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証言

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 少ししてメルヴィン子爵は一人のメイドを連れてきました。
 年齢は40過ぎでしょうか、恐らくは可もなく不可もなく勤務していたのでしょう、後ろで束ねた髪や短く切った爪などの外見からはいかにもよくいるメイドという印象を受けます。
 ランカスター子爵家に勤めていたのに突然変な事件に巻き込まれたのでしょう。
 少しやつれた様子です。

「彼女が例の件を目撃したヘレンだ」
「……ヘレンです」
「私はリーン家のエレンです」

 私が名乗ると彼女は少しびくりとしました。私がシエラの姉だということを知って、後ろめたくなったのでしょう。
 そこで私は慌ててフォローします。

「別に貴方を脅すようなことはしませんので大丈夫ですよ。私はただ正確な事実を知りたいだけです。ですから何が起こったのかを正直に教えてください」
「分かりました……実はあの日、ウィル様は私に媚薬の入った紅茶を用意するよう命じ、さらにそれを誰にも口外しないよう言ったのです。とはいえ、ウィル様とシエラ様は仲が良かったようで……あ、いえ、すみません」

 ヘレンは私に対して失礼だと思ったのか、慌てて頭を下げます。
 とはいえもう知っていたことなので今更それを聞いても何とも思いません。

「いえ、気を遣う必要はありません」
「は、はい。その後ウィル様がシエラ様を自室に連れていったのです。その様子も仲睦まじかったので、例の紅茶も単に雰囲気を盛り上げるために使うという程度のものだと思っていたのです! 決して悪用されるとは思っていませんでした!」

 ヘレンは慌てて言い訳します。
 とはいえ貴族の家に勤めていて何か命令を受ければ、なかなか拒否することは出来ないでしょう。だから彼女が命令されて媚薬を用意したことを責めるつもりは特にありません。
 それよりも、一言ごとに恐縮されると私も話しづらいです。

「そうだったのですか。それはあくまで命令したウィルが悪いだけで、あなたを責めるつもりはありませんのでご安心ください」

 私の言葉に彼女はほっとしました。

「ありがとうございます。その後二人がいた部屋から血相を変えたシエラ様が走り去っていくのを見て、それで事態がただならぬことを悟ったのです。その後ウィル様が口封じをしようとしているというのを聞いて、怖くなった私は逃げてしまって……」

 そう言って彼女は一息つきます。

 部屋に連れていったのはウィル、しかも媚薬まで用意させていて、シエラの方は本気でウィルに対して脅えているようであったということは、ウィルの言っていることが嘘だというのは明白でしょう。

 当事者であるシエラの証言であれば嘘をついていると言われますが、ランカスター家のメイドがシエラの証言を補強してくれるのであれば心強い限りです。

 私は一通りの話を聞くと、傍らのメルヴィン子爵の方に向き直りました。

「ありがとうございました、子爵」
「気にすることはない。とはいえ今後も時々屋敷に料理をしに来るがよい」
「……分かりました」

 変な人ですし、決していい人ではありませんが、今回のことだけは恩に思っておくことにしましょう。

「それではいきましょう、ヘレン」
「これからどちらに?」
「しばらくは我が屋敷に滞在し、もし必要があれば他の貴族の前で証言をしていただきたいと思います」
「分かりました」

 これでいよいよウィルとランカスター子爵の嘘を暴くことが出来ます。
 こうして私はヘレンを連れてメルヴィン子爵の屋敷を出ました。
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