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Ⅳ
メルヴィン子爵(フランク視点)
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事件の真相を知っていると思われるメイドがメルヴィン子爵という第三者の領地に逃げ込んだと聞いて、僕は少し困惑した。
とはいえ、本人からするとまずいことを知ってしまってそのことを知らない振りをしたままランカスター子爵家に勤め続けることは出来ず、親戚か知り合いか何かを頼って他領に逃げたということなのだろう。
いくらランカスター家といえども他領に逃げ込んだ使用人を、罪人でもないのに無理やり連れていくことは難しいだろう。
「とりあえず子爵に手紙を出してみるか」
恐らくランカスター子爵も何らかの連絡をしているだろうが、メルヴィン子爵はどのような反応をするだろうか。
僕は急ぎ子爵に手紙を送り、一応リーン男爵家にもその旨を伝える。
待つこと一日、子爵からは手紙が返ってくる。
そこには、「実はランカスター家からはそのメイドが屋敷で罪を犯し逃げたから捕らえたいとの連絡が来ている。残念ながらどちらの言い分が正しいかよく分からないので検討中だ」というようなことが書かれていた。
それを見て僕はため息をつく。
一見するともっともらしいことを言っているが、貴族がこういう態度に出る時は大体それは建前であることが多い。
より直接的に言えば、賄賂を要求しているということだ。
もし本当に彼が真実を究明したいのであれば証拠の提示や当事者の話を聞きたい、などのことが書かれているはずであるが、手紙にはそういう真相に近づくようなことは書かれていない。
何かを要求した時にこういう当たり障りのない内容でお茶を濁すのは遠回しに賄賂を要求するときの常套手段だ。
「まずいな、財力であればランカスター子爵家には敵わないかもしれない」
元々エレンはランカスター家が裕福だから婚約させられたと聞いていた。
となれば僕がその人物を強引に連れてくるしかないだろうか。しかしランカスター家だけでなくメルヴィン家まで敵に回せばいよいよ大変なことになる。
まずはエレンにこのことを知らせなければ。
そう思って僕はエレンに手紙を書く。
するとエレンもこの件のことは気になっていたのだろう、そこにはそこまでの情報を調べてくれたことへの感謝と、メルヴィン子爵に会って直接話してみる、という決意が書かれていた。
確かにお金を渡すにしろ説得にしろ、もしくは強硬手段をとるにせよ一度話しておく必要はあるだろう。
また、手紙によるとリーン男爵が子爵の屋敷に赴こうとしたら理由をつけて断られたらしい。きっと男爵が赴くとランカスター子爵も招かざるをえなくなり、そうなると収拾がつかなくなると思ったからではないか。あくまでも合わずにのらりくらりと金を要求するという手口だろう。
メルヴィン子爵はエレン一人なら丸め込めるとでも思ったのだろうか。
それともエレンと会うことでリーン家に引き渡す素振りを見せてランカスター家に対する要求を釣り上げようとしているのだろうか。
領地が近いとはいえ、僕は子爵のことをよく知る訳ではない。
しかしそのメイドの話を聞けば誰が正しいかは明白だろう。それなのに真実を明らかにすることよりもランカスター子爵家から大金をもらうことしか考えていない時点でろくな人物ではないはずだ。
大丈夫だろうか、とエレンのことが心配になるが、僕とエレンはただ仲がいいというだけだから、一緒に子爵に会いに行くのは不自然だ。
「頑張ってくれ、エレン」
僕はそう祈ることしか出来なかった。
とはいえ、本人からするとまずいことを知ってしまってそのことを知らない振りをしたままランカスター子爵家に勤め続けることは出来ず、親戚か知り合いか何かを頼って他領に逃げたということなのだろう。
いくらランカスター家といえども他領に逃げ込んだ使用人を、罪人でもないのに無理やり連れていくことは難しいだろう。
「とりあえず子爵に手紙を出してみるか」
恐らくランカスター子爵も何らかの連絡をしているだろうが、メルヴィン子爵はどのような反応をするだろうか。
僕は急ぎ子爵に手紙を送り、一応リーン男爵家にもその旨を伝える。
待つこと一日、子爵からは手紙が返ってくる。
そこには、「実はランカスター家からはそのメイドが屋敷で罪を犯し逃げたから捕らえたいとの連絡が来ている。残念ながらどちらの言い分が正しいかよく分からないので検討中だ」というようなことが書かれていた。
それを見て僕はため息をつく。
一見するともっともらしいことを言っているが、貴族がこういう態度に出る時は大体それは建前であることが多い。
より直接的に言えば、賄賂を要求しているということだ。
もし本当に彼が真実を究明したいのであれば証拠の提示や当事者の話を聞きたい、などのことが書かれているはずであるが、手紙にはそういう真相に近づくようなことは書かれていない。
何かを要求した時にこういう当たり障りのない内容でお茶を濁すのは遠回しに賄賂を要求するときの常套手段だ。
「まずいな、財力であればランカスター子爵家には敵わないかもしれない」
元々エレンはランカスター家が裕福だから婚約させられたと聞いていた。
となれば僕がその人物を強引に連れてくるしかないだろうか。しかしランカスター家だけでなくメルヴィン家まで敵に回せばいよいよ大変なことになる。
まずはエレンにこのことを知らせなければ。
そう思って僕はエレンに手紙を書く。
するとエレンもこの件のことは気になっていたのだろう、そこにはそこまでの情報を調べてくれたことへの感謝と、メルヴィン子爵に会って直接話してみる、という決意が書かれていた。
確かにお金を渡すにしろ説得にしろ、もしくは強硬手段をとるにせよ一度話しておく必要はあるだろう。
また、手紙によるとリーン男爵が子爵の屋敷に赴こうとしたら理由をつけて断られたらしい。きっと男爵が赴くとランカスター子爵も招かざるをえなくなり、そうなると収拾がつかなくなると思ったからではないか。あくまでも合わずにのらりくらりと金を要求するという手口だろう。
メルヴィン子爵はエレン一人なら丸め込めるとでも思ったのだろうか。
それともエレンと会うことでリーン家に引き渡す素振りを見せてランカスター家に対する要求を釣り上げようとしているのだろうか。
領地が近いとはいえ、僕は子爵のことをよく知る訳ではない。
しかしそのメイドの話を聞けば誰が正しいかは明白だろう。それなのに真実を明らかにすることよりもランカスター子爵家から大金をもらうことしか考えていない時点でろくな人物ではないはずだ。
大丈夫だろうか、とエレンのことが心配になるが、僕とエレンはただ仲がいいというだけだから、一緒に子爵に会いに行くのは不自然だ。
「頑張ってくれ、エレン」
僕はそう祈ることしか出来なかった。
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