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Ⅱ
翌朝Ⅱ
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「そんな、それはあんまりだ! ウィルがそういう風に感じるのは勝手だが、わざわざそれを言わなくてもいいじゃないか!」
話を聞き終えたフランクはそう言って憤慨しました。
その反応を見て私はほっとします。
正直なところ、私はフランクにも「それはエレンにも非がある」とか言われることが怖かったのです。
フランクを信じていないというよりは、私の話し方が悪くてうまく伝わらないとか、私の日頃の振る舞いが本当にウィルが言っているようなものに見えてしまうのではないか、と心配していました。
実際、私とウィルがうまくいってなかったのは事実ですから。私は最善を尽くしたつもりでも、気づかぬうちにウィルを不快にさせるようなことをしていたかもしれません。
しかし話を聞いた彼は私以上にウィルに対して怒ってくれているようでした。
「ありがとう、フランク」
「お礼を言うようなことじゃない! 確かに傍目から見ていてエレンが本当に心からウィルのことを愛しているようには見えなかった。だが、政略結婚なんて皆そんなものじゃないか。大体ウィルは偉そうなことを言っているらしいが、彼からは一回でもエレンに気持ちを伝えたことがあったか!?」
その言葉に私ははっとします。
「言われてみれば……なかったわ」
「そうだろう!? そもそもお互い知り合いではないところからの婚約だというのに、自分だけ心からの愛を受け取らないと気が済まないだなんて……そんなの無いものねだりじゃないか!」
フランクの言葉を聞いて私はウィルに感じていたもやもやがすっと晴れていくのを感じました。
正直なところ、ウィルが言う「義務的な態度」という指摘は心当たりが多少ありましたし、ウィルのことを愛していたかと訊かれればそうではありません。
そのため私に落ち度があったのでは、とずっと考えてしまっていましたが言われてみると確かにその通りです。
政略結婚といえども婚約は対等なはずなのに、なぜ私ばかりが一方的に要求されなければならないのでしょうか。
「大体形だけとは言うが、ウィルは形すら何もしてないんだろう? さすがにそれはあんまりじゃないか!」
「確かにその通りだわ。ありがとう、おかげですっきりした」
私がお礼を言うと、フランクはほっとした表情をします。
が、彼の口から出たのは思わぬ言葉でした。
「それなら良かった。それなら今度は僕の愚痴を聞いてくれないか?」
「え?」
てっきりフランクは私を慰めるために来てくれたと思っていたのですが……彼にも何かあるのでしょうか。
「いいですが、一体何の話でしょうか?」
「実は僕はシエラの作ったクッキーをもらっていないんだ。確かに僕たちはまだ正式な婚約者じゃないが、ウィルにだけあげるなんて残念だ」
フランクはそう言って少し大げさに顔をしかめます。
そう言えばあの時の言い争いが衝撃的過ぎて忘れていましたが、そんな話もありました。
フランクは普段はあまり愚痴を言うタイプではないのですが、もしかして私の気分を晴らすために言ってくれているのではないでしょうか。
そう思うと嬉しくなります。
「ありがとう、フランク」
「別に、ただ愚痴を言っただけだ」
そう言って彼は照れ隠しのように鏡の方を向いて髪の毛に触るのでした。
話を聞き終えたフランクはそう言って憤慨しました。
その反応を見て私はほっとします。
正直なところ、私はフランクにも「それはエレンにも非がある」とか言われることが怖かったのです。
フランクを信じていないというよりは、私の話し方が悪くてうまく伝わらないとか、私の日頃の振る舞いが本当にウィルが言っているようなものに見えてしまうのではないか、と心配していました。
実際、私とウィルがうまくいってなかったのは事実ですから。私は最善を尽くしたつもりでも、気づかぬうちにウィルを不快にさせるようなことをしていたかもしれません。
しかし話を聞いた彼は私以上にウィルに対して怒ってくれているようでした。
「ありがとう、フランク」
「お礼を言うようなことじゃない! 確かに傍目から見ていてエレンが本当に心からウィルのことを愛しているようには見えなかった。だが、政略結婚なんて皆そんなものじゃないか。大体ウィルは偉そうなことを言っているらしいが、彼からは一回でもエレンに気持ちを伝えたことがあったか!?」
その言葉に私ははっとします。
「言われてみれば……なかったわ」
「そうだろう!? そもそもお互い知り合いではないところからの婚約だというのに、自分だけ心からの愛を受け取らないと気が済まないだなんて……そんなの無いものねだりじゃないか!」
フランクの言葉を聞いて私はウィルに感じていたもやもやがすっと晴れていくのを感じました。
正直なところ、ウィルが言う「義務的な態度」という指摘は心当たりが多少ありましたし、ウィルのことを愛していたかと訊かれればそうではありません。
そのため私に落ち度があったのでは、とずっと考えてしまっていましたが言われてみると確かにその通りです。
政略結婚といえども婚約は対等なはずなのに、なぜ私ばかりが一方的に要求されなければならないのでしょうか。
「大体形だけとは言うが、ウィルは形すら何もしてないんだろう? さすがにそれはあんまりじゃないか!」
「確かにその通りだわ。ありがとう、おかげですっきりした」
私がお礼を言うと、フランクはほっとした表情をします。
が、彼の口から出たのは思わぬ言葉でした。
「それなら良かった。それなら今度は僕の愚痴を聞いてくれないか?」
「え?」
てっきりフランクは私を慰めるために来てくれたと思っていたのですが……彼にも何かあるのでしょうか。
「いいですが、一体何の話でしょうか?」
「実は僕はシエラの作ったクッキーをもらっていないんだ。確かに僕たちはまだ正式な婚約者じゃないが、ウィルにだけあげるなんて残念だ」
フランクはそう言って少し大げさに顔をしかめます。
そう言えばあの時の言い争いが衝撃的過ぎて忘れていましたが、そんな話もありました。
フランクは普段はあまり愚痴を言うタイプではないのですが、もしかして私の気分を晴らすために言ってくれているのではないでしょうか。
そう思うと嬉しくなります。
「ありがとう、フランク」
「別に、ただ愚痴を言っただけだ」
そう言って彼は照れ隠しのように鏡の方を向いて髪の毛に触るのでした。
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