、確かにシエラの行いは軽率でした。そしてそれが今謹慎している理由です。彼女はウィルにお菓子作りを習い、それだけで帰ろうとしましたが、ウィルに引き留められて部屋に連れ込まれ、しかも薬を盛られそうになったとのことです」
「その話が本当だという証拠はあるのか!?」
ウィルとしてはそんな話が事実だと認められては敵わないと思ったのか、必死で反論してきます。
「それに関しては別の方に証言していただこうと思います。他に質問は?」
「ぜ、全部でたらめなのに質問も何もあるか!」
そう言ってウィルは口をつぐみます。
まあここまでは既に行われていた言い合いの範疇でしょう。あまり長く続けても意味がないと思ったのか、父上が告げます。
「では次にシエラと親交があったフランクだ」
「はい」
次に進み出たのはフランクでした。
「僕はシエラと親交がありましたが、彼女はどちらかというと不器用で裏表がない性格です。ウィル殿が言っているような、他人を陥れるような才覚はありません。仮に他人を陥れようとして誰かに近づけばすぐに見破られてしまうでしょう」
「そんなことはない!」
ウィルは必死で反論してきますが、シエラと知り合いであった貴族の何人かはうんうんと頷いています。
「シエラと親しいから擁護しているんだろう!」
もはやウィルは公爵の指示も待たずに勝手に口を開きました。
フランクは少し呆れた顔をしましたが、淡々と答えます。
「仮にあなたの言うようなことをする人物でしたら、親交を結ぶようなことはしません。以上です」
実際はフランクとシエラの関係は良好ではありませんでしたが、確かにシエラがウィルの言うような人物であればそもそもフランクは彼女に近づかないか、もしくは本気で怒っていたでしょう。
そして言うべきことは言ったとばかりにフランクは関係者の中へと戻っていきました。
「では最後に元ランカスター子爵家のメイド、ヘレンよ」
「はい」
そう言ってヘレンが進み出ます。それを見てウィルとランカスター子爵は露骨に敵意の視線を向けます。
そんな中、ヘレンはこわごわといった様子で口を開きました。
「私はランカスター子爵家に仕えていたヘレンと申します。あの日、私は確かにウィル様に媚薬を用意するよう命じられました。それから、ウィル様の方からシエラ様を部屋に誘ったのも確かにこの眼で見ました」
「そ、そんなことはしない!」
ヘレンの言葉をかき消すようにウィルは叫びます。
ヘレンは一瞬びくっとしましたが、彼とは距離があるせいか再び口を開きました。
「それから先ほど私の勤務態度が悪かったという話がありましたが、それも嘘です。そもそも勤務態度が悪かったら媚薬の用意のような重大なことを命じられる訳がありません」
「だからそれが嘘だと言っているんだ!」
「ですが私は特に誰かに呼び出されて注意を受けたようなこともありません」
「う、嘘だ!」
「嘘だと言うのであれば具体的な日時などを出してもらえないでしょうか?」
ヘレンが委縮しそうになっているので、私は慌てて助け船を出します。
するとウィルは助けを求めるようにジェームズを見ました。
「おい、ジェームズ」
「は、はい。私が彼女を呼び出したのは……」
「待って下さい。それだけ何度も叱責されたのなら他の方も答えられますよね?」
そう言って私は他にランカスター子爵家から証人として呼び寄せられた人々を見ます。恐らくジェームズは詳細な答弁を用意していますが、他の方々はそこまで用意していないはずです。案の定、
「いや、あまり……」
「詳しくは覚えていません」
と、たどたどしい答えになります。
この答え具合を見れば傍聴の方々は、向こうの言っていることに信ぴょう性がないことは分かるのではないでしょうか。
「という具合でジェームズ以外の者は詳しく覚えていません。これではランカスター家の証言が信用に足る物とは思えませんがいかがでしょうか」
私は相手ではなく見学席に問いかけると、頷く姿がちらほら見られました。
「はい」
そう言って私は前に進み出ます。
「現在シエラは今回のことで謹慎しているため、私が代わりにシエラから聞いたことを話を述べます。それによると、確かにシエラはウィルに好意を抱いていましたが、それはあくまで恋愛的なものではなかったとのことです」
「嘘だ! それならわざわざ僕の屋敷まで一人で来るわけがない!」
「静粛に」
ウィルが話に割り込んできますが、すぐに公爵にたしなめられました。
「こほん、ですが本当にシエラがあなたにやましい気持ちを抱いているのであれば、彼女はもっと私に対してあなたへの好意を隠そうとしたはずです」
「そ、それは……」
「とはいえ仮にやましい気持ちがなかったとしても、確かにシエラの行いは軽率でした。そしてそれが今謹慎している理由です。彼女はウィルにお菓子作りを習い、それだけで帰ろうとしましたが、ウィルに引き留められて部屋に連れ込まれ、しかも薬を盛られそうになったとのことです」
「その話が本当だという証拠はあるのか!?」
ウィルとしてはそんな話が事実だと認められては敵わないと思ったのか、必死で反論してきます。
「それに関しては別の方に証言していただこうと思います。他に質問は?」
「ぜ、全部でたらめなのに質問も何もあるか!」
そう言ってウィルは口をつぐみます。
まあここまでは既に行われていた言い合いの範疇でしょう。あまり長く続けても意味がないと思ったのか、父上が告げます。
「では次にシエラと親交があったフランクだ」
「はい」
次に進み出たのはフランクでした。
「僕はシエラと親交がありましたが、彼女はどちらかというと不器用で裏表がない性格です。ウィル殿が言っているような、他人を陥れるような才覚はありません。仮に他人を陥れようとして誰かに近づけばすぐに見破られてしまうでしょう」
「そんなことはない!」
ウィルは必死で反論してきますが、シエラと知り合いであった貴族の何人かはうんうんと頷いています。
「シエラと親しいから擁護しているんだろう!」
もはやウィルは公爵の指示も待たずに勝手に口を開きました。
フランクは少し呆れた顔をしましたが、淡々と答えます。
「仮にあなたの言うようなことをする人物でしたら、親交を結ぶようなことはしません。以上です」
実際はフランクとシエラの関係は良好ではありませんでしたが、確かにシエラがウィルの言うような人物であればそもそもフランクは彼女に近づかないか、もしくは本気で怒っていたでしょう。
そして言うべきことは言ったとばかりにフランクは関係者の中へと戻っていきました。
「では最後に元ランカスター子爵家のメイド、ヘレンよ」
「はい」
そう言ってヘレンが進み出ます。それを見てウィルとランカスター子爵は露骨に敵意の視線を向けます。
そんな中、ヘレンはこわごわといった様子で口を開きました。
「私はランカスター子爵家に仕えていたヘレンと申します。あの日、私は確かにウィル様に媚薬を用意するよう命じられました。それから、ウィル様の方からシエラ様を部屋に誘ったのも確かにこの眼で見ました」
「そ、そんなことはしない!」
ヘレンの言葉をかき消すようにウィルは叫びます。
ヘレンは一瞬びくっとしましたが、彼とは距離があるせいか再び口を開きました。
「それから先ほど私の勤務態度が悪かったという話がありましたが、それも嘘です。そもそも勤務態度が悪かったら媚薬の用意のような重大なことを命じられる訳がありません」
「だからそれが嘘だと言っているんだ!」
「ですが私は特に誰かに呼び出されて注意を受けたようなこともありません」
「う、嘘だ!」
「嘘だと言うのであれば具体的な日時などを出してもらえないでしょうか?」
ヘレンが委縮しそうになっているので、私は慌てて助け船を出します。
するとウィルは助けを求めるようにジェームズを見ました。
「おい、ジェームズ」
「は、はい。私が彼女を呼び出したのは……」
「待って下さい。それだけ何度も叱責されたのなら他の方も答えられますよね?」
そう言って私は他にランカスター子爵家から証人として呼び寄せられた人々を見ます。恐らくジェームズは詳細な答弁を用意していますが、他の方々はそこまで用意していないはずです。案の定、
「いや、あまり……」
「詳しくは覚えていません」
と、たどたどしい答えになります。
この答え具合を見れば傍聴の方々は、向こうの言っていることに信ぴょう性がないことは分かるのではないでしょうか。
「という具合でジェームズ以外の者は詳しく覚えていません。これではランカスター家の証言が信用に足る物とは思えませんがいかがでしょうか」
私は相手ではなく見学席に問いかけると、頷く姿がちらほら見られました。
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