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Ⅰ
ウィル視点Ⅱ
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「やっぱりシエラの作ったクッキーの方がおいしい」
「で、ですがこれはお姉様に教えてもらったもので……」
僕の言葉にシエラは自信なさげに言う。
やはりエレンと比較してしまうのだろうか。確かに彼女は料理の技術ではエレンに劣っているのかもしれない。だがそれは些末なことだ。
「料理に大事なのはちょっとした技術なんかじゃない。食べてもらう人のことをどれだけ考えているか、だ」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ、そうだ。それを気づかせてくれたのはシエラだ。こんなことになってしまったが、せっかくだからこのままディナーを続けないか?」
僕はシエラに提案する。
エレンが作った料理がおいしくなかったのは、愛情がこもっていないというのもあったが、彼女が義務感で僕と一緒にテーブルを囲んでいるというのもあった。
シエラが一緒ならどんなものを食べてもおいしく思えるだろう。
「ですが……」
「逆に、僕がこのまま屋敷を出ていけばご両親に余計な心配をかけてしまうだろ?」
確かに僕がそそくさと帰ってしまえばエレンの親は僕とエレンの間に何かあったことに気づいてしまうだろうが、正直なところこれはシエラを説得するための方便だった。
別にエレンが体調を崩したことにして、僕が早めに帰ることだってできる。しかしシエラと一緒に夕食を食べられるこの機会を逃す訳にはいかない。
シエラは少し迷っていたが、この降ってわいた事態に混乱していたせいか、それとも本当は彼女も僕と一緒の夕食を望んでいたのか、やがて頷いてくれた。
ちなみに両親は元々シエラと三人で別室で夕食を食べていたはずだが……まあいいだろう。わざわざ僕から報告しにいくようなことでもない。
改めてテーブルにつくと、僕は夕食の残りを口に運ぶ。
少し冷めてしまったが、先ほどまではまだ食べれるような気がした。一方のシエラも食事を始めた。
「そう言えばシエラは最近よく料理をしているんだってね」
「そ、そうなんです! お姉様に教えてもらって一緒に作っているんです!」
シエラもせっかく僕と夕食をとるなら楽しい方がいいと思ったのだろう、僕の言葉に笑顔を浮かべて答える。
「エレンは優しく教えてくれているか?」
「はい、そうなんですが……お姉様ったら細かいんです。ちょっとでも分量が違うと注意して」
やはりそうか。エレンらしいと言えばらしいのだろうが、行き過ぎてしまうのが困りものだ。
「きっと彼女は何事も形から入るタイプなんだ。だから気持ちから入るタイプのシエラや僕とは合わないところがあるんだよ」
「なるほど、そうなんですね」
それを聞いてシエラは納得したように頷く。
「教えてもらうのも悪いとは思わないが、今度はシエラが一から十まで作った料理を食べてみたいんだ」
「まあ、本当ですか!」
僕の言葉にシエラは表情をぱっと輝かせる。
「前に私が一人でお菓子を作った時、それを食べたお姉様に『絶対に他人に食べさせてはいけない』と言われてしまいまして」
「気にすることはない。それに僕たちは家族みたいなものだろ?」
僕が彼女を安心させるように言うと、シエラはほっとしたように頷く。
もっとも、彼女を安心させるためだけではなく、僕がシエラが一人で作った料理も食べてみたいという気持ちがあったが。
「ありがとうございます、では今度お作りしますね」
「ああ、楽しみにしているよ」
それから僕たちは他愛のない話を和やかにして食事を終えた。
そこでふと僕は思い至る。
「そうだ、エレンのことは何て言っておこう」
「でしたら私から両親に体調を崩してしまったと伝えておきますね」
「ありがとう、シエラは気が利くな」
そういうところは姉妹だからかエレンと似ている。
しかしシエラの気遣いにはきちんと真心が籠っている。義務感でやっているエレンの気遣いとは同じ気遣いでも雲泥の差があった。
なぜ同じ姉妹でもこうなってしまったのか。
そして僕はなぜエレンの方と婚約することになってしまったのか。
考えても仕方ないとは分かりつつ、ついついそんなことを考えてしまいながら、僕は屋敷を後にしたのだった。
「で、ですがこれはお姉様に教えてもらったもので……」
僕の言葉にシエラは自信なさげに言う。
やはりエレンと比較してしまうのだろうか。確かに彼女は料理の技術ではエレンに劣っているのかもしれない。だがそれは些末なことだ。
「料理に大事なのはちょっとした技術なんかじゃない。食べてもらう人のことをどれだけ考えているか、だ」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ、そうだ。それを気づかせてくれたのはシエラだ。こんなことになってしまったが、せっかくだからこのままディナーを続けないか?」
僕はシエラに提案する。
エレンが作った料理がおいしくなかったのは、愛情がこもっていないというのもあったが、彼女が義務感で僕と一緒にテーブルを囲んでいるというのもあった。
シエラが一緒ならどんなものを食べてもおいしく思えるだろう。
「ですが……」
「逆に、僕がこのまま屋敷を出ていけばご両親に余計な心配をかけてしまうだろ?」
確かに僕がそそくさと帰ってしまえばエレンの親は僕とエレンの間に何かあったことに気づいてしまうだろうが、正直なところこれはシエラを説得するための方便だった。
別にエレンが体調を崩したことにして、僕が早めに帰ることだってできる。しかしシエラと一緒に夕食を食べられるこの機会を逃す訳にはいかない。
シエラは少し迷っていたが、この降ってわいた事態に混乱していたせいか、それとも本当は彼女も僕と一緒の夕食を望んでいたのか、やがて頷いてくれた。
ちなみに両親は元々シエラと三人で別室で夕食を食べていたはずだが……まあいいだろう。わざわざ僕から報告しにいくようなことでもない。
改めてテーブルにつくと、僕は夕食の残りを口に運ぶ。
少し冷めてしまったが、先ほどまではまだ食べれるような気がした。一方のシエラも食事を始めた。
「そう言えばシエラは最近よく料理をしているんだってね」
「そ、そうなんです! お姉様に教えてもらって一緒に作っているんです!」
シエラもせっかく僕と夕食をとるなら楽しい方がいいと思ったのだろう、僕の言葉に笑顔を浮かべて答える。
「エレンは優しく教えてくれているか?」
「はい、そうなんですが……お姉様ったら細かいんです。ちょっとでも分量が違うと注意して」
やはりそうか。エレンらしいと言えばらしいのだろうが、行き過ぎてしまうのが困りものだ。
「きっと彼女は何事も形から入るタイプなんだ。だから気持ちから入るタイプのシエラや僕とは合わないところがあるんだよ」
「なるほど、そうなんですね」
それを聞いてシエラは納得したように頷く。
「教えてもらうのも悪いとは思わないが、今度はシエラが一から十まで作った料理を食べてみたいんだ」
「まあ、本当ですか!」
僕の言葉にシエラは表情をぱっと輝かせる。
「前に私が一人でお菓子を作った時、それを食べたお姉様に『絶対に他人に食べさせてはいけない』と言われてしまいまして」
「気にすることはない。それに僕たちは家族みたいなものだろ?」
僕が彼女を安心させるように言うと、シエラはほっとしたように頷く。
もっとも、彼女を安心させるためだけではなく、僕がシエラが一人で作った料理も食べてみたいという気持ちがあったが。
「ありがとうございます、では今度お作りしますね」
「ああ、楽しみにしているよ」
それから僕たちは他愛のない話を和やかにして食事を終えた。
そこでふと僕は思い至る。
「そうだ、エレンのことは何て言っておこう」
「でしたら私から両親に体調を崩してしまったと伝えておきますね」
「ありがとう、シエラは気が利くな」
そういうところは姉妹だからかエレンと似ている。
しかしシエラの気遣いにはきちんと真心が籠っている。義務感でやっているエレンの気遣いとは同じ気遣いでも雲泥の差があった。
なぜ同じ姉妹でもこうなってしまったのか。
そして僕はなぜエレンの方と婚約することになってしまったのか。
考えても仕方ないとは分かりつつ、ついついそんなことを考えてしまいながら、僕は屋敷を後にしたのだった。
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