65 / 77
Ⅴ
久し振りの再会
しおりを挟む
それから私たちが公爵の屋敷に着くと、すでにそこにはたくさんの貴族たちが集まり、ちょっとした騒ぎになっていました。
「おい、リーン家の行列が賊に襲われたというのは本当か?」
「噂によると男爵が矢を受けたそうだ」
「それよりも賊の正体はランカスター子爵家の者たちだというのは本当か!?」
「その場にはロイド家の者もいたと聞くぞ」
そこではすでに貴族たちがそれぞれが手に入れた真偽入り混ざった情報を元に好き勝手に噂話をしているようです。そのため、中には私たちが無事に屋敷に入ってくるのを見るだけで驚いている方すらいました。
改めて公爵邸に集まった貴族の人数を見て私は驚きます。公爵が出てきた時点で注目度は高いと思っていましたが、予想以上の人数です。
最初は他家にとってはとるに足らない騒ぎだった今回の件ですが、ついにエルーノ公爵直々の裁きとなった以上、当事者以外の他の貴族たちもその動向に注目します。
中にはランカスター家が嫌いとかメルヴィン子爵がいけすかないとか個人的な感情で裁判の行方に注目している人物もいるでしょうし、エルーノ公爵の手腕を見学に来たという者もいるようでした。
また、彼らの中には私たちとフランクが一緒にやってきたことに驚いている人物もいます。
そんな中、今回の対決を取り仕切るエルーノ公爵が現れて私たちを出迎えます。自分の屋敷にいるせいか、公爵はこの前会った時よりも一段と貫禄ある人物に見えました。
彼も噂を聞いていたのでしょう、私たちの無事な姿を見てほっとした様子です。
「色々と噂を聞いて心配していたが、無事そうで良かった、男爵よ」
「色々と思うところはありますが、とりあえず本日の出席を優先しました」
そう言って父上はうやうやしく一礼し、私たちもそれに倣います。
「それはありがたい。負傷した者などはいないか?」
「いえ、幸いフランク・ロイドの助けもあって怪我人はおりません」
「それなら何よりだ。君が賊を撃退するのを手助けしてくれたのか?」
「はい」
「よくやった」
フランクが頷くと、公爵は満足そうに頷きます。
「ならば裁判は予定通り始めるが問題ないな?」
「はい、お願いします」
そう言って父上は再び頭を下げました。
そこで私は尋ねます。
「ところでランカスター家の方々は予定通り来ているのでしょうか?」
「ああ、先ほど到着したはずだが」
公爵がそう言った時でした。
突然奥から血相を変えたウィルが現れました。私たちの姿を見るとまるで幽霊でも見るかのように青ざめています。気のせいか、最後に会ったときと比べると彼は少しやせたような気もしました。
「お、お前たち、よ、よくも恥ずかしげもなくこんなところに顔を出せたな」
彼は精いっぱい虚勢を張っているようです。恐らく私たちが無事に辿り着いたのが驚きなのでしょう。
そう言えばあの事件以来対立はしていましたが、ウィル本人と会うのは久し振りかもしれません。
「あなたこそ、いい加減真実を認めてはいかがですか? 私のことが嫌いだったのは構いませんが、その後のことは許されることではありません」
「う、うるさい! お前だってメルヴィン子爵と密通していたという噂があるではないか!」
「それは子爵自身が否定していました。というか、その噂を流したのはあなたでは?」
「そ、そんなことする訳ないだろ!」
ウィルは精いっぱい虚勢を張っていますが、すでに自分でも勝てるとは思っていない様子がひしひしと伝わってきます。やはりあの賊は彼が破れかぶれで手配したようにしか思えません。
最初はただ気が合わないだけだったのに、こじれにこじれてまさかこのようなことにまでなるなんて。
が、そこへ公爵がやんわりと間に入ります。
「まあまあ、対決はこれからきちんと全員の前でしてもらうことになる。今こんなところでバチバチしてもらっては困るな。賊についても、いずれきちんと調査すれば正体は分かるだろう」
「はい」
「そ、そういうことなら今は勘弁しておいてやる!」
「ではお互い部屋に案内させよう」
相変わらずウィルは言葉だけは強気ですが、体は震えています。
こうして私たちは別々の控室へと案内されました。
「おい、リーン家の行列が賊に襲われたというのは本当か?」
「噂によると男爵が矢を受けたそうだ」
「それよりも賊の正体はランカスター子爵家の者たちだというのは本当か!?」
「その場にはロイド家の者もいたと聞くぞ」
そこではすでに貴族たちがそれぞれが手に入れた真偽入り混ざった情報を元に好き勝手に噂話をしているようです。そのため、中には私たちが無事に屋敷に入ってくるのを見るだけで驚いている方すらいました。
改めて公爵邸に集まった貴族の人数を見て私は驚きます。公爵が出てきた時点で注目度は高いと思っていましたが、予想以上の人数です。
最初は他家にとってはとるに足らない騒ぎだった今回の件ですが、ついにエルーノ公爵直々の裁きとなった以上、当事者以外の他の貴族たちもその動向に注目します。
中にはランカスター家が嫌いとかメルヴィン子爵がいけすかないとか個人的な感情で裁判の行方に注目している人物もいるでしょうし、エルーノ公爵の手腕を見学に来たという者もいるようでした。
また、彼らの中には私たちとフランクが一緒にやってきたことに驚いている人物もいます。
そんな中、今回の対決を取り仕切るエルーノ公爵が現れて私たちを出迎えます。自分の屋敷にいるせいか、公爵はこの前会った時よりも一段と貫禄ある人物に見えました。
彼も噂を聞いていたのでしょう、私たちの無事な姿を見てほっとした様子です。
「色々と噂を聞いて心配していたが、無事そうで良かった、男爵よ」
「色々と思うところはありますが、とりあえず本日の出席を優先しました」
そう言って父上はうやうやしく一礼し、私たちもそれに倣います。
「それはありがたい。負傷した者などはいないか?」
「いえ、幸いフランク・ロイドの助けもあって怪我人はおりません」
「それなら何よりだ。君が賊を撃退するのを手助けしてくれたのか?」
「はい」
「よくやった」
フランクが頷くと、公爵は満足そうに頷きます。
「ならば裁判は予定通り始めるが問題ないな?」
「はい、お願いします」
そう言って父上は再び頭を下げました。
そこで私は尋ねます。
「ところでランカスター家の方々は予定通り来ているのでしょうか?」
「ああ、先ほど到着したはずだが」
公爵がそう言った時でした。
突然奥から血相を変えたウィルが現れました。私たちの姿を見るとまるで幽霊でも見るかのように青ざめています。気のせいか、最後に会ったときと比べると彼は少しやせたような気もしました。
「お、お前たち、よ、よくも恥ずかしげもなくこんなところに顔を出せたな」
彼は精いっぱい虚勢を張っているようです。恐らく私たちが無事に辿り着いたのが驚きなのでしょう。
そう言えばあの事件以来対立はしていましたが、ウィル本人と会うのは久し振りかもしれません。
「あなたこそ、いい加減真実を認めてはいかがですか? 私のことが嫌いだったのは構いませんが、その後のことは許されることではありません」
「う、うるさい! お前だってメルヴィン子爵と密通していたという噂があるではないか!」
「それは子爵自身が否定していました。というか、その噂を流したのはあなたでは?」
「そ、そんなことする訳ないだろ!」
ウィルは精いっぱい虚勢を張っていますが、すでに自分でも勝てるとは思っていない様子がひしひしと伝わってきます。やはりあの賊は彼が破れかぶれで手配したようにしか思えません。
最初はただ気が合わないだけだったのに、こじれにこじれてまさかこのようなことにまでなるなんて。
が、そこへ公爵がやんわりと間に入ります。
「まあまあ、対決はこれからきちんと全員の前でしてもらうことになる。今こんなところでバチバチしてもらっては困るな。賊についても、いずれきちんと調査すれば正体は分かるだろう」
「はい」
「そ、そういうことなら今は勘弁しておいてやる!」
「ではお互い部屋に案内させよう」
相変わらずウィルは言葉だけは強気ですが、体は震えています。
こうして私たちは別々の控室へと案内されました。
4
お気に入りに追加
5,835
あなたにおすすめの小説
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
婚約した幼馴染の彼と妹がベッドで寝てた。婚約破棄は嫌だと泣き叫んで復縁をしつこく迫る。
window
恋愛
伯爵令嬢のオリビアは幼馴染と婚約して限りない喜びに満ちていました。相手はアルフィ皇太子殿下です。二人は心から幸福を感じている。
しかし、オリビアが聖女に選ばれてから会える時間が減っていく。それに対してアルフィは不満でした。オリビアも彼といる時間を大切にしたいと言う思いでしたが、心にすれ違いを生じてしまう。
そんな時、オリビアは過密スケジュールで約束していたデートを直前で取り消してしまい、アルフィと喧嘩になる。気を取り直して再びアルフィに謝りに行きますが……
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)
mios
恋愛
公爵令嬢の婚約者を捨て、男爵令嬢と大恋愛の末に結婚した第一王子。公爵家の後ろ盾がなくなって、王太子の地位を降ろされた第一王子。
念願の子に恵まれて、産まれた直後に齎された幼い王子様の訃報。
国中が悲しみに包まれた時、侯爵家に一報が。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる