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Ⅱ
シエラの葛藤
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今日は屋敷にウィルさんが来ると聞いて、彼は私ではなくお姉様に会いに来たにも関わらず緊張してしまいます。
お姉様に会いに来たとはいえ、私とも言葉をかわすだろう、と思ったからというのもありますが、もう一つの理由は私が密かに仲良くしているウィルさんがお姉様を訪ねてきたことが後ろめたいからです。
おそらくお姉様も私とウィルさんが仲良くしていることぐらいは気づいているでしょう。
そのせいなのかどうかは分かりませんが、お姉様とウィルさんはうまくいっていません。先日はついに二人が言い合いをしてしまい、間に挟まれた私はどうしていいのか分かりませんでした。
そんな二人が現在二人きりで話しています。
それを想像するだけで私は少しもやもやしてしまいます。私は二人にも仲良くして欲しいと思っているはずなのに。
本来ウィルさんの訪問はお姉様に会うためで私には関係ないことのはずなのに、その日私は手習いに全く身が入りませんでした。
やがて授業が終わり手習いの先生が出ていったので、私は一息ついて部屋を出ます。
すると、ちょうど応接室から険しい表情のウィルさんが出ていくのが目に入りました。彼もすぐに気づき、私を見ると少し表情を和らげます。
「やあシエラ」
「こんにちは、ウィルさん。険しい表情ですが、どうかしましたか?」
「いや、ちょっとエレンと喧嘩してしまってね」
「そうですか……」
最近二人がうまくいっていなさそうな雰囲気はありましたが、今日もだったとは。
それを聞いて本来は残念に思うべきことのはずなのに、心のどこかでほっとしてしまいます。姉とその婚約者が喧嘩だなんて、ほっとしてはいけないのに……。今の私の表情はちゃんと心配げなものになっているでしょうか。
「せっかくだし、シエラの部屋にお邪魔してもいいかな?」
「は、はい」
ウィルさんが来てくださったとはいえお姉様と話し、私とは挨拶程度の会話で帰ってしまうのかと思っていたので思わぬ提案に嬉しくなります。
私は少し弾んだ気持ちで彼を自室に案内してお茶を出しました。
「でも一体お姉様との喧嘩なんて、何があったのですか?」
部屋で二人きりになると私は尋ねます。
するとウィルさんは努めて明るく言いました。
「エレンがシエラに料理を教えなかったって言っただろ? だからエレンにガツンと言ってやったんだ」
「そ、そんなこと言わなくても大丈夫です……」
ただでさえお姉様に隠れてウィルさんと仲良くしていることに負い目があるというのに、その上私のことで彼がお姉様に怒っているとなると余計に申し訳なくなってしまいます。私はただウィルさんと仲良く出来ればいいだけだというのに……。
そんな私にウィルさんは心配げに声をかけてくれます。
「大丈夫だ、僕はいつでもシエラの味方だから安心して欲しい」
「それは嬉しいですが、出来ればお姉様とも仲良くしてほしいです」
これが私の本心から出た言葉なのかは私にもよく分かりません。
ただ、ウィルさんが私の味方と言ってくれたことが嬉しい。それだけは揺るぎない事実です。
「僕もそうしたいのは山々だが、彼女の方がなかなか心を開いてくれないからね」
「そうですか……」
お姉様も大分ウィルさんのことを考えているように見えましたが。
そう言えば最近はよくフランクと親し気に話しているのを見ます。もしかしてそのせいでしょうか。そう思ったけどさすがにそれは口にはしませんでした。
私の表情が暗くなっていくのを見て、ウィルさんは明るい声で言います。
「そんなことはどうでもいいじゃないか、もっと楽しい話をしよう」
「は、はい」
ウィルさんがそう気遣ってくれたので、私も無理矢理話題を切り替えます。
その後私は楽しくウィルさんと話したのでしたが、どこかこれでいいのだろうか、という気持ちをぬぐえないのでした。
お姉様に会いに来たとはいえ、私とも言葉をかわすだろう、と思ったからというのもありますが、もう一つの理由は私が密かに仲良くしているウィルさんがお姉様を訪ねてきたことが後ろめたいからです。
おそらくお姉様も私とウィルさんが仲良くしていることぐらいは気づいているでしょう。
そのせいなのかどうかは分かりませんが、お姉様とウィルさんはうまくいっていません。先日はついに二人が言い合いをしてしまい、間に挟まれた私はどうしていいのか分かりませんでした。
そんな二人が現在二人きりで話しています。
それを想像するだけで私は少しもやもやしてしまいます。私は二人にも仲良くして欲しいと思っているはずなのに。
本来ウィルさんの訪問はお姉様に会うためで私には関係ないことのはずなのに、その日私は手習いに全く身が入りませんでした。
やがて授業が終わり手習いの先生が出ていったので、私は一息ついて部屋を出ます。
すると、ちょうど応接室から険しい表情のウィルさんが出ていくのが目に入りました。彼もすぐに気づき、私を見ると少し表情を和らげます。
「やあシエラ」
「こんにちは、ウィルさん。険しい表情ですが、どうかしましたか?」
「いや、ちょっとエレンと喧嘩してしまってね」
「そうですか……」
最近二人がうまくいっていなさそうな雰囲気はありましたが、今日もだったとは。
それを聞いて本来は残念に思うべきことのはずなのに、心のどこかでほっとしてしまいます。姉とその婚約者が喧嘩だなんて、ほっとしてはいけないのに……。今の私の表情はちゃんと心配げなものになっているでしょうか。
「せっかくだし、シエラの部屋にお邪魔してもいいかな?」
「は、はい」
ウィルさんが来てくださったとはいえお姉様と話し、私とは挨拶程度の会話で帰ってしまうのかと思っていたので思わぬ提案に嬉しくなります。
私は少し弾んだ気持ちで彼を自室に案内してお茶を出しました。
「でも一体お姉様との喧嘩なんて、何があったのですか?」
部屋で二人きりになると私は尋ねます。
するとウィルさんは努めて明るく言いました。
「エレンがシエラに料理を教えなかったって言っただろ? だからエレンにガツンと言ってやったんだ」
「そ、そんなこと言わなくても大丈夫です……」
ただでさえお姉様に隠れてウィルさんと仲良くしていることに負い目があるというのに、その上私のことで彼がお姉様に怒っているとなると余計に申し訳なくなってしまいます。私はただウィルさんと仲良く出来ればいいだけだというのに……。
そんな私にウィルさんは心配げに声をかけてくれます。
「大丈夫だ、僕はいつでもシエラの味方だから安心して欲しい」
「それは嬉しいですが、出来ればお姉様とも仲良くしてほしいです」
これが私の本心から出た言葉なのかは私にもよく分かりません。
ただ、ウィルさんが私の味方と言ってくれたことが嬉しい。それだけは揺るぎない事実です。
「僕もそうしたいのは山々だが、彼女の方がなかなか心を開いてくれないからね」
「そうですか……」
お姉様も大分ウィルさんのことを考えているように見えましたが。
そう言えば最近はよくフランクと親し気に話しているのを見ます。もしかしてそのせいでしょうか。そう思ったけどさすがにそれは口にはしませんでした。
私の表情が暗くなっていくのを見て、ウィルさんは明るい声で言います。
「そんなことはどうでもいいじゃないか、もっと楽しい話をしよう」
「は、はい」
ウィルさんがそう気遣ってくれたので、私も無理矢理話題を切り替えます。
その後私は楽しくウィルさんと話したのでしたが、どこかこれでいいのだろうか、という気持ちをぬぐえないのでした。
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