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Ⅲ
事件 フランク視点
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「大変です、フランク様!」
その日、予定を終えた僕が屋敷に戻ってくつろいでいると、血相を変えた使用人が駆け込んでくる。
そのただならぬ表情に僕も驚く。
よほどのことがなければここまで慌てることもないはずだが。
「一体何があったんだ?」
「それが詳細はよく分からないのですが、ランカスター子爵家によると、子爵家の屋敷でリーン男爵家のシエラ嬢がウィル様を誘惑しようとしたものの、それをウィル様が拒否したところシエラ嬢が襲われたと主張して騒ぎになったとのことです」
「何だと!? それは本当か?」
それを聞いて僕は驚くとともに、疑問を覚えた。
確かに僕はシエラとの関係がうまくいっていなかった。
だからそのシエラが実はウィルのことが好きで浮気(と言っても僕はシエラの婚約者にまだなっていなかったが)していたという話なら、信じたくはないが信じられる。
しかしシエラがウィルを誘惑するというのはよく分からない。そもそもそんなことをしてもシエラに何の得があるのだろうか。
その話は本当なのだろうか。
が、使用人は首をかしげた。
「いえ、ランカスター家がそう言っているだけで詳細はよく分かりません。ただお二方の間に何らかの騒ぎがあったのは事実のようです」
どちらかというとシエラは自分のために他人を誘惑するほど器用なことは出来るタイプではない。僕に対しても政略結婚の相手なんだからそつなく接すればいいのに、つい避けているという本音が出てしまう。そんなタイプだ。
大体ウィルを誘惑して仮にその関係をネタにウィルを脅すとしても、ウィルとの関係を持ってしまえばそれはシエラにとっても弱みになる。そのため言うことを聞かなければそのことをばらす、と脅してもシエラはウィルとの関係を暴露することは出来ない。もちろん相打ちまで覚悟して脅しているという可能性もあるが、彼女にそこまでして叶えたい願いがあるようには思えない。
今聞いた話はどこかしら間違っているのではないか、僕はそう思った。
「とりあえず出来る限り情報を集めてくれ……いや、翌日お見舞いもかねて僕が直接シエラの元に会いにいこう」
「フランク様が直接、ですか?」
「そうだ。一応僕はシエラの婚約者候補だからな」
「……分かりました。そういうことでしたらリーン男爵家にはそう伝えておきます」
家臣が去っていくと、フランクは急激に嫌な予感がこみあげてくる。
一体何があったのだろう。
もしかしたらシエラは僕と婚約させられるのが本当に嫌だったのだろう。
それに場所がウィルの屋敷だったというのも気になる。ウィルと婚約しているエレンならともかく、シエラがウィルの屋敷に一人でいるというのも変だ。確かにシエラが自分から赴かなければそういう状況にはならないが、仮にシエラが本当にウィルを誘惑したというなら一人で屋敷に迎え入れるウィルの側にも非があるのではないか。
一体この件の真相はどうなのだろうか。
そう思うと同時に僕はエレンのことも心配になる。
何があったのかは分からないが、婚約者と妹にこのようなことを起こされてしまえば心穏やかではいられないだろう。
明日はシエラの様子だけでなくエレンの心配もしなくては。
僕はそう思いつつベッドに入ったが、その日の夜はなかなか寝付けなかった。
その日、予定を終えた僕が屋敷に戻ってくつろいでいると、血相を変えた使用人が駆け込んでくる。
そのただならぬ表情に僕も驚く。
よほどのことがなければここまで慌てることもないはずだが。
「一体何があったんだ?」
「それが詳細はよく分からないのですが、ランカスター子爵家によると、子爵家の屋敷でリーン男爵家のシエラ嬢がウィル様を誘惑しようとしたものの、それをウィル様が拒否したところシエラ嬢が襲われたと主張して騒ぎになったとのことです」
「何だと!? それは本当か?」
それを聞いて僕は驚くとともに、疑問を覚えた。
確かに僕はシエラとの関係がうまくいっていなかった。
だからそのシエラが実はウィルのことが好きで浮気(と言っても僕はシエラの婚約者にまだなっていなかったが)していたという話なら、信じたくはないが信じられる。
しかしシエラがウィルを誘惑するというのはよく分からない。そもそもそんなことをしてもシエラに何の得があるのだろうか。
その話は本当なのだろうか。
が、使用人は首をかしげた。
「いえ、ランカスター家がそう言っているだけで詳細はよく分かりません。ただお二方の間に何らかの騒ぎがあったのは事実のようです」
どちらかというとシエラは自分のために他人を誘惑するほど器用なことは出来るタイプではない。僕に対しても政略結婚の相手なんだからそつなく接すればいいのに、つい避けているという本音が出てしまう。そんなタイプだ。
大体ウィルを誘惑して仮にその関係をネタにウィルを脅すとしても、ウィルとの関係を持ってしまえばそれはシエラにとっても弱みになる。そのため言うことを聞かなければそのことをばらす、と脅してもシエラはウィルとの関係を暴露することは出来ない。もちろん相打ちまで覚悟して脅しているという可能性もあるが、彼女にそこまでして叶えたい願いがあるようには思えない。
今聞いた話はどこかしら間違っているのではないか、僕はそう思った。
「とりあえず出来る限り情報を集めてくれ……いや、翌日お見舞いもかねて僕が直接シエラの元に会いにいこう」
「フランク様が直接、ですか?」
「そうだ。一応僕はシエラの婚約者候補だからな」
「……分かりました。そういうことでしたらリーン男爵家にはそう伝えておきます」
家臣が去っていくと、フランクは急激に嫌な予感がこみあげてくる。
一体何があったのだろう。
もしかしたらシエラは僕と婚約させられるのが本当に嫌だったのだろう。
それに場所がウィルの屋敷だったというのも気になる。ウィルと婚約しているエレンならともかく、シエラがウィルの屋敷に一人でいるというのも変だ。確かにシエラが自分から赴かなければそういう状況にはならないが、仮にシエラが本当にウィルを誘惑したというなら一人で屋敷に迎え入れるウィルの側にも非があるのではないか。
一体この件の真相はどうなのだろうか。
そう思うと同時に僕はエレンのことも心配になる。
何があったのかは分からないが、婚約者と妹にこのようなことを起こされてしまえば心穏やかではいられないだろう。
明日はシエラの様子だけでなくエレンの心配もしなくては。
僕はそう思いつつベッドに入ったが、その日の夜はなかなか寝付けなかった。
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