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Ⅲ
シエラの懺悔 エレン視点Ⅰ
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「シエラが帰ってくるの、遅いですね」
「そうだな。今日は友達の家でお茶会して夕食までには帰ってくると言っていたが」
父上が心配そうに首をかしげます。
シエラがお茶会に出かけた日、いつもより帰りが遅いので少しずつ心配になってきます。
すでに夕食の準備が出来て、テーブルに集まっていますがにシエラが帰ってこないので、食べ始めることもできません。
「帰り道事故に遭ってないといいですが」
「もう少し帰ってなかったら迎えの者を出した方がいいかもしれないな」
そんな話をしていた時でした。
馬車が屋敷の前に停まる音がしたかと思うと、バタバタという足音がこちらに向かってくるのが聞こえてきます。
シエラが帰ってきたのでしょうか、それにしては騒がしいようですが。
そして次の瞬間、ドアがバタンと開き、目を真っ赤に泣きはらしたシエラが駆け込んできました。
「シエラ!?」「どうしたの!?」
私たちは一斉に叫びます。
「ぐすっ、ごめ、ごめんなさい、お姉様」
「え、突然どうしたの!?」
友達の家に行っていたはずのシエラが泣きながら帰ってきて急に私に謝り始め、私には何が何だか分かりません。父上や母上は私の方を見ますが、私にも心当たりはありません。
「一体何があったの?」
「ごめんなさい、私、こんなつもりではなかったんです!」
そう言ってシエラは私の前に泣き崩れます。
表情には悲しみや焦燥、申し訳なさなど様々なものが混ざっており、彼女がただならぬ心境であることを感じさせます。
こんな表情を浮かべているシエラを私は見たことがありません。
「あの、だから一体何があったの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「とりあえず落ち着いて」
そう言って私はシエラに水の入ったコップを差し出します。
彼女は水を飲むと少しだけ落ち着きを取り戻しました。
「すいません、取り乱してしまいました」
「それはいいけど……何があったの? 今日は友達の家に行っていたのよね?」
「いえ……そこから嘘だったのです」
「え?」
嘘だったというのはどういうことでしょうか。
するとシエラは観念したように話始めます。
「……お姉様も私とウィルさんが仲が良かったのは知っていますよね?」
「ええ、知っていますが」
それを聞いて私は何となく察してしまいました。
ウィルは私の知らないところでシエラと会っているようなことを仄めかしていました。きっと今日もそうだったのでしょう。
が、事情を知らない父上と母上は困惑します。
「それが今日のことと何か関係あるのか?」
「実は私はこれまで時々ウィルさんと隠れて会っていたのです」
「何だと!?」
父上は驚愕しますが、私は驚きませんでした。
どちらかというと怒りや悲しみの方が大きいです。
ですが、それをわざわざ自分から打ち明けるのはなぜでしょうか。そこが気になります。
「父上、ここはいったん最後まで話を聞きましょう」
「う、うむ」
「それで今日はウィルさんにお料理を教わるはずだったのですが、それが終わって帰ろうとしたところで呼び止められ、薬を盛られてそういう関係に持ち込まれそうになったのです……本当にごめんなさい」
「そんな……」
それを聞いて私は二重の意味でショックでした。
シエラがウィルと密会していたこともそうですが、まさかウィルがシエラにそんなことをしようとするなんて。いくらウィルとの仲が悪化していたとはいえ、にわかに信じられることではありません。
しかしシエラはそこまで器用なタイプではありません。ウィルと会っていることも隠し通すことが出来ていませんでした。そのシエラがここまで泣いているのですから話は事実なのでしょう。
「でも、これも私がいけないんです。私がお姉様の婚約者と会うのを楽しんでいたから、ウィルさんを勘違いさせてしまったんです、そんなつもりはなかったのに、まさかこんなことになるなんて……」
そう言ってシエラは再び泣き始めるのでした。
そんなシエラを見て、私はあまりのことに何を言っていいのか分からなくなり、しばらく考え込んでしまいます。
「そうだな。今日は友達の家でお茶会して夕食までには帰ってくると言っていたが」
父上が心配そうに首をかしげます。
シエラがお茶会に出かけた日、いつもより帰りが遅いので少しずつ心配になってきます。
すでに夕食の準備が出来て、テーブルに集まっていますがにシエラが帰ってこないので、食べ始めることもできません。
「帰り道事故に遭ってないといいですが」
「もう少し帰ってなかったら迎えの者を出した方がいいかもしれないな」
そんな話をしていた時でした。
馬車が屋敷の前に停まる音がしたかと思うと、バタバタという足音がこちらに向かってくるのが聞こえてきます。
シエラが帰ってきたのでしょうか、それにしては騒がしいようですが。
そして次の瞬間、ドアがバタンと開き、目を真っ赤に泣きはらしたシエラが駆け込んできました。
「シエラ!?」「どうしたの!?」
私たちは一斉に叫びます。
「ぐすっ、ごめ、ごめんなさい、お姉様」
「え、突然どうしたの!?」
友達の家に行っていたはずのシエラが泣きながら帰ってきて急に私に謝り始め、私には何が何だか分かりません。父上や母上は私の方を見ますが、私にも心当たりはありません。
「一体何があったの?」
「ごめんなさい、私、こんなつもりではなかったんです!」
そう言ってシエラは私の前に泣き崩れます。
表情には悲しみや焦燥、申し訳なさなど様々なものが混ざっており、彼女がただならぬ心境であることを感じさせます。
こんな表情を浮かべているシエラを私は見たことがありません。
「あの、だから一体何があったの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「とりあえず落ち着いて」
そう言って私はシエラに水の入ったコップを差し出します。
彼女は水を飲むと少しだけ落ち着きを取り戻しました。
「すいません、取り乱してしまいました」
「それはいいけど……何があったの? 今日は友達の家に行っていたのよね?」
「いえ……そこから嘘だったのです」
「え?」
嘘だったというのはどういうことでしょうか。
するとシエラは観念したように話始めます。
「……お姉様も私とウィルさんが仲が良かったのは知っていますよね?」
「ええ、知っていますが」
それを聞いて私は何となく察してしまいました。
ウィルは私の知らないところでシエラと会っているようなことを仄めかしていました。きっと今日もそうだったのでしょう。
が、事情を知らない父上と母上は困惑します。
「それが今日のことと何か関係あるのか?」
「実は私はこれまで時々ウィルさんと隠れて会っていたのです」
「何だと!?」
父上は驚愕しますが、私は驚きませんでした。
どちらかというと怒りや悲しみの方が大きいです。
ですが、それをわざわざ自分から打ち明けるのはなぜでしょうか。そこが気になります。
「父上、ここはいったん最後まで話を聞きましょう」
「う、うむ」
「それで今日はウィルさんにお料理を教わるはずだったのですが、それが終わって帰ろうとしたところで呼び止められ、薬を盛られてそういう関係に持ち込まれそうになったのです……本当にごめんなさい」
「そんな……」
それを聞いて私は二重の意味でショックでした。
シエラがウィルと密会していたこともそうですが、まさかウィルがシエラにそんなことをしようとするなんて。いくらウィルとの仲が悪化していたとはいえ、にわかに信じられることではありません。
しかしシエラはそこまで器用なタイプではありません。ウィルと会っていることも隠し通すことが出来ていませんでした。そのシエラがここまで泣いているのですから話は事実なのでしょう。
「でも、これも私がいけないんです。私がお姉様の婚約者と会うのを楽しんでいたから、ウィルさんを勘違いさせてしまったんです、そんなつもりはなかったのに、まさかこんなことになるなんて……」
そう言ってシエラは再び泣き始めるのでした。
そんなシエラを見て、私はあまりのことに何を言っていいのか分からなくなり、しばらく考え込んでしまいます。
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